第18回研究成果報告書(2012年)

[研究成果報告書 索引]

Abs.No.
研究テーマ
研究者
18-01 分子シャペロンに対する食品添加物の作用に関する研究 村上 明
京都大学大学院農学研究科 
18-02 食品添加物の有効利用による食品の高度流通管理技術に関する研究 河野 俊夫
高知大学教育研究部 
18-03 フレーバーの安全性評価に関する国際的動向の調査研究 小西 陽一
奈良県立医科大学名誉教授
18-04 脂溶性抗酸化物質の包接可溶化剤の開発と可溶化した抗酸化物質によるラジカル消去能の評価 末石 芳巳
岡山大学大学院自然研究科 
18-05 色調安定性に優れたピラノアントシアニンの形成の解明 久本 雅嗣
山梨大学大学院医学工学総合研究部 
18-06 フラボノイド含有食品添加物の血糖値調節作用に関する研究 芦田 均
神戸大学大学院農学研究科 
18-07 食品・食品添加物のハラル制度の国際比較に関する研究 並河 良一
中京大学総合政策学部 
18-08 パープルキャロット色素合成経路の解明 佐々木 伸大
東京農工大学工学府生命工学科 
18-09 高速・高倍率濃縮分離システムの構築による食肉及び乳製品中の残留医薬品の高感度分析システムの開発 高貝 慶隆
福島大学共生システム理工学類 
18-10 天然香料基原物質の安全性評価のための基礎的調査研究 正山 征洋
長崎国際大学薬学部 
18-11 β-ナフトフラボンのラット肝発がん促進メカニズムには酸化的ストレスを介したTNFαシグナル活性化による肝細胞のアポトーシスと再生が関与する-酸化的ストレスの関与する発がん初期変化メカニズムとそれに対する抗酸化物質の有効性に関する研究- 渋谷 淳
東京農工大学大学院農学研究院 
18-12 肥満を伴うインスリン抵抗性マウスに及ぼす亜硝酸塩摂取の影響に関する研究 大竹 一男
城西大学薬学部 
18-13 ハイドロコロイド系増粘多糖類による食物アレルゲン吸収抑制効果の検証 森山 達哉
近畿大学農学部 
18-14 胃潰瘍発症における食品添加物としてのナノマテリアルの影響とその安全性評価 小野寺 章
神戸学院大学薬学部 
18-15 微量汚染物質マスキング増粘多糖類添加物利用食品のバイオアベイラビリティーに関する研究 小西 良子
国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部 
18-16 食品添加物の新たなヒト安全性評価系の構築を目指したシトクロムP450による化合物の代謝活性化の解析 後藤 達志
神戸大学自然科学系 先端融合研究環遺伝子実験センター 
18-17 アントシアニン色素の消化管吸収に関わるトランスポーター分子の同定 井上 勝央
名古屋市立大学大学院薬学研究科 
18-18 真菌に対する保存料の有効性評価 高鳥 浩介
東京農業大学農学部 
18-19 抗菌ペプチド「ナイシン」の中性pH域における効果的な利用性に関する研究 川井 泰
東北大学大学院農学研究科 
18-20 噴霧乾燥粉末からのフレーバー徐放挙動の湿度応答動的解析手法の開発 吉井 英文
香川大学農学部 
18-21 伊予特産柑橘類果皮の香り成分の解析と添加物エンハンサーとしての可能性 天倉 吉章
松山大学薬学部 
18-22 嚥下障害者用介護食の開発に伴う物性指標の構築に関する食品物性論的研究 熊谷 仁
共立女子大学家政学部 
18-23 乳化性を示す増粘多糖類の摂取が腸管からのLPS負荷に及ぼす影響 牛田 一成
京都府立大学大学院生命環境科学研究科 



18-01

分子シャペロンに対する食品添加物の作用に関する研究

京都大学大学院農学研究科 村上   明


分子シャペロンは、タンパク質の立体構造の維持や修復において重要な役割を担っているが、その発現に対する食品成分の作用はさほど知られていない。そこで本研究では、栄養素、ファイトケミカルおよび食品添加物などの食品成分の影響を検討した。総計 43 種をエントリーし、マウス肝臓細胞hepa1c1c7に投与後、代表的な誘導型分子シャペロンであるHSP70 mRNA の発現量を qRT-PCR を用いて定量した。その結果、栄養素群ではall-trans retinol(ビタミンA) および zinc chloride を除く全ての化合物が不活性であった。その一方で、ファイトケミカル群ではcurcumin、ursolic acid、a-humulene、zerumbone、phenethyl isothiocyanateなど幅広く顕著な活性が認められた。また、食品添加物ではbenzoic acidにのみ活性が検出された。Benzoic acidはファイトケミカルでもあることから、分子シャペロンの誘導はファイトケミカルに特有な生理機能である可能性が示唆された。



18-02

食品添加物の有効利用による食品の高度流通管理技術に関する研究

高知大学農学部 河野 俊夫


 正規流通食品と偽物の食品の違法すり替えを防止することを目的に、食品用の不可視化新マーキング技術を提案し、その有効性について研究した。この技術はマーキング材料に食品添加物を用い、真贋判別の非破壊スキャナーとして光走査法を利用する。本研究では、数種の食品添加物で構成する簡便な円形食用マーカーを試作した。新規に開発したイメージ再構築プログラムを用いて不可視のマーカーを可視化した結果、再構築されたマーカーのイメージは、食品表面付けした実際のマーカーイメージと十分な精度で復元できた。



18-03

フレーバーの安全性評価に関する国際的動向の調査研究

奈良県立医科大学名誉教授 小西 陽一

                    
食品香料の安全性評価手法の国際的動向について検索した。検索は、Flavor Extract Manufacture (FEMA)、 Joint FAD/WHO/ Expert Committee on Food Additives Association (JECFA)と European Food Safety Authorities (EFSA)における最新の動向を文献的並びに学術集会より情報を収集し、我が国の現況とを比較追求した。検索課題は、香料の安全性評価における遺伝毒性と長期がん原性試験の必要性、Threshold of Toxicological Concern (TTC)活用の評価と進展、in silico毒性予知法の有用性、No-Observed Adverse Effect Level (NOAEL)より算出されるAcceptable Daily Intake (ADI)の信憑性と行政機関の国際的動向についてである。これらに関する情報を基とする本研究結果は、我が国の香料の安全性評価の現況は旧態依然としたもので、JECFAや米国と欧州の改善方向に沿った変革の必要性が強く感じられた。



18-04

脂溶性抗酸化物質の包接可溶化剤の開発と
可溶化した抗酸化物質によるラジカル消去能の評価

岡山大学大学院自然科学研究科機能分子化学専攻 末石 芳巳


幾つかのシクロデキストリン、メチル化されたp-スルフォナトカリックス[6]アレーン、パラシクロファンおよびククルビツリル[7]など様々な包接化合物による脂溶性抗酸化物質の包接挙動をNMR測定により検討した。典型的な抗酸化物質であるビタミンEとp-スルフォナトカリックス[6]アレーン、シクロファンおよびククルビツウリル[7]との間に包接化合物の形成は観測されなかったが、シクロデキストリン類との包接化合物の形成を観測し、その構造を明らかにした。さらに、幾つかの脂溶性抗酸化物質の活性ラジカル消去能に及ぼすシクロデキストリンの包接の効果について詳細に調べ、可溶化剤として用いたシクロデキストリンの種類による抗酸化能評価値の違いを見出した。これらの結果に基づき、包接化合物の構造とラジカル消去能との相関を議論し、脂溶性抗酸化物質のラジカル消去能評価に及ぼすシクロデキストリンの包接の効果を明らかにした。



18-05

色調安定性に優れたピラノアントシアニンの形成の解明

山梨大学医学工学総合研究部 久本 雅嗣


赤ワインの熟成が進むにつれてブドウ由来のアントシアニンは減少し、醸造後数年経過するとほとんどなくなり、色調も熟成によって赤色から赤褐色へと変化する。この色調の変化は、アントシアニンの非酵素的酸化や他のカルボニル化合物やフラバノールなどと反応して、ピラノアントシアニンや高分子の色素重合体(Polymeric pigments)が形成され、ワインの品質に密接に関連している。ピラノアントシアニンは、他の化合物(ピルビン酸、ビニルフェノール、アセトアルデヒド、シンナム酸誘導体など)がアントシアニジンの4位と5位の間でピラン環を形成するアントシアニン誘導体の総称であり、熟成した赤ワインが赤レンガ色になるということにこれらの成分の影響が大きい。Cabernet SauvignonとMuscat Bailey Aに含まれるアントシアニンや色素重合体の化学構造と含量について、超高速液体クロマトグラフィー-飛行時間型質量分析装置(UPLC-DAD-TOFMS)で分析を行った結果、発酵で生じる主要なピラノアントシアニンであるVitisin Aは緩やかに減少した。それに対し、ビニルフェノール付加体のピラノアントシアニン(Malvidin-3-O-glucoside-4-vinylphenolなど)は時間の経過とともに増加する傾向にあった。また、Brettanomyces存在下でビニルフェノール付加体のピラノアントシアニンの生成が確認された。



18-06

フラボノイド含有食品添加物の血糖値調節作用に関する研究

神戸大学大学院農学研究科生命機能科学専攻 芦田   均


近年、ポリフェノール類に属するフラボノイドが生活習慣病予防・改善に有効性を持つことが報告されている。高血糖や糖尿病の予防には、食後高血糖に対する調節機構促進が重要なターゲットとなる。しかし、フラボノイド類は体内への吸収率が低いため、生体内での血糖調節に関する作用機構に関してはまだ充分に明らかとなっていない。そこで本研究では、フラボノイドのうち、ケルセチン、ケルセチン配糖体であるイソクエルシトリンとルチン、ならびにケルセチン骨格のB環3位に1-8分子のグルコース直鎖が結合した酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)を実験動物に摂取させ、高血糖および肥満に対してどのような影響を及ぼすか検討した。その結果、フラボノイド類は糖負荷試験による血糖上昇抑制効果を示し、高脂肪食摂取による高血糖・インスリン抵抗性惹起の抑制効果も確認できた。その効果には、筋肉におけるGLUT4の細胞膜移行による血糖調節作用が強く関連していることが明らかとなった。単回、1あるいは2週間の短期間連続摂取試験において、GLUT4の細胞膜移行促進効果を有し、血糖調節させることが確認できた。その効果はEMIQで強い傾向が得られた。一方で、小腸での糖類消化酵素活性阻害による糖類の吸収阻害では無いことも確認した。同様に、フラボノイド類によるGLUT4の細胞膜移行促進効果が、13週間の長期的連続摂取でも認められた。以上の結果より、フラボノイド類は筋肉におけるGLUT4細胞膜移行促進効果によって、血糖調節作用を持ち、高血糖およびインスリン抵抗性の予防に有効性を示すことが示唆された。



18-07

食品・食品添加物のハラル制度の国際比較に関する研究

中京大学総合政策学部 並河 良一


近年、イスラム諸国の経済成長は著しく、高級食品・食材へのニーズが高まっている。その食品市場の規模は55兆円と試算されており、ポスト中国市場として魅力ある市場となっている。日本企業がイスラム市場に参入するためには、Halal制度をクリアする必要がある。Halal制度とは、イスラム教の教義にしたがい、豚由来成分、アルコール、不適正処理の食肉などを含まない食品規格を定め、規格不適合品の生産・流通などを制限する制度である。Halal制度は各国の宗教機関により定められるため、その国際的な互換性がなく、日本企業のイスラム市場開発の障害になると言われてきた。本研究は、東南アジア3か国(インドネシア、マレーシア、シンガポール)及びオーストラリアを対象に、各国のHalal制度の相違点を明らかにすることを試みた。その結果、Halal制度の法的な位置づけおよび制度体系は、国により大きく異なるが、基本的な規制内容の共通性は極めて高いことが明らかになった。しかし、食材、食肉処理、アルコール、生産・工場、流通・販売の各ステージにおいていくつかの差異が見いだされた。この差異は、制度の規制項目の差異ではなく、制度の運用の厳しさであること、マレーシアの制度が他国よりも厳しい傾向にあることが明らかになった。これらの差異は、宗教の教義に拠るものではなく、各国の社会構造や産業動向を反映したものである可能性が高いことも示唆された。なお、食品添加物について、各国間で特別な差異は見られなかった。



18-08

パープルキャロット色素合成経路の解明

東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門 佐々木 伸大


パープルキャロットは食品添加物用の天然色素として用いられており、その主たる色素はアントシアニンの一種である、cyanidin 3-O-[6''-O-(sinapoyl-6'''-O-glucosyl)-2''-O-xylosyl)]-galactoside (CySGXGal) である。ニンジンが持つCySGXGalの生合成経路は古くから培養細胞を用いて研究がなされてきた。アントシアニンの基本骨格の生合成については現在までに多くの部分が解明されているが、ニンジンにおけるCySGXGal の生合成経路の最終ステップであるグルコースの転移についてはこれまで報告がなかった。本研究ではアントシアニンを合成しているニンジン培養細胞から調整した粗酵素液中にアシルグルコースを糖供与体してcyanidin 3-xylosylgalactoside (CyXGal) にグルコースを転移する酵素活性を見出すことに成功した。この酵素は4℃で1週間は活性を安定に維持し、その反応至適pH は5.5-6.5であった。また、糖供与体としてはvanilyl-glucose とferuroyl-glucoseを好み、糖受容体としては、CyXGal を好み、アントシアニンモノグリコシドはほとんど認識しなかった。アシルグルコースを糖供与体としたアントシアニン分子の糖鎖への転移反応についての知見は本報告が初めてのものである。



18-09

高速・高倍率濃縮分離システムの構築による食肉及び乳製品中の残留医薬品の高感度分析システムの開発

福島大学共生システム理工学類 高貝 慶隆


イベルメクチンB1a(IVM)は、土壌放線菌ストレプトミセスアベルミティリスから生成されるアベルメクチンの一種で、動物用医薬品として様々な動物に対し、高い抗寄生虫効果を示す。近年、食肉への動物用医薬品残留による人への健康被害が懸念され、国際的にIVMを含むそれら薬物の残留分析が必須となっている。しかし、IVMの残留基準は牛肉(筋肉)で0.01 ppm以下と微量分析であり、食肉からの前処理操作も煩雑であるため、分析者による個人誤差や薬物消失などが懸念される。そのため、更なる食肉安全の改善や、IVMの高感度分析を可能とするために、簡便で素早い正確な前処理操作が求められる。本研究では、LC-MS及びGC-MS分析のためのIVMの簡便で効率的な前処理方法を開発した。本研究では、特に、有機溶媒を用いて食肉中からICMを抽出する際の抽出液の処理に着眼して、その簡便な濃縮方法を開発した。食肉抽出液の前段濃縮法として、三成分溶媒間の溶解度差を利用した二相分離現象(=均一液液抽出法)に基づく濃縮法を検討した。アセトンと四塩化炭素を用いてIVM抽出したところ、平均回収率99.2 %と高い抽出率が確認できた。また、この均一液液抽出法における抽出効率は、水溶性溶媒や非水溶性溶媒の組み合わせによって大きく影響した。同様に、塩濃度、pH、析出相内の水分と抽出率との関係なども調査した。また、この前段濃縮法としてLC-MSおよびGC-MSへ応用した結果、良好なクロマトグラムを得た。GC-MSにおいては、トリメチルシリル化が必要であったが、LC-MSとほぼ同程度の定量性を示した。本プレゼンテーションにおいて、このGC-MS分析におけるトリメチルシリル誘導体化反応の詳細も合わせて発表する。また、食肉中からのIVMの添加回収の実験結果では良好な結果が得られた。本法は、IVM分析のみならず、多くの食品分析の分野での利用が期待できる。



18-10

天然香料基原物質の安全性評価のための基礎的調査研究

1三栄源エフ・エフ・アイ株式会社、2小林病院、3お茶の水女子大学、
4*長崎国際大学・薬学部・主任研究者、5徳島文理大学・香川薬学部
6東亜大学大学院、7西日本食文化研究会

加藤 喜昭1 小林 公子2 佐竹 元吉3 正山 征洋4* 関田 節子5
森本 隆司1 義平 邦利6 和仁 皓明7


天然香料基原物質は、平成17年から、厚生労働大臣により許可されたもの以外は使用することが出来なくなった。平成7年までに、使用されていた天然香料基原物質は、天然香料基原物質名簿に収載され、引き続き添加物として、使用が認められている。厚生労働省は、これら天然香料基原物質513品についてリストアップしている。
本研究では、天然香料基原物質について、安全性評価のための基礎的調査研究を行うことにした。天然香料基原物質の安全性を評価するためには、原材料の植物が確かであること、食経験の歴史的なバックグランドがあること、原材料の植物は有害性でないこと、有害成分を含有しないこと等が必要であるので、これらの課題について調査研究を行い、23年度は100品目の基原植物の規格案の作成を行なうこととした。



18-11

β-ナフトフラボンのラット肝発がん促進メカニズムには酸化的ストレスを介したTNFαシグナル活性化による肝細胞のアポトーシスと再生が関与する
-酸化的ストレスの関与する発がん初期変化メカニズムとそれに対する抗酸化物質の有効性に関する研究-

東京農工大学 大学院 農学研究院 動物生命科学部門 病態獣医学研究分野 渋谷   淳


 酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)は、生体では抗酸化物質として効果があり、前がん病変の形成の進行に対して抑制作用を示す可能性がある。またβ-ナフトフラボン (BNF)は、cytochrome P450 1A酵素の強力な誘導作用が知られており、ラットにおいて酸化的ストレス反応の亢進を介した肝発がん促進作用を及ぼす。本研究では、抗酸化剤であるEMIQを用いて、BNFによる肝発がん促進過程の早期における前がん病変周囲の肝細胞環境の役割を検討した。雄性F344ラットを用い、N-ジエチルニトロサミン (DEN)単独群、DEN-BNF(0.5%)群、DEN-BNF(0.5%)-EMIQ(0.2%)群を設け、DENによるイニシエーションの2週間後から6週間投与を行った。またBNFによるプロモーション開始から1週間後に2/3部分肝切除を行った。BNF投与により、肝臓のバルビツール酸反応物質の濃度が上昇し、個々の肝細胞はglutathione S-transferase placental form (GST-P)またはheme oxygenase (HO)-1を発現し、肝細胞のアポトーシスと増殖が同時に上昇した。また抗酸化酵素(Aldh1a1, Nqo1)や細胞周期関連分子(Cdc20, Cdkn2b)、炎症性サイトカイン(Ccl2, Col1a1, Il6, Nos2, Serpine1)などの炎症関連分子の転写産物レベルも明らかに上昇した。さらに、BNFはHO-1発現クッパー細胞やtumor necrosis factor receptor 1(TNFR1)とTNFR1関連death domain (TRADD)発現肝細胞を増加させた。EMIQによって、発がん促進の抑制と共にBNFが誘導した変化のほとんどが消失または抑制された。また、EMIQによってBNFによるTnf転写産物レベルの高値も抑制された。以上の結果より、BNFは肝細胞に酸化的ストレスを誘導して単細胞性の毒性を引き起こし、続いてTNFαシグナリングを介した炎症反応によるアポトーシスと再生を同時に誘発し、発がん促進に寄与することが示された。クッパー細胞は、おそらくBNFによる酸化的ストレスの結果として引き起こされる炎症刺激に対して防御反応を示し、炎症性サイトカインレベルの変動を引き起こしている。



18-12

肥満を伴うインスリン抵抗性マウスに及ぼす亜硝酸塩摂取の影響に関する研究

城西大学薬学部 医療栄養学科病態解析学講座 大竹 一男


 インスリン抵抗性とは、過食や運動不足といった生活習慣の変化、遺伝的要因による肥満が原因で起こり、増悪すると動脈硬化症の危険因子であるメタボリックシンドロームを発症させる。本研究ではインスリン抵抗性の動物モデルとしてKKAyマウスを使用し、インスリン抵抗性に亜硝酸塩の摂取が有効か否かを検討した。雄性KKAyマウスに亜硝酸塩(NaNO2)を 50mg/L、150mg/L の濃度で飲水中に溶解し生後4週から14週までの10週間の期間、自由摂取で与えた。正常コントロールマウスに C57BL/6 マウスを用い同様に亜硝酸塩を投与した。飼料には通常飼育に汎用されているCE-2を自由摂取で与えた。KKAyマウスに亜硝酸塩を経口摂取させると脂肪細胞の形質肥大を改善させた。骨格筋ではインスリンシグナルが改善し、GLUT4の膜上移行を改善させ、耐糖能の改善がみられた。以上の結果から、亜硝酸に病態が進行するにつれてNOの生物学的利用能が低下する病態においてバックアップの作用があることが示唆された。



18-13

ハイドロコロイド系増粘多糖類による食物アレルゲン吸収抑制効果の検証

近畿大学農学部 応用生命化学科 森山 達哉


 近年、食物アレルギー患者が急増し深刻な問題となっている。一般的な即時型の食物アレルギーは、食品抗原の腸管内での未消化状態での吸収が感作や発症の初発要因となる。従って、この過程を適切に抑制することにより、その発症リスクを抑制することが可能である。そこで本研究では、ハイドロコロイド系増粘多糖類が食物アレルゲンの吸収に及ぼす影響をマウスを用いたin vivo評価系を用いて検証した。大豆抽出液(豆乳)を増粘多糖類の存在下でゾンデにてマウスに経口投与し、経時的に血中移行したアレルゲンレベルをウエスタンブロッティング及びドットブロッティングにて検証した。増粘多糖類として、アラビアゴム、キサンタンガム、グァーガム、ペクチンを用いた。その結果、いずれの増粘多糖類においても、血中へのアレルゲンの移行は蒸留水の場合と比較して30~10%程度まで抑制された。以上の結果より、ハイドロコロイド系増粘多糖類は食物アレルゲンの吸収を抑制しうるという有益な効果を有する可能性が示唆された。



18-14

胃潰瘍発症における食品添加物としてのナノマテリアルの影響とその安全性評価

神戸学院大学薬学部 小野寺 章、岩崎 綾香、 宝諸 あい、古田 拓也、河合 裕一
理研CDB 米村 重信

 
 ナノテクノロジーの利用は、工業・医療分野のみならず食品分野においても進められている。食品分野では、食品の高品質化、成分の利用効率の向上、味のマスキング、包装の高度化を目的とし、多数の製品が上市されている。一方、素材のナノ化による新たな機能の獲得は、同時に未知毒性を発現することが指摘され、ナノ毒性と呼ばれる新たな概念が生まれている。
そこで本研究は、食品分野におけるナノテクノロジーの有効で安全な利用を推進するため、食品に関連するナノ素材の生体における安全性を追求した。ナノ素材のモデルは、粒子径30 nm70 nmの非晶質ナノシリカを用い、マイクロサイズ(300 nm 1000 nm)の非晶質シリカと比較した。毒性評価の対象は、生体の中で第一に食物を貯留する胃とし、特に胃潰瘍の発症リスクを追求した。マウスへの各粒子径の非晶質シリカの投与は、胃ゾンデによる過剰量の反復投与(検証-1)、胃粘膜表面への過剰量の単回注入投与(検証-2)、およびアルキル化剤誘発潰瘍モデルへの胃ゾンデによる過剰量の反復投与(検証-3)とした。その結果、反復投与および注入投与では(検証-1および検証-2)、胃粘膜表面における顕著な毒性学的変化は観察されなかった。一方、アルキル化剤誘発潰瘍モデルへの非晶質シリカの暴露は、ナノサイズ特異的に、潰瘍の治癒遅延、および、胃全体に広がった炎症による線維化が観察された。そこで本研究は、ナノシリカによる潰瘍の治癒遅延を明らかにするため、in vitro においてナノシリカの創傷治癒(細胞遊走)への影響を解析した。その結果、ナノシリカ特異的な細胞の遊走阻害が観察された。すなわち、ナノ素材による潰瘍の治癒遅延は、上皮細胞や繊維芽細胞の潰瘍部位への遊走阻害が原因の一つであると示唆された。
 食品分野のナノ素材は、単独での毒性は観察されないものの、胃潰瘍の再生を阻害するナノ特有の毒性が明らかとなった。



18-15

微量汚染物質マスキング増粘多糖類添加物利用食品の
バイオアベイラビリティーに関する研究

国立医薬品食品衛生研究所 小西 良子


 昨年度までに、微量汚染物質をマスキングした増粘多糖類添加物が、微量汚染物質の体内吸収を阻害する効果があることをin vitro およびin vivo実験で明らかにした。微量汚染物質のモデルとしてカビ毒の一種であるデオキシニバレノール(DON)を用い、増粘多糖類添加物として低メトキシルペクチンゲルを用いた。
 本年度は、微量汚染物質のマスキング効果が生体内でどのように保持されているかを、消化管内反応モデルを構築して検証した。さらにDON以外のカビ毒に対する低メトキシルペクチンゲルのマスキング効果を検討した。
 結果、人工唾液、人工胃液、人工腸液、ヒト腸管細胞を用いて消化酵素の影響から腸管吸収まで模擬的に予測できる消化管内反応モデルを構築することに成功した。このモデルを用い、DONマスキング低メトキシルペクチンゲルの消化管内動態を予測した結果、酸性環境の胃液内ではゲル状態を保っており、マスキング効果はやや減少するが保持できることが明らかになった。 腸管内ではpHが中性になることからゲル構造が分解し、マスキング効果はなくなる可能性が示唆された。このことは、ゲルにマスキングされている栄養素は腸管から吸収されやすくなることを示唆している。すなわち、主に胃から吸収される微量有害物質に対しては、目的とする微量有害物質だけが吸収阻害され、ゲルに含まれる栄養素の吸収には影響を与えないことが予測され、応用としての可能性が期待される。



18-16

食品添加物の新たなヒト安全性評価系の構築を目指した
シトクロムP450による化合物の代謝活性化の解析

神戸大学 遺伝子実験センター 後藤 達志


 現在、様々な天然・人工食品添加物が食品の品質の維持や向上のために用いられている。食品添加物のヒトの健康へのリスクへの関心は高く、科学的な証拠に基づく厳密な安全性評価が求められる。そのようなリスクの一つに、DNA損傷に起因する変異原性がある。化合物の変異原性を簡便に評価する方法として、ラット肝S9画分を用いたウム試験が行われてきた。このような試験は経済性に優れている一方で、ヒトの薬物代謝系との違いからくる結果のずれも指摘されてきた。我々は、肝臓に発現している主要ヒトシトクロムP450酵素(CYP1A2、CYP2C9、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4)を大腸菌で異種発現し、これらを用いることで、生物種差を越えた食品添加物の変異原性評価法の確立を目指した。ラット肝S9画分とヒト肝S9画分を用いて既知の変異原性物質である2-アミノアントラセン、アフラトキシンB1、ベンゾ[a]ピレンを調べたところ、生これらの化合物によるDNA損傷が生物種によって異なることが示唆された。さらに、P450発現大腸菌膜画分を用いたウム試験では、2-アミノアントラセンによるDNA損傷が、CYP1A2発現膜画分存在下でのみ増加することが示された。また、CYP3A4発現膜画分の添加によりアフラトキシンB1によるDNA損傷は特異的に増加した。この実験系を用いて24種の食品添加物を調べたところ、P450発現大腸菌膜画分に依存したDNA損傷を示した物質は無く、ヒトで変異原性を示す可能性は低いと推測された。



18-17

アントシアニン色素の消化管吸収に関わるトランスポーター分子の同定

名古屋市立大学大学院薬学研究科 薬物動態制御学分野 井上 勝央


 アントシアニンは、植物の花や果実に含まれる主要な水溶性色素であり、高い抗酸化力や抗炎症作用を有する。古くからその吸収には担体の関与が示唆されてきたが、その分子実体は未だ不明である。そこで本研究では、蛍光性化合物であるMU配糖体とその代謝酵素であるGBA3を組み合わすことによりフラボノイド配糖体の輸送評価系の構築を行い、それを利用してその輸送系の分子的実体の同定を試みた。GBA3発現HEK293細胞において、MU配糖体の輸送を蛍光強度変化として捉えることに成功し、その輸送はイオン非依存性の促進拡散型であり、pH濃度依存性であった。速度論的解析の結果、MU-Glcの取り込みのミカエリス定数(Km)は8.5 μMであり、GBA3に対するKm値を大きく下回ることも示され、本輸送が膜透過律速であることが示唆された。この輸送系の分子実体としてGLUTsの関与も考えられたが、消化管組織、特に胃粘膜での発現が認められるGLUTsによるMU配糖体の取り込みの増大は認められなかったため、他のトランスポーターが配糖体の輸送に関与しているものと推察される。



18-18

真菌に対する保存料の有効性評価

東京農業大学農学部 高 鳥 浩 介
桐生大学短期大学部 高橋淳子


 食品添加物としての保存料は、微生物管理する上で重要である。従来保存料の評価は細菌に対して行われていたが、真菌に対する評価は極めて少なかった。そこで食品真菌を対象に6種保存料(プロピオン酸カルシウム プロピオン酸ナトリウム デヒドロ酢酸ナトリウム p-ヒドロキシ安息香酸エチル ソルビン酸カリウム ο-ヒドロキシジフェニールの有効性を評価した。最初に保存料の10日間MIC 値を測定したところ多くは、測定上限値の200ppmあたりにあった。しかし、保存料の有効性評価法として3日、5日、7日、10日、14日、21日、28日までの経日的静カビ活性を検討したところ、最終的には保存料としての有効性が評価できた。すなわち、短期的には保存活性が維持されており、真菌に対する静カビ活性は確認された。また保存料処理真菌形態を顕微鏡像で観察したところ高濃度での発育は認められるものの著しい抵抗性像を認めた。このことから保存料の真菌に対する有効性は、一概にMIC 値だけで評価してはならないことを検証できた。



18-19

抗菌ペプチド「ナイシン」の中性pH域における効果的な利用性に関する研究
東北大学大学院農学研究科動物資源化学分野 川井  泰


 ナイシンは、酪農用乳酸菌(Lactococcus lactis)により生産される抗菌ペプチド(バクテリオシン)であり、日本を含む世界50ヵ国を超える国々で食品保存剤として使用されている。しかしながらナイシンは、中性pH域では溶解性の低下から、抗菌効果が大幅に低減する欠点が知られている。そこで本研究では、中性pH域における効果的なナイシンの利用性を探索すると共に、指標菌Lb. delbrueckii subsp. bulgaricus JCM1002Tに対する抗菌(作用)効果について検証を行った。その結果、エタノール中でナイシンは高い熱安定性(95℃、1時間)と相乗抗菌効果を発揮すること明らかにした。また、メタボローム解析では、低分子型バクテリオシンの特徴的な抗菌作用「標的菌の細胞膜への孔形成より、低分子物質を流出させ、標的菌を死に至らしめる」に加えて、「ナイシンは、細胞内に乳酸などの有機酸を止める・蓄積することで抗菌効果を高める」ことが明らかになった。また、ナイシン添加エタノールでは、各種有機酸が菌体内で顕著に増加している傾向が認められた。



18-20

噴霧乾燥粉末からのフレーバー徐放挙動の湿度応答動的解析手法の開発

香川大学農学部応用生物科学科 吉井  英文


 噴霧乾燥粉末の形態は、粉末内の物質移動(フレーバーや酸素)に影響を及ぼす。本研究では、乳化d-リモネン噴霧乾燥粉末からのd-リモネン徐放速度を、粉末からのフレーバー徐放速度を簡便に測定する方法として定速湿度増加法を用いたフレーバーの徐放速度測定手法を提案し、モネン徐放速度に与える諸因子の影響を定量化した。噴霧乾燥供給液温40℃と80℃のとき、中空割合と中空径に及ぼす影響について検討し、その粉末構造の違いがフレーバーの徐放速度に及ぼす影響について検討した。噴霧供給液温40℃の場合のほうが、80℃の場合に比較して徐放速度が速かった。定速湿度増加法を用いたフレーバー徐放速度測定手法により、簡便に粉末からのフレーバー徐放挙動が測定できた。特に、粉末のコラップス現象をフレーバー徐放の急激な低下より観察できた。この手法は、噴霧乾燥粉末の特質としてのコラップス現象を観察する手法として非常に重要であると考える。



18-21

伊予特産柑橘類果皮の香り成分の解析と添加物エンハンサーとしての可能性

松山大学薬学部 天倉 吉章


 愛媛県は国内有数の柑橘類生産県であり、温州みかんの他にも様々な柑橘類が特産品として生産されている。それらの中には、生産量が限定した希少な品種もあり、香り成分を含めて含有成分に関する科学的データが乏しい。そこで本研究では、愛媛県特産柑橘類の果皮に含まれる精油成分を精査し、フレーバー開発に資する香り特徴成分を明らかにすることを目的とする。本研究では柑橘類6種(黄金柑、はるみ、はれひめ、せとか、甘平、紅マドンナ)の果皮に含まれる精油を抽出し、GC-MSによる精油分析を行った。その結果、黄金柑においては主成分としてlimonine(63.1%)、次いでg-terpinene(12.1%)、b-farnesene(2.4%)、a-pinene(2.2%)が検出された。せとかにおいては、limonene(91.8%)の他、myrcene(1.4%)、sabinene(1.0%)、はれひめでは、limonene(83.1%)、myrcene(3.5%)、a-pinene(1.0%)を検出した。はるみでは、limonene(81.2%)、g-terpinene(2.9%)、linalool、p-cymene(いずれも2.7%)が検出され、甘平では、limonene(78.5%)、g-terpinene(6.3%)、myrcene(2.9%)、a-pinene(1.8%)、decanal(1.2%)、linalool(1.1%)を検出した。また、紅マドンナにおける含有率は、limonene(81.7%)、myrcene(3.3%)、sabinene(1.5%)、a-pinene(1.1%)であった。また、柑橘成分である12種の化合物(フラバノールおよびその配糖体、ポリメトキシフラボン、クマリン類)の成分含有率についても分析し、それぞれの特徴を明らかにすることが出来た。さらに、各精油およびエタノール抽出物添加による食品添加物(酸化防止剤)の相乗効果について基礎的評価を実施し、その効果について考察した。



18-22

嚥下障害者用介護食の開発に伴う物性指標の構築に関する食品物性論的研究

共立女子大学 家政学部 熊谷  仁


嚥下困難者用介護食として適した食品物性を明らかにするために、TPA(Texture Profile Analysis)試験から求められるパラメータと咽頭部通過時の食物の流速との関係について検討した。TPA試験は、プランジャー速度1 mm/sと10 mm/sで行い、得られたTPA曲線から3つのパラメータ「かたさ」(hardness)、「付着性」(adhesiveness)、「凝集性」(cohesiveness)を求めた。咽頭部の流速は、超音波パルスドプラー法により測定した。TPA試験におけるプランジャー速度に関しては、1 mm/sの方が10 mm/sより適していることが示唆された。 3つのパラメータの中では「かたさ」が、誤嚥の危険性の尺度と報告のある咽頭部最大流速Vmaxとの相関が最も高かった。一方、「凝集性」は、試料の性状によって変化し、咽頭部流速分布との相関が見られなかった。よって、「かたさ」が、3つのパラメータの中で嚥下困難者用介護食の指標として適していると考えられる。



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乳化性を示す増粘多糖類の摂取が腸管からのLPS負荷に及ぼす影響

京都府立大学大学院生命環境科学研究科応用生命科学専攻 牛田 一成


乳化能を示す食物繊維には、その疎水性によって腸管内のグラム陰性菌由来のリポ多糖(LPS)を吸着し、腸管粘膜からの吸収を阻害できる可能性がある。LPSは、吸収されるとエンドトキシンとして種々の炎症性応答を誘導し、ひいては肥満の亢進にも関係するとされる。アラビアガムは、その構造の中に疎水性の高いタンパク質領域を含むために乳化能を示すことからLPSを腸管内で吸着し排除できる可能性が高い。本試験では、乳化性の異なる種々の食物繊維をラットに給与し、LPSの体内移行阻止効果を評価した。その結果、低分子量のアラビアガムに有意なLPS体内移行阻止効果が認められ、腹腔脂肪組織の炎症性サイトカイン発現を低下させることが可能であった。


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