薬事・食品衛生審議会資料

 

平成10年05月26日

 

 

食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告 - アクリナトリン

 

アクリナトリン


1.品目名:アクリナトリン(acrinathrin)

2.用途:殺虫剤(ピレスロイド系)

3.安全性

(1)単回投与試験

 急性経口LD50は、マウス、ラットともに5,000mg/kg超と考えられる。

(2)反復投与/発がん性試験

 ICRマウスを用いた混餌(3、15、75ppm)投与による18カ月間の発がん性試験において、75ppm投与群で皮膚の潰瘍及び慢性炎症等が認められる。75ppm投与群の雄で肺腺腫の増加が認められるが、肺腺がんは発生しておらず、両腫瘍を合わせた発生率は対照群と有意差はないこと等から、発がん性を示唆するものではないと考えられる。本試験における無毒性量は15ppm(2.49mg/kg)と考えられる。

 SDラットを用いた混餌(5、15、45、90ppm)投与による24カ月間の反復投与/発がん性併合試験において、検体投与に起因した影響は認められない。本試験における無毒性量は90ppm(4.6mg/kg)と考えられる。発がん性は認められない。

 ビーグル犬を用いた強制経口(1、3、10mg/kg)投与による52週間の反復投与試験において、10mg/kg投与群で体重増加抑制が認められる。1mg/kg以上の投与群で投与初期から軟便または下痢の発生が認められるが、下痢の発生頻度は低く、かつ、軽度であること、また、ビーグル犬を用いた強制経口(0.1、0.3、0.6、1、3mg/kg)投与による13週間の追加試験において、対照群に比べて有意な下痢の発生率の増加は認められないこと等から、本試験における無毒性量は3mg/kgと考えられる。

(3)繁殖試験

 SDラットを用いた混餌(5、20、80ppm)投与による2世代繁殖試験において、80ppm投与群のF及びF1親動物で体重増加抑制、摂餌量低下等が認められる。本試験における無毒性量は、20ppm(2.5mg/kg)と考えられる。

(4)催奇形性試験

 SDラットを用いた強制経口(2、6、18mg/kg)投与による催奇形性試験において、18mg/kg投与群で母動物の死亡、死亡・吸収胚率の増加、胎児動物の低体重、骨化遅延等が、6mg/kg以上の投与群で母動物の体重増加抑制が認められる。本試験における無毒性量は、母動物2mg/kg、胎児動物6mg/kgと考えられる。催奇形性は認められない。

 ニュージーランドホワイトウサギを用いた強制経口(15、45、135mg/kg)投与による催奇形性試験において、135mg/kg投与群で死亡・吸収胚率の増加、胎児動物の骨化遅延等が、45mg/kg以上の投与群で母動物の体重増加抑制が認められる。本試験における無毒性量は、母動物15mg/kg、胎児動物45mg/kgと考えられる。催奇形性は認められない。

(5)変異原性試験

 細菌を用いた復帰変異試験、大腸菌を用いたDNA損傷試験、V79培養細胞を用いた前進突然変異試験、チャイニーズハムスター骨髄細胞を用いた染色体異常試験、マウスを用いた小核試験の結果は、いずれも陰性と認められる。CHO培養細胞を用いた染色体異常試験の結果は、S9mix存在下で陽性と認められるが、上記の試験成績等から生体内において変異原性が発現する可能性は低く、特段問題とする程のものではないと考えられる。

(6)その他

 上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。


4.吸収・分布・代謝・排泄

 SDラットを用いた経口(1mg/kg)投与による試験において、Tmaxは4~6時間、Cmaxは0.5~0.8μg eq./mlと考えられる。投与後48時間までに投与量の48~52%が胆汁中に排泄される。また、投与後48時間までに33~45%が尿中に、55~67%が糞中に排泄される。糞中の主要排泄物は未変化体、cis-デス-ヘキサフルオロイソプロピル体である。主要な代謝反応は、エステル結合の加水分解、シアノ-3-フェノキシベンジルアルコール残基の酸化及び抱合体の形成である。投与後Tmax時における組織内濃度は肝で血漿中に比べ高濃度である。

 キャベツを用いた試験において、中心葉に塗布処理後、葉表面に残留する放射能は経時的に減少する。主要残留物は未変化体である。

 リンゴを用いた試験において、葉面及び果皮に塗布処理8週間後において、処理放射能の大部分は葉及び果実の表面に残留する。主要残留物は未変化体である。

 上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。


5.ADIの設定

 以上の結果を踏まえ、次のように評価する。なお、ラットの催奇形性試験における母動物の無毒性量は6mg/kg投与群で体重増加抑制がみられたためにその下の量である。2mg/kg/日となるが、同系ラットを用いた繁殖試験における無毒性量2.5mg/kg/日が妥当であると考えられること等から、ADIを次のとおり評価することが適当であると考えられる。

無毒性量 2.49mg/kg/日
  動物種 マウス  
  投与量/投与経路 15ppm/混餌
  試験期間 18カ月間  
  試験の種類 発がん性試験  
  安全係数 100    
  ADI 0.024mg/kg/日


6.基準値案

 別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、17.1%である。


(別添1)

<毒性試験一覧表>

資料No.

試験の種類(期間)

供試生物

試験機関

1

急性毒性(14日間観察) ラット CIT*フランス

2

急性毒性(14日間観察) マウス

3

急性毒性(14日間観察) ラット

4

亜急性毒性予備試験(28日間) ラット CIT*フランス

5

亜急性毒性(90日間) ラット CIT*フランス

6

亜急性毒性予備試験(28日間) イヌ CIT*フランス

7

亜急性毒性(90日間) イヌ CIT*フランス

8

慢性毒性及び発がん性(24カ月) ラット CIT*フランス

9

発がん予備試験(8週間) マウス CIT*フランス

10

発がん性(18カ月) マウス CIT*フランス

11

慢性毒性(52週間) イヌ

11-1

亜急性毒性(13週間補足) イヌ CIT*フランス

12

二世代繁殖予備試験 ラット CIT*フランス

13

二世代繁殖 ラット CIT*フランス

14

催奇形性 ラット CIT*フランス

15

催奇形性 ウサギ CIT*フランス

16

変異原性
(復帰変異性)
サルモネラ菌 CIT*フランス
大腸菌

17

変異原性
(遺伝子突然変異)
チャイニーズハムスター
肺繊維芽細胞
CIT*フランス

18

変異原性
(染色体異常)
チャイニーズハムスター
卵細胞
CIT*フランス

19

変異原性
(染色体異常)
チャイニーズハムスター CIT*フランス

20

変異原性
(DNA修復)
大腸菌 CIT*フランス

21

変異原性
(小核試験)
マウス  

22

生体の機能に及ぼす影響   岩手医科大学
一般症状 マウス
脳波 ウサギ
体温 ウサギ
催眠 マウス
呼吸 イヌ
血圧
心拍数
心電図
瞳孔 ウサギ
子宮運動(生体) ウサギ
摘出回腸 モルモット
摘出輸精管 ラット
消化器系 ラット
骨格筋 ウサギ
溶血性 ウサギ
血液凝固 ウサギ
腎機能 ラット
解毒 ラット

22-1

生体の機能に及ぼす影響(補足) 岩手医科大学
血圧 ラット
心拍数(摘出心房) モルモット
心臓(摘出心房) ラット
モルモット
血管(摘出大動脈) モルモット

23

(原体混在物)
急性毒性(14日間観察)
ラット CIT*フランス

24

(原体混在物)
急性毒性(14日間観察)
ラット

25

(原体混在物)
急性毒性(14日間観察)
ラット

26

(原体混在物)
急性毒性(14日間観察)
ラット

27

代謝物急性毒性(14日間観察) ラット

28

代謝物急性毒性(14日間観察) ラット

29

(原体混在物) サルモネラ菌
変異原性(復帰変異性) 大腸菌

30

(原体混在物) サルモネラ菌
変異原性(復帰変異性) 大腸菌

31

(原体混在物) サルモネラ菌
変異原性(復帰変異性) 大腸菌

32

(原体混在物) サルモネラ菌
変異原性(復帰変異性) 大腸菌

33

代謝物 サルモネラ菌
変異原性(復帰変異性) 大腸菌

34

代謝物 サルモネラ菌
変異原性(復帰変異性) 大腸菌

* CIT:Centre International de Toxicologic, Miserey, France

<代謝分解試験一覧表>

資料No.

試験の種類

試験系

試験物質
及び投与量

試験機関

35

動物における代謝 ラット 14C-ベンジル]-アクリナトリン HRC*
(イギリス)

及び

14C-ジメチル]-アクリナトリン

の等量混合物

低薬量:1mg/kg
高薬量:50mg/kg

36

動物における代謝 ラット 14C-トリフルオロメチル]-アクリナトリン ルセル・ユクラフ
(フランス)
50mg/kg

資料No.

試験の種類

試験系

試験物質

試験機関

37

植物における代謝 りんご 14C-ベンジル]-アクリナトリン HRC*
(イギリス)
14C-ジメチル]-アクリナトリン

38

植物における代謝 キャベツ 14C-ベンジル]-アクリナトリン HRC*
(イギリス)
14C-ジメチル]-アクリナトリン

38-1

植物における代謝
(補足)

キャベツ 14C-ベンジル]-アクリナトリン PLRL-West
(米国)
14C-ジメチル]-アクリナトリン

39

土壌における代謝 砂壌土
好気条件
嫌気条件
14C-ベンジル]-アクリナトリン HRC*
(イギリス)
14C-ジメチル]-アクリナトリン

* Huntingdon Research Centre Ltd.,(England)


(別添2)

食品規格(案)

アクリナトリン

食品規格案
基準値案
ppm

参考基準値

登録保留基準値
ppm

外国基準値
ppm

とうもろこし 0.1   0.1(イ)
大豆 0.1   0.1(イ)
たまねぎ 0.1   0.1(イ)
トマト 0.5 1  
ピーマン 1 1  
なす 0.5 1  
きゅうり(含ガーキン) 0.5 1  
かぼちゃ(含スカッシュ) 0.2   0.2(ス)
しろうり(野菜) 0.2   0.2(ス)
スイカ(果実) 0.2 2 0.2(ス)
メロン類(果実) 0.2 2 0.2(イ、ス)
まくわうり(果実) 0.2   0.2(ス)
上記以外のうり科野菜 0.2   0.2(ス)
未成熟えんどう 0.3   0.3(ス)
未成熟いんげん 0.3   0.3(ス)
みかん 2 2  
なつみかんの果実全体 2 2  
レモン 2 2  
オレンジ(含ネーブルオレンジ) 2 2   
グレープフルーツ 2 2  
ライム 2 2  
上記以外のかんきつ類果実 2 2  
りんご 0.5 2 0.5(フ)
日本なし 0.5 2  
西洋なし 0.5 2  
マルメロ 0.1   0.1(ス)
びわ 0.1   0.1(ス)
もも 0.2 2 0.2(ス)
ネクタリン 2 2  
あんず(含アプリコット) 2 2  
すもも(含プルーン) 2 2  
うめ 2 2  
おうとう(含チェリー) 2 2  
いちご 2 2  
ぶどう 2 2  
かき 1 2  
綿実(種子) 0.2   0.2(ス)
10 10  

注)イ:イタリア、ス:スペイン、フ:フランス


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