薬事・食品衛生審議会資料

 

平成10年04月01日

 

 

食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - ピラクロホス

 

ピラクロホス


1.品目名:ピラクロホス(PYRACLOFOS)

2.用途:殺虫剤(有機リン系)

3.安全性
(1)単回投与試験
  急性経口LD50はマウスで420~575㎎/㎏、ラットで237㎎/㎏と考えられる。

(2)反復投与/発がん性試験
  B6C3F1マウスを用いた混餌(0.7、7.0、70.0ppm)投与による24ヶ月間の反復投与/発がん性併合試験において、70.0ppm投与群で体重増加抑制、赤血球コリンエステラーゼ活性低下が認められる。本試験における無毒性量は、7.0ppm(1.03㎎/㎏)と考えられる。発がん性は認められない。
  F344ラットを用いた混餌(3、10、100、300ppm)投与による24ヶ月間の反復投与/発がん性併合試験において、300ppm投与群で脳コリンエステラーゼ活性の低下、100ppm以上の投与群で体重増加抑制、肝細胞脂肪変性、甲状腺の大型濾胞、赤血球数減少等、10ppm以上の投与群で精巣の精細管萎縮、子宮角の腔拡張、赤血球コリンエステラーゼ活性の低下が認められる。本試験における無毒性量は、3ppm(0.101㎎/㎏)と考えられる。発がん性は認められない。
  ビーグル犬を用いた強制経口(0.5、3.0、15.0㎎/㎏)投与による1年間の反復投与試験において、15.0㎎/㎏投与群で副腎皮質の空胞化の増加、血清カリウム値の上昇、アルカリホスファターゼ活性の上昇、脳コリンエステラーゼ活性の低下、3.0㎎/㎏以上の投与群で脾臓の色素沈着の増強、赤血球数・ヘモグロビン濃度・ヘマトクリット値の減少、アラニン・アミノトランスフェラーゼ活性の上昇、赤血球コリンエステラーゼ活性の低下等が認められる。本試験における無毒性量は、0.5㎎/㎏と考えられる。
  なお、ニワトリを用いた強制経口(150、160、175、185㎎/㎏)投与による急性遅発性神経毒性試験において、遅発性神経毒性は認められない。

(3)繁殖試験
  SDラットを用いた混餌(10、100、1,000ppm)投与による2世代繁殖試験において、1,000ppm投与群でF0、F1親動物の体重増加抑制、摂餌量減少、F1、F2子動物の生存率の低下、体重増加抑制が、100ppm投与群でF1子動物の体重増加抑制が認められる。本試験における無毒性量は、10ppm(0.567㎎/㎏)と考えられる。
(4)催奇形性試験
  SDラットを用いた強制経口(10、50、100㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、100㎎/㎏投与群の母動物で振せん、活動低下、呼吸ラ音等が、50㎎/㎏以 上の投与群の母動物で流涎過多、体重増加抑制等が認められる。胎児動物では検体投与に起因した影響は認められない。本試験における無毒性量は、母動物で10㎎/㎏、胎児動物で100㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。
  チンチラウサギを用いた強制経口(15、40、100㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、100㎎/㎏投与群の母動物で横臥、下痢が認められる。また、検体投与の全群の母体で体重増加抑制、摂餌量の減少等が認められる。胎児動物には検体投与による影響は認められない。本試験による無毒性量は母動物では求められない、胎児動物では100㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。

(5)変異原性試験
  細菌を用いた復帰変異試験、Rec-assay、CHL培養細胞を用いた染色体異常試験の結果は、いずれも陰性と認められる。

(6)その他
  上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。

4.吸収・分布・代謝・排泄
  Wistarラットを用いた経口(雄7.6、雌10.3㎎/㎏)投与の試験において、Tmaxは4時間、Cmaxは血漿で7.82~8.28μg eq./g、T1/2は5時間以内と考えられる。同ラットを用いた経口(5㎎/㎏)投与の試験において、投与後24時間後までに投与量の86%が尿中に、3~5%が糞中に排泄される。尿中主要代謝物としてピラゾール体の硫酸抱合体等が認められた。組織内濃度は肝、腎、肺で血漿中に比べ高濃度である。

  キャベツを用いた試験において、土壌混和処理30日後に可食部では処理量の0.1%の放射能が検出される。葉面上での半減期は約1週間であり、代謝物としてピラプール体のグルコース抱合体及びマロニルグルコース抱合体が認められる。

上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。


5.ADIの設定
  以上の結果を踏まえ、次のように評価する。

  無毒性量     0.101㎎/㎏/日
           動物種 ラット
           投与量/投与経路 3ppm/混餌
           試験期間 24ヶ月間
           試験の種類 反復投与/発がん性併合試験
  安全係数     100
  ADI        0.001mg/kg/日

6.基準値案
別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、66.7%である。

(別添1)

<毒性試験一覧表>

資料No. 試験の種類・期間 供 試 生 物 試 験 機 関
Ⅰ-1 急性毒性試験
(14日間観察)
ラット 臨床医科学研究所
Ⅰ-2
Ⅰ-3 マウス
Ⅱ-1 亜急性毒性試験
(3か月間)
ラット 残留農薬研究所
Ⅱ-2 亜急性毒性試験
(3か月間)
マウス IRDC(米国)
Ⅲ-1 慢性毒性
発がん性試験
(24か月間)
ラット 残留農薬研究所
Ⅲ-2 マウス IRDC(米国)
Ⅲ-3 慢性毒性試験
(12か月間)
イ ヌ ヘーゼルトン(米国)
Ⅳ-1 繁殖試験
(2世代)
ラット IRDC(米国)
Ⅳ-2 催奇形性試験
(投与10日間)
IRDC(米国)
Ⅳ-3 催奇形性試験
(投与13日間)
ウサギ RCC(スイス)
Ⅴ-1 変異原性試験
(復帰変異性)
細 菌 残留農薬研究所
(DNA修復性)
Ⅴ-2 変異原性試験
(染色体異常)
チャイニーズハムスター
肺細胞
残留農薬研究所
Ⅵ-1 薬理試験 中枢神経系に対する作用 マウス 臨床医科学研究所
呼吸・循環器系に対する作用 イ ヌ
自律神経系に対する作用 ネ コ
消化器系に対する作用 マウス
モルモット
ウサギ
骨格筋に対する作用 ウサギ
血液凝固 ラット
解毒試験 マウス
Ⅵ-2  薬 理 試 験 呼吸・循環器系に対す
る作用
イ ヌ 臨床医科学研究所
自律神経に対する作用 ネ コ
骨格筋に対する作用 ラット
解毒試験 マウス
追-1 急性遅発性神経毒性試験 ニワトリ IRDC
資料No. 試験の種類・期間 供 試 生 物 試 験 機 関
Ⅶ-1 急性毒性試験
(原体混在物)
ピラゾール体
(14日間観察)
ラット 臨床医科学研究所
Ⅶ-2 急性毒性試験
(原体混在物)
ピラゾール体
(14日間観察)
マウス 武田薬品
Ⅶ-3 急性毒性試験
(原体混在物)
ホスホロ体
(14日間観察)
Ⅶ-4 急性毒性試験
(原体混在物)
エチルピス体
(14日間観察)
武田薬品
Ⅶ-5 急性毒性試験
(原体混在物)
ピ ス 体
(14日間観察)
武田薬品
Ⅶ-6 急性毒性試験
(原体混在物)
プロピルチオーレ体
(14日間観察)
Ⅶ-7 急性毒性試験
(原体混在物)
チオノ体
(14日間観察)
Ⅶ-8 急性毒性試験
(原体混在物)
プロピルジスルフィド
(14日間観察)
臨床医科学研究所
Ⅷ-1 変異原性試験
(原体混在物)
ピラゾール体
(復帰変異性)
(DNA修復性)
細 菌 化学品検査協会
Ⅷ-2 変異原性試験
(原体混在物)
ホスホロ体
(復帰変異性)
(DNA修復性)
Ⅷ-3 変異原性試験
(原体混在物)
エチルビス体
(復帰変異性)
(DNA修復性)
Ⅷ-4 変異原性試験
(原体混在物)
ビ ス 体
(復帰変異性)
(DNA修復性)
Ⅷ-5 変異原性試験
(原体混在物)
プロピルチオレート体
(復帰変異性)
(DNA修復性)
Ⅷ-6 変異原性試験
(原体混在物)
チ オ ノ 体
(復帰変異性)
(DNA修復性)
Ⅷ-7 変異原性試験
(原体混在物)
プロピルジスルフィド
(復帰変異性)
(DNA修復性)
Ⅸ-1 急性毒性試験
(植物代謝物)
PM-1
(14日間観察)
ラット 臨床医科学研究所
Ⅸ-2 急性毒性試験
(植物代謝物)
PM-2
(14日間観察)
マウス 臨床医科学研究所
Ⅸ-3 急性毒性試験
(植物代謝物)
PM-3
(14日間観察)
ラット 臨床医科学研究所
Ⅸ-4 急性毒性試験
(植物代謝物)
PM-4
(14日間観察)
Ⅸ-5 急性毒性試験
(植物代謝物)
PM-5
(14日間観察)
Ⅹ-1 変異原性試験
(植物代謝物)
PM-1
(復帰変異性)
(DNA修復性)
細 菌 化学品検査協会
Ⅹ-2 変異原性試験
(植物代謝物)
PM-2
(復帰変異性)
(DNA修復性)
Ⅹ-3 変異原性試験
(植物代謝物)
PM-3
(復帰変異性)
(DNA修復性)
Ⅹ-4 変異原性試験
(植物代謝物)
PM-4
(復帰変異性)
(DNA修復性)
Ⅹ-5 変異原性試験
(植物代謝物)
PM-5
(復帰変異性)
(DNA修復性)
ⅩⅠ-1 急性毒性試験
ラット代謝物
RM-1
(14日間観察)
ラット 臨床医科学研究所
ⅩⅠ-2 急性毒性試験
ラット代謝物
RM-2
(14日間観察)
ⅩⅠ-3 急性毒性試験
ラット代謝物
RM-3
(14日間観察)
ⅩⅡ-1 変異原性試験
ラット代謝物
RM-1
(復帰変異性)
(DNA修復性)
細 菌 化学品検査協会
ⅩⅡ-2 変異原性試験
ラット代謝物
RM-2
(復帰変異性)
(DNA修復性)
ⅩⅡ-3 変異原性試験
ラット代謝物
RM-3
(復帰変異性)
(DNA修復性)

<代謝分解試験一覧表>

資料No. 試 験 の 種 類 供試動植物等 試 験 場 所
ⅩⅢ-1 吸収、排泄、分布及び蓄積
性試験
ラット 武田薬品
ⅩⅢ-2 動物代謝試験 ラット
ⅩⅢ-3 植物代謝試験 キャベツ
キャベツ
はくさい
ⅩⅢ-4 土壌代謝試験
ⅩⅢ-5 光分解試験
ⅩⅢ-6 加水分解試験


(別添2)

食 品 規 格 (案)

ピラクロホス 食品規格案
基準値
ppm
参 考 基 準 値
登録保留
基準値
ppm
外 国
基準値
ppm
小豆類(含インゲン、ササゲ、レンズ) 0.5   0.05(ス)
ばれいしょ 0.05 0.05  
かんしょ 0.05 0.05  
やまいも(長いも) 0.05 0.05  
てんさい 0.05 0.05  
だいこん類(含ラディッシュ)(根) 0.1 0.1  
だいこん類(含ラディッシュ)(葉) 0.1 0.1   
はくさい 0.1 0.1  
キャベツ(含芽キャベツ) 0.1 0.1  
上記以外のゆり科野菜 0.5 0.1  
にんじん 0.1 0.1  
トマト 0.1 0.1  
なす 0.5   0.50(ス)
きゅうり(含ガーキン) 0.1 0.1  
なつみかんの果実全体 1   1.00(ス)
レモン 1   1.00(ス)
オレンジ(含ネーブルオレンジ) 1   1.00(ス)
グレープフルーツ 1   1.00(ス)
ライム 1   1.00(ス)
上記以外のかんきつ類果実 1   1.00(ス)
5 5  

注)登録保留基準は国内で適用のある農作物についてのみ記載。
  ス:スペイン


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