薬事・食品衛生審議会資料

 

平成10年05月25日

 

 

「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」 に適合していることの確認を行うことの可否に関する部会報告 (別添1) - 別紙6 日本ロシュ株式会社から申請されたリボフラミンに係わる「組み換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

 

別紙6
日本ロシュ株式会社から申請されたリボフラミンに係わる「組み換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

日本ロシュ株式会社から申請されたリボフラミン(ビタミンB2。以下「申請リボフラミン」という。)について、「組み換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討し、以下のような結果を得た。

1 申請された食品添加物の概要
リボフラミンは、栄養強化又は着色の目的で、菓子、スポーツ飲料、味噌、漬物等の食品に使用される。現在、リボフラミンは、合成法又は発酵法により製造されているが、生産効率の点から合成法が多用されている。
申請リボフラミンは、Bacillus subtilis Marburg 168株由来株を宿主とし、pUC19をベクターとして用いて、リボフラミン生合成遺伝子群、プロモーター遺伝子などを染色体上に挿入した組換え体を培養することにより、効率的に製造されるものである。

2 指針の適用の可否について
申請リボフラミンについては、食品添加物公定書第六版に収載されているリボフラミンの成分規格中の定量法から求めた含量が98.0%~102.0%の範囲内にあり、確認試験、純度試験等の成分規格にもすべて適合していること、HPLC法による測定で既存の合成リボフラミンと同一の保持時間にピークが得られることから、既存の食品添加物であるリボフラミンと同等とみなし得るものと考えられる。また、申請リボフラミンについては、組換え体自体は、生産物に含有されない。以上の点から、申請リボフラミンについては、指針の適用範囲内であると判断できる。

3 指針への適合性
申請リボフラミンの指針への適合性については、指針の第2章第1~第3及び第3章第1にしたがって申請資料の検討を行った。

[製造過程に関して]
(1)組換え体等の製造方法
①組換え体の利用目的及び利用方法
 B.subtilis Marburg 168株由来株を宿主とし、pUC19をクローニングベクターとして用いて、リボフラビン生合成遺伝子を染色体上に組み込ませ、増幅させた当該組換え体を培養する。培養により生産されたリボフラビンは、結晶として培養液中に蓄積されるので、菌体画分とリボフラビン画分を分離した後、リボフラビン画分を精製し、食品添加物としてのリボフラビンを得る。

②宿主
 B.subtilis Marburg 168株を突然異変処理し、リボフラビン及びプリンの生産を調節解除した誘導体であるRB50株を使用している。B.subtilis Marburg 168株誘導体は、長期にわたって安全に用いられてきた歴史を持つ微生物であり、「組換えDNA実験指針」の表2の認定宿主-ベクター系に含まれている。
宿主の増殖生については、水道水、下水及び土壌中で(20℃及び37℃)、15日間生菌数を判定したところ、対照として用いたB.subtilis Marburg168株と同様、一日目で約100分の1に減少し、その後ほぼ一定に保たれていることから、低いものと考えられる。

③ベクター
Escherichia coliに一般に広く用いられるプラスミドpUC19(2.7kbp)は、制限酵素による切断地図、塩基配列が明らかにされており、既知の有害塩基配列を含まないことが示されている。なお、pUC19は遺伝子ampを含むため、E.coliにおいてはアンピシリン耐性を発現するが、宿主B.subtilisにおいては、複製ができない。(B.subtilis特有のリボソーム結合部位による)ため、アンピシリン耐性遺伝子は発現されない。

④挿入遺伝子関連
 組換え体に挿入される遺伝子は、B.subtilis Marburg168株由来のリボフラビン合成遺伝子群(6.5kbp)、B.subtilisを宿主とするファージSPO1由来の初期遺伝子プロモーター配列(365bp)、Staphy1ococcus aureusのプラスミドpC194由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子(1035bp)、Streptococcus faecalisのプラスミドpAMa1由来のテトラサイクリン耐性遺伝子(2.4kb)である。これらの挿入遺伝子の塩基配列は明らかにされており、既知の有害塩基配列は含まれていない。

⑤組換え体
 組換え体は、組換えDNA操作により、宿主と比較し10倍以上のリボフラビン生産性、テトラサイクリン及びクロラムフェニコール耐性を新たに獲得する。
 組換え体の外界における増殖性は、組換えにより生存及び増殖能力を増強するような性質が付与されていないので、宿主と同様、環境中での増殖能は低いと考えられる。
 組換え体の遺伝的安定性については、リボフラビンが生産・蓄積されること(組換え体の目的とする機能の保持)及びリボフラミンオペロンに特異的なプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション法によるDNA断片の結合(組換え体に導入されているDNAの基本構造の維持)によつて、確認されている。
 また、組換え体では、90℃で30分間加熱することにより、殺菌されることが確認されている。

(2)組換え体以外の製造原料及び製造器材
 申請リボフラビンの製法は次のとおりである。まず、組換え体を栄養成分、クロラムフェニコール及びテトラサイクリン塩酸塩を培地に含む種発酵槽で種培養し、リボフラビン生合成遺伝子を増幅させる。その後、栄養成分を培地に含む主発酵槽で培養し、リボフラビンを生産する。生産されたリボフラビンは、加熱殺菌、遠心分離、酸処理の工程を経て製品化される。培養工程や精製工程で用いられる製造原料には、食品添加物、日本工業規格1級の試薬等が使用されている。また、発酵工程には密閉式容器が用いられており、培養槽からの排気ガスは、排ガスフィルターで処理され、廃液は、加熱殺菌(60℃、30分)後、廃水処理設備に送られる。

(3)生産物の精製
 組換え体から生産されたリボフラビンは、結晶として培養液中に蓄積される。培養液を加熱処理(60℃、30分)し、組換え体等の微生物を失活させた後、結晶画分を遠心分離し、更に、DNAの分解(脱プリン化)のため酸処理(塩酸又は硫酸約2%)し、約96%含量のリボフラミンを得る。これを酸溶媒で更に結晶化し、約98%含量の製品を得る。


[生産物に関して]
(1)組換え体の混入を否定する資料
 生産物中に組換え体由来のDNAが混入していないことは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて確認している。組換え体の全ゲノムの代表として、クロラムフェニコール耐性遺伝子由来の557bpフラグメントをPCR分析したところ、申請リボフラミンからは、DNAが検出されなかった。(検出限界は0.5ppb)。

(2)製造に由来する不純物の安全性に関する資料
 申請リボフラビンをHPLC法で分析したところ、3種の不純物(8-ハイドロキシメチルリボフラビン、フォルミルメチル-フラビンアセタール及びルミクローム)が検出された(合計含量約0.3~1%)。対照として化学的合成法によるリボフラビンをHPLC法で分析したところ、上記3種の不純物及びリビチル-オクソ-キノクサル酸、ルミフラビンが検出された。(合計含量約1%)。申請リボフラビンに含まれる上記3種の不純物については、文献検索から毒性を示唆する情報は得られなかった。
 また、申請リボフラミンを6mo1/1塩酸中加熱処理し、加水分解後、アミノ酸及びアミノ糖を分析をしたところ、含量0.06%以下であり、タンパク質は実質的に除去されていると考えられる。

②毒性試験
 Wister系ラットを用いた申請リボフラビンの混餌(0、20、50、200mg/kg体重/日)投与による13週間の反復投与試験においては、検体に起因する毒性徴候は生じていない。
 また、Salmonella typhimurium(TA1535、TA97、TA98、TA100及びTA102株)を用いた、S9存在下及び非存在下でのAmes試験(濃度:50ug/プレート~5、000ug/プレート)においては、いずれにおいても復帰突然変異体のコロニー数の増加は認められていない。

(3)含有量の変動により有害性が示唆される常成分の変動に関する資料
 申請リボフラビンは、98%以上のリボフラビンを含有し、有害性の示唆される常成分は認められなかった。

4.指針適合性に関する結論
 申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、申請リボフラミンについては、指針に沿って安全性評価が行われていると判断できる。


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