薬事・食品衛生審議会資料

 

平成10年05月25日

 

 

「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」 に適合していることの確認を行うことの可否に関する部会報告 (別添1) - 別紙2 日本モンサント株式会社から申請されたわた(BXN cotton)に係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

 

別紙2

日本モンサント株式会社から申請されたわた(BXN cotton)に係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

日本モンサント株式会社から申請されたわた(開発者:米国Calgene社、商品名「BXN cotton」。以下「BXN cotton」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。


1 申請された食品の概要
BXN cottonは、ブロモキシニル(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾニトリル)を活性成分とする除草剤(商品名「Buctril」)の影響を受けずに生育できる。
BXN cottonは、ブロモキシニルを加水分解するnitrilase蛋白質(ニトリル化合物を加水分解してアミド又はカルボン酸を生成させる酵素の総称)を発現するBXN遺伝子が導入されている。このBXN遺伝子により発現するnitrilase蛋白質によりブロモキシニルの影響を受けずに生育することができる。
また、BXN cottonは、選択マーカー遺伝子としてEscherichia coli(以下「E.coli」という。)に由来するnptⅡ遺伝子が導入されている。このnptⅡ遺伝子により発現するNPTⅡ蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。


2 指針の適用の可否について
BXN cottonの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)~(4)に従って申請資料の検討を行った。

(1)遺伝的素材に関する資料
 宿主はわた(Gossypium hirsutumに属するCoker 315。以下「G.hirsutum種」という)であり、遺伝子供与体は、BXN遺伝子がKlebsiella pneumoniae subsp.ozaenaeに由来し、nptⅡ遺伝子はE.coliに由来する。
種子の生組織1g当り、BXN遺伝子の発現蛋白質であるnitrilase蛋白質の発現量は6μg未満(検出限界以下)であり、nptⅡ遺伝子の発現蛋白質であるNPTⅡ蛋白質の発現量は80μg未満(検出限界以下)である。
なお、粗精油中のnitrilase蛋白質は検出限界値(約0.1ppm)未満であり、それを更に加工した後の実際に食用とされる粗精油中では、いかなる蛋白質も含まれない。

(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
 ヒトが摂取するわた(G.hirsutum種)由来の食品は綿実油のみであり、綿実油は油として、天ぷら油、サラダ油等に利用され、広範囲なヒトの安全な食経験がある。
 なお、BXN遺伝子の供与体であるKlebsiella pneumoniae subsp.ozaenaeはヒトの食経験はないが、環境中及び食品中に広く存在しており、BXN遺伝子の発現蛋白質であるnitrilase蛋白質は、植物や微生物界に幅広く存在している。

(3)食品の構成成分等に関する資料
 BXN cotton由来の綿実油は、主要構成成分(脂肪酸)及び有害生理活性物質(ゴシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)に関し、既存の綿実油と同等であった。

(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
 BXN cottonの食品としての使用方法は、既存のわたと同様である。なお、既存のわたとの相違は、BXN遺伝子の発現蛋白質であるnitrilase蛋白質の作用によりブロモキシニルが分解されることから、栽培期間中にブロモキシニルを使用してもその影響を受けることなく生育することができるという点である。

(5)指針適用の可否に関する結論
 申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、BXN cottonは、既存のわたと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。


3 指針への適合性
BXN cottonの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。

(1)組換え体の利用目的及び利用方法
 BXN cottonは、ブロモキシニルを分解するnitrilase蛋白質を発現させるBXN遺伝子が導入されているので、栽培期間中にブロモキシニルを使用することができる。

(2)宿主
 わた(G.hirsutum種)の食品としての利用形態は、綿実油に限られる。
なお、わたの種子にはゴシポール等の有害生理活性物質の産生が知られている。

(3)ベクター
 BXN cotton作出に用いられたpBrx75は、Agrobacterium tumefaciens(以下「A.tumefaciens」という。)のバイナリーベクターpCGN1559に由来する。
pBrx75に存在する全ての遺伝子は、その機能が明らかとなっており既知の有害塩基配列を含まない。
pBrx75は、pBR322を由来とした複製機能を有する領域を持つが、E.coli間における伝達を可能とするoriT配列は除去されている。また、pRiHRI由来の領域は、伝達に関わる機能及びoriT配列を持たない。したがって、pBrx75の伝達はなく、自律増殖可能な宿主がE.coliA.tumefaciens及びそれらの近縁の微生物に限られている。
なお、pBrx75のわた細胞への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
また、pBrx75には、BXN遺伝子、nptⅡ遺伝子、gent遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子領域が含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
 なお、BXN cottonにはgent遺伝子は挿入されていない。

(4)挿入遺伝子
1)供与体
 BXN cottonに導入されたBXN遺伝子は、Klebsiella pneumoniae subsp.ozaenaeに由来し、nptⅡ遺伝子はE.coliに由来する。

2)挿入遺伝子
a 構造に関する資料
BXN cottonのゲノム中に組み込まれたpBrx75由来の挿入DNA(nitrilase蛋白質産生に関与する遺伝子(tml/bxn/35S)、NPTⅡ蛋白質産生に関与する遺伝子(35S/kan/tml)のサイズは、それぞれ2.7kb及び2.512kbである。
なお、有害塩基配列は含まれていない。

b 性質に関する資料
BXN遺伝子により産生されるnitrilase蛋白質は、除草剤であるブロモキシニル等のニトリル化合物を加水分解することにより、ブロモキシニルの除草効果を妨げる。
nptⅡ遺伝子は、アミノ配糖体系抗生物質を不活化させるNPTⅡ蛋白質を発現する。

c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、その特性も明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれら特性等が明らかとなった遺伝子のみである。

d 安全性に関する資料
ブロモキシニル処理に対する耐性形質は、少なくとも5世代に渡って安定している。

e コピー数に関する資料
10211系統、10222系統及び10224系統にはT-DNAが1ケ所に1コピー挿入されており、10215系統には1コピーのT-DNA及びnptⅡ遺伝子が挿入されている。

f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
種子中の生組織1g当り、nitrilase蛋白質の発現量は1.3μg未満、またNPTⅡ蛋白質の発現量は6.6μg未満である。
なお、綿実油中にはいかなる蛋白質も含まれないことが報告されている。

g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
BXN cottonのインガード・ワタ由来の食品は、綿実油のみであり、綿実油中にはnptⅡ遺伝子もNPTⅡ蛋白質も含まれないことが報告されているため、抗生物質耐性マーカーに係る安全性上の問題はない。

h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
挿入DNAには、nitrilase蛋白質及びNPTⅡ蛋白質の発現に係るオープンリーディングだけが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質はnitrilase蛋白質及びNPTⅡ蛋白質だけである。

(5)組換え体
a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料
BXN cottonに新たに導入された性質は、生育中にブロモキシニルを散布してもその影響を受けずに生育することができるという点のみである。

b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。
①供与体の生物の食経験に関する資料
BXN遺伝子の供与体はKlebsiella pneumoniae subsp.ozaenaeであり、nptⅡ遺伝子の供与体はE.coliである。
Klebsiella pneumoniae subsp.ozaenaeはヒトの直接の食物源ではないが、環境中及び食品中に広く存在しており、E.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。

②遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
nitrilase蛋白質及びNPTⅡ蛋白質がアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

③遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性 nitrilase蛋白質は人工胃液、人工腸液に対して不安定で、分解されやすいことが確認された。
イ 加熱処理に対する感受性 nitrilase蛋白質の免疫反応性は、加熱によりおよそ80%失われることが確認された。

④遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
粗精油中のnitrilase蛋白質は検出限界値(約0.1ppm)未満であり、それを更に加工した後の実際に食用とされる精製油中では、いかなる蛋白質も含まれないことが報告されている。

⑤遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
アレルゲンの構造相同性検索の結果、78の食物アレルゲンを含む219の既知アレルゲンがデータベースより抽出された。しかし、nitrilase蛋白質及びNPTⅡ蛋白質と隣接したアミノ酸配列が7つ以上同一であるアレルゲンはなく、nitrilase蛋白質及びNPTⅡ蛋白質は既知のアレルゲンとの間に構造相同性は認められなかった。

⑥遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
nitrilase蛋白質の一日予想摂取量25ngは日本人の一日蛋白摂取量79.5g(国民栄養の現状、1995)の0.00003%となる。
なお、実際に食用とされる精製油中にはいかなる蛋白質も含まれないことが報告されている。

c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
実際に食用とされる精製油中にはいかなる蛋白質も含まれないことが報告されている。また、nitrilase蛋白質についてはその生化的機能が明らかであり、供与体であるklebsiellaが環境中に広く存在しており、また、人工胃液、人工腸液により速やかに分解される。したがって毒性影響があるとは考えられない。

d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
nitrilase蛋白質及びNPTⅡ蛋白質はそれぞれ非常に基質特異性が高いことから、代謝経路へ影響するとは考えられない。

e 宿主との差異に関する資料
BXN cotton由来の綿実油は、主要構成成分(脂肪酸)及び有害生理活性物質(ゴシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)に関し、既存の綿実油と同等であった。
なお、収穫されたBXN cottonの種子粒のブロモキシニルの平均残留量は0.019ppmであり、米国で設定されているブロモキシニルのワタについての残留基準値7.0ppm未満を下回っている。

f 外界における生存・増殖能力に関する資料
1993以来、BXN cottnの圃場試験は米国を中心として延べ67ヵ所以上で行われているが、BBXN cottonの生殖・繁殖能力は非組換え品種と同等であった。

g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
BBXN cottonの生殖・繁殖能力は非組換え親品種と同等であった。

h 組換え体の不活化法に関する資料
物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、ワタを不活化する従来の方法によって不活化される。

i 諸外国における認可・食用糖に関する資料
BXN cottonについて、米国においては、米国食品医薬局(FDA)との間で行った食品としての安全性に関する協議は1994年1月に完了した。また、米国環境省(EPA)は1995年5月5日、生育中のBXN cottonへの除草剤Buctrilの使用を暫定的に認可した。
カナダでは1996年8月、メキシコでは1996年に、また英国では1997年1月に、BXN cotton由来の綿実油が食品として認可されている。

j 作出・育種・栽培法法に関する資料
BXN cottonと既存のわたとの栽培方法の唯一の違いは、生育期の雑草防除にブロモキシニルを使用できる点であり、他の点では同等である。

k 種子の製法及び管理方法に関する資料
BXN cottonの製法及び管理方法についても、既存のわたと同様である。

(6)指針適合性に関する結論
 申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、BXN cottonは指針に沿って安全性評価がおこなわれていると判断した。


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