第25回研究成果報告書(2019年)

研究成果報告書 索引〕 

〔目次〕

Abs.No

研究テーマ

研究者

25-01

既存添加物キトサンの抗酸化作用に関する応用研究 義澤 克彦
武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科

25-02

化学合成による既存添加物の定量用標品および内部標準物質の供給に関する研究 出水 庸介
国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部

25-03

食品添加物の安全性評価のためのヒ素発がん機序の解明 魏 民
大阪市立大学大学院医学研究科分子病理学

25-04

フラボノイド含有食品添加物の肝炎ウイルス感染予防に関する研究 渡士 幸一
国立感染症研究所 ウイルス第二部

25-05

新規エピジェネティック変異原検出系を用いた食品添加物の安全性評価 杉山 圭一
国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部

25-06

食品添加物ミリスチン酸摂取による2 型糖尿病リスク低減 坂根 郁夫
千葉大学大学院理学研究院化学研究部門

25-07

新規誘導体化試薬「Py-Tag」を用いた魚および、水産加工品中の不揮発性アミン類分析法の開発 穐山 浩
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

25-08

新規サル消化管オルガノイドを用いた食品添加物が消化管上皮に与える影響の解析 岩槻 健
東京農業大学 応用生物科学部食品安全健康学科

25-09

安全・高品質な国産サフラン生産拡大のためのアクションリサーチ:アグリセラピーへの応用と地域健康力の向上 髙浦 佳代子
大阪大学総合学術博物館

25-10

毒キノコ成分のプロファイリングと化学分析のための標準品作製 井之上 浩一
立命館大学薬学部

25-11

魚食からのメチル水銀曝露を想定した低濃度メチル水銀曝露時の組織中水銀濃度に対するフラクトオリゴ糖および小麦ふすまの影響に関する基礎的研究

永野 匡昭
国立水俣病総合研究センター 基礎研究部

衛生化学研究室

25-12

機能性関与成分として使用されている食品添加物の実態調査研究 政田 さやか
国立医薬品食品衛生研究所 生薬部

25-13

遺伝子組換え食品の検査に及ぼす食品添加物の複合影響に関する基盤的研究 -第2報- 中村 公亮
国立医薬品食品衛生研究所 生化学部

25-14

加工食品中のアクリルアミド生成を効率的に抑制する乳酸菌アスパラギナーゼの開発と食品添加剤としての乳酸菌アスパラギナーゼの有用性を検証する 若山 守
立命館大学 生命科学部生物工学科

25-15

甘味料(グルコース、スクラロース)の脂肪嗜好性調節作用の検討とその機序の解明 森本 恵子
奈良女子大学研究院生活環境科学系生活健康学領域

25-16

肝前がん病変の生物学的特徴を考慮したfuran 類香料の肝発がん性評価の精緻化 高須 伸二
国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部

25-17

魚類食中毒シガテラの原因物質シガトキシン類分析のための標準試料作製検討 大城 直雅
国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部

25-18

キチンの異常蓄積を作用機序とする食品添加物ε- ポリ-L- リジンの抗真菌活性発現機構の解明 井上 善晴
京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻

25-19

ヒト由来クルクミン代謝菌の単離に向けた化学的アプローチ 丹羽 利夫
修文大学健康栄養学部

25-20

ペクチンの多糖構造と消化管機能調節機構の相関 矢部 富雄
岐阜大学応用生物科学部

25-21

細菌性スーパー抗原毒素の生体内影響の発現に対するポリフェノール系既存食品添加物の制御とその作用メカニズムの解明 島村 裕子
静岡県立大学食品栄養科学部

25-22

抗糖化作用を有するエラジタンニンの生体利用性に関する研究 伊東 秀之
岡山県立大学保健福祉学部栄養学科

25-23

生活習慣病の分子標的制御に資する甘味料の効果とその背景機構に関する研究 煙山 紀子
東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科

25-24

タンパク質食材の安定性を向上させる新規食品添加物の開発 村岡 貴博
国立大学法人 東京農工大学

25-25

アミロースの立体構造制御による香気成分の放出制御及び固体NMR 測定を利用した放出制御機構の解明 植田 圭祐
千葉大学大学院薬学研究院

25-26

植物由来香料成分相互作用タンパク質の同定とその香料安定化効果の検証 松井 健二
山口大学大学院創成科学研究科(農学系)

25-27

精油中に含まれるフラノクマリン類の分析と品質評価 堀江 正一
大妻女子大学家政学部食物学科

25-28

熟成古酒からの劣化臭除去に向けた金ナノ粒子の吸着特性の解明 村山 美乃
九州大学大学院理学研究院化学部門

25-29

表面筋電図法を用いた飲み込みやすさの客観的評価方法の確立―五基本味を用いた嗜好性と飲み込みやすさの関係 朝倉 富子
東京大学大学院農学生命科学研究科日清食品寄付講座「味覚サイエンス」

25-01

既存添加物キトサンの抗酸化作用に関する応用研究

義澤 克彦、竹之内 明子
武庫川女子大学 生活環境学部 食物栄養学科

劇症肝炎は短期間で広汎な壊死が生じ(急性肝障害)、進行性の黄疸、出血傾向及び肝性脳症などの肝不全症状が出現する病態である。急激に病態が進行し、発症後の即座の治療開始により病態の進行を遅らせることが重要である。本研究では、ヒト劇症肝炎でみられる急性肝障害と同様に、酸化ストレス発現が病態に関与する2種類の急性肝障害ラットモデルを作成し、既存添加物であるキトサンの抗酸化機能による病態抑制効果の有無につき検証した。緑茶抽出物誘発モデル並びに四塩化炭素誘発モデルに経口吸収性のあるキトサンオリゴ糖を投与した。その結果、キトサンオリゴ糖はこれらの肝障害モデルの病態を軽減させることが明らかとなり、キトサンオリゴ糖の抗酸化作用が関与することが示唆された。


25-02

化学合成による既存添加物の定量用標品および内部標準物質の供給に関する研究

出水 庸介
国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部

既存添加物の品質確保のためには、高精度な分析・評価手法を開発することで成分規格試験を確立することが重要である。本研究では、従来の分析化学の手法では含量規格の設定が困難な添加物について、指標成分と同一の若しくは代替物質の定性用又は定量用標準品の全合成ルートを確立することで新たな分析法の開発を行い、簡便且つ精確な規格試験法の設定を具現化することを目的とした。本年度は、カロテノイド系色素であるリコペン(lycopene)、クチナシ果実等に含まれるクロシン(crocin)、ウコン等に含まれる色素であるクルクミン(curcumin)を対象とした合成ルートの確立を行った。


25-03

食品添加物の安全性評価のためのヒ素発がん機序の解明

魏 民
大阪市立大学大学院 医学研究科 分子病理学

食品あるいは食品添加物に由来するヒ素のヒトへの安全性を評価するにあたり、Dimethylarsinic acid (以下、DMA)などの有機ヒ素化合物による発がん性のメカニズム解明は重要不可欠な課題である。これまでに我々は無機ヒ素化合物の主な体内代謝物である DMA を胎仔期に曝露した雄性マウスでは、その成熟後(84 週齢)に肺がんを生じることを明らかにしている。また、同様に DMA 経胎盤曝露させた雄性新生仔マウスの肺において、ヒストン H3K9me3 の有意な増加が生じていることを報告している。したがって、DMA 経胎盤曝露による肺発がん機序にエピゲノム異常の関与が強く示唆されている。しかし、その標的遺伝子および遺伝子発現変動に関する知見は十分でない。そのため本研究では DMA 経胎盤曝露させた雄性新生仔マウス肺におけるヒストンH3K9me3 の標的遺伝子および遺伝子発現変動について検討を行った。さらに DMA経胎盤曝露 6 週齢雄性マウス肺における影響についても検討を行った。妊娠期の雌性CD-1 マウスに DMA を 0、200 ppm の用量で胎齢 8 日から 18 日までの 10 日間飲水投与し、生まれた雄性新生仔および 6 週齢マウスより肺を回収し解析に供した。マウス新生仔肺におけるヒストン H3K9me3 の ChIP-seq 解析を実施した結果、無処置群と比較して DMA 経胎盤曝露群の X 染色体領域で H3K9me3 を標的とする領域が多くみられた。さらにパスウェイ解析の結果、Fibrosis の有意な増加、糖代謝の亢進および脂質代謝の抑制が示唆された。さらに、6 週齢マウス肺における細胞増殖能解析の結果、DMA 経胎盤曝露群で有意な増加がみられた。以上より、DMA 経胎盤曝露後6 週経過マウスにおいても、細胞増殖能の亢進がみられたことから、DMA 経胎盤曝露 マウス肺発がんには胎児期 DMA 曝露によって生じたエピゲノム記憶の関与が示唆された。


25-04

フラボノイド含有食品添加物の肝炎ウイルス感染予防に関する研究

渡士 幸一
国立感染症研究所 ウイルス第二部

C 型肝炎ウイルス(HCV)は宿主肝細胞に感染後、その細胞機能を再構築し、感染増悪および病態悪化を引き起こす。その一例として HCV 感染は肝細胞内の脂質蓄積を引き起こし、この蓄積脂質は子孫ウイルス産生の足場として利用されるだけでなく、肝がん発症のリスクファクターともなる。本研究では HCV 感染培養系を用いて、肝細胞でのHCV 産生を抑制するフラボノイドを同定した。これらの化合物は芳香族炭化水素受容体(AhR)とその下流遺伝子チトクロム P450 1A1 (CYP1A1)誘導に依存した脂肪滴産生を阻害し、これによって肝細胞内脂肪滴を退縮させ、HCV 産生効率を低下させると考えられた。また本研究で、これらの活性に重要な化学構造を同定した。以上の結果は、フラボノイドに肝細胞の HCV 産生ポテンシャル低下作用があることを示唆するものであり、フラボノイド誘導体を用いた肝炎ウイルス関連病態発症の予防および制御に有用な知見を提供するものである。


25-05

新規エピジェネティック変異原検出系を用いた食品添加物の安全性評価

杉山 圭一
国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部


既存添加物コチニール色素の主要成分であるカルミン酸はアントラキノン誘導体であるが、アントラキノン誘導体のアリザリンについてはエピジェネティック制御を撹乱する可能性が指摘されている。本研究では、エピジェネティック制御下にある酵母凝集遺伝子FLO1の発現レベルを指標としたバイオアッセイ系「FLO assay」を用いて、カルミン酸のエピジェネティック制御におよぼす影響を検討した。FLO assay による解析の結果、5-20 µM カルミン酸存在下ではFLO1 レポーター活性が野生型酵母およびヒト DNA メチル化酵素遺伝子形質転換酵母の両酵母細胞において有意に上昇することが明らかとなった。野生型酵母においては凝集レベルも 10-40 µM カルミン酸存在下において促進される傾向を認めた。以上の結果は、エピジェネティック制御に対するカルミン酸の影響を否定するものではない。但し、カルミン酸のエピジェネティックな毒性作用を明確にするには、今後動物細胞を用いた追加試験も必要と考える。

25-06

食品添加物ミリスチン酸摂取による2 型糖尿病リスク低減

坂根 郁夫
千葉大学大学院理学研究院化学研究部門

我々は、ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)の アイソザイムがインスリン受容体のシグナル伝達を正に制御しており、更に、2型糖尿病患者の骨格筋におけるDGK タンパク質量の低下が本症の増悪化に連関していることを報告してきた。更に、長鎖飽和脂肪酸の一種、ミリスチン酸をマウス筋管細胞に添加することで DGK の総量が増加し、筋管細胞(C2C12 細胞)での DGK 依存性のグルコース取り込みを促進すること、一方で、パルミチン酸では同様な効果は認められないことを明らかにしてきた。そこで本研究では、ミリスチン酸添加による DGK タンパク質量増加のより詳細な機構解明を試みた。タンパク質翻訳阻害剤であるシクロヘキシミドとミリスチン酸を同時に C2C12 マウス筋管細胞に添加し、一定時間経過における DGK タンパク質量を測定したところ、8, 12 時間後においてミリスチン酸添加により DGK 量の有意に増加することが明らかになった。一方、パルミチン酸添加ではそのような効果は確認されなかった。また、ミリスチン酸添加による DGK や DGK などの他のタンパク質への影響を確認したが、変化は生じなかった。更に、糖尿病に関連のある他の組織細胞に対してもミリスチン酸添加を行ったが、筋管細胞のような DGK 量の増加は確認できなかった。以上より、ミリスチン酸による DGK 量の増加は、タンパクの安定化による寄与が大きく、またその効果は脂肪酸(ミリスチン酸)、タンパク質(DGK )、細胞種(筋管細胞)に特異的であることが示唆された。


25-07

新規誘導体化試薬「Py-Tag」を用いた魚および水産加工品中の不揮発性アミン類分析法の開発

穐山 浩
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

魚及び水産加工品中の不揮発性アミン類の分析法として、一級アミンに特異的に反応する誘導体化試薬「Py-Tag」を用いた LC-MS/MS 法を検討した。不揮発性アミン類7 種(ヒスタミン(Him)、チラミン(Tym)、プトレシン、カダベリン(Cad)、スペルミジン、スペルミン及びフェネチルアミン(Pea))の誘導体条件と LC-MS/MS の測定条件について検討した結果、Him、Tym、Cad 及び Pea(不揮発性アミン類 4 種)について良好に測定が可能であった。不揮発性アミン類 4 種の検量線の相関係数は0.999 以上であり、良好な直線性が認められた。検量線の定量下限濃度は、Him、Tym及び Pea で 0.2 ng/mL、Cad で 1 ng/mL であった。食品試料のトリクロロ酢酸抽出液を希釈後、誘導体化を行い LC-MS/MS で測定する分析操作を検討した。試料マトリックスが不揮発性アミン類 4 種の誘導体化物の測定に与える影響を検討したところ、試料マトリックスの測定への顕著な影響は認められなかった。また、試料マトリックス共存下における不揮発性アミン 4 種の誘導体化効率は良好(94~104%)であった。本分析法は、クリーンアップ操作を必要とせず、希釈操作のみで分析可能であることから、魚及び水産加工品中の不揮発性アミン類 4 種を迅速かつ簡便に分析する分析法として有用であると考えられる。


25-08

新規サル消化管オルガノイドを用いた食品添加物が消化管上皮に与える影響の解析

岩槻 健
東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科

食品添加物として、サッカリン、アスパルテーム、スクラロースなどの高感甘度甘味料が様々な食品や飲料に使われている。これらの甘味料は口腔内では甘味受容体に結合し甘味を呈するが、消化管にどのような影響を与えるかは分かっていない。本研究ではヒトの消化管モデルとしてサルの消化管培養細胞を用い、食品添加物である高感甘度甘味料が消化管上皮細胞に及ぼす影響について解析することを目的としている。まず、京都大学霊長類研究所から分与されたサル消化管上皮細胞を用いて消化管オルガノイドの作製を試み、小腸オルガノイドを作製した。同オルガノイドを未分化状態から分化した状態へと即時切り替えられる条件を探索したところ、Wnt などの増殖因子を培地から除くことにより細胞分化が進むことが分かった。今後、スクラロース添加による幹細胞機能の変化をオルガノイドで調べる予定である。


25-09

安全・高品質な国産サフラン生産拡大のためのアクションリサーチ:アグリセラピーへの応用と地域健康力の向上

髙浦 佳代子
大阪大学総合学術博物館

アヤメ科のサフラン Crocus sativus L.の雌蕊は古来医薬品や香辛料として珍重されてきた経済性の高い農作物である。日本国内では大分県竹田市が一大産地として知られており、諸外国の露地栽培とは異なる独自の室内栽培法(竹田式栽培法)により高品質なサフランを産出してきたが、高齢化や安価な海外産品の流入によりその生産量が激減している。本検討では、竹田式の成立過程を明らかにすることでその技術保存の意義を明らかにし、その篤農技術を記録・マニュアル化することで当該手法による高品質かつ安全性の担保された国産サフランの供給量増大を促進することを目的とした。初年度に引き続き現地調査を行い、その技術の成立過程を調査した結果、竹田式栽培法が地域連携の中で培われたことを明らかにした。また、国内外のサンプルを蒐集し、比較形態学的な観点から竹田産サフランの高品質性を明らかにした。さらに、現在は栽培における地域の環境特性を検証するため、データロガーによる栽培環境条件の記録・評価を行っている。これらの成果を発信し、意見交換することで技術継承と栽培奨励につなげていきたいと考えている。


25-10

毒キノコ成分のプロファイリングと化学分析のための標準品作製

井之上 浩一
立命館大学薬学部

本研究では、毒キノコ成分のプロファイリングを目的として、高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)を用いた全回収型単離精製に基づく、ライブラリー構築を目指す。今回、毒キノコ中毒で最も多い「カキシメジ、Omphalotus japonicus」を対象とした。カキシメジの毒性成分は、イルジン S と言われており、HPLC 分析の結果、保持時間 12.6 分で検出することができた。その後、HSCCC の二相溶媒系をヘキサン / 酢酸エチル / メタノール /水 (1/5/1/5,v/v/v/v)と決定し、99%純度以上のイルジン S を得ることができた。その後、系統的に二相溶媒系を変更し、各成分単離を行った結果、19 分画を得ることが達成できた。以上より、同様の分析プロトコールを行うことで、様々な毒キノコ成分のプロファイリングと標準品作製が達成できるものと思われる。


25-11

魚食からのメチル水銀曝露を想定した低濃度メチル水銀曝露時の組織中水銀濃度に対するフラクトオリゴ糖および小麦ふすまの影響に関する基礎的研究

永野 匡昭1、藤村 成剛2
1 国立水俣病総合研究センター 基礎研究部 衛生化学研究室
2 国立水俣病総合研究センター 研究総合調整官

メチル水銀(MeHg)は微量ながら自然界に広く存在する神経毒性物質である。そのため、魚介類には多少なりとも MeHg を含んでいる。したがって、現代の MeHg ばく露は、主に魚介類の摂食を介したものであり、MeHg に対して感受性が高い胎児への有害な影響を防止することを目的として妊婦等を対象に魚介類の摂取に関する勧告が多くの国々で行われた。これまでに我々は、小麦ふすまやフラクトオリゴ糖が高濃度のMeHg 単回経口投与後の組織中水銀濃度を有意に減少させることを明らかにした。本研究では現代の MeHg ばく露を想定し、低濃度の MeHg 反復投与時の組織中水銀濃度に対するフラクトオリゴ糖および小麦ふすまの影響について雌性マウスを用いて検討した。その結果、小麦ふすまやフラクトオリゴ糖は MeHg 反復投与時の水銀の排泄を促し、組織中水銀濃度を減少させることが明らかとなった。これらの結果から、小麦ふすまやフラクトオリゴ糖の日常的な摂取は、MeHg にばく露されたヒトや動物等において有用である可能性が示唆された。


25-12

機能性関与成分として使用されている食品添加物の実態調査研究

政田 さやか
国立医薬品食品衛生研究所 生薬部

昨年度に続き、機能性表示食品の機能性関与成分として届出られている食品添加物を調査した結果、報告済みの12成分が安全性に問題のない用量で使用されていることが確認できた。また、平成30年4月から原則公開となった機能性関与成分の分析法と食品添加物公定書の試験法を比較した結果、機能性表示食品の分析法が概ね、高度で精密な分析法が設定されていることが確認できた。さらに、市場流通品を対象として質量偏差試験、崩壊性試験、溶出試験を実施した結果、半数が医薬品としての試験に適合し、残りも医薬品に匹敵する品質を保持していることが確認できた。以上の結果から、食品添加物を機能性関与成分として使用する機能性表示食品では、添加物としてよりも高精度の定量試験法が設定され、一定の安全性と品質が確保されている現状が明らかになった。


25-13

遺伝子組換え食品の検査に及ぼす食品添加物の複合影響に関する基盤的研究
-第 2 報-

中村 公亮
国立医薬品食品衛生研究所 生化学部

我が国では、安全性未審査の遺伝子組換え(GM)食品の食品への混入は、食品衛生法により認められていない。混入が認められた場合には、食品の回収が必要になるなど社会的な影響は大きい。従って、混入の有無を判断する検査は精確に行われる必要がある。検査は、厚生労働省から通知されている試験法に基づいて、食品から抽出されるDNA を鋳型にリアルタイム PCR を用いて試験することになっている。そのような中で、ドライフルーツは検査不能になることが国内の検査機関から報告された。本研究では、その検査結果を科学的に精査することを試みた。先ず、市販のパパイヤやトマトのドライフルーツ製品を購入し、試験に供したところ、亜硫酸塩が添加されたドライフルーツ特異的に検査不能となることが判った。検体から DNA を精製せずに、抽出 DNAを直接リアルタイム PCR 試験に供する「直接試験法」や、試験反応液に供する鋳型DNA 量を増やす「大容量 DNA 検出法」によっても、結果は改善されなかった。以上、ドライフルーツ製品中の DNA は分解され、リアルタイム PCR で検出可能な DNA の残存量は極めて低いことが示唆された。本研究よりドライフルーツを対象とした GM 試験には、DNA の回収量を高めた新たな DNA の抽出精製法や、より高感度な新たなDNA の検出法が必要であることが示唆された。


25-14

加工食品中のアクリルアミド生成を効率的に抑制する乳酸菌アスパラギナーゼの開発と食品添加剤としての乳酸菌アスパラギナーゼの有用性を検証する

若山 守
立命館大学生命科学部生物工学科

アスパラギナーゼ (ASNase) はアスパラギンを加水分解し、アスパラギン酸とアンモニアを生じる反応を触媒する酵素である。ASNase は急性リンパ性白血病の治療薬として利用されている一方、食品中アクリルアミド低減剤として注目されている。本研究室では、食品微生物である乳酸菌 ASNase に焦点を当てた。現在乳酸菌 ASNase に関する報告は極めて少ないため、まずは準網羅的に乳酸菌 ASNase の知見を得ること を目的とした。本研究では、元株での ASNase 活性が最も高かった Streptococcus thermophilus 及び生育の最も良かった Lactobacillus plantarum 由来 ASNase を対象に、大腸菌でタンパク質発現を行なった。各酵素を精製した後、それぞれの諸性質を調べ、既報の ASNase との比較を行なった。また、食品利用に向けて、乳酸菌を宿主とした発現系を構築するために、乳酸菌由来プラスミド DNA をスクリーニングし、乳酸菌大腸菌間シャトルベクターを構築した


25-15

甘味料(グルコース、スクラロース)の脂肪嗜好性調節作用の検討とその機序の解明

森本 恵子
奈良女子大学研究院 生活環境科学系 生活健康学領域

肥満や脂質異常症などと関連が深い高脂肪の食事が蔓延する現代社会では、脂肪嗜好性の適切な調節が重要であるが、未だ不明な点が多い。本研究ではこれまでデータが乏しかった日本人男女を対象に口腔内脂肪酸感受性、脂肪嗜好性における性差、女性の月経周期性変化を検討し、舌への脂肪および甘味刺激がこれら指標に及ぼす影響を調べた。さらに、女性ホルモンであるエストロゲンが脂肪嗜好性の調節に関与する可能性について動物実験にて検討した。
健康な若年男性 13 名と本学女子大生 11 名を対象とし、男性は任意の 1 日、女性は、月経期、排卵前期、黄体中期の 3 期に実験を行った。口腔内オレイン酸検知閾値は全口腔法・3 肢強制選択法により測定し、脂肪嗜好性は 4 種の濃度に無塩バターを添加したチーズを用いて評価した。基礎レベルの口腔内オレイン酸感受性や脂肪嗜好性に性差はなく、女性の月経周期に依存した変化も見られなかった。しかし、舌への脂肪刺激により男性では脂肪酸感受性低下と脂肪嗜好性増加が生じたが、女性では変化がなかった。このような脂肪嗜好性増加はスクロース刺激後にも男性でのみ認められた。次に、卵巣摘出による閉経モデルラットへのエストロゲン補充は脂肪嗜好性を低下させ脂肪摂食を強力に抑制したが、舌の脂肪酸受容体 CD36 発現に影響しないことが判明した。
以上より、男性では舌への脂肪・甘味刺激により、口腔内脂肪酸感受性低下と脂肪嗜好性増加が引き起こされ、その後の脂肪摂取を左右する可能性が示唆されたが、女性では変化が見られなかった。これは脂肪嗜好性の調節におけるエストロゲンの役割を示し ている可能性がある。また、甘味料が脂肪嗜好性や脂肪摂取量に影響を与える可能性を示すデータでもあり、今後の詳細な作用機序の解明が期待される。


25-16

肝前がん病変の生物学的特徴を考慮したfuran 類香料の肝発がん性評価の精緻化

高須 伸二
国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部

Furan 類香料の基本骨格である furan はげっ歯類において肝発がん性を示す。Furan の肝発がん過程における遺伝毒性機序の関与を検討した結果、furan は肝臓中のレポーター遺伝子突然変異頻度に影響を与えないにも関わらず、GST-P 陽性細胞巣を増加させることが報告されている。さらに、我々は遺伝毒性肝発がん物質であるdiethylnitrosamine により生じた GST-P 陽性細胞巣は DEN の休薬後に増加するのに対して、furan 誘発の GST-P 陽性細胞巣は furan 休薬後に減少することを見出した。本研究では、furan 類香料の投与によって生じる生物学的特徴が異なる GST-P 陽性細胞を峻別する手法を確立するために、退縮する GST-P 陽性細胞が furan 類香料に共通して認められるかを検討した。6 週齢の雄性 F344 ラットに 2-furan (2-MF)又は 2- pentylfuran (2-PF)をそれぞれ 30 mg/kg 体重/日又は 100 mg/kg 体重/日の用量で 13 週間強制経口投与した。その後、7 週間の休薬期間を設けた。投与終了後及び休薬期間後に肝臓を摘出し、GST-P 陽性細胞巣の定量的解析を行った。その結果、投与終了後の 2-MF および 2-PF 投与群の GST-P 陽性細胞巣の数及び面積は何れも対照群に比して有意な高値を示し、休薬後にその何れもが減少した。以上より、退縮する GST-P 陽性細胞が含まれていることは furan 類が誘導する GST-P 陽性細胞巣に共通の性質であると考えられた。


25-17

魚類食中毒シガテラの原因物質シガトキシン類分析のための標準試料作製検討

大城 直雅
国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部

世界最大規模の魚類による食中毒の原因物質であるシガトキシン類(CTXs)は、天然試料中の濃度が極微量であるため、入手は極めて困難である。CTXs の標準物質として、バラフエダイおよびニセゴイシウツボの筋肉を材料として魚肉標準物質(シガテラ毒)を調製した。本標準物質には沖縄・奄美地方で発生するシガテラ魚類食中毒の主要 な原因物質である CTX1B, 52-epi-54-deoxyCTX1B および 54-deoxyCTX1B の3 物質を含有しており、CTXs 分析の際の標準物質として活用が可能である。なお、本標準物質は地方衛生研究所等に無償提供する予定である。


25-18

キチンの異常蓄積を作用機序とする食品添加物ε- ポリ-L- リジンの抗真菌活性発現機構の解明

井上 善晴
京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻

出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae を真菌のモデル生物として、食品添加物 εポリ-L-リジン(ε-PL)の抗真菌活性について検討を行った。S. cerevisiae の細胞壁合成に不全が見られる Mpk1-MAP キナーゼ経路の欠損株は、ε-PL に対し耐性を示した。しかしながら、細胞壁ストレスセンサーを欠損させた変異株は ε-PL 耐性を示さなかった。また、ε-PL 処理によりキチン合成の亢進が認められ、キチン合成酵素の欠損株では ε-PL による抗菌活性が抑制された。さらに、ε-PL 処理により Mpk1-MAP キナーゼ経路の活性化が起こった。この活性化は細胞壁ストレスセンサー欠損株でも認められた。これらのことから、ε-PL は既知のシグナル伝達経路とは異なる経路で Mpk1-MAP キナーゼ経路を活性化し、キチン合成の異常亢進により抗菌活性を発揮していると考えられた。


25-19

ヒト由来クルクミン代謝菌の単離に向けた化学的アプローチ

丹羽 利夫
修文大学健康栄養学部

我々はこれまでに、クルクミン(1)のヒト由来腸内細菌代謝産物を精製・単離し、その化学構造が 3-hydroxy-1,7-bis(3,4-dihydroxyphenyl)heptane (2)であることならびに、その 2 級水酸基の絶対立体構造が 3R と報告される rubranol と対称構造を持つことを明らかにした。しかしながら、その立体選択性がどのような機構に基づいて行われているか、あるいは 1 から 2 へ、どのような代謝経路を経て進行しているかについては不明であることから、これらの課題解明のためのクルクミン代謝関連微生物の単離を行うこととした。そのためのアプローチとして、ヘキサハイドロクルクミンをはじめとする(推定)代謝中間体を化学合成により調製し、ヒト由来腸内細菌群による代謝について検討を行い、テトラハイドロクルクミン、ヘキサハイドロクルクミン、オクタハイドロクルクミンおよび、テトラハイドロクルクミンの脱メチル化物いずれも 2 に導かれることを明らかにした。さらにこのような結果から「クルクミンからヘキサハイドロクルクミンを与える微生物」、および「テトラハイドロクルクミンの脱メチル化物を基質とし 2 を与える微生物」を条件として菌の単離を行った。その結果、「テトラハイドロクルクミンの脱メチル化物を基質とする微生物」をコロニーとして見出した。


25-20

ペクチンの多糖構造と消化管機能調節機構の相関

矢部 富雄
岐阜大学応用生物科学部

水溶性食物繊維として知られるペクチンは、ガラクツロン酸を主鎖とし複数の中性糖からなる側鎖をもつ。これまでに、ペクチンを摂取すると消化吸収されないペクチンが小腸を通過している間、その多糖構造特異的に腸管上皮細胞に直接的に作用し、絨毛の形態を変化させて栄養吸収上皮細胞が存在する表面積を増加させることが報告されている。これは、消化管における栄養素の吸収効率が、非栄養素であるペクチンの作用により調節されている可能性を示している。そこで本研究では、生理的な消化管を再現する実験モデルとして、マウス腸管オルガノイドを構築し、特殊な多糖構造が特徴のシュガービートペクチンを用いて、腸管オルガノイドへの影響を他のペクチンと比較した。また、シュガービートペクチンの湿熱処理により乳化性、乳化安定性を向上させた改質ペクチンによる影響も検討することで、多糖構造と機能との相関について検討した。そして、多糖構造が異なるシトラスとシュガービート由来のペクチンでは、腸管オルガノイドの成長に対して正反対の反応性を有している可能性が高いことが示唆された。一方、シュガービートペクチンの湿熱処理によって乳化安定性が向上したペクチンでは、未改質品の特性が薄れ、シトラスペクチンに近い特性を示すようになることが示唆された。今後は、この作用メカニズムについて腸管オルガノイドを用いて分子レベルで解析していきたい。


25-21

細菌性スーパー抗原毒素の生体内影響の発現に対するポリフェノール系既存食品添加物の制御とその作用メカニズムの解明

島村 裕子
静岡県立大学 食品栄養科学部

ブドウ球菌エンテロトキシン A (staphylococcal enterotoxin A; SEA) は、黄色ブドウ球菌が産生するスーパー抗原毒素であり、食中毒や毒素性ショック症候群等の重要な病原因子である。本研究では、SEA 誘導性遺伝子に対する食品添加物 (緑茶抽出物製品「Teavigo®」(テアビゴ)) の影響について、real time RT-PCR および DNAマイクロアレイを用いて解析した。また、SEA 誘導性 STAT3 のリン酸化に及ぼすテアビゴの影響を調べた。さらに、pH の変動およびタンパク質 (血清アルブミン) 共存下におけるテアビゴと SEA の相互作用、また EGCG と反応させた SEA と STAT3を活性化する gp130 受容体との相互作用について解析した。その結果、マウス脾臓細胞への SEA の暴露は、Th1 細胞の応答を顕著に誘導することが明らかとなった。それに対して、テアビゴは、SEA により発現が誘導された炎症のメディエーターやネクロトーシス関連炎症遺伝子 (IL-12p40、ISG15、IRF3、IFN-、ZBP1 等) の発現量をダウンレギュレートさせた。これらの結果より、テアビゴは、SEA によって誘導された Th1 細胞の応答に対して負のフィードバック調節作用を有する可能性が示唆された。SEA 誘導性 STAT3 のリン酸化に対するテアビゴの影響を検討したところ、テアビゴは、STAT3 のリン酸化を有意に抑制し、テアビゴの主成分である EGCG のガロイル基の 3位の水酸基と SEA が相互作用することにより、SEA が誘導する STAT3 のリン酸化を抑制していることが示唆された。また、各種 pH (pH4.0~8.0) 条件下および血清アルブミンの共存下においても、SEA とテアビゴの相互作用が認められたことから、生体内においても、その相互作用が維持される可能性が示唆された。さらに、proteinthermal shift assay により、EGCG と SEA が相互作用することで、gp130 受容体と SEA との結合が阻害され、STAT3 のリン酸化が抑制されることを明らかにした。本研究により、SEA 誘導性 JAK-STAT3 シグナル活性化におけるテアビゴの抑制メカニズムの一端を解明した。本研究の成果および今後の更なる研究により、ポリフェノール系既存食品添加物を用いた SEA に起因する各種疾病に対する制御法への応用が期待される。


25-22

抗糖化作用を有するエラジタンニンの生体利用性に関する研究

伊東 秀之
岡山県立大学保健福祉学部栄養学科

既存添加物として使用されているピメンタ、メラロイカ、ユーカリ葉などのユーカリ属植物には、エラジタンニンが多く含有されている。我々はエラジタンニンであるgeraniin の生体内代謝産物として、7種の benzopyrane 誘導体を単離、それらの構造を解明し、報告した。それら代謝産物はいずれもエラジタンニンが腸内細菌によって加水分解を受けた後、エラグ酸を経て産生されることも明らかにし、それら代謝産物のうち、urolithin A などは、代謝を受ける前のエラジタンニンやエラグ酸よりも強力な抗酸化活性を有し、さらに urolithin A は抗炎症活性も示すことも見出している。
既存添加物に含まれるエラジタンニンは、gallagyl 基や valoneoyl 基など、先のgeraniin の分子内には存在しないアシル基を有するエラジタンニン、大環状型エラジタンニンや C-配糖型エラジタンニンなどは、生体内で新たな代謝産物を産生する可能性が高い。さらに urolithin A をはじめとするエラジタンニン由来の機能性代謝産物のさらなる生体内挙動については今までに全く報告がない。本研究では、まず生体内代謝産物の生体内挙動を明らかにするために、urolithin A の経口投与後の血中および尿中排泄について検討を行った。
Urolithin A を 1 または 10 mg を SD 系雄性ラットに経口投与し、投与 24 時間までの血漿を経時的に採取した。また、投与後 48 時間までの糞および尿の採取も行った。採取したサンプルは脱抱合後、酢酸エチルにより抽出、乾固し、調製したサンプルを逆相系 HPLC および HPLC-MS/MS にて urolithin A の定量を行った。その結果、Urolithin A は血漿中ではほとんどが抱合体として、尿中ではほとんどがフリー体として存在していた。また、最高血中濃度到達時間は投与後 3~6 時間で、尿中排泄は投与 48 時間後においても排泄されていることから、比較的長時間体内に滞留していることが示された。これらの結果から、urolithin A は吸収後、腸肝循環し、腎臓で脱抱合をされてから尿中に排泄されていることが示唆された


25-23

生活習慣病の分子標的制御に資する甘味料の効果とその背景機構に関する研究

煙山 紀子
東京農業大学 応用生物科学部 食品安全健康学科

本研究の目的は、動物モデルを用いて、甘味料が生活習慣病の病態と背景メカニズムに及ぼす影響を解明することである。本研究は、生活習慣病として非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と炎症性腸疾患(IBD)を、甘味料としてラカンカ抽出物(ラカンカ)を、NASH 動物モデルまたは大腸炎モデルとしてラットまたはマウスにおけるコリン欠乏メチオニン低減アミノ酸(CDAA)食連続投与モデルとデキストラン硫酸(DSS)投与大腸炎モデルを、それぞれ用いて以下の 3 実験を実施した。また、本年度はラカンカ抽出物の栄養素・元素分析ならびに、主な活性成分であるラカンカ抽出物としての抗酸化能を測定した。
実験 1 では、6 週齢の Fischer 344(F344)系雄性ラットに、CDAA 食または基礎食を、2週間ないし6ヶ月間給餌するとともに、ラカンカ抽出物(サンナチュレRM50)を 0・0.6・2・6%%の濃度で純水に溶解して混水投与した。飼育期間中は一般状態を観察し、体重・摂餌量・摂水量を測定した。動物は、投与期間終了後に解剖し、剖検・臓器重量測定・血液生化学的検査・病理組織学的検査および遺伝子発現解析を実施した。その結果、基礎食群では2週間および 6 ヶ月間の飼育においてラカンカの投与に起因した毒性学的変化を認めなかったのに対し、CDAA 食投与群では、2週間から肝細胞傷害のバイオマーカーである血漿中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性の上昇、肝臓の退色、病理組織学的に肝細胞の脂肪化・炎症性細胞の浸潤・軽度の線維化・肝細胞のアポトーシス増加が認められた。これに対し、ラカンカの飲水投与により血漿中 AST および ALT 活性の低下傾向、肝細胞のアポトーシスの減少が認められた。さらに、6 ヶ月間では、顕著な肝表面の粗造化および病理組織学的に架橋形成を伴う線維化が認められた。これに対し、ラカンカの飲水投与により血漿中 AST 活性は 2%で、ALT 活性は 0.6%および2%で有意に低下した。以上の結果より、ラカンカ抽出物は、F344 系ラットにおけるCDAA 食誘発 NASH 様病態を抑制するものと示唆された。
実験 2 では、C57BL6/J 系雄性マウスに改変 CDAA(mCDAA)食を投与して誘発した NASH 様病態に対するラカンカの効果を検討するため、ラカンカ(サンナチュレ RM50)を 0・0.2・0.6・2%の濃度で純水に溶解して混水投与した。投与期間は7 カ月間とし、動物は、投与期間終了後に解剖し、剖検・臓器重量測定・血漿生化学的検査および病理組織学的検査を実施した。その結果、基礎食群ではラカンカの投与に起因した毒性学的変化を認めなかった。病理組織学的検査において、mCDAA 食群では、脂肪化、線維化、炎症といった NASH 様病態がみられた。ラカンカは投与濃度に依存した程度の肝線維化と星細胞活性化の減弱を示した。また、ラカンカ投与により肝臓中中性脂肪とコレステロール蓄積の低下が認められ、ラカンカは、mCDAA食誘発NASH様病態に対する脂質代謝の変化を介した機能性が示唆された。
実験 3 では、C57BL6/J 系雄性マウスにマウスデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を飲水間歇投与(1 週間おき)して誘発した大腸炎病態に対するラカンカ抽出物の効果を検討するため、ラカンカ(サンナチュレ RM50)を 0・0.15・0.5・1.5%の濃度で基礎食に混和して 5 週間混餌投与した。動物は、投与期間終了後に解剖し、剖検・臓器重量測定および病理組織学的検査を実施した。その結果、粘膜上皮の炎症性変化として、炎症性細胞浸潤・腸陰窩の傷害・粘液細胞の減少・E-cadherin の染色性増加・マクロファージ数の増加が観察された。これに対し、ラカンカの混餌投与により、いずれも軽減ないし抑制効果を示し、PCNA 染色では、ラカンカの混餌投与により大腸粘膜の陽性細胞からなる範囲(細胞増殖帯)の増加が認められた。以上の結果より、ラカンカ抽出物は、C57BL6/J 系マウスにおける DSS 誘発大腸炎モデルの病態を軽減ないし抑制するとともに、粘膜の修復にも効果を有する可能性が示唆された。
実験 4 では、1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)を用いた DPPH ラジカル消去活性評価法を利用し、実際に今回の実験1から 3 で使用したラカンカ抽出物を用いてラカンカの抗酸化作用の確認を行った。また比較対照として、抗酸化物質として知られているトコフェロール,アスコルビン酸を使用した。その結果、上記のラカンカ抽出物は、トコフェロールおよびアスコルビン酸と比較して弱いながらも、DPPH ラジカル消去活性を示し、モグロシドⅤとほぼ同程度の抗酸化作用を有することが明らかになった。
以上の結果より、CDAA 食によるラット NASH 様病態に対するラカンカの効果については、NASH 様病態に対し、抑制作用を有する可能性が示唆された。mCDAA 食によるマウス NASH 様病態に対するラカンカの効果については、mCDAA 食によってマウスに引き起こされる肝線維化に対し、抑制作用を有する可能性が示唆された。DSS誘発マウス大腸炎に対するラカンカの効果については、大腸炎病態に対し、軽減ないし抑制効果を有する可能性が示唆された。さらに、DPPH ラジカル消去活性評価法によりラカンカ抽出物自体には、弱いながらも DPPH ラジカル消去活性が示され、抗酸化作用を有することが確認された。したがって、ラカンカは、生活習慣病の発生と進展を抑制的に制御する機能を有し、その一部にはモグロシドⅤを代表とする抗酸化能を有する化合物が関与している可能性が示唆された。


25-24

タンパク質食材の安定性を向上させる新規食品添加物の開発

村岡 貴博
国立大学法人 東京農工大学

本研究では、高い生体適合性を有することで知られるポリエチレングリコールの有機合成化学的分子修飾による物性制御に基づく、新規食品タンパク質凝集抑制安定化剤の開発を目的とした。ポリエチレングリコールに対し、両親媒性構造を付与するなどの修飾により、物性を制御することを利用することとした。多様なトポロジーを有するポリエチレングリコール両親媒性類縁体を有機合成化学的手法により合成した。トポロジーの違いに加え、芳香族性部位を持った両親媒性分子を合わせて合成した。食品タンパク質凝集抑制についての検討の結果、トポロジー変換により、ポリエチレングリコール類縁体の物性が顕著に変化し、さらに芳香族性部位を有する両親媒性ポリエチレングリコール分子が高いタンパク質安定化を示すことを見出した。トポロジー、ならびに両親媒性の導入が、タンパク質の安定化に有効であることを実証した本研究により、今後の応用につながる重要な知見を得ることができた。


25-25

アミロースの立体構造制御による香気成分の放出制御及び固体NMR 測定を利用した放出制御機構の解明

植田 圭祐
千葉大学大学院薬学研究院

デンプンに含まれるアミロースは分子が絡み合ったらせん構造を有し、分子内部の空間内に様々な分子を包接することが報告されている。本研究では1重らせん構造を形成する V 形アミロースの香気成分放出抑制能を評価し、その放出抑制メカニズムの解明を試みた。各種香気成分と V 形アミロースを密封加熱した結果、香気成分であるLimonene に対して V 形アミロースの放出抑制作用が認められた。Limonene 及び V形アミロースの密封加熱物について固体 NMR 測定を行った結果、Limonene の分子運動性が強く抑制されていることが示された。また、Limonene 包接時にアミロースの分子環境も変化していることが認められ、Limonene がアミロースの内部に包接された際に、アミロースと分子間相互作用を形成し、分子運動性が抑制されてたと考察した。これらの結果から、香気成分包接時に香気成分と分子間相互作用を形成する基剤を用いることで香気成分の放出性を強く抑制可能であることが示唆された。


25-26

植物由来香料成分相互作用タンパク質の同定とその香料安定化効果の検証

松井 健二
山口大学大学院創成科学研究科(農学系)

本研究では典型的な植物香料貯蔵形態である柑橘果皮の油胞と、モデル植物として確立されたタイ類ゼニゴケの油体細胞での香料特異的生合成・輸送・蓄積に関わる因子を同定し、その中から香料成分と相互作用するタンパク質を探索すること、さらに見いだされた香料成分相互作用タンパク質の香料安定化効果を検証することを目的とした。まず、ゼニゴケ油体中にツヨプセンなどのセスキテルペン類が特異的に蓄積していることを確認し、その生合成遺伝子として MpFTPS1 を同定した。蛍光タンパク質を用いた発現解析で MpFTPS1 が貧栄養環境下で油体細胞特異的に発現することを明らかにした。また油体細胞特異的1細胞トランスクリプトームを実施し、フィブリリンタンパク質遺伝子などが特異的に発現していることを見いだした。今年度も引き続き研究を進め、これら油体細胞特異的タンパク質について順次香料成分との相互作用様式を解析しつつある。一方、柑橘果皮油胞を単離し、油胞外皮部分と油胞内容物に分け、SDS-PAGE分析した。その結果、油胞外皮部分に分子量 25 kDa の未知タンパク質が特異的に存在していることを見いだし、その部分配列を明らかにした。本タンパク質は香料成分の輸送に関わっている可能性が高い。現在、果実登熟過程においてリモネンなどのモノテルペン生合成の消長と本タンパク質の出現が一致することを確認するとともに本タンパク質遺伝子の同定を進めている。


25-27

精油中に含まれるフラノクマリン類の分析と品質評価

堀江 正一
大妻女子大学家政学部食物学科

精油中に含まれるフラノクマリン類 7 種の LC-MS/MS を用いた分析法を構築した。構築した LC-MS/MS 法による市販精油の実態調査を試みた。希釈用溶媒として、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)及びアセトニトリルの 4 種を検討した結果、溶解度、ピーク形状、ピーク面積が相対的に最も優れているメタノールを採用した。
東京都内で市販されている 24 種類の精油を分析した結果、柑橘系の精油では、柑橘系を含んだブレンドの精油 4 種類、ベルガモット、レモン(イタリア産、アルゼンチン産)、グレープフルーツ(ホワイト、ピンク)、マンダリンの 9 種類からフラノクマリン類が検出された。また微量ではあるが、非柑橘系のラベンダー(タスマニア産)からもフラノクマリン類が検出された。同じ柑橘から採取した精油でも、原産地や品種などによっても違いのあることが分かった。ベルガプトールとプソラレンについては、どの試料からも検出されなかった。フラノクマリン類のベルガモチンについては、他のフラノクマリン類よりも比較的高濃度で検出された。


25-28

熟成古酒からの劣化臭除去に向けた金ナノ粒子の吸着特性の解明

村山 美乃
九州大学大学院理学研究院化学部門

前駆体として -アラニンを配位子とする Au 錯体を用い、含浸法により種々の担体(シリカ、アルミナ、セリア、活性炭)上に Au ナノ粒子を固定化した。調製した Auナノ粒子の粒子径は、どれも 5 nm 以下であった。これらを吸着剤として、熟成古酒の劣化臭のひとつである老香の主要な原因物質、1,3-ジメチルトリスルファン(DMTS)の吸着性能を調べたところ、Au/SiO2 および Au/Al2O3 が特に高い性能を示した。また、Au/SiO2は、市販の熟成熟成酒において、その特徴であるキャラメル様の香り成分であるソトロン濃度を低下させることなく、劣化臭である DMTS 濃度を選択的に低下させた。


25-29

表面筋電図法を用いた飲み込みやすさの客観的評価方法の確立―五基本味を用いた嗜好性と飲み込みやすさの関係

朝倉 富子
東京大学大学院農学生命科学研究科日清食品寄付講座「味覚サイエンス」

基本呈味質の 5 味について、嗜好・忌避濃度が含まれる 5 段階の濃度水準を設定し、41 名のパネルで濃度設定した各溶液の強度、嗜好および飲み込みやすさについて 9 段階尺度を用いた官能評価を実施した。続いて各溶液 7.5ml を嚥下する際のオトガイ舌骨筋の筋電図を表面筋電位計 P-EMG plus を用いて測定した。嗜好および飲み込みやすさを目的変数、表面筋電位の各要素を説明変数として PLS 回帰分析によって、各重要要素の抽出と予測モデルを構築した。いずれの味質においても精度の高い予測式を得ることが出来た。モデル式における説明変数の重要度は味質によって異なり、更に、各味質で飲み込みやすさと嗜好を比べると、説明する表面筋電図の要素が異なっていた。塩味、甘味、酸味では嗜好と飲み込みやすさの説明要素が一致する傾向にあったが、苦味と酸味では説明要素が嗜好と飲み込みやすさで異なっていた。このことは、これまで考えられてきた「好きな味は飲み込みやすいが、嫌いな味は飲み込み難い」という通説は、生体応答の視点からは、必ずしも支持されない可能性が示唆された。

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