第16回研究成果報告書(2010年)

[研究成果報告書 索引]

Abs.No.
研究テーマ
研究者
多機能アシル化分岐リン酸化オリゴ糖による澱粉質食品の品質改善 高橋 幸資
東京農工大学大学院共生科学技術研究院
スパイラル高速向流クロマトグラフィーを用いた天然食品添加物の高極性成分に対する単離精製法の開発 井之上 浩一
金城学院大学薬学部
シナモンパウダーの機能性および基原鑑別について 伊藤 美千穂
京都大学大学院薬学研究科
天然色素成分によるメタボリックシンドローム予防の鍵分子制御に関する基盤研究 津田 孝範
中部大学応用生物学部
光学活性を有する食品香料の品質評価法の構築および体内動態に関する研究 斉藤 貢一
星薬科大学薬品分析化学教室
酸化的ストレスを誘発する非遺伝毒性発がん物質の肝発がんプロモーション作用に対する抗酸化物質の修飾作用に関する研究 三森 国敏
東京農工大学共生科学技術研究院
赤ダイコン交配種におけるアントシアニン分子種と色調の相関関係の解明 小関 良宏
東京農工大学大学院共生科学技術研究院
甘味タンパク質ソーマチンの甘味発現機構の解明 桝田 哲哉
京都大学大学院農学研究科
コチニール色素中の夾雑主要アレルゲンタンパク質の解析に関する研究 穐山 浩
国立医薬品食品衛生研究所代謝生化学部
ポリフェノール類の血管病予防に対する新展開-血管異常収縮抑制機構における細胞内動態の解明- 加治屋 勝子
山口大学大学院医学系研究科
食品添加物として使用されるフラボノイド配糖体の消化管吸収メカニズムとトランスポーターの役割 牧野 利明
名古屋市立大学大学院薬学研究科
アラビアガムの発酵による短鎖脂肪酸生成と生体に対する影響に関する研究 牛田 一成
京都府立大学大学院生命環境科学研究科
非加熱喫食水産食品におけるリステリア菌の増殖抑制に関する研究 高橋 肇
東京海洋大学食品生産科学科
柑橘系果実外皮に含まれる抗菌性酵素製剤の開発 瀧井 幸男
武庫川女子大学生活環境学部
リサイクル使用可能な大環状香料化合物合成用触媒の開発 萩原 久大
新潟大学大学院自然科学研究科
生活空間芳香成分のリフレッシュ・リラクゼーション効果に関する研究 沢辺 昭義
近畿大学農学部
環境調和型触媒を利用したキラルラクトン系香料分子の合成研究 髙部 圀彦
静岡大学工学部
味認識装置を用いた精油類の化学的品質評価に関する研究 川原 信夫
国立医薬品食品衛生研究所生薬部
食品の咀嚼・燕下感覚特性に関する客観評価法の開発 堀 一浩
新潟大学大学院医歯学総合研究科

16-01

多機能アシル化分岐リン酸化オリゴ糖による澱粉質食品の品質改善

東京農工大学農学部 高橋幸資


 澱粉質食品は、主要な食品と位置付けられるが、老化して品質が劣化しやすく、食品にコクを与える油脂との親和性が概して良くない。そのため、ショ糖脂肪酸エステルのような乳化剤が用いられるが、未だ不十分で溶解性が低く、酸性下や塩の存在で機能を失い、味質の点でも制限される。そこで、水溶性が格段に高く、酸性条件、塩存在下で高い乳化能を維持し、カルシウム結合能があり、かつ、澱粉の糊化・老化制御機能のある澱粉由来のアシル化分岐リン酸化オリゴ糖(OA-BOS-P)を創出し、澱粉質食品の品質改善を最終目的に、先の研究では、高リン馬鈴薯澱粉を原料として、α-アミラーゼの部分分解後、グルコアミラーゼの徹底分解で分岐リン酸化オリゴ糖(BOS-P)を調製し、これをリパーゼの逆反応でオレイン酸(OA)をアシル化して澱粉の糊化・老化制御機能のあるOA-BOS-Pを創出した。本研究では、OA-BOS-Pの老化防止機能、乳化能およびカルシウム結合能を明らかにした。


16-02

スパイラル高速向流クロマトグラフィーを用いた天然食品添加物の高極性成分に対する単離精製法の開発

金城学院大学薬学部 井之上浩一


本研究では、既存添加物であるアントシアニン系色素(赤キャベツ色素、赤ダイコン色素、赤シソ色素)の高極性物質(抗酸化物質)を対象としてスパイラル-HSCCCの分離について検討を行った。その結果、いずれも溶媒保持率が良好であり、高極性物質の保持や分離に応用することが可能であった。本システム及び溶媒条件を利用することにより、様々な天然由来の高極成分の単離精製へ応用できるものと思われる。また、赤キャベツ色素成分の分離分析のようにHPLCでは不可能であったものもスパイラル-HSCCCを利用することが達成できることも示すことができた。 
以上より、スパイラル-HSCCCは、今後、様々な極性物質へ応用でき、主成分や活性成分の単離精製へ展開できると思われる。


16-03

シナモンパウダーの機能性および基原鑑別について

京都大学大学院薬学研究科 伊藤美千穂


 普通餌にシナモンパウダーを添加して継続的に与えることによって、マウスの水浸拘束ストレスによる胃潰瘍誘発が抑制された。シナモンパウダーの添加量100 mg/g per feed で有意に胃潰瘍発生が抑制され、4週間までの投与期間では長期であるほど高い予防効果が観察された。パウダーはベトナム産、中国産の両者で精油量や味などに差異があるものの、胃潰瘍予防効果に顕著な差異は観察されなかった。シナモンパウダーの主たる精油成分であるシンナムアルデヒドを添加した餌の継続投与でも、有意な胃潰瘍発生予防効果が観察されたが、パウダー添加群よりもその予防効果は弱かった。なお、マウスの食餌量はシナモンパウダー添加餌投与群では増加したが、体重増加量はこれには比例しなかった。「未病を治す」という東洋医学的観点から述べれば、通常の食餌に添加して継続的に摂取することでストレスによる胃潰瘍発生が予防できるという本研究の結果は、興味深いものであるといえるだろう。


16-04

天然色素成分によるメタボリックシンドローム予防の鍵分子制御に関する基盤研究

中部大学応用生物学部 津田孝範


 アントシアニンは植物色素として広く用いられており、その新たな機能開発が期待されている。本研究では、アントシアニンについて、メタボリックセンサーとして知られるAMPキナーゼ(AMPK)の活性化を介した糖尿病予防・抑制の観点から動物個体レベルで検討した。その結果、アントシアニンを豊富に含む素材は2型糖尿病モデルマウスにおいて血清グルコース濃度を有意に低下させ、インスリン感受性を改善した。末梢組織においては、試験群でAMPKを活性化しており、このことが糖尿病の予防・抑制作用に関与すると推定された。これらの結果から、食用色素としてアントシアニンは、その機能を活用した新タイプの食品添加物として活用できることが示唆される。今後、ヒトレベルでの糖尿病抑制効果等の検討により、エビデンスを蓄積でき、さらに用途開発が広がるものと期待できる。


16-05

光学活性を有する食品香料の品質評価法の構築および体内動態に関する研究
(マルチプルヘッドスペースSPME-GC/MSを用いた食品香料のキラル分析)

星薬科大学薬学部 薬品分析化学教室 斉藤貢一


 食品香料として光学異性体が指定されている、メントール、酢酸メンチル、ペリルアルデヒドおよび1,8-シネオールの4品目と1,8-シネオールの不純物として含有されるα-ピネンとリモネン、さらにメントール、酢酸メンチルの構造異性体であるネオメントール、酢酸ネオメンチルを合わせた計8品目に関して、市販食品における光学活性香料の品質評価法の構築を試みた。食品中の香料のキラル分析法としては、前処理にマルチプルヘッドスペース-固相マイクロ抽出(MHS-SPME)法を採用し、分析装置にガスクロマトグラフ-質量分析器(GC/MS)を用いてMHS-SPME-GC/MSによる分析法を構築した。また、GCカラムには、固定相の異なる2種類のカラムとして、フューズドシリカカラム(DB-17MS)とキラルカラム(β-DEX 120)をタンデムに接続させることにより、測定対象とした8品目全ての香料において完全なキラル分離が達成された。食品中の香料の添加回収試験では、SPME法の抽出条件を最適化することにより、良好な回収率が得られた。本法を固体試料と液体試料の計12検体の分析に適用したところ、一部の試料から厚生労働省が指定していない光学異性体が高い存在比で含有され、光学純度も含めた詳細な調査が必要であると考えられた。


16-06

β‐ナフトフラボンのラット肝二段階発がんモデルを用いた発がんプロモーション作用に対する酵素処理イソクエルシトリンの修飾効果に関する実験

東京農工大学大学院 共生科学技術研究院 三森国敏


 薬物代謝酵素CYP1A誘導剤であるβ-ナフトフラボン(BNF)はラット肝発がん促進作用を有しており、その発がん促進過程では酸化的ストレスが増大することが報告されている。今回、BNFの発がん促進作用に対する抗酸化物質の効果について検証するため、抗酸化作用の報告がある酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)をラット肝二段階発がんモデルにおいてBNFと併用投与し、その発がん修飾作用について検討した。6週齢の雄性F344ラットにイニシエーターとしてDENを単回腹腔内投与した。投与2週間後から基礎飼料(DEN単独群)ないしBNF(5000ppm)を6週間飲水投与した(計3群)。BNF投与開始から1週間後には2/3肝部分切除を行った。実験終了後、肝前がん病変マーカーであるGST-P陽性巣および線維化のマーカーであるElastica-van Gieson(EVG)陽性線維の定量解析を行うと共に、BNF投与により変動する遺伝子のmRNA発現をリアルタイムRT-PCRにより解析した。GST-P陽性巣の数・面積は、BNF投与によりDEN単独群と比較して有意な増加を示した。一方、EMIQとの併用投与ではBNF投与群と比較してGST-P陽性巣の数及び面積に有意な減少が認められた。さらに、EVG陽性線維の面積も、BNF投与によりDEN単独群と比較して有意な増加を示し、EMIQとの併用投与では有意な減少が認められた。
 リアルタイムRT-PCR法で抗酸化物質の併用投与により異物代謝に関連するグルタチオン転移酵素のmRNA発現がYc2で増加、Mul(Gstm1)で減少した。炎症作用で関連する遺伝子では、BNF単独群で認められたNfkbia(IkBα)及びPtgs2(Cox2)のmRNA増加が併用投与により有意に抑制された。Cox2では、免疫組織化学染色においてもEMIQとの併用投与で陽性細胞数に有意な減少が認められた。以上の結果から、EMIQはBNFによる肝発がん促進作用に対して抑制効果を示すことが示され、その一因としてBNFの代謝パターン変動に伴うレドックスバランスの変化並びにNF-κB経路の活性化抑制が関与している可能性が示唆された。


16-07

赤ダイコン交配種におけるアントシアニン分子種と色調の相関関係の解明

東京農工大学大学院工学研究院 小関良宏



 赤色系ダイコン品種の乾谷系ダイコンと白色系ダイコンの三浦ダイコンを交配して得られた F1 雑種は、すべて紫色のダイコンとなった。乾谷系ダイコンおよび F1 雑種のダイコンから 1% 塩酸/メタノールで色素を抽出し、HP20 カラムで精製の後、 6 N 塩酸で完全加水分解し、アントシアニンのアグリコンを高速液体クロマトグラフィーで解析した。その結果、乾谷系ダイコンにおいて赤色を呈するのはペラルゴニジンが、F1 のダイコンにおいて紫色を呈するのはシアニジンが合成・蓄積されていることが明らかになった。すでにペラルゴニジンの B 環の 3' 位に水酸基を導入する酵素は flavonoid 3'-hydroxylase (F3'H) であることが明らかにされ、多種の植物種から F3'H 遺伝子がクローニングされているので、その情報をもとに、紫色系ダイコンから F3'H cDNA F3'H 遺伝子をクローニングして塩基配列を解析した。さらにその情報を元に乾谷系ダイコンにおける F3'H 遺伝子の構造の解析したところ、2 種の挿入配列が見いだされ、1つは Ty3/gypsy 型レトロトランスポゾンであり、もう1つはそのレトロトランスポゾンが相同組換えによってループアウトし LTR 配列のみが挿入された形になっていることが明らかになった。また F1 雑種を自家交配して得られた F2 において、赤色を示すダイコンは、すべてアントシアニンのアグリコンとしてペラルゴニジンを合成・蓄積し、そのすべての F3'H 遺伝子には上記の挿入配列が見いだされた。一方、F2 において紫色を示すダイコンは、すべてシアニジンを有し、1つの野生型の F3'H 遺伝子を合成・蓄積していることが明らかになった。また、地中海系の赤ダイコンであるフレンチブレックファーストもペラルゴニジンを合成・蓄積しているが、その F3'H 遺伝子に挿入されていたのは新規転移因子であるヘリトロンであった。これらのことから、中国系の乾谷系赤ダイコンの育種において、レトロトランスポゾンの F3'H 遺伝子への挿入を PCR を使って遺伝子型を判定することによって、幼植物体の段階で、将来のダイコン根が紫色になるのか赤色になるのか、その表現型を識別することが可能となった。


16-08

甘味タンパク質ソーマチンの甘味発現機構の解明

京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻、京都大学大学院地球環境学堂 桝田哲哉、北畠直文


 タンパク質の多くは味を呈さないが、例外的に甘味を呈するタンパク質が知られている。熱帯植物由来のソーマチンは古くから甘味を呈することが知られ、食品素材、風味増強剤として食品業界で利用されている。しかしながら甘味タンパク質間に共通して存在するアミノ酸配列や立体構造などの特徴は見出されていない。本研究では、ソーマチンのどのアミノ酸残基が甘味発現に重要な役割を担っているのかについて詳細に検討するため、メタノール資化性酵母Pichia pastorisを用いたソーマチン高分泌発現系の構築を行い、甘味に影響を与えた変異体のX線結晶構造解析を行った。


16-09

コチニール色素中の夾雑主要アレルゲンタンパク質の解析に関する研究

国立医薬品食品衛生研究所 代謝生化学部 穐山浩


 コチニール色素は、雌のエンジムシを原料とする赤色色素で、食品や化粧品等に使用されている。一方、この色素は色素含有食品の摂取による食物アレルギーとして重篤な症状を引き起こすことが報告されている。そのアレルゲンは、色素本体のカルミン酸ではなく、原料由来の共雑タンパク質によることが示唆されているが、その同定には至っていなかった。昨年度、この色素含有の食品に対して即時型アレルギー症状を呈した3人の患者の血清中IgEと反応する夾雑アレルゲンタンパク質の同定を試み、 主要アレルゲンが38 kDaであることが明らかにした。また、このタンパク質(CC38K)のアミノ酸配列は、ハチのアレルゲンであるホスホリパーゼA1関連タンパク質と相同性が高いことが示した。今年度は、本CC38Kを酵母低温誘導系により組換えタンパク質を発現することに成功した。また本アレルゲンに含まれる糖鎖解析を検討したところ、植物糖タンパク質に共通性の高いコア構造Manα1-6(Manα1-3)(Xylβ1-2)Manβ1-4GlcNAcβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc-Asnとは異なる可能性が示唆された。


16-10

ポリフェノール類の血管病予防に対する新展開
- 血管異常収縮抑制機構における細胞内動態の解明-

山口大学 大学院医学系研究科 加治屋勝子


 脳卒中、狭心症、心筋梗塞などの血管病は、合計すると我が国死因の第2位であり、また、突然死の主原因となる致死的難病でもある。これまで、食生活や運動などの公衆疫学的指導と共に医療技術の開発・普及が図られてきたが、血管病は増加の一途をたどっており、安全かつ有効な予防法の確立が求められている。通常、血管は、細胞質Ca2+依存性に収縮する事により、血圧や血流を一定に保っている(正常収縮)が、血管病の本態である血管の異常収縮は、Ca2+非依存性に収縮する。近年、我々は、血管異常収縮の原因分子として、スフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)を世界で初めて同定し、SPCが引き起こす血管異常収縮機構の一部を解明した。血管病の根本的撲滅(未然に防ぐ)には、SPC産生による血管異常収縮後に作用する"治療薬"ではなく、血管異常収縮そのものを"予防"する事が重要である。そこで、我々は、血管異常収縮を特異的に抑制する物質をスクリーニングし、天然界に存在する物質のうち、ポリフェノール類の特異的抑制効果を発見した。しかしながら、多種多様な構造を有し、数多くの誘導体が存在するポリフェノール類のうち、どの物質がどのようなメカニズムでSPCシグナル経路を特異的に遮断するのかは、まだ全く明らかになっていない。従って、本研究では、血管異常収縮の予防に最適なポリフェノール類を同定すると共に、ポリフェノール類による血管異常収縮の抑制機構(細胞内動態)を明らかにし、ポリフェノール類の血管病に対する新しい機能の開拓を目指した。


16-11

食品添加物として使用されるフラボノイド配糖体の消化管吸収メカニズムとトランスポーターの役割

名古屋市立大学大学院薬学研究科生薬学分野 牧野利明


 ケルセチンは、タマネギやソバなどに含まれているフラボノイドであり、その抗酸化活性、抗アレルギー活性などから機能性食品素材として利用されている。しかし、ケルセチンは水溶性が低く消化管からの吸収率は低いため、食品としての機能性発現には限界がある。これまで我々は、種々の糖鎖構造を付加することによって水溶性を高めたケルセチン配糖体をラットに経口投与した時のケルセチンの動態を比較検討し、ケルセチンの消化管吸収はケルセチンの3位にβ結合でグルコースが付加したイソケルシトリン(ケルセチン3-グルコシド、IQC)のグルコースにα1→4結合でグルコースをさらに数分子(n = 1~7)さらに付加した酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)で著しく更新することを明らかにした。本研究は、その改善したメカニズムについての検討を行った。ラット消化管上皮細胞ホモジネートを用いた各種配糖体のケルセチンへの加水分解反応速度は、ラットでの実験で見られたケルセチン試験の消化管吸収速度と相関していた。すなわち、EMIQが最も速くケルセチンへ加水分解し、IQCのグルコースにβ結合でグルコースが付加したケルセチンゲンチオビオシド(Q3G)の加水分解速度は著しく遅かった。また、IQCのグルコースの6位にβ結合でラムノースが結合したルチンはケルセチンに加水分解されず、ルチンのグルコースの4位にα結合で結合したルチンのグルコース、およびルチンのグルコースにα1→4結合でグルコースがさらに数分子(n = 1~7)さらに付加したαポリグルコシルルチン(αPR)は、ルチンまでは加水分解されたものの、ケルセチンへは加水分解されなかった。このことから、ケルセチンの配糖化による消化管吸収の改善メカニズムには、小腸上皮に発現しているトランスポーターの寄与は少なく、加水分解酵素の基質特異性に依存することが推測された。EMIQのケルセチンへの加水分解は、小腸上皮ホモジネートと小腸上皮細胞懸濁液とで同様の作用を示し、加水分解に関わる酵素は小腸上皮細胞表面に存在すると推測された。また、αグルコシダーゼ阻害剤であるアカルボースはEMIQの加水分解自体を阻害し、ラクトースならびにフロリジンが小腸上皮ホモジネートによるEMIQの加水分解をIQC生成までで止めたことから、EMIQは小腸上皮細胞表面に存在するαグルコシダーゼ活性を持つmaltase-glucoamylase(MGA)によりIQCまで加水分解され、その後βグルコシダーゼ活性を持つlactase phrolizin hydrolase(LPH)によって加水分解されるものと推定された。


16-12

アラビアガムの発酵による短鎖脂肪酸生成と生体に対する影響に関する研究

京都府立大学大学院生命環境科学研究科応用生命科学専攻 牛田一成


 アカシア類は植物ガムを生産するが、それは伝統的にアラビアガムとよばれ現在では食品産業で広く使われる素材となっている。これまでの研究で、大腸内で発酵されてプロピオン酸を多く生産することがわかっている。プロピオン酸は、肝臓に運ばれて糖新生の材料となるので、糖原生アミノ酸の使用が減少し、結果的に筋肉タンパク質の分解が減少する可能性がある。また、アラビアガムは食物繊維として機能するならば脂質代謝に影響を及ぼすことが考えられる。そこで本研究では、13週齢の雌マウスにアラビアガムを飲水に添加して180日間給与し、筋肉や脂肪組織におこる変化を検討した。アラビアガム投与の結果、盲腸細菌の構成が変化し、その結果プロピオン酸の比率が上昇した。また、腸間膜脂肪と腎周囲脂肪の重量が低下する傾向が見られた。同時に、腓腹筋の重量が高値を示す傾向にあった。腎周囲脂肪の脂肪細胞の面積はアラビアガム投与群で対照群の約50%と有意な低値を示した。血清中性脂肪には変化がなかったが、遊離脂肪酸は高値を示し、総コレステロールは低値を示した。血中尿素窒素はアラビアガム投与群で低値を示した。遺伝子発現を精査した結果、腎周囲脂肪で脂肪動員の亢進を示唆する結果となった。


16-13

市販されている保存料及び日持ち向上剤を用いたネギトロ及びいくらにおけるリステリア・モノサイトゲネスの増殖制御

東京海洋大学食品生産科学科 高橋 肇


 Listeria monocytogenesはヒトにリステリア症を引き起こす可能性があることで知られており、日本においてはネギトロや魚卵製品といった生食用水産食品に分布している。これら生食用水産食品は冷蔵保存することが重要であるが、加工業者や流通業者、消費者に厳格な温度管理を課すことは難しい。そこで本研究では、保存料であるナイシンや、その他市販の日持ち向上剤(リゾチーム、ポリリジン、キトサン製剤)を用い、ネギトロや魚卵製品におけるL. monocytogenesの増殖制御を試み、その効果を検証した。実験では、各製剤を添加した食品サンプルにL. monocytogenesを接種し10℃で7日間もしくは25℃で12時間培養し、増殖を確認した。その結果、NisaplinTM(ナイシン製剤)が、通常の消費期限内において500ppmと250ppmでネギトロとイクラ中のL. monocytogenes増殖を効率的に抑制することが判明し、他の製剤についても本菌の増殖を抑制するのに最適な濃度が明確になった。本研究により、ネギトロ及びイクラにおけるL. monocytogenesの増殖抑制に最適な製剤とその濃度が明らかとなり、これら食品の保存性に関する知見を得た。


16-14

柑橘系果実外皮に含まれる有効成分の取得と生理作用

武庫川女子大学生活環境学部 瀧井幸男


 日常生食用として摂取される植物性食品(果実類、野菜類、豆類)のうち、24科46品目の組織外果皮および果肉内部の細胞内キチナーゼ活性分布を調べた。組織生重量あたりキチナーゼ活性が高い品目は、カキノキ科カキノキ果皮・果肉、ウリ科ハーデイスメロン果肉、マスクメロン果肉、ウルシ科マンゴー果皮・果肉、クスノキ科アボカド果皮、アケビ科ムベ果実およびマタタビ科キウイフルーツ果肉であった。最もキチナーゼ活性が高かったカキノキ科に絞り、そのうち品種を特定した5品目果皮について検討した結果、富士柿(愛媛県産)は、果皮生重量100gあたり1.080U及び果皮タンパク質含量あたり68.2U/mg proteinの酵素活性を示した


16-15

リサイクル使用可能な大環状香料化合物合成用触媒の開発

新潟大学大学院自然科学研究科 萩原久大


 Grubbs触媒はオレフィンメタセシス触媒として、現代の有機合成方法論を一変させたと言われる優れた性質を示す。しかし、その優れた触媒も、触媒回転数が低い事、分子量が大きい事、高価である事、安定性に欠ける事、回収再使用が出来ない事、などの問題点を抱えている。本研究では、このGrubbs触媒を液相担体であるイオン液体に溶解固定化後、さらに無定形アルミナの細孔内に固定化させ、Grubbs触媒の持つ弱点を克服する事に成功した。この固定化触媒(Ru-SILC)を用い、長鎖ビス不飽和エステルの分子内オレフィンメタセシス反応を行い、13から18員環ラクトンの合成を行うことが出来た。Ru-SILCは均一系のGrubbs触媒よりも高い活性を示し、さらに濾過操作のみで前処理を行うこと無く数回の回収再使用を行うことが出来た。生成物である大環状ラクトンは麝香様香気を有し、調合香料として市場価値が高い。自然界からの供給には限りがあり、化学合成による供給が期待されている化合物群である。


16-16

生活空間芳香成分のリフレッシュ・リラクゼーション効果に関する研究

近畿大学農学部応用生命化学科 沢辺昭義


 精神的な環境ストレスは、何気ない日常生活の中に多様に存在している。十人十色というほど、そのストレスの感じ方は様々である。オフィスでの緊張した雰囲気の中で、一寸したリラクゼーション機能をもつアイテムを欲しいと感じている人が多い。そこで、オフィスおよび生活空間のブレイクタイム(休憩)時に利用される植物芳香成分(食品添加物)によるリフレッシュ・リラクゼーション効果を確認検討した。本試験では、ストレス条件にTrier Social Stress Test (TSST) 法を用い、生活空間芳香成分のリフレッシュ・リラクゼーション効果をヒト唾液中のコルチゾール、アミラーゼの変化による並行群間比較試験を実施し、ストレスに対する有効性成分を検討した。その結果、米ヒバ (USH-G)の香りがストレスを軽減することを確認した。


16-17

環境調和型触媒を利用したキラルラクトン系香料分子の合成研究

静岡大学工学部物質工学科 高部圀彦、間瀬暢之


 光学活性α-ヒドロキシメチルシクロアルカノン類は香料やフレーバーとして需要の高いラクトン類の前駆体である。しかし、その合成法は確立されておらず、光学純度の高いα-ヒドロキシメチルシクロアルカノン類を得ることは困難である。本研究においてホルムアルデヒドをアクセプターとした5~8員環シクロアルカノンの有機分子触媒的不斉ヒドロキシメチル化反応を検討した結果、L-トレオニンを触媒として用いることにより高立体選択的に反応が進行することを見出した。さらに、生体触媒を組み合わせることにより、極めて高い光学純度を達成した。得られたキラルα-ヒドロキシメチルシクロアルカノンは官能基変換により、種々の光学活性ラクトン類へと導いた。また、5員環ケトンの不斉ヒドロキシメチル化反応において、反応機構についても考察したので併せて報告する。


16-18

味認識装置を用いた精油類の化学的品質評価に関する研究

独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター  川原信夫


 様々な用途で用いられている精油について、昨年に引き続き新たな品質評価法の確立を目的として、味認識装置を用いての調査を試みた。今年度はチョウジ油とタイム油を例に、本装置を用いた精油成分の定量の可能性について検討した。その結果、主成分としてeugenolを含有するチョウジ油は対照として行ったHPLCによる成分含量測定値と良好な同等性を示したが、一方で、主成分としてthymolを含有するタイム油はHPLCによる成分含量測定値との同等性は低かった。これらの知見より、味認識装置を用いた各種精油類の品質評価では、精油中の主要成分の種類、含有量等により、適用可能なものと、適用が困難なものとが存在することが示唆された。


16-19

食品の咀嚼・嚥下感覚特性に関する客観評価法の開発

  

新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食・嚥下リハビリテーション学分野 :堀 一浩、矢作理花、谷口裕重、井上 誠
大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座 :横山須美子、小野高裕、田峰謙一、近藤重悟、濱中 里、前田芳信

 
 食品物性が咀嚼・嚥下運動に影響を及ぼすことは広く知られており、医療・介護現場では食品物性に対する工夫が経験的に行われている。舌を口蓋に押し付け、食物を押しつぶして嚥下する際に発揮される力(舌圧)は食品物性によって調節されていると考えられるが、それを口腔内にて定量的に評価した報告はまだ少ない。今回、我々は舌圧センサシートシステムを用いて、ゲル化剤濃度を変えて製作したテクスチャーの違う食品が、嚥下時舌圧に及ぼす影響を検討した。
 まず、実験の条件を探るために、正常座位および顎引き嚥下時における唾液嚥下時、5mL・15mL嚥下時の舌圧の測定を行った。舌圧の測定は、5箇所の測定点を有する舌圧センサシート(ニッタ社)を、シート状義歯安定剤を用いて被験者の硬口蓋部に貼付して行った。その結果、唾液嚥下時舌圧、顎引き嚥下時舌圧は大きく長くなったが、5mL嚥下時と15mL嚥下時の舌圧には違いが認められなかった。
 次に、それぞれ3種類の濃度に調整したゲル化剤2種の6種類(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を使用し、5mL摂取時の舌圧と嚥下音を記録した。各ゲル試料は、咬まずに舌で押しつぶして摂取させ、嚥下音を指標として押しつぶし時部分と嚥下時部分とに分けて分析を行った。その結果、両ゲル化剤ともに濃度が増加するにつれて押しつぶし嚥下時の舌圧は高く長くなる傾向が認められた。一方で、各試料の嚥下時舌圧にはその傾向は弱くなっており、押しつぶすことによりゲル試料は十分に嚥下できる食塊となっていると考えられた。
本実験の結果より、ゲル化剤濃度の違いは押しつぶし時舌圧発現に対して影響を及ぼしており、口腔内での食塊形成が重要であることが示唆された。


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