薬事・食品衛生審議会資料

 

平成10年04月01日

 

 

食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - パクロブトラゾール

 

パクロブトラゾール


1.品目名:パクロブトラゾール(PACLOBUTRAZOL)

2.用途:植物成長調整剤(トリアゾール系)

3.安全性
 (1)単回投与試験
  急性経口LD50はマウスで5,000㎎/㎏超、ラットで2,884~3,631㎎/㎏と考えられる。

 (2)反復投与/発がん性試験
  CD-1マウスを用いた混餌(25、125、750ppm)投与による2年間の反復投与/発がん性併合試験において、750ppm投与群で肝重量及び腎重量の増加、肝細胞脂肪変性等が認められる。本試験における無毒性量は、125ppm(15.0㎎/㎏)と考えられる。発がん性は認められない。
  SDラットを用いた混餌(50、250、1,250ppm)投与による2年間の反復投与/発がん性併合試験において、1,250ppm投与群で体重増加抑制、肝重量増加、肝小葉中心性肥大、血小板数低下等が認められる。本試験における無毒性量は、250ppm(10㎎/㎏)と考えられる。発がん性は認められない。
  ビーグル犬を用いた強制経口(15、75、300㎎/㎏)投与による1年間の反復投与試験において、300㎎/㎏投与群で体重増加抑制、腎及び副腎重量の増加、肝細胞肥大、アルブミンの減少等が認められる。また、肝重量増加、肝N-アミノピリンデメチラーゼ活性の上昇がみられているが、適応性の変化と考えられ、本試験における無毒性量は、75㎎/㎏と考えられる。

 (3)繁殖試験
  Wistarラットを用いた混餌(50、250、1,250ppm)投与による2世代繁殖試験において、1,250ppm投与群で、F0及びF1親動物並びにF1及びF2子動物の肝重量増加及び肝小葉中心性脂肪変性等が、F0及びF1親動物の体重増加抑制が、250ppm以上の投与群でF1同腹子数の減少、F0及びF1世代に紅涙、眼瞼の肥厚が認められる。本試験における無毒性量は、50ppm(4.79㎎/㎏)と考えられる。

 (4)催奇形性試験
  Wistarラットを用いた強制経口(2.5、10、40、100㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、40㎎/㎏以上の投与群の胎児動物で腎孟拡張、尿管屈曲、化骨不全、第14肋骨の増加等が認められる。親動物では検体投与に起因する影響はみられていない。本試験における無毒性量は、母動物で100㎎/㎏、胎児動物で10㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。
  ニュージーランドホワイトウサギを用いた強制経口(25、75、125㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、125㎎/㎏投与群の母動物で体重減少、摂餌量低下等が、胎児動物で脾の退色、短い第13肋骨の増加等が、75㎎/㎏以上の投与群の胎児動物で第7頸椎横突起の化骨不全が認められる。本試験における無毒性量は母動物で75㎎/㎏、胎児動物で25㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。

 (5)変異原性試験
  細菌を用いた復帰変異試験、Rec-assay、ラット骨髄細胞を用いた染色体異常試験の結果は、いずれも陰性と認められる。

 (6)その他
  上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。

4.吸収・分布・代謝・排泄
  SDラットを用いた経口(5㎎/㎏)投与の試験において、Tmaxは2時間、Cmaxは雄で0.784、雌で1.724μg eq./g、T1/2は約7時間である。96時間後までに投与量の90~93%が尿及び糞中に(雄では53%が糞中に、雌では53%が尿中に) 排泄される。主要排泄物はtert-ブチル基の酸化体及びそのグルクロン酸抱合体等である。

  放射性同位元素を用いた水稲の試験において、玄米での残留は少量であり、水稲において大部分が代謝され、玄米では主にトリアゾールアラニン、トリアゾール酢酸を生成する。
 
  上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。

5.ADIの設定
  以上の結果を踏まえ、次のように評価する。

  無毒性量     4.79㎎/㎏/日
           動物種 ラット
           投与量/投与経路 50ppm/混餌
           試験期間 2世代
           試験の種類 繁殖試験
  安全係数     100
  ADI        0.047㎎/㎏/日

6.基準値案
  別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、2.8%である。
 

(別添1)
<毒性試験一覧表>

資料No. 試験の種類・期間 供試生物 試験機関
急性毒性試験
14日間観察
ラット (財)残留農薬研究所
急性毒性試験
21日間観察
マウス (財)残留農薬研究所
急性毒性試験
14日間観察
ラット (財)残留農薬研究所
急性毒性試験
14日間観察
ラット CTL
マウス
モルモット
ウサギ
ラット
ウサギ
ラット
ジアステレオマー
急性毒性試験
経口7日間観察
ラット CTL
経皮14日間観察 ラット
パクロブトラゾールケトン
急性毒性試験
15日間観察
ラット CTL
トリアゾリルアラニン
急性毒性試験
14日間観察
ラット Bayer
マウス
ラット
トリアゾリル酢酸
急性毒性試験
14日間観察
ラット CIBA-GEIGY
亜急性毒性試験
13週間
ラット CTL
10 亜急性毒性試験
13週間
ラット (財)安評センター
11 亜急性毒性試験
13週間
イヌ CTL
12 亜急性毒性試験
21日間
ウサギ HRC
13 慢性毒性試験
1年間
イヌ CTL
14 慢性毒性発がん性併合試験
2年間
ラット HLE
15 慢性毒性発がん性併合試験
2年間
マウス HLE
16 2世代繁殖試験 ラット CTL
17 催奇形性試験
22日間
ラット CTL
18 催奇形性試験
22日間
ラット CTL
19 催奇形性試験
30日間
ウサギ CTL
20 復帰変異性試験 S.typhimurium
E.coll
(財)残留農薬研究所
21 細胞遺伝学的試験 ラット CTL
20 DNA修復試験 B.subtilis (財)残留農薬研究所
22 パクロブトラゾールケトン
復帰変異性試験
S.typhimurium
E.coll
(財)残留農薬研究所
パクロブトラゾールケトン
DNA修復試験
B.subtilis (財)残留農薬研究所
23 トリアゾリルアラニン
復帰変異性試験
S.typhimurium Bayer
24 トリアゾリルアラニン
DNA修復試験
E. coll Bayer
25 トリアゾリル酢酸
復帰変異性試験
S.typhimurium CIBA-GEIGY
26 薬理試験 ラット
マウス
モルモット
イ ヌ
ウサギ
CTL

(財)残留農薬研究所:財団法人残留農薬研究所
(財)安評センター:財団法人食品農医薬品安全性評価センター
CTL:Central Toxicology Laboratory(英国)
HRC:Huntingdon Research Centre(英国)
HLE:Hazleton Laboratories Europe(英国)


<代謝分解試験一覧表><代謝分解試験一覧表>

資料No. 試験の種類 供試動植物等 試験場所
M1 動物体内における吸収、分布及び排泄試験 ラット♂3 CTL
ラット♀3
ラット♂1
ラット♀1
M2 動物体内における代謝試験 ラット♀10 CTL
ラット♂4 HLE
ラット♀4
ラット♂2 CTL
ラット♀2
M12 動物体内における組織内分布試験 第1相 ラット♂6 CTL
第1相 ラット♀6
第2相 ラット♂15
第2相 ラット♀15
M3 植物における代謝試験 水  稲 JHRS
M4 植物における代謝試験 り ん ご JHRS
M5 土壌における分解試験 粗砂質壌土 JHRS
石灰質埴壌土
M5-1 土壌における分解試験 埴 壌 土 JHRS
微砂質埴壌土
M6 土壌における溶脱試験 粗  砂 JHRS
壌質砂土
石灰質埴壌土
粗砂質壌土
M7 水中における加水分解試験 緩 衝 波
(pH 4,7,9)
JHRS
M8 水中における光分解性試験 緩 衝 波
(pH7)
JHRS

CTL :Central Toxicology Laboratory, ICI(英国)
JHRS :Jealott's Hill Research Station, PPD ICI(英国)


<トリアゾリルアラニンの毒性試験一覧表>

資料No. 試験の種類・期間 供試生物 試験機関
急性毒性試験
14日間観察
ラット Bayer
マウス
ラット
参-4 急性毒性試験
14日間観察
ラット CTL
参-5 亜急性毒性試験
14日間
ラット Bayer
参-6 亜急性毒性試験
4週間
ラット Bayer
2 亜急性毒性試験
14週間
ラット Bayer
3 亜急性毒性試験
13週間
イヌ Bayer
参-7 2世代繁殖試験
予備投与試験
ラット CTL
2世代繁殖試験 ラット CTL
催奇形性試験
22日間
ラット CTL
復帰変異性試験 S. typhimurium Bayer
7 DNA修復試験 E. coli Bayer
参-9 復帰変異性試験 S. typhimurium ICI PD
小核試験 マウス Bayer
参-10 小核試験 マウス Bayer
参-11 小核試験 チャイニーズハムスター CIBA-GEIGY
参-12 細胞形質転換試験 BHK21
C13 細胞
HRC
参-13 細胞形質転換試験 BALB/3T3
マウス線維芽細胞
CIBA-GEIGY
参-14 突然変異試験 ハムスター
V79 細胞
CIBA-GEIGY
参-15 DNA修復試験 ラット肝細胞 CIBA-GEIGY

ICI PD :ICI社Pharmaceuticals pision(英国)
CTL :ICI社Central Toxicology Lavoratory(英国)
HRC :Huntingdon Research Centre(英国)


<トリアゾリルアラニンの代謝試験一覧表>

資料No. 試験の種類 供 試 動 物 試験機関
動物におけるバランス試験 ラット♂4 CIBA-GEIGY
ラット♀4
ラット♂4
ラット♀4
10 動物における代謝試験 ラット♂4 CIBA-GEIGY
ラット♀4
ラット♂4
ラット♀4


<トリアゾリル酢酸の毒性試験一覧表>

資料No. 試験の種類・期間 供試生物 試験機関
11 急性毒性試験
14日間観察
ラット CIBA-GEIGY
12 亜急性毒性試験
14日間
ラット CIBA-GEIGY
13 復帰変異性試験 S.typhimurium CIBA-GEIGY


<トリアゾリル酢酸の代謝試験一覧表>

資料No. 試験の種類 供試動物 試験機関
14 動物における代謝試験 ラット♂1 R & H TD
ラット♀1
ラット♂1
ラット♀1
15 動物におけるバランス
試験
ラット♂2 CIBA-GEIGY
ラット♀2
16 動物における代謝試験 ラット♂2 CIBA-GEIGY
ラット♀2

R & H TD:Rohm & Haas Company, Toxicology Department(米国)


(別添2)

食品規格(案)

パクロブトラゾール 食品規格案
基準値案
ppm
参考基準値
国 際
基準値
ppm
登録保留
基準値
ppm
外 国
基準値
ppm
米(玄米) 0.1    0.1   
みかん 0.5     0.5   
りんご
日本なし
西洋なし
マルメロ
びわ
0.5
1
1
1
1
0.5
 
 
 
 

1(オ)
1(オ)
1(オ)
1(オ)

もも
ネクタリン
あんず(含アプリコット)
すもも(含プルーン)
うめ
おうとう(含チェリー)
0.5
0.05
0.05
0.05
0.05
0.5
0.05
0.05
0.05
0.05
0.05
0.05
0.5




0.5
上記以外のベリー類果実 0.5 0.5
バナナ
キウィー
パパイヤ
アボカド
パイナップル
グアバ
マンゴー
パッションフルーツ
なつめやし
上記以外の果実
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01(オ)
0.01(オ)
0.01(オ)
0.01(オ)
0.01(オ)
0.01(オ)
0.01(オ)
0.01(オ)
0.01(オ)
0.01(オ)
アーモンド 0.05 0.05(オ)

注)登録保留基準は、国内で適用のある農作物についてのみ記載。
オ:オーストラリア

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