薬事・食品衛生審議会資料

 

平成10年12月03日

 

 

「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否に関する部会報告 - 別紙3

 
  
  
   
     
    
   
     
  
  
別紙3

 日本モンサント株式会社から申請されたトウモロコシ(ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統)に係る「組換えDNA 技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について
  
 日本モンサント株式会社から申請されたトウモロコシ(商品名:「ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統」。以下「ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。

1 申請された食品の概要
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、除草剤「グリホサート(商品名:ラウンドアップ、一般名:N-ホスホノメチルグリシン、農林水産省:農薬登録番号14360号、米国登録:CAS 登録番号:1071-83-6、38641-94-0)」の影響を受けずに生育できる。
 グリホサートは、植物や微生物に特有の芳香族アミノ酸合成経路(シキミ酸経路)中の酵素の一つである、5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(以下「EPSPS 蛋白質」という。)と特異的に結合し、その活性を阻害する。そのため、散布によりほとんどの植物は必須芳香族アミノ酸が合成できずに枯死する。
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシはグリホサート存在下でも機能するmEPSPS蛋白質を発現させる遺伝子が導入されているため、グリホサートを散布しても植物は枯死せずに生育することができる。


2 指針の適用の可否について
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)~(4)に従って申請資料の検討を行った。


(1) 遺伝的素材に関する資料
 宿主はトウモロコシ(デント種)であり、導入したmEPSPS遺伝子はトウモロコシに元々含まれているEPSPS遺伝子をクローニングし、部位特異的突然変異により改変を加えたものである。mEPSPS蛋白質の発現量は、生組織重量1gあたり葉で118.7μg、穀粒では3.2μgである。


(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
 トウモロコシ(デント種)は、主に飼料用として利用されるが、食品としてもコーン油や澱粉等の製造に幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。


(3) 食品の構成成分等に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、主要構成成分(蛋白質、総脂質、灰分、酸性デタージェントファイバー、中性デタージェントファイバー、炭水化物、水分)、アミノ酸組成、及び脂肪酸組成に関し、既存のトウモロコシと有意な差は認められなかった。


(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの食品としての使用方法は既存のトウモロコシと同等である。なお、既存のトウモロコシとの栽培上の相違は、グリホサートの影響を受けずに生育することから、栽培期間中にグリホサートが使用できる点のみである。


(5) 指針適用の可否に関する結論
 申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、既存のトウモロコシと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。


3 指針への適合性
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。



(1) 組換え体の利用目的及び利用方法
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシには、グリホサート存在下でも機能するmEPSPS蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、栽培期間中にグリホサートが使用できる。


(2) 宿主
 トウモロコシ(デント種)は、主に飼料用として利用されるが、食品としてもコーン油や澱粉等の製造に幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。トウモロコシのアレルギーは非常に希であるほか、有害生理活性物質の産生は知られていない。


(3) ベクター
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの作出に用いられた pDPG434は、主としてpBluescript SK(-)に由来する。pDPG434に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。pDPG434は大腸菌にアンピシリン及び他のβラクタム環を持つ抗生物質に対する抵抗性を付与するbla遺伝子をプラスミド構築の際に利用しているが、遺伝子導入の際に除去している。また、pDPG434は伝達を可能とする配列は含まず、複製開始領域は大腸菌中での自律増殖を可能とするが、植物中では増殖できない。
 なお、pDPG434のトウモロコシ細胞への導入には、パーティクルガン法が用いられている。
 pDPG434には、mEPSPS遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子領域が含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。


(4) 挿入遺伝子

1) 供与体
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシに導入されたmEPSPS遺伝子は、トウモロコシに元々含まれているEPSPS遺伝子をクローニングし、部位特異的突然変異により改変を加えたものである。


2) 挿入遺伝子

a 構造に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシのゲノム中に組み込まれたpDPG434由来の挿入DNAは2コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニット(r-act/OTP/mEPSPS/NOS3')と1コピーの不完全なmEPSPS遺伝子発現ユニット(r-act/OTP/mEPSPSの一部)が連結したもので、挿入されたDNAのサイズは、最大でも9.1kbp 未満である。なお、既知の有害塩基配列は含まれていない。


b 性質に関する資料
 mEPSPS遺伝子は、mEPSPS蛋白質を発現させ、グリホサート存在下でも阻害を受けずに機能するため、グリホサートの除草効果を妨げる。


c 純度に関する資料
 挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、その特性も明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子は、それらの特性が明らかとなった遺伝子のみである。


d 安定性に関する資料
 挿入DNA は、6世代目においても安定に維持されている。


e コピー数に関する資料
 挿入DNA は、2コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニットとNOS3'末端を欠くmEPSPS配列が1カ所に挿入されている。


f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
 mEPSPS蛋白質の発現量は生組織重量1g あたり葉で118.7μg 、穀粒では3.2μg である。


g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシには、抗生物質耐性マーカー遺伝子は挿入されていない。


h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
 挿入DNA にはmEPSPS蛋白質の発現に係るオープンリーディングフレームのみが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質は、mEPSPS蛋白質のみである。


(5) 組換え体

a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシに導入された性質は、グリホサートの影響を受けずに生育できる点のみである。


b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
 指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。


(1) 食経験に関する資料
 mEPSPS遺伝子の供与体であるトウモロコシはヒトの長期にわたる食経験があるが、そのアレルギーは非常に希で、原因となるアレルギー誘発物質も特定されていない。mEPSPS遺伝子は、トウモロコシに元々含まれているEPSPS遺伝子をクローニングし、部位特異的突然変異により改変を加えたものである。この遺伝子によりコードされるmEPSPS蛋白質とEPSPS蛋白質とのアミノ酸配列の同一性は99.3%以上である。


(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
 mEPSPS蛋白質及びEPSPS蛋白質類が、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。


(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料

ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 mEPSPS蛋白質は、人工胃液・人工腸液により急速に分解され、抗原性が消失した。


イ 加熱処理に対する感受性
 mEPSPS蛋白質の酵素活性は、加熱により消失するとともに、抗原性も失われることが確認されている。


(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
 日本人のmEPSPS蛋白質の一日予想摂取量は、日本人のトウモロコシの平均摂取量2.3g(国民栄養の現状、1997)をラウンドアップ・レディー・トウモロコシに置き換えて計算すると、加工損失が無いと仮定して7.36μgである。


(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
 アレルゲンの構造相同性検索の結果、78の食物アレルゲンを含む 219の既知アレルゲンがデータベースより抽出された。しかし、mEPSPS蛋白質と隣接したアミノ酸配列が8つ以上同一であるアレルゲンはなく、mEPSPS蛋白質と既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。


(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
 mEPSPS蛋白質の一日予想摂取量7.36μgは、日本人の一日平均蛋白質摂取量81.5g(国民栄養の現状、1997)の0.000009%である。


c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

 データベース検索の結果、mEPSPS蛋白質と既知の毒素の間に相同性は認められなかった。また、マウスを用いたmEPSPS蛋白質の急性強制経口投与試験の結果、有害な影響は見られなかった。

d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
 mEPSPS蛋白質はグリホサートに耐性を持つ以外は、トウモロコシに元々含まれているEPSPS蛋白質と機能的に同等である。EPSPS蛋白質はホスホエノールピルビン酸(PEP)及びシキミ酸-3-リン酸(S3P)と特異的に反応する。PEPとS3P以外にEPSPS蛋白質と反応することが知られているのはS3P類似体であるシキミ酸のみである。EPSPS蛋白質とシキミ酸の反応性は、EPSPS蛋白質とS3Pの反応性のおよそ200万分の1にすぎない。したがって、シキミ酸が植物体内で EPSPS蛋白質と反応することはない。


e 宿主との差異に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、主要構成成分(蛋白質、総脂質、灰分、酸性デタージェントファイバー、中性デタージェントファイバー、炭水化物、水分)、アミノ酸組成、及び脂肪酸組成に関し、既存のトウモロコシと有意な差は認められなかった。
 なお、収穫されたトウモロコシの種子中のグリホサートの平均残留量は、0.006ppm であり、1992年に厚生省が設定したトウモロコシのグリホサートについての残留基準値0.1ppmを下回った。


f 外界における生存・増殖能力に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの圃場試験は米国及びヨーロッパで延べ76カ所以上で行われているが、生存、増殖能力に関し非組換え品種と同等であった。


g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの、生存、増殖能力は非組換え品種と同等であった。


h 組換え体の不活化法に関する資料
 物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、トウモロコシを枯死させる従来の方法によって不活化される。


i 諸外国における認可・食用等に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシについて、米国において、1998年2月に米国食品医薬品局(FDA)により食品としての安全性が確認された。


j 作出・育種・栽培方法に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシと既存のトウモロコシとの栽培方法の唯一の違いは、生育期の雑草防除にグリホサートが使用できるか否かの点であり、他の点では同等である。


k 種子の製法及び管理方法に関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの製法及び管理方法については、既存のトウモロコシと同様である。


(6)指針適合性に関する結論
 申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。

  
  
            
   
 
 
  


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