薬事・食品衛生審議会資料

 

平成10年05月25日

 

 

「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」 に適合していることの確認を行うことの可否に関する部会報告 (別添1) - 別紙1 日本モンサント株式会社から申請されたわた(ラウンドアップ・レディー・ワタ1445系統)に係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

 

別紙1
日本モンサント株式会社から申請されたわた(ラウンドアップ・レディー・ワタ1445系統)に係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

日本モンサント株式会社から申請されたわた(商品名:「ラウンドアップ・レディー・ワタ1445系統」。以下「ラウンドアップ・レディー・ワタ」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。

1 申請された食品の概要
ラウンドアップ・レディー・ワタは、除草剤「グリホサート(商品名:ラウンドアップ、一般名:N-ホスホノメチルグリシン、農林水産省:農薬登録番号14360号、米国登録:CAS登録番号:1071-83-6、38641-94-0)」の影響を受けずに生育できる。
グリホサートは、植物や微生物に特有の芳香族アミノ酸合成経路(シキミ酸経路)中の酵素の一つである、5-エノール-4-ピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(以下「EPSPS蛋白質」という。)と特異的に結合し、その活性を阻害する。そのため、散布によりほとんどの植物は必須芳香族アミノ酸が合成できずに枯死する。
ラウンドアップ・レディー・ワタはグリホサート存在下でも機能する CP4 EPSPS蛋白質を発現させる遺伝子が導入されているため、グリホサートを散布しても植物は枯死せずに生育することができる。
また、選択マーカー遺伝子としてEscherichia coli(以下「E.coli」という。)に由来するNPTⅡ蛋白質を発現させるnptⅡ遺伝子が導入されている。NPTⅡ蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。

2 指針の適用の可否について
ラウンドアップ・レディー・ワタの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)~(4)に従って申請資料の検討を行った。

(1)遺伝的素材に関する資料
宿主はわた(Gossypium hirsutum種)であり、遺伝子供与体は土壌微生物であるAgrobacterium sp. CP4株に由来し、nptⅡ遺伝子はE.coliに由来する。
CP4 EPSPS蛋白質の発現量は、種子生組織1mgあたり0.082μgであり、NPTⅡ蛋白質の発現量は、極子生組織1mgあたり0.0067μgである。

(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
ヒトが摂取するわた(G.hirsutum種)由来の食品は綿実油のみであり、綿実油は油として、天ぷら油、サラダ油、マヨネーズ等に利用され、広範囲なヒトの安全な食経験がある。

(3)食品の構成成分等に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタは、主要構成成分(脂質、脂肪酸等)、有害生理活性物質(ゴシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)に関し、既存の綿実油と有意な差は認められなかった。

(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタの食品としての使用方法は既存のわたと同等である。
なお、既存のわたとの栽培上の相違は、グリホサートの影響を受けずに生育することから、栽培期間中にグリホサートが使用できる点のみである。

(5)指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、ラウンドアップ・レディーワタは、既存のわたと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。


3 指針への適合性
ラウンドアップ・レディー・ワタの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。

(1)組換え体の利用目的及び利用方法
ラウンドアップ・レディー・ワタには、グリホサート存在下でも機能するCP4 EPSPS 蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、栽培期間中にグリホサートが使用できる。

(2)宿主
わた(G.hirsutum種)の、食品としての利用形態は、綿実油に限られる。わたの種子にはゴッシポール等の有害生理活性物質の産生が知られている。

(3)ベクター
ラウンドアップ・レディー・ワタの作出に用いられた pPV-GHGT07 は、主としてAgrobacterium tumefaciensに由来する。pPV-GHGT07に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、pPV-GHGT07にはE.coli間における伝達を可能とするoriT配列を含むが、この伝達はヘルパープラスミド等からtrfA遺伝子産物が供給されることが必須であるため、pPV-GHGT07単独では伝達は起こらない。
pPV-GHGT07は自律可能な領域が、E.coli及び Serratia marcescens 等近縁のグラム陰性菌及びTiプラスミド pMP90RK を持つAgrobacterium tumefaciens ABI株に限られており、植物や自然界では増殖することができない。
なお、pPV-GHGT07のわた細胞への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
pPV-GHGT07には、CP4 EPSPS遺伝子、nptⅡ遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子領域が含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。

(4)挿入遺伝子
1)供与件
 ラウンドアップ・レディー・ワタに導入されたCP4 EPSPS遺伝子は、土壌微生物であるAgrobacterium CP4株より単離され、npt.Ⅱ遺伝子は、E.coliに由来する。また、E.coli中でベクターと増殖する際及び植物発現ベクターを含むAgrobacterium tumefaciensを選抜するためのマーカーとして用いたaad遺伝子も導入されていたが、aad遺伝子は植物が機能するプロモーターを持たないため、ラウンドアップ・レディー・ワタ中では発現していない。

2)挿入遺伝子
a 構造に関する資料。
ラウンドアップ・レディー・ワタのゲノム中に組み込まれた pPV-GHGT07由来の挿入DNA(E9/CP4 EPSPS /CTP/CMoVb/aad/nptⅡ/ori-V)のサイズは、最大でも6.1kbp未満である。なお、既知の有害塩基配列は含まれていない。
b 性質に関する資料
CP4 EPSPS遺伝子は、CP4 EPSPS蛋白質を発現させ、グリホサート存在下でも阻害を受けずに機能するため、グリホサートの除草効果を妨げる。
nptⅡ遺伝子は、受容植物細胞にアミノ配糖体系抗生物質を不活化させるNPTⅡ蛋白質を発現する。
c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、その特性も明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子は、それらの特性が明らかとなった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
挿入DNAは、5世代目においても安定に維持されている。
e コピー数に関する資料
挿入DNAは、一ケ所に1コピー挿入されている。
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
CP4 EPSPS 蛋白質の種子中生組織重量1mgあたりの発現量は、0.082μgであり、NPTⅡ蛋白質の発現量は、0.0067μgである。
なお、綿実油中では、いずれも検出限界未満であった。
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタ由来の食品は、綿実油のみであり、綿実油中にはnptⅡ遺伝子もNPTⅡ蛋白質も含まれないため、抗生物質耐性マーカーに係る安全性上の問題はないと考えられる。実際に分析を行った結果でも、ラウンドアップ・レディ・ワタ由来の綿実油中のNPTⅡ蛋白質は検出限界未満であった。
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
挿入DNA には CP4 EPSPS蛋白質及びNPTⅡ蛋白質の発現に係るオープンリーディングフレームのみが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質は、CP4EPSPS 蛋白質及びNPTⅡ蛋白質のみである。

(5)組換え体
a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタに導入された性質は、グリホサートの影響を受けずに生育できる点のみである。
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。
①供与体の生物の食経験に関する資料
CP4 EPSPS遺伝子の供与体であるAgrobacterium sp. CP4株は、ヒトの直接の食物源ではないが、CP4 EPSPS蛋白質は、その配列が明らかにされている。EPSPS蛋白質の酵素機能は既知のものであり、これまでにヒトは、安全な食経験のある植物や微生物由来の様々な種類のEPSPS蛋白質を摂取してきている。
②遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
CP4 EPSPS蛋白質が、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。
③遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性 CP4 EPSPS蛋白質は、人工胃液・人工腸液により急速に分解され、抗原性が消失した。イ 加熱処理に対する感受性 CP4 EPSPS蛋白質の酵素活性は、加熱により消失するとともに、抗原性も失われることが確認されている。④遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
日本人のCP4 EPSPS蛋白質の一日予想摂取量は、日本人の綿実油の平均摂取量0.25g(我が国の油脂事情、1994、国民栄養の現状、1995)を、ラウンドアップ・レディー・ワタ由来の綿実油から全量摂取し、綿実油中に検出限界値の蛋白質が存在すると仮定すると、0.33μgとなる。
⑤遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
アレルゲンの構造相同性検索の結果、78の食物アレルゲンを含む219の既知アレルゲンがデータベースより抽出された。しかし、CP4 EPSPS蛋白質と隣接したアミノ酸配列が7つ以上同一であるアレルゲンはなく、CP4 EPSPS 蛋白質と既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。
⑥遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
CP4 EPSPS蛋白質の、一日予想摂取量0.33μgは、日本人の一日平均蛋白質摂取量 79.5g(国民栄養の現状、1995)の0.0000004%である。
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
ヒトが摂取する本組換えワタ由来の食品は綿実油のみであり、わたの精製油中にはいかなる蛋白質も含まれないことが確認されている。
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
EPSPS蛋白質はホスホエノールピルビン酸(PEP)及びシキミ酸一3一リン酸(S3P)と特異的に反応する。PEPとS3P以外にEPSPS蛋白質と反応することが知られているのはS3P類似体であるシキミ酸のみである。EPSPS蛋白質とシキミ酸の反応性は、EPSPS蛋白質とS3Pの反応性のおよそ200万分の1にすぎない。したがって、シキミ酸が植物体内で EPSPS蛋白質と反応することはない。
e 宿主との差異に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタ由来の綿実油は、主要構成成分(脂質、脂肪酸等)及び有害生理活性物質(ゴッシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)量に関し、既存の綿実油と同等であった。
なお、収穫されたわたにおけるグリホサートの残留量は、0.26ppmであり、厚生省が設定したわたのグリホサートについての残留基準値0.5ppmを下回った。
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタの圃場試験は米国を中心として延べ235カ所以上で行われているが、生存、増殖能力に関し非組換え品種と同等であった。
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタの、生存、増殖能力は非組換え品種と同等であった。
h 組換え体の不活化法に関する資料
物理的防除(耕転)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、わたを不活化する従来の方法によって不活化される。
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタについて、米国においては、米国食品医薬品局(FDA)との間で行った、食品としての安全性に関する協議を完了した。カナダにおいても、商品化に必要な全ての許可が得られている。
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタと既存のわたとの栽培方法の唯一の違いは、生育期の
雑草防除にグリホサートが使用できるか否かの点であり、他の点では同等である。
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタの製法及び管理方法については、既存のわたと同様である。

(6)指針適合性に関する結論
 申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、ラウンドアップ・レディー・ワタは指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。


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