第26回研究成果報告書(2020年)

研究成果報告書 索引〕 

〔目次〕

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研究テーマ

研究者

26-01

既存添加物の定量用標品および内部標準物質の合成に関する研究出水 庸介
国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部

26-02

食品における酸化防止剤の能力を評価する方法の実用化に向けた発展研究長岡 伸一
愛媛大学理学部化学科構造化学研究室・理工学研究科環境機能科学専攻

26-03

バイオインプリンティング技術を用いたグリチルリチンのハイスループット分析法の開発~日本薬局方規格基準の甘草の育種研究に向けて~坂元 政一
九州大学 大学院薬学研究院

26-04

毒キノコ成分のプロファイリングと化学分析のための標準品作製井之上 浩一
立命館大学薬学部

26-05

新規誘導体化試薬「Py-Tag」を用いた魚および水産加工品中の不揮発性アミン類分析法の開発穐山 浩
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

26-06

食品・食品添加物の品質保証に関する薬学研究教育の実態調査堤 康央
大阪大学薬学研究科

26-07

茶の遺伝資源を利用したテアニン増強育種法および生産技術の開発山下 寛人
岐阜大学大学院 連合農学研究科 静岡大学配置

26-08

新規サル消化管オルガノイドを用いた食品添加物が消化管上皮に与える影響の解析岩槻 健
東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科

26-09

植物由来アントシアニン系色素の腸管タイトジャンクションに対する影響廣明 秀一
東海国立大学機構名古屋大学 大学院創薬科学研究科 基盤創薬学専攻

26-10

新規エキソ型アルギン酸リアーゼを活用した新しいアルギン酸定量法の開発柴田 敏行
三重大学 大学院生物資源学研究科 生物圏生命科学専攻 三重大学海藻バイオリファイナリー研究センター

26-11

安全・高品質な国産サフラン生産拡大のためのアクションリサーチ:アグリセラピーへの応用と地域健康力の向上髙浦 佳代子
大阪大学総合学術博物館

26-12

甘味料(グルコース、スクラロース)の脂肪嗜好性調節作用の検討とその機序の解明森本 恵子
奈良女子大学研究院 生活環境科学系 生活健康学領域

26-13

妊娠期における非糖質系甘味料の摂取が乳腺発達と分娩後の乳産生に及ぼす影響小林 謙
北海道大学大学院農学研究院 細胞組織生物学研究室

26-14

食品添加物ε- ポリ-L- リジンの抗真菌活性発現に関わる新しいシグナル伝達経路の解明とアクチン細胞骨格に及ぼす影響井上 善晴
京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻

26-15

食品添加物カロテノイドによる炎症抑制作用と慢性腎症予防効果に関する研究 細川 雅史
北海道大学大学院水産科学研究院

26-16

各種食用天然色素がもつNrf2 活性化能と機能性・安全性の動物モデルを用いた測定比較小林 麻己人
筑波大学 医学医療系 分子発生生物学教室

26-17

食品多糖類による食品3D プリンタ用フードインクの力学特性改質と造形精度向上武政 誠
東京電機大学 理工学部 理工学科 生命科学系

26-18

天然由来食品添加物のゼブラフィッシュを用いた安全性評価 松浪 勝義
国立大学法人広島大学大学院医系科学研究科生薬学

26-19

抗糖化作用を有するエラジタンニンの生体利用性に関する研究 伊東 秀之
岡山県立大学保健福祉学部栄養学科

26-20

ミョウバンによる腸管上皮損傷に伴う炎症・アレルギー誘導性損傷関連分子の放出の解析と免疫学的安全性評価の検討 若林 あや子
日本医科大学微生物学・免疫学教室

26-21

抗癌剤治療時におけるアルギニン摂取の重要性検証と体内動態・組織分布評価 小谷 仁司
島根大学医学部

26-22

哺乳類嗅覚応答システムを模倣したフレーバー客観的評価技術開発福谷 洋介
東京農工大学 大学院工学研究院生命機能科学部門

26-23

常温付近の温度帯を用いる新しい香気成分の分離装置の開発 大田 昌樹
東北大学大学院環境科学研究科 先端環境創成学専攻 環境創成計画学講座 環境分子化学分野(大田研究室)

26-24

熟成古酒からの劣化臭除去に向けた金ナノ粒子の吸着特性の解明村山 美乃
九州大学大学院理学研究院化学部門

26-25

高齢者に適した食品用ハイドロゲルの研究 原 正之
公立大学法人大阪 大阪府立大学 大学院理学系研究科

26-26

大豆タンパク質にアミノ酸栄養強化剤を添加した高齢者・病者向けプロテイン飲料の開発 中村 衣里
武庫川女子大学 生活環境学部 食物栄養学科

26-27

セルロースを活用した高齢糖尿病患者向け新食感和菓子に関する研究河野 俊夫
高知大学 農林海洋科学部 食料生産プロセス学研究室

26-28

小麦グルテンの代用とする疎水タンパク質ハイドロフォビンの食品応用について ~起泡性を利用した製パンへの応用~ 金内 誠
宮城大学 大学院 食産業学研究科

26-01

既存添加物の定量用標品および内部標準物質の合成に関する研究

出水 庸介
国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部

既存添加物の品質確保のためには、高精度な分析・評価手法を開発することで成分規格試験を確立することが重要である。本研究では、従来の分析化学の手法では含量規格の設定が困難な添加物について、指標成分と同一の若しくは代替物質の定性用又は定量用標準品の全合成ルートを確立することで新たな分析法の開発を行い、簡便且つ精確な規格試験法の設定を具現化することを目的とした。本年度は、カロテノイド系色素でありクチナシ果実等に含まれるクロセチン(crocetin)、およびカロテノイド類縁化合物を対象とした合成ルートの確立を行った。


26-02

食品における酸化防止剤の能力を評価する方法の実用化に向けた発展研究

長岡 伸一
愛媛大学理学部化学科構造化学研究室・理工学研究科環境機能科学専攻

食品添加物として使用されているトコフェノール類(ビタミンE類)、アスコルビン酸類(ビタミンC類)、緑茶に含まれるカテキン類など(酸化防止剤)やカロテン類(着色剤・強化剤)は、一重項酸素・フリーラジカルなどによる酸化がもたらす食品の劣化を防止するのに有用であるだけではなく、生体中の色々な組織に存在し、一重項酸素・フリーラジカルを消去するなどして細胞の老化を防いでいる。本研究では、こうした食品添加物及びそれを含む食品自体が一重項酸素・フリーラジカルを消滅させる能力を評価する実用的で汎用的な方法(Aroxyl Radical Absorption Capacity (ARAC)、Singlet Oxygen Absorption Capacity (SOAC)、Alfa-Tocopherol REcycling Capacity (ATREC) 測定法)の実用化を目指した


26-03

バイオインプリンティング技術を用いたグリチルリチンのハイスループット分析法の開発
~日本薬局方規格基準の甘草の育種研究に向けて~

坂元 政一
九州大学 大学院薬学研究院

グリチルリチン(GC)は、マメ科カンゾウに含有するトリテルペノイドサポニンであり、肝庇護作用を始め、抗炎症作用、抗アレルギー作用、抗ウイルス作用を有する。現在、甘草の安定供給を目的とした育種研究に取り組んでおり、その過程で効率的なスクリーニング法の開発が求められている。そこで、本研究ではバイオインプリンティング法と呼ばれる手法を用いてタンパク質にGC認識機能を持たせ、高効率なスクリーニング法に応用することを目的としている。先ず、遊離のGCに対してHRPとOVAを用いてバイオインプリンティングを行いGC-biHRPとGC-biOVAをそれぞれ調製した。その後、GCに対する認識機能をELISA及び磁気ビーズとGCのコンジュゲート(MPs-GC)を用いて検討した。その結果、GC-biOVAにおいてはGC認識機能が認められなかったものの、GC-biHRPでは、0.78−3.125 μg/mLのGC濃度範囲での検出可能性が示唆された。今後、本系の高感度化やバックグランド及び誤差の抑制を目指した更なる検討を要する。


26-04

毒キノコ成分のプロファイリングと化学分析のための標準品作製

井之上 浩一
立命館大学薬学部

本研究では、昨年度に続き、毒キノコ成分のプロファイリングを目的として、LC-MSや高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)を用いた全回収型単離精製に基づく、ライブラリー構築を実施した。今回、毒キノコであるカキシメジ(Tricholoma ustale)及びニガクリタケ(Hypholoma fasciculare)を対象に検討を進めた。カキシメジに関しては、毒性主成分と考えられるウスタリン酸の含有が非常に少なく、亜種などの可能性が示唆された。また、ニガクリタケは、ファシクロールの単離精製にはHSCCC-MSが有効であることを示した。また、その際に利用した二相溶媒系はヘキサン / 酢酸エチル / メタノール /水 を用いた。本研究をもとに、新たな試みとして「ブルーバックスアウトリーチ」に参画することもできた。


26-05

新規誘導体化試薬「Py-Tag」を用いた魚および水産加工品中の不揮発性アミン類分析法の開発

穐山 浩
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

魚及び水産加工品中の不揮発性アミン類4種(ヒスタミン、チラミン、フェネチルアミン、及びカダベリン)の分析法として、新規誘導体化試薬「Py-Tag」を用いたLC-MS/MS法を検討した。本年度は、本分析法の魚及び水産加工品中の不揮発性アミン類4種の分析性能を評価した。魚及び水産加工品(計5種)を対象に添加回収試験を行った。試料中で定量下限濃度、50 mg/kg、及び100 mg/kgになるように各不揮発性腐敗アミン類を添加し、5併行の繰り返し分析を行った。定量下限濃度を添加した試料では、真度87~100%、併行精度は1.2~6.1%と推定された。50 mg/kgを添加した試料では、真度90~104%、併行精度は1.2~4.4%と推定された。100 mg/kgを添加した試料では、真度91~103%、併行精度は0.5~4.3%と推定された。いずれの添加濃度でも良好な結果であった。また、ヒスタミンの分析値が付与された標準試料及び品質管理試料を本分析法により分析した結果、分析値は許容範囲内であった。さらに、本分析法を用いて市販の魚及び水産加工品(計48試料)中の不揮発性腐敗アミン類4種を分析した。イワシ丸干し(1試料)及び魚醤(3試料)で比較的高い濃度の不揮発性アミン類が検出された。本分析法は固相抽出カラムによる精製操作が不要であり、誘導体化も短時間で終了することから、魚及び水産加工品中の不揮発性アミン類の分析法として有用であると考えられる。


26-06

食品・食品添加物の品質保証に関する薬学研究教育の実態調査

堤 康央
大阪大学薬学研究科

当該研究は、日本学術会議薬学委員会医療系薬学分科会(24期)が主体となり、日本薬学会との連携のもと、全国の薬学部・薬科大学を対象に(国立・公立・私立大学計75校)、「健康食品・保健機能食品等の品質保証に関する薬学研究教育の実態調査」を実施し、日本薬学会第140年会(京都)にて公開シンポジウムを開催して議論を深めると共に、広く問題把握・情報共有すること、さらには、日本学術会議にて報告等として取り纏め、当該領域の研究教育の底上げを図り、産学官のニーズに応えようとするものである。本調査の結果、現在の薬学教育では、薬学の根幹をなすと考えられる「品質の定義」と「品質保証」が十分ではない傾向にあること、特に、「食薬区分」や「食の品質保証」は、薬学教育モデル・コアカリキュラム_平成25年度改訂版にも記載が無いことが判明した。古くから「薬食同源」とも言われるように、「食(食品・食品添加物)」を含め、ヒトの健康環境の確保に資するライフサイエンスが、薬学の担うべき領域であることから、上記課題について、今後の薬学研究教育への新たな展開を期待したい。


26-07

茶の遺伝資源を利用したテアニン増強育種法および生産技術の開発

山下 寛人
岐阜大学大学院 連合農学研究科 静岡大学配置

テアニンは茶樹が特異的に生産するアミノ酸アミドであり、旨味成分かつ機能性成分として近年注目を集めている。しかしながら、チャにおいてテアニンの増強を目指した育種的取り組みは進んでいない。そこで本研究では,育種および物質生産レベルでのテアニン増強を確立するため,「遺伝資源」に着目することで、育種母本の探索と分子マーカーの開発を試みた。チャ遺伝資源のSNPs情報を整備するとともに、茶葉中のテアニン含量バリエーションの評価を行った。その結果、有用育種母本の候補を選定するとともに、これら表現型情報を用いたゲノムワイド関連解析により、マーカー候補となりうる原因遺伝領域を推定した。


26-08

新規サル消化管オルガノイドを用いた食品添加物が消化管上皮に与える影響の解析

岩槻 健
東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科

消化管オルガノイド系は他のin vitro培養系と比べ、生体内の正常な細胞活動が観察できるため、生理学、内分泌学、分子生物学、腫瘍学など様々な分野での研究が活発になってきている。この培養系を用いて我々は、食品添加物である高感度甘味料が消化管内分泌細胞に与える影響の解析を試みようとしている。
我は最近、サル消化管オルガノイドを作製したが、培養条件によっては増殖せず維持が難しいという問題に直面している。そこで本研究では、培地に含まれるウシ血清アルブミン(BSA)とWnt3a-conditioned mediumがオルガノイドの増殖に影響するかを調べた。その結果、BSAとWnt3a-CMの組み合わせにより、サル消化管オルガノイドの増殖能に差があることが判明した。また、本研究では、内分泌細胞を可視化するためにNgn3-GFPマウスから消化管オルガノイドを作製し、同オルガノイドが生体内組織に存在する内分泌細胞と類似しているかを免疫組織化学染色とトランスクリプトーム解析により調べた。その結果、タンパク質とmRNAの発現は生体内組織と同等であるという結果を得た。
現在、作製したマウスおよびサル消化管オルガノイドを用いて、高感度甘味料による影響に種差があるかなどを調べている。


26-09

植物由来アントシアニン系色素の腸管タイトジャンクションに対する影響

廣明 秀一
東海国立大学機構名古屋大学 大学院創薬科学研究科 基盤創薬学専攻

タイトジャンクション(TJ)は上皮細胞で細胞間を密着させて細胞間隙の物質の通過を妨害し、外界からの異物の体内への侵入を阻止するバリアとして機能する細胞間接着装置である。近年、一部の乳化剤や増粘剤などの食品添加物から、腸管の物質透過性を上昇させる活性が発見され、アレルギー性疾患や食品が原因となる腸管の炎症のリスク因子として、注意が喚起されている。本研究では、このタイトジャンクションのモデルとして、イヌ腎臓尿細管上皮細胞をモデルに、6種類のアントシアニン系色素分子を含む計15種類のフラボノイドの系統的比較を行った。その結果、naringeninに明確なTJ強化活性を、quercetinにTJ減弱活性と細胞形状を繊維芽細胞様の細長い形状に変形させる活性を見出した。系統的な分子比較により、これら刺激の分子標的は細胞内の因子であることが推測された。また、6種類のアントシアニン系色素分子の5種類(cyanidin、delphinidin、luteolinidin、pelargonidin、peonidin、didymin)に、部分的にTJを強化する活性を見出した。


26-10

新規エキソ型アルギン酸リアーゼを活用した新しいアルギン酸定量法の開発

柴田 敏行
三重大学 大学院生物資源学研究科 生物圏生命科学専攻
三重大学海藻バイオリファイナリー研究センター

4-Deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid(DEH)は、アルギン酸からエキソ型アルギン酸リアーゼ(Exo-Aly)の作用によって生じる単糖である。DEHは、アルギン酸以外のグリクロナンからは生じないため、アルギン酸のスタンダードとなりうる唯一の化合物と考えることが出来る。この研究では、海洋細菌Falsirhodobactersp. alg1由来の新規エキソ型アルギン酸リアーゼ(AlyFRB)を用いて,DEHをスタンダードとした新しいアルギン酸の定量分析法を開発することを目的にしている。AlyFRBとFalsirhodobacter sp. alg1由来の新規エンド型アルギン酸リアーゼのリコンビナントタンパク質を調製し、組み合わせて酵素反応を行った結果、アルギン酸はDEHへと分解された。さらにこの酵素の混合液は、増粘多糖類(ペクチン、λ-カラジーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム)の共存下でもアルギン酸をDEHへと分解出来ることが分かった。


26-11

安全・高品質な国産サフラン生産拡大のためのアクションリサーチ:アグリセラピーへの応用と地域健康力の向上

髙浦 佳代子
大阪大学総合学術博物館

古来医薬品、香辛料として使用されてきた経済性の高い農作物であるサフラン(アヤメ科のサフラン Crocus sativus L.の雌蕊)は現在、その大半がイランやスペインからの輸入により賄われているが僅かに国産品も流通している。国内で一大産地として知られているのが大分県竹田市で、独自に開発された室内栽培法(竹田式栽培法)により、高品質なサフランを供給してきたが、高齢化や安価な海外産品の流入により近年生産量は激減している。これまで、現地調査による竹田式栽培法の歴史や具体的手法およびその利点の検証を行うとともに、外部形態からの海外産品との品質比較を行ってきた。本年度は篤農家の協力を得て設置したデータロガーの測定結果から試作栽培指導も見据えた伝統的栽培環境の数値化を試みた。また、品質評価において「香り」という新しいファクターに着目し、竹田市産サフランの特徴について海外産品との比較検討を行った。まずは、GC-MSによる基礎検討を行うとともに、評価者による官能試験を行った結果、竹田市産品と海外産品(イラン産)では明らかに香りが異なることを示した。また、嗅覚を検出器とするGC-olfactometryを用いた測定により、その香りの違いの原因となる成分を検証した。


26-12

甘味料(グルコース、スクラロース)の脂肪嗜好性調節作用の検討とその機序の解明

森本 恵子
奈良女子大学研究院 生活環境科学系 生活健康学領域

現代社会では、高脂肪・高エネルギーの食事の普及に伴い、肥満、メタボリックシンドロームなどが増加しており、予防的観点から脂肪嗜好性の適切な調節が重要である。しかし、脂肪嗜好性の調節機構に関しては未だ不明な点が多い。本研究では日本人男女を対象に口腔内脂肪酸感受性、脂肪嗜好性における性差、女性の月経周期性変化を検討し、舌への脂肪および甘味刺激がこれら指標に及ぼす影響を調べた。さらに、動物実験を加え、性ホルモンが脂質摂取量の調節に関与する可能性について検討した。
健康な若年男性(23名)・女性(21名)を対象とし、男性は任意の1日、女性は、月経期、排卵前期、黄体中期の3期に実験を行った。口腔内オレイン酸検知閾値は全口腔法・3肢強制選択法により測定し、脂肪嗜好性は4種の脂質濃度のチーズを用いて評価した。基礎レベルの口腔内オレイン酸感受性や脂肪嗜好性に性差はなかったが、女性ではオレイン酸感受性が排卵前期では月経期よりも低いという傾向が見られた。また、舌への脂肪刺激が男性では脂肪嗜好性を増加させ脂質摂取量を増やす可能性が示されたが、女性では変化が見られなかった。この脂肪嗜好性増加はスクラロース刺激後には見られなかった。また、男性では血漿テストステロンおよびエストラジオール濃度が高いほど食物摂取頻度調査票(FFQg)によるF比が高く、女性でも排卵前期に血漿テストステロン濃度が高いほどF比が高値を示すという相関関係があった。また、卵巣摘出による閉経モデルラットへのエストロゲン補充はグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の血漿濃度を増やし脂肪摂食を抑制したが、小腸の脂肪酸受容体発現には影響しなかった。
以上より、脂肪嗜好性や脂肪摂取量の調節における性差の存在が明らかになり、性ホルモンの関与が示唆された。しかし、本研究で明確にできなかった点もあり、さらなる研究が必要と考えられる。


26-13

甘妊娠期における非糖質系甘味料の摂取が乳腺発達と分娩後の乳産生に及ぼす影響

小林 謙
北海道大学大学院農学研究院 細胞組織生物学研究室

母乳とは乳児の発育に適した栄養源であり、適切な母乳育児は母子の健康増進に繋がる。しかし、母乳不足などの母乳トラブルに悩む人は多い。近年、母乳を産生する乳腺上皮細胞は細胞外の栄養成分濃度を感知し、自身の母乳産生能力を調節する機構があることが報告されている。本研究ではグルコースを感知する甘味受容体に着目し、非糖質系甘味料であるスクラロースが泌乳期における乳産生や妊娠期における乳腺構造発達に及ぼす影響を3種類の培養モデルを用いて調べた。その結果、乳腺上皮細胞には甘味受容体が発現し、乳腺上皮細胞の頭頂部側細胞膜と側底部側細胞膜に存在していることがわかった。乳産生を再現した培養モデルにおいて、スクラロースを乳腺上皮細胞の頭頂部側の培地に添加すると、乳腺上皮細胞の乳産生能力が低下した。しかし、スクラロースを側底部側の培地に添加した場合、そのような作用は検出されなかった。また、妊娠後期に起きる乳腺胞の発達を再現した培養モデルにおいて、スクラロースは培養初期には乳腺胞発達を促進し、培養後期には抑制していた。一方、乳管のネットワーク形成を再現した培養モデルでは、スクラロースによる影響は認められなかった。以上のことより、乳腺上皮細胞の甘味受容体を介してスクラロースと結合し、妊娠後期の乳腺胞発達や泌乳期の乳産生を調節することが示唆された。


26-14

食品添加物ε- ポリ-L- リジンの抗真菌活性発現に関わる新しいシグナル伝達経路の解明とアクチン細胞骨格に及ぼす影響

井上 善晴
京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻

ε-ポリ-L-リジン(ε-PL)は出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを含む真菌に対して抗真菌活性を示す。本研究では、ε-PLの抗真菌活性に関与するシグナル伝達経路について検討するとともに、ε-PLがアクチン細胞骨格に及ぼす影響について検討を行った。ε-PL処理によりMpk1のリン酸化が起こった。Mpk1をリン酸化するMkk1/Mkk2欠損株や、Mkk1/Mkk2をリン酸化するBck1欠損株ではMpk1のリン酸化は起こらなかったことから、ε-PLはMpk1-MAPキナーゼ経路を活性化すると考えられた。Bck1はPkc1によりリン酸化されて活性化されるが、Pkc1へのシグナル流入には低分子量Gタンパク質Rho1を介する系と、TOR複合体2(TORC2)を介する系がある。Rho1との物理的相互作用ができなくなるPkc1変異体(Pkc1L54S-4C/S)でもε-PL処理によりMpk1のリン酸化が起こった。さらに、TORC2によりリン酸化されるThr1125とSer1143をそれぞれAlaに置換したPkc1TASA変異体でもε-PL処理によりMpk1のリン酸化が起こった。これらのことから、ε-PLは従来から知られている経路とは異なる経路でPkc1もしくはBck1を活性化している可能性が示唆された。また、ε-PL処理によりアクチンパッチの脱極性化が観察された。


26-15

食品添加物カロテノイドによる炎症抑制作用と慢性腎症予防効果に関する研究

細川 雅史
北海道大学大学院水産科学研究院

慢性腎臓病(CKD)は、慢性的な炎症による腎線維化をともなう腎機能の低下が特徴であり、悪化すると腎不全へとつながる。近年、このようなCKDり患者が増加しており、その予防が重要と考えられる。本研究では、CKD予防につながる腎臓での慢性炎症を抑制する成分として、食品添加物として利用されるカロテノイドや食品由来カロテノイドに着目して、抗炎症作用を評価した。-アポ-8'-カロテナールは、リポポリサッカライドによって炎症誘導したマクロファージ様RAW264.7細胞に対してIL-1の産生を抑制した。一方、ルテインはTNF-で炎症誘導したヒト尿細管上皮細胞に対してIL-6やIL-8のmRNA発現を有意に抑制することを見出した。また、褐藻由来のフコキサンチンを経口投与したマウスの腎臓では、抗酸化酵素HO-1 mRNAの発現誘導が見られた。これらの結果は、-アポ-8'-カロテナーやルテインなどの食品添加物カロテノイド、食用褐藻由来のフコキサンチンが腎臓細胞に対して抗炎症作用や保護機能をもつことを示唆している。


26-16

各種食用天然色素がもつNrf2 活性化能と機能性・安全性の動物モデルを用いた測定比較

小林 麻己人
筑波大学 医学医療系 分子発生生物学教室

安全性に不安があった食品の着色であるが、近年、色素成分の抗酸化作用が知られるようになり、むしろ健康増進につながると期待されるようになった。しかし、どの色素成分がどの程度の抗酸化作用をもち、どのような分子メカニズムで作用するかはよく分かっていない。後者に関しては、抗酸化応答のマスター機構Nrf2経路の活性化を介するものが多いと予想されているが、動物モデルを用いた実証がほとんどない。本研究では、遺伝学的解析と薬理学的解析に優れたモデル脊椎動物ゼブラフィッシュを活用し、天然着色料として頻用されるアントシアニン色素を中心に14種の食用天然色素の動物個体における抗酸化作用の解析・比較を行った。その結果、シアニジン3-グルコシドとクルクミンが動物個体でNrf2依存的な抗酸化作用を発揮することを見出した。


26-17

食品多糖類による食品3D プリンタ用フードインクの力学特性改質と造形精度向上

武政 誠
東京電機大学 理工学部 理工学科 生命科学系

フード3Dプリンタのレオロジー特性改質による造形精度向上に取り組んだ。米粉をベースとしたフードインクを、ペーストエクストルーダーにより10層程度積層した場合には、自重で造形物が変形する問題が発生した。キサンタンガムのように高分子量の増粘多糖類を少量添加することで、造形精度の改善がみられた。これは、低ずり速度において定常ずり粘度が増加したこと、また水素結合など引力相互作用による弱いゲル構造が形成されたことにより、自重に耐えられるようにレオロジー特性が改善されたためであると考えられた。一方、ずり速度を最適化しておかなければ、造形精度は低下してしまうことも分かった。これは前述のずり粘度増加にともなう、ペーストエクストルーダーの制約に依存するものであると考えられた。また、ダブルゲルネットワークによるフードインク開発にも取り組んだ。アルギン酸-ゼラチン間では特段の引力相互作用は観察されないことから、相互侵入型の2重のゲルネットワーク構造を形成可能であると考えられた。今後、このフードインクの開発を継続する事で、造形精度を保ちながら、一方で造形後に十分な破断強度、たとえば歯ごたえを有する食品をプリントできると期待される。


26-18

天然由来食品添加物のゼブラフィッシュを用いた安全性評価

松浪 勝義
国立大学法人広島大学大学院医系科学研究科生薬学

本研究ではゼブラフィッシュの受精卵を用いてその表現型を観察することで食品添加物の生物学的安全性を簡便に評価、担保できる可能性を示した。さらに、食品としてなじみの深いオクラや米ぬか抽出物についてその含有化学成分について解析を行った。オクラ由来の成分についてはゼブラフィッシュに対して毒性を示さないことを見出しており、今後、さらに成分探索を進め、本実験系による安全性評価と組み合わせて、他の薬理活性成分の発見につなげたい。ゼブラフィッシュを用いた安全性評価法はほとんどの研究室にある実験装置で行えるため導入が容易で、また生物学的安全性を簡便に担保できることから、食品添加物をはじめ様々な化合物の安全性評価法として有用である。


26-19

抗糖化作用を有するエラジタンニンの生体利用性に関する研究

伊東 秀之
岡山県立大学保健福祉学部栄養学科

Urolithin Aをはじめとするエラジタンニンの代謝物は、腸内細菌によりellagic acidを経由して生成後、生体内に吸収されることが知られている。urolithin Aは抗酸化作用、抗炎症作用や抗腫瘍作用、さらに最近ではマイトファジー促進活性を有し、線虫の延命効果を示すことが報告され、エラジタンニンの活性代謝物として注目されている。既存添加物に含まれるエラジタンニンは、gallagyl 基や valoneoyl 基などを有するエラジタンニン、大環状型エラジタンニンやC-配糖型エラジタンニンなど、生体内で新たな代謝産物を産生する可能性が高い。さらにurolithin Aをはじめとするエラジタンニン由来の機能性代謝産物のさらなる生体内挙動については今までに全く報告がない。本研究では、まず生体内代謝産物の生体内挙動を明らかにするために、urolithin Aの経口投与後の血中および尿中に多く排泄される urolithin A の抱合体の構造を明らかにするために、経口投与後の胆汁中に排泄される抱合体を単離し、その構造解析を行った。経口投与後の胆汁の各種HPLC 分析に基づく単一ピークの画分をNMRおよびMSを測定した結果、urolithin A 3-O-glucuronideとurolithin A 8-O-glucuronideであると同定した。以上の諸データから、urolithin Aは吸収後、主にグルクロン酸抱合化を受け、比較的長時間体内に滞留してから、脱抱合後、尿中に排泄されることが示唆された。


26-20

ミョウバンによる腸管上皮損傷に伴う炎症・アレルギー誘導性損傷関連分子の放出の解析と免疫学的安全性評価の検討

若林 あや子
日本医科大学微生物学・免疫学教室

食品添加物はアレルギーの発症や進行に影響を与えている可能性が示唆されているものの、その詳細はよく分かっていない。ミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム)やアンモニウムミョウバン(硫酸アンモニウムアルミニウム)は、現在食品添加物として広く用いられている。その一方、こうしたアルミニウム塩は強い免疫賦活作用を持ち、ワクチンのアジュバントとして開発されてきた物質でもある。本研究では、ミョウバンなどのアルミニウム含有食品添加物が、腸管上皮細胞を損傷して損傷上皮細胞からのHMGB1やIL-33といったDAMPsの放出を促すか否か、および放出されたこれらDAMPsが樹状細胞やリンパ球などの免疫細胞を活性化して食物アレルギーの発症や増悪に関与するか否か検討した。卵白アルブミン(OVA)とミョウバンを共にマウスに経口摂取した場合、OVAに対する抗体産生やT細胞増殖反応などの過剰な免疫反応が誘導されること、およびそれら誘導には損傷腸管上皮細胞から放出されるDAMPsによる樹状細胞やマクロファージの活性化が関与することが示唆された。これらの結果より、ミョウバンまたはアンモニウムミョウバンといったアルミニウム含有食品添加物の摂取は、腸管上皮細胞からのDAMPs放出を促すことによって腸管免疫を活性化し、食物アレルギーの発症や増悪に関与する可能性が示唆された。


26-21

抗癌剤治療時におけるアルギニン摂取の重要性検証と体内動態・組織分布評価

小谷 仁司
島根大学医学部

骨髄由来免疫抑制細胞(MDSCs)は、担癌状態における免疫抑制に重要な役割を果たすことが知られている。MDSCsはアルギナーゼIという酵素を発現し、L-アルギニンを代謝することによりレベルを下げ、T細胞の分化増殖などをはじめとする機能を抑制する。本研究では、抗癌剤治療時におけるL-アルギニン摂取の重要性を検証するため、我々はマウス大腸癌細胞株であるCT26を用いた担癌モデルマウスにL-アルギニンを摂取させることによる抗癌効果および血中濃度の解析をおこなった。その結果、L-アルギニンの摂取は抗癌剤であるシクロフォスファミド(CP)の効果を増強する傾向を示した。さらに、L-アルギニンの摂取によりマウスの脾臓および腫瘍組織における顆粒球性MDSC(G-MDSC)の割合を減少させ、単球性MDSC(M-MDSC)の割合を増加させる結果が得られた。しかし、L-アルギニンの摂取のみではMDSCのサブセットに影響を与えなかった。抗癌剤CPの治療では、担癌マウスのL-アルギニン血中濃度を低下させる傾向があり、腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞の割合が大幅に増加する結果が得られた。また、L-アルギニンを摂取させることにより、抗癌剤CPおよび免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体を投与したマウスで治癒した数が大幅に増加した。本研究により、抗癌剤治療時におけるL-アルギニンの摂取が治療効果を高める可能性が示唆された。


26-22

哺乳類嗅覚応答システムを模倣したフレーバー客観的評価技術開発

福谷 洋介
東京農工大学 大学院工学研究院生命機能科学部門

フレーバーには様々なにおい分子が混合されている。生物は複数の嗅覚受容体の応答を利用して、複雑なニオイを識別していると考えられる。
本研究では、嗅覚受容体発現細胞を利用したアッセイ法により、複数のニオイ分子混合物で刺激した際の嗅覚受容体の応答変化を分析した。単一のニオイ分子に対しては、複数の嗅覚受容体を利用するとその識別は比較的容易であったものの、2種類の分子の混合物にしたところ、濃度依存的な嗅覚受容体の応答性が低下し、その識別感度は低下した。混合物のニオイを用いた液相刺激と気相刺激の間でも、嗅覚受容体パネルの応答性に違いがみられた。さらに、実際に利用されているバニラフレーバーとバニリンを比較したところ、バニラフレーバーに対する嗅覚受容体の応答は全体的に低下し、含まれている分子間のマスキング効果が大きいことが示唆された。


26-23

常温付近の温度帯を用いる新しい香気成分の分離装置の開発

大田 昌樹
東北大学大学院環境科学研究科 先端環境創成学専攻
環境創成計画学講座 環境分子化学分野(大田研究室)

食品製造分野においては、高付加価値天然物を抽出分離精製するためにときに高環境負荷の有機溶媒が多量に使用される。特に、ある種の食品添加物製造分野においては、目的物質の溶解性向上のために有機溶媒が選定されることも少なくない。本研究では、このような問題を回避すべく、また近年の人々の健康志向の高まりを背景にして、人体に無害なグリーン溶媒である水、エタノールおよび二酸化炭素を組み合わせた新しい高圧溶媒を創出することで、従来の有機溶媒の代替を目指した環境や人間にやさしく安心かつ安全な方法論を導くことを目的としている。
ここで、著者は上述したグリーン溶媒(二酸化炭素、エタノールおよび水)を用いた食品添加物製造の一環として、天然物エキスからフレーバーを高選択的に抽出分離する手法(亜臨界溶媒分離法)の開発に2007年より携わってきた。この方法論のメリットは、従来法である水蒸気蒸留等のように高温状態に製品を曝さないというものである。本研究では、高圧気液平衡関係に基づく分離法(亜臨界溶媒分離法)を新たに考案し、関連する装置を開発した。対象とする系はビール原料のホップエキスを想定し、ミルセンやリナロールなどの標準物質を利用し、分離を制御する上で必須となる高圧気液平衡比を基礎データとして蓄積した。


26-24

熟成古酒からの劣化臭除去に向けた金ナノ粒子の吸着特性の解明

村山 美乃
九州大学大学院理学研究院化学部門

シリカ上にAuナノ粒子を固定化したAu/SiO2吸着剤を用いて、日本酒の劣化臭の原因物質1,3-ジメチルトリスルファン(DMTS)を選択的に除去した。これまで、吟醸香に寄与するヘキサン酸エチルはそのままに、DMTSのみの大吟醸酒からの除去を報告してきた。本研究では、さらに熟成古酒に特徴的に含まれるソトロン、フルフラールをはじめとした9種の日本酒の香り成分との競争吸着によって、吸着特性を調べた。DMTSの吸着量は、共存する化合物の影響を受けず、またDMTS吸着率が60%程度まで進行した段階で、最も吸着されたフルフラールでも吸着率は17.2%にとどまった。
さらに、Au/SiO2吸着剤の実用的使用方法として、流通式吸着の条件を検討した。加圧ろ過および自然ろ過に適した吸着剤の形状として、粒状のAu/SiO2吸着剤を調製した。シリカの2次粒子径を1 mm程度に大きくしても、担持されたAuナノ粒子の粒子径は3.3 nmと粉末状シリカ上と同程度に、小さくすることができた。流通式吸着によって、常に一定濃度のDMTS溶液が吸着剤と接触するため、大幅に吸着処理時間を短縮することができた。


26-25

高齢者に適した食品用ハイドロゲルの研究

原 正之
公立大学法人大阪 大阪府立大学 大学院理学系研究科

我が国を含む先進国では高齢化社会を迎え、嚥下障害を予防するために食品のゲル化剤などのレオロジー特性の研究が益々重要になりつつある。1~16%(w/v)ゼラチン(Type A)と1%(w/v)アルギン酸カルシウムの混合ゲルを調製した。高ゼラチン濃度のゲルはやや黄色みを帯びて透明度が高く、2%/1%ゲル、1%/1%ゲルなど低ゼラチン濃度ゲルは、やや白濁して透明度が低い。混合ゲルを加熱蒸気滅菌器(autoclave)に入れて121℃で15分加熱した(加熱処理)ところ、低ゼラチン濃度の混合ゲルでは白濁の程度が高まった。加熱処理の前後でゲルの圧縮試験を行い、応力ひずみ曲線より弾性率(ヤング率)を求めた。加熱処理前のヤング率は、ゼラチン濃度に依存して高ゼラチン濃度ゲルで高く、加熱処理後のゲルでは中間的な混合比の4%/1%ゲルで最も高いヤング率の値を示した。混合ゲルは2種類の生体高分子の網目が、互いの隙間に入り込んだInterpenetrating polymer network (IPN)構造を持つと考えた。この方法ではゼラチンの熱可塑性を利用して容易に成型でき、加熱処理後も溶解せず一定の熱耐性を示したことから、混合ゲルは加工食品などへの利用可能性があると思われる。


26-26

大豆タンパク質にアミノ酸栄養強化剤を添加した高齢者・病者向けプロテイン飲料の開発

中村 衣里
武庫川女子大学 生活環境学部 食物栄養学科

高齢者や病者は、一般に良質なタンパク質の補給が必要にもかかわらず、消化吸収機能が低下している場合が多く、食事から十分なタンパク質を摂取することが困難であることから、容易に摂取可能なプロテイン飲料による栄養補給が有効な手段であると考えられる。
本研究では、大豆プロテインに、栄養強化剤である7種類の必須アミノ酸を添加したアミノ酸強化大豆プロテイン飲料を調製し、消化吸収機能を低下させたラットに投与したところ、大豆プロテインのみを投与した対照群に比し、必須アミノ酸、特に分岐鎖アミノ酸の消化吸収量が増加し、さらに消化吸収速度も促進されることが明らかとなった。
以上の結果より、大豆プロテインに栄養強化剤の必須アミノ酸を添加することで、消化吸収機能低下時においてもバランスよくアミノ酸を補給できる、高齢者・病者向けプロテイン飲料を開発することができた。


26-27

セルロースを活用した高齢糖尿病患者向け新食感和菓子に関する研究

河野 俊夫
高知大学 農林海洋科学部 食料生産プロセス学研究室

高齢の糖尿病患者向けの新しい和菓子を開発することを目的に、セルロース粉末を試作和菓子の小麦粉代替品として部分的に適用し、試作和菓子の品質評価を行った。代表的な和菓子として、1)白玉団子、2)小麦饅頭、および3)大豆抹茶蒸しパンを取り上げた。熱水分特性の試験では、試作和菓子に用いたものも含め、10種の基本的な菓子素材を物理特性の面から評価した。また、和菓子に使う小麦粉の一部を、平均粒径の異なる3種のセルロース粉末で置換し、標準製法にもとづいて和菓子を試作した。試作した各々の和菓子に対して、粘弾性特性、表色、加熱時の生地膨張率、および消化性を測定し、セルロースを含まない基準品との特徴を分析した。その結果、供試したセルロース粉末はすべて、他の和菓子素材よりも吸水性が高く、その値は288%(最小粒子径のもの)から648%(最大粒子径のもの)の範囲であった。セルロース粉末にはこの吸水特性があるため、加熱前の吸水には十分な配慮が必要である。粘弾性試験および化学的に作成した胃液を使った消化性試験の結果にもとづけば、20%から40%の範囲でセルロースを置換するのが、高齢の糖尿病患者向け和菓子を作る上では勧められる。


26-28

小麦グルテンの代用とする疎水タンパク質ハイドロフォビンの食品応用について
~起泡性を利用した製パンへの応用~

金内 誠
宮城大学 大学院 食産業学研究科

近年、我が国の自給率向上や小麦アレルギー対策のために、米粉パンの製法が検討されている。しかし、グルテンを持たない米では、独特の食感を形成するのが難しい。そこで、小麦の弾性や膨化などの食感を形成するグルテンの代替タンパク質として、キノコ類(担子菌類)の疎水タンパク質ハイドロフォビンの応用について検討した。市販されているエノキタケ、エリンギ、シイタケ、ヒラタケ、マッシュルームを用い、界面活性剤により抽出した。抽出したハイドロフォビンの起泡性はすべての試料で確認できた。さらにハイドロフォビンを添加したすべての米粉生地において、コントロールよりも膨らみが見られた。特に、ヒラタケとマッシュルームからのハイドロフォビンを添加したものは、膨化率が高かく、対照に比べ167~172%であった。さらに、マッシュルームとヒラタケから、アルコール抽出によりハイドロフォビンの抽出が可能であった。これらを米粉生地に添加したところ、対照に比べ160%以上の膨化率であった。以上より、キノコ類(担子菌類)から抽出したハイドロフォビンは、パン製造時のグルテンの代替タンパク質としての機能を有し、製パン応用のポテンシャルを有することが推察された。

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