薬事・食品衛生審議会資料

 

平成10年04月01日

 

 

食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - フルシラゾール

 

フルシラゾール


1.品目名:フルシラゾール(FLUSILAZOLE)

2.用途:殺菌剤(トリアゾール系)

3.安全性
 (1)単回投与試験
  急性経口LD50はラットで674~1,100㎎/㎏考えられる。

 (2)反復投与/発がん性試験
  ICRマウスを用いた混餌(5、25、200ppm)投与による18ヶ月間の反復投与/発がん性併合試験において、200ppm投与群で肝重量増加、肝細胞脂肪変性が認められる。
  本試験の追加試験として、ICRマウスを用いた混餌(100、500[雄のみ]、1,000、2,000[雌のみ]ppm)投与による18ヶ月間の反復投与/発がん性併合試験が実施されている。この試験によると、1,000ppm以上の投与群で死亡率増加、膀胱及び尿道粘膜上皮の過形成、肝細胞腫瘍の増加が、500ppm以上の投与群で肝細胞の増殖巣、肝細胞の変性・壊死、小葉中心性肝細胞肥大、100ppm以上の投与群で体重増加抑制等が認められる。肝細胞腫瘍の増加がみられたのは、1,000ppm以上の高用量投与群のみであり、また、変異原性試験成績から遺伝子傷害性はなく、肝酵素誘導試験成績等からプロモーション作用よるものと考えられる。また、本系マウスには肝細胞腫瘍が自然発生的に高率で発生することが知られていることなどから、上記試験とあわせ、ICRマウスの18ヶ月間反復投与/発がん性併合試験における無毒性量は、25ppm(3.4㎎/㎏)と考えられる。
  SDラットを用いた混餌(10、50、250ppm)投与による24ヶ月間の反復投与/発がん性併合試験において、250ppm投与群で肝細胞脂肪変性、肝細胞増殖巣等が、50ppm以上の投与群で肝細胞肥大等が認められる。
  本試験の追加試験として、SDラットを用いた混餌(125、375、750ppm)投与による24ヶ月間の反復投与/発がん性併合試験が実施されている。この試験においては、750ppm投与群で精巣間細胞腫が、375ppm以上の投与群で膀胱腫瘍が認められる。観察された精巣間細胞腫は、テストステロンの合成阻害に起因するものと考えられる。また、観察された膀胱腫瘍は、膀胱結石を伴っており、物理的刺激によるものと考えられる。さらに、変異原性試験成績から遺伝子傷害性はないこと、いずれの腫瘍も375ppm以上の高用量投与群のみでみられていることなどから、上記の試験とあわせ、SDラットの24ヶ月間反復投与/発がん性併合試験における無毒性量は、10ppm(0.40㎎/㎏)と考えられる。
  ビーグル犬を用いた混餌(5、20、75ppm)投与による1年間の反復投与試験において、75ppm投与群で肝細胞の空胞変性等が、20ppm以上の投与群で肝細胞肥大等が認められる。本試験における無毒性量は、5ppm(0.2㎎/㎏)と考えられる。

 (3)繁殖試験
  SDラットを用いた混餌(10、50、250ppm)投与による2世代繁殖試験において、250ppm投与群のF1及びF2世代に体重増加抑制、出生時生存率と生後4日生存率の低下、F2世代離乳子の肝重量の増加が、50ppm投与群F2世代で出生時生存率の低下が認められる。本試験における無毒性量は、10ppm(1㎎/㎏)と考えられる。
  SDラットを用いた混餌(5、50、250ppm)投与による2世代繁殖試験において、250ppm投与群でF0及びF1世代の妊娠期間の延長、出産中の母動物の死亡、肝臓の病理組織学的変化が、F1及びF2世代で生存出生児の減少、体重増加抑制等が、50ppm投与群でF0世代の体重増加抑制、小葉中心性肝細胞肥大等の変化が認められる。本試験における無毒性量は5ppm(0.283㎎/㎏)と考えられる。

 (4)催奇形性試験
  SDラットを用いた強制経口(0.4、2、10、50、250㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、母動物は250㎎/㎏投与群に脱毛、下痢、50㎎/㎏以上の投与群で体重減少、摂餌量減少、肝重量増加が、胎児動物は250㎎/㎏投与群で口蓋裂の増加、10㎎/㎏以上の投与群で胎児死亡、全身発育不全、骨格変異、腎孟拡大、化骨遅延の増加が認められる。母体毒性を現す高用量において催奇形性が認められる。本試験における無毒性量は、母動物で10㎎/㎏、胎児動物で2㎎/㎏と考えられる。
  SDラットを用いた強制経口(0.2、0.4、2、10、100㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、胎生末期児と出生後の乳児の観察が行われている。母動物は100㎎/㎏投与群で体重増加抑制、摂餌量減少、肝重量増加、妊娠期間の延長(平均期間22.7日、対照群20.8日)とそれに伴う死産増加が、10㎎/㎏投与群で妊娠期間の軽度延長が、胎児動物は100㎎/㎏投与群で胎児死亡と発育不全児の増加が、出生児は10㎎/㎏以上の投与群に新生児死亡の増加が認められる。本試験における無毒性量は、母動物、胎児動物とも2㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。
  ニュージーランドホワイトウサギを用いた混餌(30、100、300、600、1,200ppm)投与による催奇形性試験において、母動物は、1,200ppm投与群で体重増加抑制が、600ppm以上の投与群で同腹子数の減少が、胎児動物は、300ppm以上の投与群で胎児死亡吸収の増加が認められる。本試験における無毒性量は母動物300ppm(8.52㎎/㎏)、胎児動物100ppm(2.84㎎/㎏)と考えられる。催奇形性は認められない。
  ニュージーランドホワイトウサギを用いた強制経口(7、15、30㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、母動物は30㎎/㎏投与群で母動物死亡、摂餌量減少が、15㎎/㎏以上の投与群で血便、下痢等が、胎児動物は30㎎/㎏投与群で死亡吸収の増加が認められる。本試験における無毒性量は母動物7㎎/㎏、胎児動物15㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。

 (5)変異原性試験
  細菌を用いた復帰変異試験、CHO培養細胞を用いた前進突然変異試験、ヒト培養リンパ球を用いた染色体異常試験、ラット肝初代培養細胞を用いた不定期DNA合成試験、SDラット骨髄細胞を用いた染色体異常試験、CD-1マウスを用いた小核試験の結果は、いずれも陰性と認められる。

 (6)その他
  上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。

4.吸収・分布・代謝・排泄
  CDラットを用いた経口(8㎎/㎏)投与の試験において、投与後168時間後までに投与量の78~96%が排泄される。主要代謝物として1H-1,2,4-トリアゾール、脱トリアゾール体の脂肪酸抱合体及びグルクロン酸抱合体が認められた。組織内濃度は肝、皮膚、脂肪、肺で血漿中に比べ高濃度である。

  ぶどうを用いた試験において、収穫時に果実から検出される放射能は、未変化体、脱トリアゾール水酸化体、トリアゾール酢酸、トリアゾリルアラニンである。

  上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。

5.ADIの設定
  以上の結果を踏まえ、次のように評価する。

  無毒性量     0.2㎎/㎏/日
           動物種 イヌ
           投与量/投与経路 5ppm/混餌
           試験期間 1年間
           試験の種類 反復投与試験
  安全係数     100
  ADI        0.002㎎/㎏/日



6.基準値案
  別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、19.7%である。
 
 
 
(別 添 1)

Flusilazole Toxicity Studies


Vol. 1 ACUTE TOXICITY
1.   Median Lethal Dose (LD50) in Rats
2.   Approximate Lethal Dose (ALD) of INH-6573-66
3.  Acute Skin Absorption LD50 Test on Rabbits
4.   Inhalation Median Lethal Concentration (LC50) of INH-6573-41
5.   Eye Irritation Test in Rabbits
6-1. Primary Skin Irritation and Sensitization Test on Guinea Pigs
6-2. Closed-Patch Repeated Insult Dermal Sensitization Study
   (Buehler Method) with IN H6573-21 in Guinea Pigs

Vol. 2 SUBCHRONIC TOXICITY
7.  Ninety-Day Feeding and One-Generation Reproduction study in Rats with SILANE, [BIS(4-FLUOROPHENYL)](METHYL)(1H-1, 2,RIAZOL-1-YLMETHYL)(INH-6573)
8.  Subchronic Oral Toxicity: 90-Day Study with DPX-H6573-193 Feeding Study in Mice
9.  Three-Month Feeding Study in Dogs with SILANE,[BIS(4-FLUOROPHENYL)](METHYL)(1H-1, 2, 4-TRIAZOL-1-YLMETHYL)(INH-6573)

Vol. 3 RAT - CHRONIC TOXICITY / ONCOGENICITY
10.  Long-Term Feeding and Two-Generation, Four-Litter Reproduction Study in Rats with IN H-6573
11.  Oncogenicity Study with DPX-H6573 (Flusilazole) Two-Year Feeding Study in Rats

Vol. 4 MOUSE - CHRONIC TOXICITY / ONCOGENICITY
12.  Long-Term Feeding Study in Mice with INH-6573
13.  Oncogenicity Study with DPX-H6573-193 (Flusilazole) Eighteen-Month Feeding Study in Mice

Vol. 5 DOG - CHRONIC TOXICITY
14.  One-Year Feeding Study in Dog with INH-6573

Vol. 6 REPRODUCTION / TERATOGENICITY
15.   Reproductive and Fertility Effects with Flusilazole Multigeneration Reproduction Study in Rats
16-1.  Embryo-Fetal Toxicity and Teratogenicity Study of INH-6573-39 by Gavage in the Rat
16-2.  Developmental Toxicity Study in Rabbits Given INH-6573 by Gavage on Days 7-19 of Gestation
16-3.  Embryo-Fetal and Teratogenicity Study of INH-6573-39 by Gavage in the Rat
16-4.  Developmental Toxicity Study in Rats Given INH-6573-66 in the Diet on Days 7-16 of Gestation
16-5.  INH-6573. Prenatal and Postnatal Toxicity Study in Rats Dosed by Gavage on Days 7-16 of Gestation
17-1.  INH-6573. Developmental Toxicity Study in Rabbits
17-2.  INH-6573. Developmental Toxicity Study in Rabbits Treated by Diet on Days 7-19 of Gestation
17-3.  Teratogenicity Study of DPX-H6573-66 in Rabbits

Vol. 7 MUTAGENICITY
18.  Mutagenicity Testing of DPX-H6573-194 in the Salmonella Typhimurium Plate Incorporation Assay
19.  Mouse Bone Marrow Micronucleus Assay of INH-6573-69
20.  In Vivo Bone marrow Chromosome Study in Rats
21.  Evaluation of INH-6573-82 in the In Vitro Assay for Chromosome Aberrations in Human Lymphocytes
22.  Uns chedule DNA Synthesis / Rat Hepatocytes In Vitro
23.  CHO/HGPRT Assay for Gene Mutation

Vol. 8 ANIMAL METABOLISM
24.   Metabolism of 14C-DPX-H6573 in Rats
25-1. Metabolism Study of [Phenyl(U)-14C]DPX-H6573 in Laying Hens
25-2. Metabolism Study of [Triazole-3-14C]DPX-H6573 in Laying Hens
25-3. Metabolism Study of [Triazole-3-14C]DPX-H6573 and [Phenyl(U)-14C]DPX-H6573 in Laying Hens
26-1. Metabolism of [14C]DPX-H6573 in the Goat
26-2. Metabolism of [14C]DPX-H6573 in the Goat (Supplement)

Vol. 9 PLANT METABOLISM
27.  Metabolism of [Phenyl(U)-14C]DPX-H6573 and [Triazole-3-14C]DPX-H6573 in Greenhouse Wheat
28.  Experiments in the Translocation and Metabolism of 14C-DPX-H6573 in Bananas and Banana Palm Leaves
29.  Metabolism of [Phenyl(U)-14C]DPX-H6573 and [Triazole-3-14C]DPX-H6573 in Apples
30.  Metabolism of [Phenyl(U)-14C]DPX-H6573 and [Triazole-3-14C]DPX-H6573 in Grapes
 
 
 
(別添2)

食 品 規 格 (案)

フルシラゾール 食品規格案
基準値案
ppm
参 考 基 準 値
国 際
基準値
ppm
外 国
基準値
ppm
小麦
大麦
ライ麦
上記以外の穀類
0.1 
0.1 
0.1 
 0.05 
0.1 
0.1 
0.1 
 
 
 
0.05(ス)
てんさい
さとうきび
0.01
0.05
0.01  
0.05(ス)   
りんご
日本なし
西洋なし
マルメロ
びわ
0.2 
0.2 
0.2 
0.2 
0.2 
0.2 
0.2 
0.2 
0.2 
 0.2  
0.2 (オ)   
0.2 (オ)   
0.2 (オ)   
0.2 (オ)   
0.2 (オ)   
もも
ネクタリン
あんず(含アプリコット)
すもも(含プルーン)
うめ
おうとう(含チェリー)
0.05
0.05
0.05
0.05
0.05
0.05
  0.05(オ、ス)
0.05(オ、ス)
0.05(オ、ス)
0.05(オ、ス)
0.05(オ、ス)
0.05(オ、ス)
ぶどう 0.5  0.5  0.5 (オ)
バナナ 0.1  0.1  0.10(ド)
ひまわり(種子)
なたね
上記以外のオイルシード
0.05
0.05
0.05
 
0.05
 
0.05(ス)
 
0.05(ス)

注)オ:オーストラリア  ス:スペイン  ド:ドイツ


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本部 大阪府豊中市三和町1丁目1番11号

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