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平成9年09月11日

 

 

O157研究発表会資料

 

別添(参考)

O157研究発表会資料

(研究報告書要約版)

平成9年5月22日(木)


機能水による病原性大腸菌汚染食品の消毒方法の調査ならびに研究

北里研究所・基礎研究所  小宮山寛機

要約
 機能水のなかで広く使用されている電解水について文献調査を行い、その種類、応用、効果、問題点を明らかにした。即ち、種々の電解水があり優れた殺菌作用を示すが、いずれも有機物があるとその効果は減弱する。また、顕著な殺菌作用を示す強酸性電解水を用いてO157汚染食品に対する消毒効果を調べたところ、材料によりその効果は異なり今後より詳細な検討が必要とされる。

目的
 機能水の中で、水に少量の食塩を加えて電気分解によって作られる電解水が、種々の細菌に対して殺菌作用を示すことが知られている。種々の電解水が市場に出回っており病院、食品、農業などの分野で広く使われている。一部の電解酸性水は医療従事者の手指消毒用に認可されているが、他の応用に関してはメーカーの宣伝で広がっており、科学的に検証されたデータに乏しく、誤った理解(使用方法)で事故が起きる可能性が大きい。
そこで本研究では、最近学会誌などに発表されている電解水に関わる文献を調査し、機能水の効果と限界を正しく理解する一助とすることと、電解酸性水が病原性大腸菌O157によって汚染されている食品の消毒に用いることが出来るか否か予備的な検討を行ったので報告する。

方法および結果
Ⅰ.食品消毒に関する文献調査

 日本で開発された電解水であり、論文の多くが日本語で発表されているので日本の雑誌の検索ならびに、機能水研究振興財団の資料、各文献の孫引きおよびメーカーの資料などを参考にして調査を行った。その結果、医療応用に関する文献は審査のある雑誌に投稿されているが、食品への応用は審査のある雑誌への投稿はほとんど見られず、業界関係雑誌への投稿が多い。

(1)電解水の種類

 機器によって生成される電解水の性質が異なる。一般にpH3以下の水を強酸性水、pH3以上の酸性水をソフト酸化水などと呼んでいるが、特に決められていないのでメーカーによりそれぞれ名付けられており混乱している。メーカーも大手の電気会社から小企業の工場まで分布しており一説には50社以上と言われているが、実態は不明である。生成方法は水道水に微量の食塩を添加し、隔膜を介して電気分解をした場合、陽極側に塩素・酸素、次亜塩素酸(HCIO)、塩素ガス(Cl2)を含む水が生成される。

(2)電解水の応用

 どの分野で使われているか調べたところ、病院における手指の消毒、医療器具消毒、厨房施設の消毒、食品消毒などが主であるが、農業への応用も検討されている。

(3)電解水の消毒効果

 消毒効果については、電解酸性水のうち特に強酸性水と呼ばれるpH3以下の水について審査のある雑誌への報告が多くなされている。in vitroにおいて各種細菌に対して顕著な殺菌作用を有するが、有機物が混入していると効果は低下する。手指消毒の効果がありしかも安全性は高く、ヒトの皮膚に瀕回に使用しても手荒れはほとんどなく、使用後下水に流すとほぼ通常の水となる(環境にやさしいが、配管の金属部分は腐食する)。

 食品への応用を調べたところ、手指消毒に用いている強酸性水は食物の変性を引き起こすことから商品価値を考えてアルカリ性の電解水(殺菌作用を示す主成分は次亜塩素酸ソーダ)を用いている。食品分野、特にカット野菜の消毒に大規模に導入されている。しかし、殺菌作用を示す主成分は次亜塩素酸ソーダとされているが、次亜塩素酸ソーダに比べて低濃度の有効塩素濃度で殺菌効果を示すことから、有効な化学種、その濃度、作用機序など不明な点もありより詳細な検討が必要である。


Ⅱ.電解酸性水の抗菌作用

 最も殺菌作用が顕著でありしかも厚生省より手指消毒を目的に、唯一認可された強酸性電解水を用いて消毒作用を検討した。

(1)In vitroにおける効果

 O157に対する酸性電解水(pH2.5、残留塩素濃度18.2mg/L)の殺菌作用をしらべた。酸性水10mlに生理食塩水に浮遊させた菌液(106CFU/ml)0.1mlを添加し、経時的に菌を採取しHI培地で培養し、菌増殖の有無を調べた。その結果、作用2.5分ですでに菌の発育は認められなかった。一方、HI培地に浮遊させた菌液0.1mlを添加した場合、殺菌作用を示す時間は10分であった。この様に作用は顕著であるが、有機物が存在する場合は殺菌作用は低下する。

(2)O157汚染食品に対する効果

 カイワレダイコン、肉およびマグロの切り身に付着したO157を強酸性水でどの程度減菌出来るか検討した。使用菌株であるO157(H7)は東京都立衛生研究所より分与を受けた。カイワレダイコン、食肉およびマグロは市販品を購入し約2×3×0.5cmに切って用いた。

強酸性水は3機種(ホシザキ電気=1、三浦電子=2、トキコ=3)より生成される水および次亜塩素酸水(4)を用いた。水の物性を次に示す。

    

pH

ORP(mv)*

Cl2(mg/L)

      

1

2.1

1387

31

*ORP:酸化還元電位:測定方法により変動する

2

2.3

1380

30

         

3

2.5

1372

9.1

       

4

8.1

979

8.9

       


 生理食塩水に浮遊させた菌液(6×107CFU)100mlに、牛肉あるいはマグロを60g加え、カイワレ70gの場合は200mlの菌液に加え、いずれも室温で20時間振とうし菌を付着させた。O157付着試料5gを三角コルベンに秤取り、酸性水を50ml加えて同様に振とう洗浄した。洗浄開始から一定時間毎に洗浄水を交換した。最終洗浄後、生理食塩水10mlを加え、ボルテックスで強く撹拌し付着菌を遊離させ、菌数を測定した。
 その結果図に示すようにいずれの機能水でも時間の経過と共に菌数が減少するが、特に1および2で顕著であり次いで3であった(塩素濃度と比例している)。次亜塩素酸水(4)ではほとんど効果は認められなかった。但し、酸性水で消毒した場合時間と共にカイワレは褐変し、肉類はやや白濁し商品価値は減少した。


考察
 今回はどの程度殺菌されるかを調べる目的で大量の菌で感染させた試料を用いて実験を行った。実際は、菌の濃度は遥かに少ないと思われるが、in vitroおよび食品を用いて示したように、効果は認められるが有機物が存在するとその効果は著しく低下する。従って、表面の菌は殺菌されるが肉などの内部に混入した菌の殺菌は難しいと思われる。機能水の酸性度合を強くしまた塩素濃度を高めると消毒作用は顕著になるが、半面塩素臭が強くなりまた野菜の褐変および蛋白質の変成がおこり商品価値は低下する。現在機能水を用いて食品を対象とした消毒が行われているが、これらのことを克服するために種々工夫がなされている。例えば電気分解で出来るアルカリ側の水を用いるあるいはオゾン水とする等など。しかしいずれの場合も有機物があると効果が減弱することから食品そのものの殺菌(特に肉類)には解決すべき問題点が多い。

結論
 文献検索などから判断した場合、機能水の食品への応用は使用方法あるいは対象物によっては有用な消毒方法になると思われるが、より科学的に検証されたデータが必要である。手指消毒用に認可された比較的強力な酸性水でも限界があり、現時点では大量の機能水を用いて厨房機器などの洗浄殺菌を行う二次汚染の防止を考える事が現実的である。

最近の代表的な文献
1.大久保憲ら、電解酸性水に関する調査報告。日本手術医学会誌 15,508-520 1994
2.鈴木鉄也、電解処理水によるサニテーション:食品殺菌への利用とその可能性と課題。食品と開発 31,9-13 1996
3.久保田昌治、強酸化水の開発と利用。食品と開発 30,9-13 1995
4.乙黒一彦ら、グローブジュース法による2種の酸性電解生成水溶液の手指消毒について。環境感染 11,117-122 1996
5.岩沢篤朗、中村良子 酸性電解水の殺菌効果と使用法の検討。 環境汚染 11,193-202 1996
6.山中信介 電解酸化水を利用した衛生管理技術。食品加工技術 15,7-16 1993


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