薬事・食品衛生審議会資料

 

平成13年06月21日

 

 

畜水産食品中に残留する動物用医薬品の基準設定に関する 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品・毒性合同部会報告につい - 薬食審 第111号:(別紙)の(別添1) ゲンタマイシンの審議結果

 
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(別添1)
ゲンタマイシンの審議結果

(1)使用方法
       ゲンタマイシン(Gentamicin)は、アミノグリコシド系抗生物質で、牛及び豚の感染症の治療薬として国内外で使用されている。ゲンタマイシンは、ゲンタマイシンC1、C2、C1aなどの混合物で、硫酸塩として使用されている。毒性試験の殆どは硫酸ゲンタマイシンを用いて行われており、投与量はゲンタマイシン当量で示されている。
(2)ADIの設定について
      1)吸収・排泄

       ゲンタマイシンの牛及び豚の薬物動態学に関する研究報告は殆どないが、アミノグリコシド系抗生物質全体の検討においては、極性を示し、水溶性が高いことから、脂溶性が関与する経口投与では殆ど吸収されないが、筋肉内投与あるいは皮下投与では良好に吸収され、筋肉内投与では投与後30~90分以内に血中濃度はピークに達する。また、アミノグリコシド系抗生物質は、腎臓と内耳以外の組織の分布は僅かである。また、殆どの動物種において、羊水と胎児組織中濃度は著しく低い。アミノグリコシド系抗生物質は代謝されず、未変化体のまま糸球体ろ過により尿中に排泄される。
       放射能標識ゲンタマイシンをビーグル犬に単回静脈注射すると、血清中からの見かけの消失半減期は、投与初期には約1時間、投与後8~10時間後には約2.5時間であった。臓器及び組織への分布は広範囲にわたっていたが、腎臓、特に皮質で高濃度に検出された。薬剤は殆ど代謝されていなかった。排泄は主に尿中に行われ、尿中回収率は約70%であったが、糞便中にはごく僅か(1%)しか排泄されなかった。

      2)毒性試験

      (1)単回投与試験
       げっ歯類への単回経口投与でゲンタマイシンの毒性はLD50=8,000~10,000mg/kgで、これは本薬が経口投与では殆ど吸収されないことに起因すると考えられる。マウス、ラット、モルモット、イヌへの静脈内注射ではLD50=37~67mg/kg、筋肉内、皮下、腹腔内注射ではLD50=213~893mg/kgであった。

      (2)反復投与試験
       ゲンタマイシンの反復投与毒性試験としては、ラット、イヌおよびサルについて種々の経口、筋肉内、皮下投与試験データが提出されており、これらの動物種において腎が毒性標的器官であることが示されている。
       ラットを用いた28日間反復筋肉内投与試験(0、25、50、200mg/kg体重/日)において、50及び200mg/kg群で体重増加抑制が認められ、200mg/kg群では、腎皮質の蒼白化、腎臓重量の増加、尿細管の壊死、肝臓の実質細胞変性が認められた。本試験のNOELは25mg/kg体重/日であった。
       ラットを用いた91日間反復混餌投与試験(0、4、19、116mg/kg体重/日相当:116mg/kg群は70日目から233mg/kgに増量)においては、116/233mg/kg群の雄で尿中ケトン体の増加が認められた以外には何れの用量群においても毒性は認められなかった。試験終了後の病理組織学的検査では、投薬に起因する変化は認められなかった。本試験のNOELは19mg/kg体重/日であった。
       ラットを用いた52週間反復筋肉内投与試験(0、5、10、20mg/kg体重/日)において、20mg/kg群の雄で10週目から体重増加が低下した。10及び20mg/kg群において、血色素量と赤血球容積率の軽度低下が認められ、腎臓の重量の増加が認められた。間質性腎炎の発生頻度が20mg/kg群で有意に増加した。本試験のNOELは5mg/kg体重/日であった。
       ビーグル犬を用いた14週間経口投与試験(0、2、10、60mg/kg体重/日:60mg/kg体重群は2か月目から120mg/kgに増量)において、体重、眼検査、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査の結果に異常は認められなかった。組織学的には、60/120mg/kg群の2例で間質性腎炎が認められた。本試験のNOELは10mg/kg体重/日であった。
       ビーグル犬を用いた12ヶ月間筋肉内投与試験(0、3、5、8mg/kg体重/日)において、8mg/kg群の1例に嘔吐および著しい唾液分泌過多が、23-24週目にみられ、BUN値の上昇、尿糖や尿比重の減少、尿量の増加が見られたが、その他の動物では血液、生化学、尿検査において異常は認められなかった。全ての投与群で用量に依存した間質性腎炎がみられた。
       アカゲザルを用いた3週間筋肉内投与試験(0、6、30mg/kg体重/日)において、30mg/kg群で貧血、血清GPT、GOT、LDH値の増加、尿蛋白と尿糖の上昇がみられ、血清クレアチニンとBUN値の増加、腎の混濁腫脹、近位尿細管上皮の変性と壊死が両投与群にみられた。

      (3)遺伝毒性試験
       提出された多くの試験系の成績を通観したところ、細菌を用いる復帰突然変異試験を含む大半の試験は陰性の結果であったが、試験の精度や実験条件に問題のあるものの一部の試験で、陽性の結果を示すものもあった。改めて、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験、ほ乳類培養細胞を用いる遺伝子突然変異試験、およびげっ歯類を用いる小核試験が行われた結果、すべて陰性の結果が得られた。従って、生体にとって問題となるような遺伝毒性の可能性は低いものと考えられる。

      (4)発がん性試験
       発がん性試験は実施されていないが、既知の関連知見に基づき発がん性について以下の評価がなされている。
      a) 既存の発がん性物質と構造類似性がなく、類似するアミノグリコシド系抗生物質であるネオマイシン、ジヒドロストレプトマイシン、アミノシジンにおいて、実験動物に発がん性は認められていない。
      b) ゲンタマイシンの遺伝毒性試験では、遺伝毒性の可能性は低いと結論づけられている。
      c) ゲンタマイシンの最高1年間のラットでの毒性試験では、前がん病変は見られない
      以上のことから、発がん性の可能性は、著しく低いと判断された。

      (5)生殖毒性試験
       雌雄各30匹/群のラットを用いた2世代生殖毒性試験(0、5、20mg/kg体重/日:6日/週筋肉内投与;雄には交配70日前から7日前まで投与、5mg/kg群の雌には、雄との交配14日前から分娩後21日まで投与、20mg/kg群の雌には交尾から分娩後21日目まで投与;F1児を交配してF2児を得たが投薬は行わなかった。)では、20mg/kg群のF0雄に13回投与後、陰茎出血が認められ、投与量を15mg/kgに減量したところ出血は消失した。20mg/kg群のF0雄の体重増加は若干抑制された。本試験では、薬剤に関連した妊娠率、同腹児数と体重、胎児死亡率、胎児奇形率の変化は認められなかった。

      (6)催奇形性試験
       マウスを用いた催奇形性試験(0、1、10、100mg/kg体重/日:15~33匹/群;妊娠6-10日に皮下投与)では、体重増加抑制及び腎臓重量の増加が100mg/kg群に認められた。対照群の5匹と100mg/kg群の5匹を自然分娩させ出生児を検査したところ、耳介の開展、眼瞼の開裂、腎臓および肝臓重量は群間で同等であった。残りの雌は妊娠17日に屠殺して検査した。10、100mg/kg群で胎児死亡が増加したが、薬剤投与に関連した胎児奇形率の増加はなかった。
       ラットを用いた催奇形性試験(0、25、50mg/kg体重/日:6日/週;40匹/群;妊娠3-16日に筋肉内投与;自然分娩させ離乳後10日以内に再交配した。)では、体重増加抑制が50mg/kg群に認められ、25及び50mg/kg群で腎皮質の褪色が認められた。胚子吸収率は対照群と同等であった。第2回目の交配後、50mg/kg群で死産児数が若干増加した。生後21日に児を屠殺して検査したが、薬剤投与に関連する異常はみられなかった。
       ウサギを用いた催奇形性試験(0、0.8、4mg/kg体重/日:13匹/群;妊娠6-16日に筋肉内投与;各群8匹を妊娠30日に屠殺し、残りは自然分娩させた。)では、親動物の健康状態は良好で、胎児死亡率、同腹児数や体重、胎児の形態、授乳期の生存率や体重増加に薬剤投与の影響はなかった。

      (7)特殊試験
      a) 腎機能に関する試験
       ラットにおける特殊試験で、ゲンタマイシンの腎毒性にはリソゾーム機能の障害が関連していることが示されている。特に、ラットを用いた14日間腹腔内投与試験(0または10mg/kg体重/日)において、4日目より近位尿細管上皮にリソゾームの増加がみられるが、リソゾームのスフィンゴミエリナーゼとフォスフォリパーゼ活性が低下している。
      b) 聴器毒性に関する試験
       アミノグリコシド系抗生物質暴露後に内耳毒性が発現することがある。ゲンタマイシンにおいても、最高50mg/kg体重/日を投与したサルの特殊試験において、蝸牛官の有毛細胞の部分的消失と感覚上皮の菲薄化を伴った聴覚機能の低下が認められている。

      (8)腸内細菌叢に関する試験
       ヒト糞便から分離した110菌株(通性嫌気性細菌30株、嫌気性細菌80株)の分離菌に対するゲンタマイシンの作用をin vitro培養により検討した。即ち、バクテロイデス属、腸内細菌の4種類とプロテウス属2菌種、さらに通性嫌気性菌の腸球菌属 Enterococcus faecium,、嫌気性菌8菌属の合計110菌株についてMIC(最小発育阻止濃度)を検討した。その結果、これら分離菌のMIC値は、0.06mg/mlから>128mg/mlの範囲であった。

      (9)ヒトにおける所見
       ヒトの治療目的では、ゲンタマイシンは注射剤や外用製剤として使用されている。ヒトへの臨床所見において、腎毒性及び聴器毒性が報告されており、10,000例以上の患者にゲンタマイシンを投与した臨床試験において、成人での蝸牛管毒性の発現率は5~10%であった。1975年から1982年までのゲンタマイシンを投与された入院患者670人の追跡調査では、皮膚アレルギーの発現率は0.5%であった。

      3)ADIの設定
       以上の試験成績から次のようにADIが算定された。
       微生物学的な評価において、ヒトの消化管内から通常分離される110株を用いてゲンタマイシンの代謝物のMICを測定するin vitro試験を行った結果、最低のMIC50は通性嫌気性菌であったが、ヒト腸内で少数派細菌種であることから、1日摂取許容量ADIの算出にはそれらのデータを使用しないこととし、これに代わりヒト胃腸管から分離された最も感受性が高く妥当と考えられる細菌、この場合は真正細菌 Eubacterium spp.のMIC値を使用することとした。
       真正細菌属Eubacterium spp.の分離菌10株に対するゲンタマイシンの幾何平均MICは6mg/mlであった。これらのin vitro試験からは、ヒト由来の消化管細菌叢を代表する各種菌株のデータが得られていることから、安全係数は1とした。これを基に、以下のJECFAの計算式に従い、ADIは20mg/kg体重/日と算定された。


       

      注1: 経口投与によるゲンタマイシンの吸収率は低いため、胃腸管における100 %の利用を現すためアベイラビリティに1を用いた。
      注2: 十分かつ適切な微生物学的データが得られたため安全係数は1を用いた。
         
       一方、ゲンタマイシンの経口毒性試験に基づく最低のNOELは10mg/kg体重/日であり、これは微生物学的1日摂取許容量の500倍に当たる。
       従って、ADIは、微生物学的な評価を基に20mg/kg体重/日とする。
(3)残留基準値の設定について
       残留基準値については、国際基準と同様に設定しても、日本人1日あたりの肉及び乳の平均摂取量(厚生省国民栄養調査成績)から試算される理論最大摂取量は(2)の3)で得られたADIを超えないことから、以下の通りとする。
       
        肉(牛、豚)
      0.1 ppm
        脂肪(牛、豚)
      0.1 ppm
        肝臓(牛、豚)
      2.0 ppm
        腎臓(牛、豚)
      5.0 ppm
      0.2 ppm

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