薬事・食品衛生審議会資料

 

平成26年05月13日

 

 

既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究 - 別添

 
本文

カワラヨモギ抽出物(109)

1.食品添加物名

 カワラヨモギ抽出物(カワラヨモギの全草から得られた、カピリンを主成分とするものをいう。)

2.基原、製法、本質
 キク科カワラヨモギ(Artemisia capillaris THUNB.)の全草より、室温時エタノール若しくは含水エタノールで抽出して得られたもの、又は水蒸気蒸留して得られたものである。有効成分はカピリン等である。

3.主な用途
 保存料

4.安全性試験成績の概要
(1)90日間反復投与試験
 Crl/CD(SD)ラットを用いた強制経口(カピリン換算表示で0、0.02、0.2、2mg/kg)投与による90 日間反復投与毒性試験を行った。その結果、いずれの群の動物においても死亡は認められず、一般状態、詳細な状態観察、機能検査、体重推移、摂餌量、眼科的検査、尿検査、剖検所見、器官重量及び病理組織学的所見において被験物質に起因すると考えられる毒性学的に意義のある変化は認められなかった。
 血液生化学的検査では、2mg/kg 群の雌で対照群と比較してグルコースの有意な高値が認められたが、併設したエタノール含有対照群とは差がなく、媒体中に含まれるエタノールに関連した変化であると考えられた。また、2 mg/kg 群以上の雌でβ-グロブリン分画比の有意な高値が認められたが、他の分画に関連する変動がないことから、被験物質投与に関連した変化でないと判断した。
 以上から、無毒性量は雌雄ともカピリン2mg/kg と判断した。1)

(2)遺伝毒性試験
 細菌(TA100、TA1535、TA98、TA1537、WP2uvrA)を用いた復帰突然変異試験は、5000μg/プレートまで試験されており、S9mix 非存在下で生育阻害が認められた。またS9mix 非存在下のTA98 及びS9mix 存在下のTA1537 において用量相関的に陰性対照の2 倍以上になる復帰変異コロニー数の増加が認められたことから陽性と判断した。2)
 哺乳類培養細胞(CHL/IU)を用いて、染色体異常試験におけるS9mix 存在下、確認試験におけるS9mix 非存在下及び24 時間処理した結果、構造異常を有する細胞の出現頻度は明らかな増加を示し、かつ用量依存性が認められた。各培養系列で顕微鏡観察が可能であった最高用量(S9mix 非存在下の0.13mg/mL、S9mix 存在下の2mg/mL、24 時間処理の0.11mg/mL)の細胞増殖率は、いずれも50%未満であった。以上の結果から、染色体異常誘発性は陽性と判断された。3)
 雄のCrlj:CD1(ICR)SPF マウスを用いた小核試験では、限界用量である2000mg/kg/日×2まで経口投与で試験されており、小核の出現頻度はいずれの用量においても陰性対照群と比較して有意な増加が認められなかったことから陰性と判断した。4)
 C57BL/6JJmS1c-Tg 系(gpt delta)マウスを用いた28 日間反復強制経口投与による突然変異試験を実施した。最終投与の3 日後に肝臓および胃(腺胃)を採取し、遺伝子突然変異頻度(MF)を測定した結果、いずれの臓器においても、被験物質投与群におけるMF に有意な増加が認められなかったことから、肝臓及び胃(腺胃)において遺伝子突然変異誘発作用は示さない(陰性)と判断した。5)
 以上の結果から、in vitro で認められた変異原性及び染色体異常誘発性はin vivo 試験系においては確認されず、生体にとって特段の問題となるものではないと考える。

5.検討結果
 これらの試験成績及び摂取量推計の結果からは、人の健康影響に対する懸念は認められなかった。

(引用文献)
1.松浦正男:平成22年度既存添加物の安全性に関する試験、(株)化合物安全性研究所
2.山内久実:平成21年度既存添加物の安全性に関する試験、(株)ボゾリサーチセンター
3.菊池正憲:カワラヨモギ抽出物のほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験、(株)SRD 生物センター
4.石井孝広:カワラヨモギ抽出物のマウスを用いた小核試験、(株)ボゾリサーチセンター
5.小野 宏:平成24 年度指定添加物等の安全性に関する試験 カワラヨモギ抽出物のgpt delta トランスジェニックマウス突然変異試験 (財)食品薬品安全性センター


ブドウ果皮抽出物(366)

1.食品添加物名
 ブドウ果皮抽出物(アメリカブドウ又はブドウの果皮からえられたポリフェノールを主成分とするものをいう。)

2.基原、製法、本質
 ブドウ科アメリカブドウ(Vitis labrusca LINNE)又はブドウ科ブドウ(Vitis vinifera LINNE)のうち、生食用又は醸造用ブドウの甲州、シャルドネ若しくはリースリング種の果皮搾粕より、室温時~微温時エタノールで抽出して得られたものである。主成分はポリフェノールである。

3.主な用途
 製造用剤

4.安全性試験成績の概要
(1)90 日間反復投与試験
 F344 系ラットを用いた混餌(1.25、2.5、5.0%)投与による、90 日間反復投与試験を行った。その結果、いずれの群の動物においても死亡は認められず、一般状態、体重、摂水量、眼科的検査、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査及び臓器重量において、被験物質に関連すると考えられる毒性変化は認められなかった。肉眼的病理学的検査では、5.0%及び2.5%群の雌雄全例に耳下腺の肥大が認められ、病理組織学的検査では、被験物質投与全群の雌雄に耳下腺の腺房細胞の肥大が観察された。また5.0%群及び2.5%群の雌において、腎臓の皮髄境界部の鉱質沈着の発生頻度及び程度の増強が認められた。無毒性量は雌雄とも1.25%(雄 770 mg/kg 体重、雌 830 mg/kg 体重)未満であると考えられ、本試験では特定することはできなかった。1)
 耳下腺・腺房細胞や腎臓への影響の再現性の確認と無毒性量を特定することを目的に、F344/DuCrj 系ラットを用いた混餌(0.2、1.0、5.0%)投与による、90日間反復投与毒性試験を行った。2)その結果、いずれの群の動物においても死亡は認められず、一般状態、体重、摂餌量、臓器重量、血液学的検査及び血液生化学的検査において、被験物質に関連すると考えられる毒性学的に意義のある変化は認められなかった。病理組織学的検査では、雌雄の5.0%群の全例で耳下腺腺房上皮細胞のびまん性好塩基性化及び高度な肥大が認められた。また、雌5.0%群の腎臓の皮質及び髄質において、軽度であるが他の群より程度が重い鉱質沈着を有する個体数が有意に増加した。雌5.0%群にみられた腎臓における鉱質沈着は被験物質による毒性と考えられ、また、生体への毒性学的意義は不明瞭ながら、雌雄5.0%群の耳下腺腺房上皮細胞の好塩基性化とびまん性肥大が認められたことから、無毒性量は、雌雄とも1.0%(雄600 mg/kg 体重/日、雌700 mg/kg 体重/日)と判断された。2)

(2)遺伝毒性試験
 細菌(TA98、TA100、TA1535、TA1537、WP2uvrA)を用いた復帰突然変異試験では、TA98 株でS9 mix の有無にかかわらず用量依存性を伴った復帰変異コロニーの増加が認められたことから陽性と判断した。なお、比活性値は最大で22(Rev/mg)であり、変異原性は非常に弱いものと判断された。3)なお、復帰突然変異試験(TA97、TA98、TA100、TA102)においてS9 mix の有無にかかわらず、すべて陰性を示したとの報告もある。4)
 哺乳類培養細胞(CHL/IU)を用いて、最高処理濃度313μg/ml(短時間処理法、+S9 mix)、156μg/ml(短時間処理法、-S9 mix)、40.0 μg/ml(連続処理法、24 時間及び48 時間処理)の染色体異常試験を行った結果、いずれの処理条件下においても染色体異常の誘発は認められなかった。5)
 マウス(BDF1 系、雄)を用いた小核試験は、限界用量である2000 mg/kg×2まで試験されており、小核の出現頻度にはいずれの用量においても陰性対照群と比較して有意な増加が認められなかったことから陰性と判断した。6)
 以上の結果から、細菌を用いた復帰突然変異試験で陽性の結果が得られているがその変異原性は非常に弱いものであり、また、十分高用量まで試験されたin vivo の小核試験では陰性であることなどを総合的に評価すると、本物質が生体にとって特に問題となるような遺伝毒性を発現することはないものと考える。

5.検討結果
 これらの試験成績からは人の健康影響が懸念されるような試験結果は認められなかった。

(引用文献)
1.小野宏:平成16年食品・添加物等規格基準に関する試験検査等について、(株)DIMS医科学研究所
2.小川久美子:平成23年度食品添加物安全性再評価等の試験検査、国立衛生試験所安全性生物試験研究センター病理部
3.山内久実:平成19年度既存添加物の安全性に関する研究(ブドウ果皮抽出物の細菌を用いる復帰突然変異試験)、(株)ボゾリサーチセンター
4.Aiub C, Stankevicins L, da Costa V, Ferreira F, Mazzei J, Ribeiro da Silva A, Soares de Moura R, Felzenszwalb I. Genotoxic evaluation of a vinifera skin extract that present pharmacological activities. Food Chem Toxicol. 42(6):969-73, 2004.
5.園明:平成19年度既存添加物の安全性に関する研究(ブドウ果皮抽出物のほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験)、(株)ボゾリサーチセンター
6.望月信彦:平成19年度食品・添加物等規格基準に関する試験検査等について(マウスを用いるブドウ果皮抽出物の小核試験)、(財)食品農医薬品安全性評価センター


マスチック(421)

1.食品添加物名
 マスチック(ヨウニュウコウの分泌液から得られた、マスチカジエノン酸を主成分とするものをいう。)

2.基原、製法、本質
 ウルシ科ヨウニュウコウ(Pistacia lentiscus LINNE)の分泌液より、低沸点部を蒸留により除去し、熱時エタノールで抽出し、エタノールを留去して得られたものである。主構成成分はマスチカジエノン酸である。

3.主な用途
 ガムベース

4.安全性試験成績の概要
(1)90 日間反復投与試験
 F344 ラットに検体0.22、0.67、2%の濃度で飼料に混入し、90 日間反復投与試験を行った。その結果、動物の死亡は認められず、一般状態及び摂餌量に変化は認められなかった。雄2%群及び雌0.67%群以上で体重増加抑制が認められた。投与に関連した変化として、血液学的検査において、雄の0.67%群以上で血小板の増加が、2%群において白血球増加が認められた。血液生化学的検査においては、雄0.67%群以上でTP 及びALB 増加、TG 減少が、雄2%群でALP、TC 及びCa の増加が認められた。雌の0.67%群以上でP の減少と-GT 及びTC の増加が、2%群でTP 及びBUN増加が認められた。臓器重量については、肝臓の絶対及び相対重量の増加が雌雄とも0.67%群以上で認められた。病理組織学的検索では、投与に相関した所見は認めなかった。
 以上より、無毒性量は雌雄とも0.22%(雄120 mg/kg 体重/日、雌132 mg/kg 体重/日)と考えられた。1)

(2)慢性毒性・発がん性併合試験
 F344/DuCrlCrlj ラットを用いた混餌(0.07、0.2、0.6%)投与による52 週間反復投与毒性試験では、いずれの群でも死亡は認められず、一般状態、摂餌量、眼科学的検査、尿検査及び肉眼的病理検査において、被験物質の投与に関連すると考えられる変化は認められなかった。血液学的検査では、雄の0.2%群以上及び雌の0.6%群において血小板の増加が、雄の0.6%群において赤血球、HGB及びHTC の減少が見られ、血液生化学的検査では、雌の0.2%群以上でγ-GT の有意な高値が、雌の0.6%群でTC の増加が認められた。臓器重量では、0.2%群以上で雄の肝臓の相対重量の高値及び雌の脾臓の相対重量の低値が認められ、0.6%群で雌雄の肝臓の絶対重量及び雌の相対重量の有意な高値、並びに雌の脾臓の絶対重量の低値が認められた。病理組織学的検査では、雄の0.6%群で肝臓の小増殖巣の発生が対照群と比較して有意に増加した。
 F344/DuCrlCrlj ラットを用いた混餌(0.07、0.2、0.6%)投与による104 週間発がん性試験では、第41 週に雄の0.6%群で1 匹の死亡が認められた後、各群で死亡あるいは切迫屠殺動物が散見されたが、投与終了時の生存率は、雌雄とも群間に差異は認められなかった。一般状態、摂餌量及び肉眼的病理検査では、被験物質の投与に関連すると考えられる変化は認められなかった。体重では、雄の0.2%群以上で継続して有意な低値若しくは低値傾向が認められ、被験物質の投与の影響と考えられた。臓器重量では、雄の0.6%群並びに雌の0.2%群以上で肝臓の絶対重量及び相対重量が有意な高値を示した。また、雌の0.6%群で腎臓の絶対重量及び相対重量の高値が見られた。病理組織学的検査では、雄の0.2%群及び0.6%群で肝臓の変異肝細胞巣の有意な発生増加若しくは増加傾向、雌の投与群の全てで胆管増生の有意な発生増加が認められたが、腫瘍性病変の発生増加は認められなかった。

 以上より、慢性毒性試験では、0.2%群以上で雄の血小板の増加、雌のγ-GT の有意な高値及び雄の肝臓相対重量の高値及び雌の脾臓相対重量の低値が認められ、発がん性試験においても0.2%群以上で雌の肝臓の絶対重量及び相対重量の高値が認められたことを考慮して、無毒性量は、雌雄とも0.07%(雄31.6 mg/kg
体重/日、雌39.5 mg/kg 体重/日)であると判断された。
 発がん性試験では、いずれの器官及び組織に対しても明らかな発がん性は認められなかったが、慢性毒性試験では雄の0.6%群で変異肝細胞巣の増加が認め
られたほか、発がん性試験では雄の0.2%以上の群で体重の継続的な低値及び変異肝細胞巣の増加あるいは増加傾向、雄の被験物質投与群全てで胆管増生の増加が認められた。したがって、本試験条件下では肝臓に対する毒性学的影響が認められたが、明らかな発がん性は認められなかった。2)

(参考情報)
 6 週齢のF344 雄ラットを用いて、ラット肝中期発がん性試験(伊東法)が行われている。200mg/kg のDiethylnitrosamine(DEN)を腹腔内投与し、2 週間後にマスチックを0、0.001、0.1 及び1%の濃度で混餌投与した。3 週目に2/3 の肝部分切除を行い、8 週間まで投与した。その結果、用量依存的に肝重量が増加した。GST-P陽性細胞巣の観察面積あたりの数と範囲は1%処置群で増加した。
 BrdU とGST-P の免疫二重染色の結果、1%処置群のGST 陽性細胞巣中で、BrdU標識細胞が最も高かった。8-OHdG 量には差がみられなかった。
 以上の結果より、本試験条件において1% (521 mg/kg 体重/日)の群でマスチックが発癌プロモーション作用を有することが示唆されている3)が、慢性毒性・発がん性併合試験で発がん性が認められていないこと及び遺伝毒性試験で生体にとって特段の問題となるものではないと考えられることから、本試験結果についても生体にとって特段の問題になるものではないと考えられる。
 
(4)遺伝毒性試験
 細菌(TA98、TA100、TA1535、TA1537、WP2uvrA)を用いた復帰突然変異試験は、5000 μg/plate まで試験されており、代謝活性化の有無にかかわらず陰性であった。4)
 哺乳類培養細胞(CHL/IU)を用いて、細胞毒性の認められる濃度まで染色体異常試験を行った結果、代謝活性化系存在下においてのみ統計学的に有意な染色体異常の誘発が認められたが、その出現頻度は6%と低くかった。5)
 マウスの骨髄を用いた小核試験は、限界用量である2000 mg/kg まで試験されており、いずれの用量においても小核の誘発は認められなかった。5)
 したがって、in vitro で認められた染色体異常誘発性はin vivo 試験系においては確認されず、生体にとって特段の問題となるものではないと考える。

5.検討結果
 これらの試験成績からは人の健康影響が懸念されるような試験結果は認められなかった。

(引用文献)
1.鰐渕英機:厚生労働科学研究費補助金、大阪市立大学大学院医学研究科
2.玉野静光:平成23年度食品・添加物等規格基準に関する試験調査等について、(株)DIMS医科学研究所
3.Doi K:Enhancement of preneoplastic lesion yield by Chios Mastic Gum in a rat liver medium-term carcinogenesis bioassay. Toxicol Appl Pharmacol. 2009 Jan 1;234(1):135-42
4.安心院祥三:厚生科学研究費補助金、財団法人化学物質評価研究機構
5.田中憲穂:厚生科学研究補助金、財団法人食品薬品安全センター


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