「食品中の残留農薬Q&A」の出版

今般、食品中の残留農薬について理解を深めていただく目的で、「食品中の残留農薬Q&A(発行元:中央法規出版株式会社)」が発行されました。(2001年10月10日)
以下に掲載したQ&Aは、書籍「食品中の残留農薬Q&A」の内容を簡略化し再編したものです。
なお書籍では、暴露評価を含む基準設定の方法等が、図表を用いて詳細に説明されておりますので、より詳しくお知りになりたい方は、そちらをご参照下さい。

Q1:農薬とは何ですか?

A1:
「農薬」とは、農作物を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルスの防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいいます。用途別には、害虫を防除する殺虫剤、農作物にとって有害な菌(細菌や糸状菌)を防除する殺菌剤、雑草を防除する除草剤、種なしぶどう等を作る植物ホルモン等の植物成長調整剤等があります。

Q2:農薬の食品への残留はどのように規制されていますか?

A2:
残留農薬基準として規制されております。

Q3:残留農薬基準とは何ですか?

A3:
食品衛生法において定められる食品の規格の中で、食品に残留する農薬の基準が「残留農薬基準」と呼ばれています。残留農薬基準は、農産物に残留する農薬量の限度として厚生労働大臣が定めています。残留農薬基準が設定された場合、これを超えるような農薬が残留している農産物は販売禁止等の措置が取られることになります。
食品衛生法は、「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与する」ことを目的とした法律で、残留農薬基準は国民が口にする食品の全てを対象としており、国産農産物、輸入農産物のいずれもが食品衛生法に基づく規制を受けることとなります。

(解説)
残留農薬基準は、農薬ごとに約130種類に分類された農産物のうち必要な農産物について基準値が設定されます。
通常は、1kgの農産物あたりに残留する農薬の量の限度(mg)として「ppm」という単位で表されます。例えば、ある農薬の米についての基準値が5ppmと定められている場合、この農薬は米1kgあたりに5mgを超えて残留してはならないということを意味します。

Q4:これまでいくつの農薬について残留農薬基準を設定しているのですか?

A4:
平成13年10月現在、217農薬(URL:https://db.ffcr.or.jp/front/)について、各農薬と農産物の組み合わせ毎に8,500以上の基準値が策定されています。

Q5:残留農薬基準の設定に際しては、どのような評価が誰によって行われるのですか?

A5:
残留農薬基準の設定に際しては、医薬、食品等の研究機関の専門家や消費者代表等で構成される薬事・食品衛生審議会が毒性評価及び暴露評価を行います。
残留農薬基準を設定する農薬ごとに毒性試験成績等を評価し、ADI(一日摂取許容量)を定めます。これを毒性評価と言います。
また、国際基準注)等を参考にして残留農薬基準値案を設定し、その基準値案に基づき1日あたりの農薬の摂取量(暴露量)を試算します。試算された暴露量とADIを比較することにより基準値案の妥当性を評価します。これを暴露評価と言います。残留農薬基準は、このような評価を経て設定されます。なお、暴露評価の詳細はQ15~Q20をご覧下さい。

注) 国際基準:世界保健機関(WHO)と食糧農業機関(FAO)の合同食品規格委員会(コーデックス委員会)が作成する国際食品規格の一つです。

Q6:設定した残留農薬基準を超える食品が流通しないようにするため、どのような対策が採られているのですか?

A6:
残留農薬基準が設定された食品については、基準値を超えるものは廃棄や回収等が行われます。流通における抜き取り検査は地方自治体の食品衛生監視員が実施しています。
また、輸入品の場合は、全国31箇所の港や空港にある検疫所で検査が行われています。違反の可能性の高い食品については、厚生労働大臣の検査命令による検査が実施され、その他のものについては、食品の種類毎に輸入量、違反率等を勘案して計画的な検査が実施されています。
更に、国内で登録され、使用される農薬については、残留農薬基準等を超えないような使用方法が決められ、個々の農薬のラベルに記載されるようになっています。この使用方法に従って農薬を使用すれば、収穫された農産物中の残留農薬の量は残留農薬基準を超えることはありません。

Q7:農薬の適正使用を確保するためにどのような対策がとられているのですか?

A7:
農林水産省による農薬登録制度によって安全性に関する検査がなされ、適切な使用方法が決められています。農薬使用者がそれらの使用方法を守って使用することが重要であり、そのために、以下のような様々な対策がとられています。
農林水産省と厚生労働省とは共催で、昭和28年以来、「農薬危害防止運動」を実施して、農薬の安全使用の啓蒙に努めています。また、都道府県では、地域の実情に応じて、作物ごとに病害虫の発生の特徴とその病害虫防除のため、農薬の正しい使用方法についてまとめた「病害虫防除指針」等の指導書が作成され、現場での農薬適正使用の指導に活用されています。農薬を実際に使用する農家に対しては、農業改良普及センターが病害虫防除所等と連携をとりながら、病害虫の発生情報や地域での調査を基に病害虫の発生状況に対応した適正かつ安全な防除が行われるよう指導を行っています。
また、農薬を販売する際にも農薬使用者に対してより適切な指導助言ができるように、多くの販売店で「農薬管理指導士」等の資格を有する販売員を置き、指導に当たっています。
 このほか、生産者団体である農業協同組合、農薬工業会等の業界団体によっても農薬の適正使用の推進が行われています。

Q8:残留農薬基準が設定されていない農薬については、残留していてもよいのですか?

A8:
残留農薬基準が設定されていない農薬についても、残留している農薬の種類やその残留量によって、国民の健康確保に支障が生じると認められる場合には、食品衛生法違反となります。食品衛生法により「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがある食品の流通は禁止されること」が規定されています。違反かどうかは、その農薬の毒性の程度、残留農薬に関する国際基準や主要諸外国の基準等を参考にして個々の事例毎に個別に判断されます。

Q9:農薬の水への残留や大気中の濃度についての規制はあるのですか?

A9:
水、土壌については、チウラム、シマジン、チオベンカルブ等の農薬について、水道法又は環境基本法に基づく基準が定められています。大気の環境基準は現在設定されていませんが、環境省の調査結果では、問題になるような量の残留は見られていません。

Q10:ポストハーベスト農薬とは何ですか?

A10:
穀類や果実等の農作物は、収穫後の輸送過程や貯蔵中にも病害虫による被害を受けることがあります。コクゾウムシ等の害虫の発生、微生物の繁殖による腐敗等によって食中毒の原因や品質の劣化を招くことがあり、これらを防ぐために収穫後に殺虫剤、殺菌剤等で農産物を処理することをポストハーベストと言います。また、穀物や果実等の収穫後の農産物に対し、かびや害虫による損害を防ぐため用いる農薬をポストハーベスト農薬と言います。農薬のポストハーベスト使用は広く世界で認められており、日本でも臭化メチル等によるくん蒸等が認められています。

Q11:農薬を収穫後に使用した場合は、収穫前に使用した場合に比べて、食品へ残留する量が多いと思われますが、安全上問題はないのでしょうか?

A11:
残留農薬基準は農薬の使用時期には関係なく設定されます。農薬を収穫後に使用したか収穫前に使用したかに関係なく、最終的に農産物に残留している農薬の量を基準値として定めています。

Q12:農薬の安全性はどのようにして調べられているのですか?

A12:
通常、マウス等の実験動物を用いた急性毒性試験、慢性毒性試験、発がん性試験、繁殖試験(農薬を2世代にわたって投与し、生殖機能、新生児の発育に及ぼす影響を調べる試験)、催奇形性試験(農薬を妊娠動物に投与した場合の胎児への影響を調べる試験)、変異原性試験(遺伝子への影響を調べる試験)等の色々な毒性試験等が行われており、これらの試験成績を評価して、安全性が調べられています。
こういった試験成績は、農薬に限らず、食品添加物等の化学物質の安全性評価を行う際に必要とされる試験成績とほぼ同様です。また、わが国だけでなく、国際的な機関の評価でもほぼ同様の試験成績が求められています。

Q13:ADI(一日摂取許容量)とは何ですか?また、どのように決められるのですか?

A13:
ADI(一日摂取許容量:Acceptable Daily Intake)とは、人が一生涯にわたりその農薬を毎日摂取し続けたとしても安全性に問題のない量として定められています。通常は、1日あたり体重1kgあたりの農薬量(mg/kg/day)で表されます。
農薬の安全性を調べるためには種々の動物を用いた毒性試験が行われており、各々の試験について何らの毒性影響が認められない量(無毒性量)を求めます。このうち、最も小さいものをその農薬の無毒性量とし、これを安全係数で割ることによってADIを算出します。

(解説)
ADIの設定に際しては、まず、各種動物試験についてそれぞれ無毒性量を求めます。例えば、慢性毒性試験は何種類かの異なる用量を投与して行われますが、何らの毒性影響がみられない用量をその試験の無毒性量と言います。例えば、0.1mg/kg/day、1mg/kg/day、10mg/kg/dayを投与して、10mg/kg/dayでのみ毒性影響が認められた場合は、1mg/kg/dayがこの試験における無毒性量ということになります。発がん性試験、繁殖試験等についても同様にそれぞれの試験結果を基に無毒性量が求められます。その結果、それぞれの試験から求められた無毒性量のうち最も小さい量がその農薬の動物における無毒性量となります。さらに、ADIは、動物における無毒性量を安全係数(通常100)で割ることによって求められます。
ある農薬のADIが0.1mg/kg/dayであるとは、体重50kgの人が1日あたりその農薬を5mgずつ一生涯にわたって摂取し続けたとしても安全上問題がないということです。

Q14:安全係数とは何ですか?また、それはどのように決められるのですか?

A14:
安全係数は、動物における無毒性量からヒトのADI(一日摂取許容量)を求める際に用いる係数で、動物からヒトへデータを外挿する際の不確実性と、ヒトの個体差を考慮して決められます。通常、動物とヒトとの種差を「10」、ヒトとヒトとの間の個体差を「10」として、それらをかけ合わせた「100」を基本として用います。ヒトのADIは動物における無毒性量を安全係数で割って求められます。

Q15:暴露評価とは何を評価するのですか?

A15:
食品等を経由して摂取する農薬の量を、農薬の暴露量といいます。通常の国民が農薬を摂取する主要な経路としては、農薬が残留した農産物を食べる場合が考えられます。
 基準設定に当たっての暴露評価とは、国際基準等を参考に定めた基準値案に基づいて農薬の暴露量を試算し、これをADI(一日摂取許容量)と比較することによって、その基準値案の妥当性を評価することを指します。

Q16:暴露評価に用いられる暴露量の算出の方法には、どのような方法がありますか?

A16:
理論最大一日摂取量(TMDI:theoretical maximum daily intake)方式と推定一日摂取量(EDI:estimated daily intake)方式があります。

Q17:TMDI方式とEDI方式との相違は何ですか?

A17:
暴露量を試算する際、TMDI方式は残留農薬基準値案を用いるのに対し、EDI方式では農産物に残留した農薬の量(農薬残留量)を用います。TMDI方式は、基準値案ぎりぎりまで、農薬が残留していると仮定して暴露量を試算しますので、試算された暴露量は実際の暴露量よりもかなり過剰に見積もられたものです。しかし、EDI方式により試算した暴露量は、実際に農薬が残留した量を用いるため、より実態に即した値です。

(参照)

Q18:TMDI方式とはどのような方法ですか?

A18:
ある農産物の残留農薬基準値案にその農産物の平均一日摂取量をかけることでその農産物を経由して摂取する農薬の量を求めます。これを基準値を設定しようとするすべての農産物について求め、それらを合計することにより、当該農薬の暴露量を推定するものです。

Q19:EDI方式とはどのような方法ですか?

A19:
暴露量を試算する際、残留農薬基準値案を用いずに、作物残留試験(実際に農薬を農産物に使用し、その農産物に残留した農薬の量を調べる試験)のデータを用います。この作物残留試験データにその農産物の平均一日摂取量をかけることでその農産物を経由して摂取する農薬の量を求めます。これを基準値を設定しようとするすべての農産物について求め、それらを合計することにより、当該農薬の暴露量を推定するものです。

Q20:我が国では暴露評価の際、TMDI方式及びEDI方式をどのように使い分けているのですか?

A20:
評価の第一段階として、TMDI方式により暴露量を試算し、食品由来以外の要素も考慮した上でADIと比較します。暴露の程度がADIの80%を下回っていれば、そこで暴露評価を終え、残留農薬基準値案がそのまま採用されます。
逆に上回れば、第二段階として、EDI方式により暴露量を試算し、同様にADIと比較します。暴露の程度がADIの80%を下回っていれば、そこで暴露評価を終え、残留農薬基準値案がそのまま採用されます。
第二段階でも上回れば、第三段階として、より厳しい基準値案を作成する等、評価をやり直します。

注) Q20の回答に誤解を招く表現があったためお詫びするとともに、平成14年1月17日付けで更新いたしました。

Q21:食べ物を通じて人はどの程度の農薬を摂取しているのですか?

A21:
厚生労働省では、国民が日常の食事を介して食品に残留する農薬をどの程度摂取しているかを把握するために、平成3年度からマーケットバスケット方式による農薬の一日摂取量調査(マーケットバスケット調査)を実施しています。
この結果によると、平成11年度までの調査で、96種類の農薬が調査され、何らかの食品群から検出が見られたのは、17農薬でした。これらの農薬一日摂取量を一日摂取許容量(ADI)との比を算出したところ、臭素を除く16農薬では6%未満でした。臭素の推定一日摂取量はADIの16.3%でしたが、この結果については、臭素は天然由来成分にも含まれているためと考えられます。これらの結果から、食物を通じて摂取する農薬はADIよりはるかに低いことがわかります。

Q22:マーケットバスケット調査とは何ですか?

A22:
一般的に人が日常の食事をすることによって農薬をどの程度摂取しているかを調べることを目的とした調査です。市場で流通している農産物、加工食品、魚介類、肉類、飲料水等のあらゆる食品について通常行われている調理方法で調理を行った後、各食品に含まれている農薬の量を測定します。国民栄養調査の結果から1日あたり各食品をどれくらいの量食べているかわかりますので、各食品中の残留農薬の測定の結果から、1日あたりに食品を食べることによって摂取される農薬の量を計算することができます。

Q23:農薬の残留実態を把握するために、どのような調査が行われているのですか?

A23:
厚生労働省では、国立医薬品食品衛生研究所や地方衛生研究所等の協力を得て、以下の3種類の調査を行っています。

(1)食品中の残留農薬調査
これは、現に流通している農産物中の残留農薬の実態を把握するために、①各地方自治体の食品衛生監視員による市場等からの農産物の抜き取りによるモニタリング検査、②検疫所による港や空港に入ってきた段階での輸入品のモニタリング検査、③厚生労働省による残留農薬基準値が設定されていない農薬についての実態調査の結果を集計しています。

(2)マーケットバスケット調査
国民が日常の食事を介して食品に残留する農薬をどの程度摂取しているかを把握するために、平成3年度から、国民栄養調査での食品の摂取量に基づいたマーケットバスケット方式による農薬の一日摂取量調査を行っています。

(3)輸入加工食品中の残留農薬調査
近年の加工食品の輸入急増を踏まえ、輸入加工食品を対象とした残留農薬の調査を平成9年から行っています。

これらの結果の概要は、インターネット等を通じて例年厚生労働省より公表されております。また結果の詳細については、書籍「食品中の残留農薬(発行:(社)日本食品衛生協会)にてご覧いただけます。

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