第31回研究成果報告書(2025年刊)

研究成果報告書 索引〕 

当財団の研究助成(2024年度)による研究成果報告書の抄録

抄録 No.

研究課題

研究者(共同研究の場合は代表者)

31-01

食品添加物を安全な触媒として用いた生分解性高分子材料の合成法開発 Li Feng
北海道大学大学院 工学研究院 応用化学部門

31-02

食品添加物「乳酸」の新たな視点
~乳酸の経口摂取、運動併用による認知機能向上作用の解明~
津田 孝範
中部大学 応用生物学部

31-03

自動前処理装置を用いた食品中ピロリジジンアルカロイド類の高感度分析法の開発 志田 静夏
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

31-04

母獣のD-tagatose 摂取による子孫のエピジェネティクス変動の解明 松居 翔
京都大学大学院 農学研究科 食品生物科学専攻

31-05

食品添加物の品質評価における高分子量縮合型タンニン標準品調製に関する基礎検討 天倉 吉章
松山大学 薬学部

31-06

適切な健康影響評価系の構築を目指した、経口曝露後の銀ナノ粒子の存在様式変化を踏まえた体内動態解析 長野 一也
和歌山県立医科大学 薬学部

31-07

味覚用食品添加物による免疫調節機能 神沼 修
広島大学 原爆放射線医科学研究所 疾患モデル解析研究分野

31-08

ヒトの腸内で働く添加剤による抗酸化物質の酸化防止と栄養強化 舩橋 靖博
大阪大学大学院 理学研究科 化学専攻

31-09

アワノメイガ幼虫糞からのFusarium 属菌の分離とマイコトキシン汚染拡散機構の解明 中川 博之
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 基盤技術研究本部 高度分析研究センター 

31-10

食品添加物の定量評価のためのシングルリファレンス化合物のデザイン研究 辻 厳一郎
国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部

31-11

既存添加物収載タンニン(抽出物)の機能性代謝物の探索 伊東 秀之
岡山県立大学 保健福祉学部 栄養学科

31-12

哺乳動物体内におけるカロテノイド異性化反応の探求 真鍋 祐樹
京都大学大学院 農学研究科

31-13

ヒアルロン酸オリゴ糖の同時定量法による体内動態特性の解析と小腸免疫系への関与 佐藤 夕紀
北海道大学大学院 薬学研究院

31-14

食品添加物(酸化防止剤)の没食子酸プロピルが細菌・酵母・ヒトの細胞に与える影響の解析 永田 宏次
東京大学大学院 農学生命科学研究科

31-15

ファインバブルを用いた新規フレーバー成分抽出手法に関する研究 秦 隆志
高知工業高等専門学校


31-01

食品添加物を安全な触媒として用いた生分解性高分子材料の合成法開発

Li Feng
北海道大学大学院 工学研究院 応用化学部門

 プラスチック環境問題の解決策として注目される生分解性高分子材料の合成において、従来の金属・有機触媒に代わるより安全性の高い触媒の開発が求められている。そこで本研究では、食品添加物として広く利用される種々の有機酸およびそのアルカリ金属塩を触媒として利用した脂肪族ポリエステルの新規合成法を検討した。サッカリン、マロン酸、クエン酸、EDTA およびこれらのナトリウム塩を触媒に用いて、環状エステルの L-ラクチド (L-LA) および ε-カプロラクトン (ε-CL) の開環重合を検討した。その結果、有機酸が ε-CL の重合に、ナトリウム塩が L-LA の重合に高い触媒活性を示すことを見出した。本重合系では分子量分布の狭いポリマーの精密合成が可能であり、環員数の異なる環状エステルや環状カーボネートへの適用性も確認された。さらに、有機酸とナトリウム塩触媒を組み合わせた複合触媒システムを用いることで、L-LAとε-CL の統計共重合体およびブロック共重合体など配列構造の制御された共重合体合成を実現した。以上の結果より、食品添加物が安全かつ有効な生分解性高分子合成触媒として大きな潜在能力を有することが実証された。


31-02

食品添加物「乳酸」の新たな視点
~乳酸の経口摂取、運動併用による認知機能向上作用の解明~

津田 孝範
中部大学 応用生物学部

 運動は全身に多様な恩恵をもたらす。例えば、運動はエネルギー消費と関連する体重のコントロールや糖・脂質代謝のホメオスタシス、インスリン感受性の改善に関わるが、運動で認知機能低下の予防や改善が可能なことが報告されている。運動で生成する乳酸は疲労物質ではなく、シグナル分子として重要な働きをしており、さらに運動による認知機能の向上に血中乳酸濃度の上昇が関わるとの報告もある。乳酸は日常的に食品からも摂取しているが、食品添加物としての乳酸摂取による効果の研究はない。以上の背景から本研究は乳酸の経口摂取で認知機能向上効果、あるいは運動併用でその効果の増幅を検証することを目的とした。昨年度に実験動物と運動の方法、乳酸の投与量の選定ができたので、今年度は乳酸の経口投与と運動併用による認知機能向上作用の検証を行った。その結果、有意な認知機能向上作用を示すことを明らかにした。この機構の一部は脳由来神経栄養因子の発現上昇が関わることを明らかにした。


31-03

自動前処理装置を用いた食品中ピロリジジンアルカロイド類の高感度分析法の開発

志田 静夏
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

 ピロリジジンアルカロイドは植物が産生する自然毒であり、ハーブティーなどを介して摂取されることにより肝障害を引き起こす。本研究ではハーブティー(茶を含む)及びはちみつ中の21種のピロリジジンアルカロイドを対象に、自動前処理装置を用いた高感度定量分析法を開発した。抽出条件、精製方法及び測定条件を最適化し、0.1 mol/L硫酸/メタノール(1:1)(はちみつの場合は0.05 mol/L硫酸)で抽出後、自動前処理装置で陽イオン交換カラム及び陰イオン交換カラムを用いて精製し、LC-MS/MSで測定する方法を確立した。添加濃度1 ppbで茶及びはちみつを対象に添加回収試験を実施したところ、茶において1化合物でイオン化抑制により低回収率となったものの、その他の化合物については回収率80~100%、併行精度8%未満の良好な結果が得られた。確立した分析法は迅速に多検体処理が可能であり、ピロリジジンアルカロイドの実態把握に資する有効な分析法と期待される。


31-04

母獣のD-tagatose 摂取による子孫のエピジェネティクス変動の解明

松居 翔
京都大学大学院 農学研究科 食品生物科学専攻

 近年の疫学調査研究により、"太りやすい体質"は、個々人が生まれながらに持つ遺伝的素因と環境要因が重要であることがわかってきている。例えば、体格指数(body mass indexBMI)の約60%は遺伝的素因によると考えられている。しかし、近年における肥満の世界的規模での急激な増加は、遺伝的素因だけでは説明できない。そのため、環境要因による肥満の発症機構として、塩基配列の変化によらない、エピゲノム変化による制御機構が注目されている。主に肝臓から分泌されるホルモンであり、糖脂質代謝の鍵分子であるFGF21が"エピゲノム記憶遺伝子"としての働きを持つことが報告された。また申請者は、FGF21は糖に対する摂取欲求を抑制することを明らかにしている。そして、申請者は、Fgf21-inducerであるD-tagatoseを母獣マウスに与えると、その仔の成獣期における糖に対する欲求が低くなることを発見した。そこで本研究では、母獣のD-tagatoseの摂取が、将来の仔のFgf21遺伝子、およびプロモーター領域にエピジェネティクスな変化を誘導することが"糖に対する欲求が低い太りにくい体質"の獲得につながり、抗肥満・抗糖尿病効果をもたらす、という仮説を検証する。


31-05

食品添加物の品質評価における高分子量縮合型タンニン標準品調製に関する基礎検討

天倉 吉章
松山大学 薬学部

 本研究では、高分子量縮合型タンニンの含有が示唆されている既存添加物ブドウ果皮抽出物について、高分子量縮合型タンニン画分が分画可能であるか検討し、分子量や含有ユニットが特徴付けされた標準品化の実用性を検討した。ブドウ果皮抽出物についてHPLC分析した結果、高分子量縮合型タンニンに特徴的なブロードピークが観察された。この画分を得るため、Diaion HP-20及びSephadex LH-20カラムクロマトグラフィーによる分離精製を試み、目的としている異なる3つのブロードピーク画分を得ることができた。得られた画分について13C-NMRによる解析を行った結果、いずれもflavan-3-olを基本ユニットとしたprocyanidin B-typeに特徴的なシグナルを示した。さらに各構成ユニットを化学的に確認するため、フロログルシノール分解を行った結果、epicatechin、epicatechin (4→2) phloroglucinolが得られ、主にepicatechinユニットがBタイプで重合した構造であることが示唆された。また分子量を明らかにするため、GPC分析(ポリスチレン標準品使用)した結果、重量平均分子量10,945、25,551、34,285と分子量の異なる3画分を標準品候補として得ることができた。


31-06

適切な健康影響評価系の構築を目指した、経口曝露後の銀ナノ粒子の存在様式変化を踏まえた体内動態解析

長野 一也
和歌山県立医科大学 薬学部 

 近年、ナノ粒子の開発・実用化が進んでおり、意図的/非意図的に曝露せざるをえない状況にある。そのため、ナノ粒子のリスク評価も喫緊の課題となっている。特に、ナノ粒子は、生体内で凝集やイオン化、再粒子化されるため、曝露されたナノ粒子の物性のままではなく、その存在様式を変化させていることが知られつつある。しかし、生体内での存在様式変化を解析手法が乏しいこともあって、その実態は明らかにされていない。そこで本研究では、独自の生体試料応用型1粒子ICP-MS法を活用し、経口曝露後の銀ナノ粒子の存在様式変化を踏まえた体内動態を解析した。
 助成1年目の成果から、nAg70は消化管吸収過程で存在様式を変化させている可能性が考えられたため、本年度はnAg70をマウスに経口投与し、in vivoでの存在様式を解析した。その結果、胃内容物では、in vitroの結果と比較してイオン化が促進していなかったものの、小腸内容物では、in vitroの結果と相関して、20%ほどがイオン化していた。また、末梢血のみならず、循環血中に回る前であって、ナノ粒子などの異物を取り込む肝臓でも殆どイオンとして分布していていた。したがって、nAg70は消化管吸収過程で存在様式を変化させていることがin vivoでも示唆された。


31-07

味覚用食品添加物による免疫調節機能

神沼 修
広島大学 原爆放射線医科学研究所 疾患モデル解析研究分野

 味覚用食品添加物による免疫調節機能を明らかにするため、免疫細胞に発現する味覚受容体とその機能を解析し、味覚受容体欠損マウスの作出を行った。ヒト免疫細胞におけるシングルセル解析の結果、B細胞、形質細胞、T細胞、NK細胞に苦味受容体TAS2R類の発現が確認された。マウスT細胞はTas2rを発現していなかったが、各T細胞サブセットがTas1r類を異なるレベルで発現していた。ヒトT細胞におけるIL-4発現は、苦味受容体アゴニストにより増強された。マウスアレルギー性鼻炎モデルの抗原誘発くしゃみ反応および鼻粘膜好酸球浸潤が、苦味受容体阻害薬投与により抑制された。CRISPR/Cas9システムに基づくゲノム編集法により、Tas1r1Tas1r2Tas1r3の各遺伝子を欠損するノックアウト(KO)マウスを作製した。それらにさらにゲノム編集を施し、Tas1r1/Tas1r3およびTas1r2/Tas1r3ダブルKOマウスの作製を進めた。また、各Tas1r遺伝子を標的としたfloxマウスを作製し、CD4特異的Creリコンビナーゼ発現マウスと交配した。各マウス系統の臓器におけるTas1r遺伝子の定量的RT-PCR解析を行い、遺伝子欠損を確認した。今後は、味覚用食品添加物が、特定の味覚受容体を介してT細胞他の免疫機能を制御することによって、アレルギー疾患他の予防・治療に役立つか、検討を進めてゆきたい。


31-08

ヒトの腸内で働く添加剤による抗酸化物質の酸化防止と栄養強化

舩橋 靖博
大阪大学大学院 理学研究科 化学専攻

 老化や様々な疾患を発症する原因となる活性酸素を抗酸化剤や酵素反応の作用によって消去することは、酸素呼吸するヒトの健康を維持するために最も重要である。高純度の単体であるシリコン微粒子は動物実験において優れた抗酸化作用を示し、幅広い疾患に劇的に高い回復や健康増進の効果を発揮することが示されている。本研究ではシリコン微粒子がヒト腸管内の反応条件において水素H2を発生するほかに、還元能のキャリアーとなる生体関連反応を起こすことを新たに見いだした。また同時にシリコン微粒子に対するpHや大腸菌が産生するシデロフォアのようなキレート剤の影響に関する化学的な検討を進めた。これらの結果を踏まえると、食品の消化の過程で腸管内に存在する生体関連物質がシリコン微粒子と反応し、それに続く代謝反応によってさらに高い抗酸化作用を示す生理活性物質を体内で生成して活性酸素を消滅し、細胞の酸化によって身体が錆びることを改善することが可能であると考えられる。さらにシリコン微粒子は、健康を促進する食品添加物として今後の展開も期待される。


31-09

アワノメイガ幼虫糞からのFusarium 属菌の分離とマイコトキシン汚染拡散機構の解明

〇中川 博之1、三ツ橋 昇平2, 3、渡辺 麻衣子4
1 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 基盤技術研究本部 高度分析研究センター
2 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門
3 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 基盤技術研究本部
4 国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部 

 トウモロコシ圃場より採集したアワノメイガ幼虫について、それらが排泄する糞からFusarium 属菌の分離を行った。得られた菌株について分子分類学的系統解析による菌の同定を行うとともに、Fusarium属と同定された菌株についてカビ毒(フモニシン)産生性を調べた。


31-10

食品添加物の定量評価のためのシングルリファレンス化合物のデザイン研究

辻 厳一郎
国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部

 従来、定量分析においては分析対象と同一の標準品が必要であるが、試薬が高価、不安定、合成が困難であるなど入手困難な場合も多く、代替法が求められている。そこで本研究においては、HPLCによる食品添加物の定量に用いるための「シングルリファレンス(SR)化合物」のデザイン手法について検討を行った。今回の検討では、構造展開が容易なビスアリールマレイミド骨格を基盤とし、多種の芳香環を導入することで、測定対象となる化合物の有するUV吸収域と類似の吸収帯を示す化合物の探索を行った。さらに、尾部の官能基を変えることで疎水性を調整することで、HPLC上の保持時間を制御することができた。また、アナトー色素のビキシンを定量対象として志向し、UV吸収特性とHPLCクロマトグラム上の溶出位置の両面から適合する化合物の設計を行い、有望なSR候補化合物候補を見出すことができた。この化合物デザイン手法により、UV吸収波長域とHPLCクロマトグラム上の溶出位置の調整が可能なSR候補化合物を効率的に合成することができると期待される。


31-11

既存添加物収載タンニン(抽出物)の機能性代謝物の探索

伊東 秀之
岡山県立大学 保健福祉学部 栄養学科
(現所属:国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 産官学連携研究センター)

 既存添加物収載タンニン(抽出物)の機能性代謝物の探索の一環として、申請者らは先にトウビシエキス投与後の生体サンプル中の代謝物の詳細な体内動態を評価し、エラジタンニンおよびガロタンニンが豊富に含まれるトウビシエキスをラットに経口投与後の血漿および尿サンプルについて、12種類のUrolithin類などのエラジタンニン関連代謝物および6種類のガロタンニン関連代謝物を分析対象としたHPLC-ESI-MS/MSにより定量を行った。その結果、血中濃度推移については、エラジタンニン関連代謝物は投与24時間前後で血中濃度が最大になるのに対し、ガロタンニン関連代謝物は投与1時間前後で血中濃度が最大となる傾向が認められ、尿中においてもエラジタンニン関連代謝物はトウビシエキス投与後72時間までシグモイド曲線様に尿中に排泄され、ガロタンニン関連代謝物の多くは投与後24時間以内に排泄されることを見出した。エラジタンニン関連代謝物は吸収、排泄に時間を要するが、ガロタンニン代謝物は速やかに吸収・排泄されることが示され、各代謝物が生体内で異なる挙動を示すことを明らかにし、報告してきた。
 今年度は、既存添加物のユーカリ抽出物に着目し、その主要ポリフェノール成分として知られているOenothein Bの生体内挙動について検討した。Oenothein Bは、最近の研究により抗酸化作用、抗炎症作用、抗真菌作用、抗C型肝炎ウイルス作用、抗腫瘍作用など様々な薬理作用が知られており、機能性タンニン成分としても注目され始めている。さらにOenothein Bは大環状構造を有するユニークなエラジタンニン二量体で、アシル基としてgalloyl基とvaloneoyl基を各2個有する。特に生体内でvaloneoyl基に由来する吸収・代謝などの挙動については全く知られていないため、本研究では、Oenothein Bをラットの経口投与後の尿中及びラット糞懸濁液のインキュべーション後の代謝物について探索を行い、既存添加物収載タンニンの新規機能性代謝産物の探索を行った。


31-12

哺乳動物体内におけるカロテノイド異性化反応の探求

真鍋 祐樹
京都大学大学院 農学研究科

 カロテノイドは天然の脂溶性色素であり、食品成分や添加物として広く利用されている。一方、β-カロテンなどのビタミンAへの変換を除けば、ヒト体内における代謝変換、特にcis-trans異性化反応の詳細は明らかになっていない。本研究では、哺乳動物体内におけるカロテノイドのcis型への異性化反応と、その生物活性、特に抗炎症作用への影響を検討した。マウス肝臓S9画分とのインキュベーションにより、ハロシンチアキサンチンやゼアキサンチンなど複数のカロテノイドにおいてcis型への異性化が認められ、肝臓S9画分の加熱変性処理によって異性化反応が抑制されたことから、cis型への異性化が酵素的反応である可能性が示唆された。また、マウスへのアロキサンチン経口投与実験により、生体内におけるcis異性体の生成が確認された。さらに、ミクログリア細胞を用いた抗炎症作用の評価では、cis型アロキサンチンがtrans型よりも強くNO産生を抑制することが示された。以上より、生体内におけるカロテノイドのcis-trans異性化反応の存在が示され、その制御によって食品機能性の向上が期待される。


31-13

ヒアルロン酸オリゴ糖の同時定量法による体内動態特性の解析と小腸免疫系への関与

佐藤 夕紀
北海道大学大学院 薬学研究院

 ヒアルロン酸(HA)は、グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンの2糖の繰返し構造であり、近年、医薬品や化粧品の他、食品や食品添加物としても使用されている。HAは分析が困難で、外因性のHAの体内動態など未解明な点も多い。筆者らはHAオリゴ糖に着目し、HA 4, 6, 8糖の同時定量法を構築した。今回、本定量法により、HAオリゴ糖の体内動態特性を解析するとともに、HA2糖の分析法を構築することを目的とした。HA製剤を実験動物へ経口投与後、HA 4, 6, 8糖の血漿中濃度をLC/MS/MSを用いて定量した。また、HA2糖は不飽和型と飽和型が存在するため、これらの定量条件について種々検討した。経口投与した末梢静脈血漿中HA濃度は、投与後1-2時間にピークが認められ、12時間後には消失した。また、門脈血血漿中HA濃度は2時間まで上昇していることが確認された。また、飽和型、不飽和型HA2糖検出のため、固相抽出カラムを用い、溶離・洗浄条件を検討し、両物質が検出された。一方、夾雑物由来のピークを除去しきれず、本方法により血漿中のHA濃度をHPLCで検出することは難しいことが示唆された。


31-14

食品添加物(酸化防止剤)の没食子酸プロピルが細菌・酵母・ヒトの細胞に与える影響の解析

永田 宏次
東京大学大学院 農学生命科学研究科

 本研究では、酸化防止剤として広く用いられている食品添加物、没食子酸プロピル(PG)の抗菌作用と細胞毒性について評価を行った。PGは、グラム陽性菌(S. aureus subsp. aureusS. mutans)、グラム陰性菌(V. parahaemolyticus)に対して濃度依存的な抗菌活性を示し、それぞれIC50 = 213 μg/mL、140 μg/mL、7.5 μg/mLと、特にグラム陰性菌に対しては極めて低濃度で有効であった。一方、出芽酵母(S. cerevisiae)に対する活性は認められず、微生物種による感受性の違いが明らかとなった。また、ヒトHEK293細胞に対するCCK8アッセイの結果から、PGは比較的高濃度で細胞生存率に影響を与えることが示され、そのIC50は74 μg/mLと算出された。これらの結果は、PGが食品保存料として優れた抗菌効果を持つ一方で、使用濃度によっては細胞毒性の懸念があることを示唆している。


31-15

ファインバブルを用いた新規フレーバー成分抽出手法に関する研究

秦 隆志
高知工業高等専門学校

 ファインバブルとは100 μm未満の微細気泡の国際標準化機構(ISO)規格名である。さらに、直径1~100 μmのバブルをマイクロバブル、1 μm未満のバブルをウルトラファインバブルと呼ぶ。近年、このファインバブルを用いた産業技術が広がりを見せているが、食品分野への展開事例はまだ少ない。本研究ではファインバブルの食品分野への利用に関する研究として、特にウルトラファインバブルを用いた新規フレーバー成分抽出手法に関する研究を実施した。まず、抽出においては水温が関係するため、ウルトラファインバブルの熱安定性について調査した。結果、加温によってウルトラファインバブルは減少(崩壊)するものの、100℃といった高温においてもウルトラファインバブルは作製温度に対し8割程度は維持されることを確認した。次いで、フレーバー成分としてコーヒーからのカフェイン抽出にウルトラファインバブルを用いたところ、低温、低回転数といった一般的には抽出が進まない条件下で優位に進むことが確認された。また、茶葉からのカテキン抽出においても水出しの条件で同様な結果を得た。

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