第15回研究成果報告書(2009年)

[研究成果報告書 索引]

Abs.No.
研究テーマ
研究者
テラヘルツ波測定による食品乳化剤のリアルタイム品質検査法の開発 遠藤 泰志
東京工科大学バイオニクス学部
疎水性シェル材による水溶性生理活性物質のマイクロカプセル化技術と用途展開 田中 眞人
新潟大学工学部
天然黄色素成分(ウコン色素、ベニコウジ黄色素)の効率的な単離精製法の開発とその応用 岡 尚男
金城学院大学薬学部
天然色素成分によるメタボリックシンドローム予防の鍵分子制御に関する基盤研究 津田 孝範
中部大学応用生物学部
天然由来アントラキノン系食品添加物の代謝物の構造ならびに安全性に関する研究 森田 博史
星薬科大学生薬学教室
多機能アシル化分岐リン酸化オリゴ糖による澱粉質食品の品質改善 高橋 幸資
東京農工大学大学院共生科学技術研究院
リン酸塩類食品添加物が骨・軟骨の分化成熟及び維持に及ぼす影響 道上 敏美
大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター研究所
食品添加物の安全性評価に関する国際比較的調査研究 小西 陽一
国際毒性病理学会連合
植物性タンパク質の水産練り製品用品質改良剤としての有用性の評価 谷口 正之
新潟大学自然科学系
光学活性を有する食品香料の品質評価法の構築および体内動態に関する研究 斉藤 貢一
星薬科大学薬品分析化学教室
OXのラット肝二段階発がんモデル用いた発がんプロモーション作用に対する抗酸化剤メラトニン或いは酵素処理イソクエルシトリンの修飾効果に関する実験 三森 国敏
東京農工大学共生科学技術研究院
腸管上皮細胞の免疫応答性を指標にした天然食品成分の安全性・有用性の評価 戸塚 護
東京大学大学院農学生命科学研究科
食品の化学的殺菌・保存に関する文献調査とそれに基づく抗菌データベースの構築 土戸 哲明
関西大学化学生命工学部
殺菌後の食品添加物に残存する微生物の食品中における動態の解明 古田 雅一
大阪府立大学大学院理学系研究科
甘味タンパク質ソーマチンの甘味発現機構の解明 桝田 哲哉
京都大学大学院農学研究科
柿渋の抗ノロウイルス作用の解析 島本 整
広島大学大学院生物圏科学研究科
コチニール色素中の夾雑主要アレルゲンタンパク質の解析に関する研究 穐山 浩
国立医薬品食品衛生研究所代謝生化学部
ホスビチンによる甘味蛋白質ソーマチンの加熱不溶化防止機構及びソーマチンの微量定量法の確立 松冨 直利
山口大学農学部
天然添加物の薬物代謝酵素の作用に及ぼす影響に関する基礎研究 伊東 秀之
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
精神的ストレスにおける苦味飲料の効果について 坂井 信之
神戸松蔭女子学院大学人間科学部 
各種フラボノイド配糖体の消化管吸収メカニズムと体内動態および血糖値上昇抑制作用に関する研究 牧野 利明
名古屋市立大学大学院薬学研究科
柑橘系果実外皮に含まれる有効成分の取得とその生理作用 瀧井 幸男
武庫川女子大学生活環境学部
ケルセチン配糖体の体内動態と酸化ストレス制御機構の解明 寺尾 純二
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部
天然化合物に対する特異的抗体を用いた「甘草」主要成分グリチルリチンの生体及び細胞内での分子挙動解明 宇都 拓洋
長崎国際大学薬学部
食品素材由来酸アミド結合性ポリフェノールの血圧降下作用と構造相関・作用解析 五十嵐喜治
山形大学農学部
植物ポリフェノールの酸化安定性を改善する食品素材の探索 -食品蛋白質および環状多糖類との相互作用による安定化- 中山 勉
静岡県立大学食品栄養科学部
安らぎ効果を持つ精油およびその成分の探索 青島 均
山口大学大学院医学系研究科
味認識装置を用いた精油類の化学的品質評価に関する研究 川原 信夫
国立医薬品食品衛生研究所生薬部
ラベンダー葉茎の揮発性成分の分析 落合 為一
東亜大学大学院総合学術研究科
山口県オリジナル柑橘品種の精油成分の同定 赤壁 善彦
山口大学農学部
光学活性を有する食品添加物の安全性評価のための基礎的研究 堀江 正一
埼玉県衛生研究所
既存添加物の安全性評価のための基礎的調査研究  義平 邦利
東亜大学大学院 



15-01

テラヘルツ波測定による食品乳化剤のリアルタイム品質検査法の開発

東京工科大学バイオニクス学部 遠藤 泰志


 テラヘルツ(THz)波スペクトル測定による食品乳化剤の品質検査法の確立を試みた。食品乳化剤として、ショ糖ステアリン酸エステルと卵黄レシチンのTHz波スペクトルを測定した結果、ショ糖ステアリン酸エステルでは、ショ糖由来の吸収極大(295cm-1)が観察され、モノエステル含量が多くなるに従って直線的に高くなった。また、卵黄レシチンでは、リン脂質の純度が上がるに従って、100cm-1付近の吸光度が高くなることを認めた。以上より、THz波スペクトルを測定することにより、食品乳化剤の純度を非破壊的にリアルタイムで評価できることが明らかとなった。



15-02

疎水性シェル材による水溶性生理活性物質のマイクロカプセル化技術と用途展開

新潟大学工学部 田中 眞人


 親水性生理活性物質の疎水性シェル材によるマイクロカプセル化が試みられた。
 芯物質としてL-システインを、疎水性シェル材としてトルパルミチンを各々採用した。
 マイクロカプセル化は、溶融分散冷却法によった。すなわち、芯物質を溶融状態のトルパルミチンに添加混合した後に、分散安定剤水溶液中に添加した。その後、機械的エネルギーを負荷してシェル材を微粒化した後に、冷却してマイクロカプセルを調製した。このような基本操作において、油溶性界面活性剤の大豆レシチンの濃度を変化させるとともに、シェル材の物性を調節するために脂肪酸や脂肪酸エステルを添加した。カプセル化効率は、大豆レシチンの添加量とともに増加したが、シェル材の改質剤種により異なった。



15-03

天然黄色素成分(ウコン色素、ベニコウジ黄色素)の効率的な単離精製法の開発とその応用

金城学院大学薬学部 岡 尚男


 本研究では高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)を用いた単離精製法を天然着色料へ応用することを目的とする。具体的には、ウコン色素からのcurcumin、 demethoxycurcumin、bisdemethoxycurcuminの単離精製法開発および、ベニコウジ黄色素からのxanthomonasin A and Bの単離精製法開発を実施する。また、単離精製できた主成分を液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC/MS/MS)による構造確認も試みた。HPLCにおいて,移動相に様々な溶媒を用いて検討した結果、クルクミン色素およびベニコウジ黄色色素の各成分を良好に分離できる条件を見出した。本条件を利用して、HSCCC二相溶媒系として、ヘキサン/クロロホルム/メタノール/水(5/10/7.5/2.5,v/v)およびヘキサン/酢酸エチル/ブタノール/メタノール/水(0/4/1/0/5)を最適条件として決定できた。ウコン色素の最適二相溶媒系を用いて、HSCCCによる主成分の単離精製を行った。HSCCCによる単離精製を行ったところ、固定相の保持率は74.3 %、全分離時間5時間、全流出量270 mLであった。各分離度はAB間で1.7、BC間で2.1であった。また、ベニコウジ黄色素の最適二相溶媒系を用いて、HSCCCによる主成分の単離精製を行った。HSCCCによる単離精製を行ったところ、固定相の保持率は28 %、全分離時間3時間、全流出量360 mLであった。各分離度はAB間で1.8であった。いずれの成分もLC-MS/MSによる評価で同定し、純度として90%以上となった。近年、クルクミン類は様々な生理活性評価が報告されており、各種主成分の単離精製法は注目されている。また、ベニコウジ色素成分については、その生理活性作用が注目されており、個々の主成分に対する活性評価の必要性が議論されている。本単離精製法は、一般的に既存添加物の食品分析や安全性試験に利用でき、品質管理状態、原産国、収穫時期による主成分の含有評価に応用できる手法と位置づけられる。



15-04

天然色素成分によるメタボリックシンドローム予防の鍵分子制御に関する基盤研究

中部大学応用生物学部 津田 孝範


 アントシアニンは、これまでの食品添加物としての実績から安全性も高く、その生理機能の重要性は増してきている。本研究では、肥満・糖尿病の発症に関わる脂肪細胞機能の制御の点から、アディポネクチンの発現低下抑制作用に関わる評価系を活用したアントシアニンのアディポネクチン発現低下抑制作用とエネルギー代謝の鍵分子であるAMPキナーゼ(AMPK)の活性化について検討した。その結果、アントシアニンは脂肪細胞においてアディポネクチンの発現低下を抑制することが明らかになった。またエネルギー消費を促す鍵酵素、メタボリックセンサーとして知られ、細胞内のエネルギー状態により活性がコントロールされるAMPKをアントシアニンは活性化した。以上の結果から、食用色素としてアントシアニンはこれらの機能を活用した新タイプの食品添加物として活用できることが示唆された。今後、動物個体レベルでの糖尿病抑制効果等の検討が必要である。



15-05

天然由来アントラキノン系食品添加物の代謝物の構造ならびに安全性に関する研究

星薬科大学薬学部 森田 博史


 アントラキノン系色素は、古来より着色料として利用されてきた。アントラキノン類は、アカネ科やマメ科由来の異なる構造の色素が存在し、食品添加物としての安全性においても差異があると考えられるが、これらを系統的に検討した研究は無い。アカネ色素は、アカネ科セイヨウアカネ(Rubia tinctorum)の根より得られる色素で、変異原性アントラキノン系色素である アリザリン、ルシジン、プルプリンなどを主成分とする。変異誘発性特異性とアカネ色素についての結果より、ルシジンの活性が主要なものと考えられている。
 今回の分析の結果、従来から知られている変異原性アントラキノンの存在の他、ナフトキノン類の存在が明らかになった。特に、アカネ色素に含まれるナフトキンに関しての詳細な生物活性の報告は無く、NO 産生抑制作用を有することが明らかとなった。近年、感染•炎症•免疫反応において、生体内における NO の多彩な生理活性が注目されている。今後、これらの点に着目して、ナフトキノン類の活性および安全性の評価を検討していく予定である。



15-06

多機能アシル化分岐リン酸化オリゴ糖による澱粉質食品の品質改善

東京農工大学大学院共生科学技術研究院 高橋 幸資


 澱粉質食品は、主要な食品と位置付けられるが、老化して品質が劣化しやすく、食品にコクを与える油脂との親和性が概して良くない。そのため、ショ糖脂肪酸エステルのような乳化剤が用いられるが、未だ不十分で溶解性が低く、酸性下や塩の存在で機能を失い、味質の点でも制限される。そこで、水溶性が格段に高く、酸性条件、塩存在下で高い乳化能を維持し、カルシウム結合能があり、かつ、澱粉の糊化・老化制御機能のある澱粉由来のアシル化分岐リン酸化オリゴ糖(OA-BOS-P)を創出し、澱粉質食品の品質改善を最終目的に、本研究では、高リン馬鈴薯澱粉を原料として、α-アミラーゼの部分分解後、グルコアミラーゼの徹底分解で分岐リン酸化オリゴ糖(BOS-P)を調製し、これをリパーゼの逆反応でオレイン酸(OA)をアシル化して澱粉の糊化・老化制御機能のあるOA-BOS-Pを創出した。



15-07

リン酸塩類食品添加物が骨・軟骨の分化成熟及び維持に及ぼす影響

大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター研究所環境影響部門 道上 敏美


 リン酸塩類は乳化剤や食肉結着剤などの食品添加物として広く用いられている。リン酸が骨格の石灰化に関わることは良く知られているが、骨芽細胞や軟骨細胞の分化や機能に与える影響についてはあまり解析されていない。そこで、今回、リン酸塩類が骨芽細胞や軟骨細胞の分化や機能に及ぼす影響について検討を試みた。マウス骨芽細胞株MC3T3-E1及び軟骨細胞株ATDC5へのリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸の添加はERK1/2のリン酸化をもたらした。また、ATDC5の軟骨細胞分化能に対する リン酸塩類の影響を検討したところ、ピロリン酸、ポリリン酸の添加は石灰化を著明に促進し、石灰化関連遺伝子であるmatrix Gla protein (MGP)の発現を増強した。リン酸の添加においても軽度ながら石灰化の促進を認めた。一方、軟骨細胞初期分化のマーカーであるCol2a1及びaggrecanの発現については、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸を添加した細胞で明らかに減弱していた。以上の結果から、これらのリン酸塩類が、軟骨細胞分化の過程で、初期分化から後期分化である石灰化への移行を促進することが推察され、リン酸塩類は、骨芽細胞や軟骨細胞におけるシグナル伝達や遺伝子発現に影響を与え、骨格の分化成熟に影響を及ぼす可能性が示唆された。



15-08

食品添加物の安全性評価に関する国際比較的調査研究

国際毒性病理学会連合 小西 陽一


 本研究は前年度の結果を基に食品添加物の安全性評価に関する情報を国際的に収集した。収集した情報は、TTC活用の現況と食品添加物を含む環境化学物質の安全性評価に対するTTC概念活用への展望、動物を用いる長期発癌性試験結果のヒトの安全性評価へ外挿する作業の思考的変化及びコンピューターを用いた毒性予知プログラム(Toxcast program)である。TTCの食品添加物特に香料の安全性評価に米国FDA、JECFAとEFSAでは活用されているがわが国では活用されていない。更にTTCによるヒトの安全許容閾値は1.5μg/day、ClassⅠ、ⅡとⅢに対するそれは1,800、540と90μg/kg BW/day、遺伝毒性に対する値は0.15μg/dayが提唱されている。動物を用いる長期発癌性試験の結果をヒトへ外挿する評価について、用量反応曲線と非遺伝性物質についてはMOA、又、遺伝性物質についてはMOEを重視して行われつつある。ToxCastプログラムは米国EPAが主導しHESIが協力して行われるもので、化学物質の安全性について得られた一定の結果をコンピュータープログラムに挿入して毒性を予知せんとするものである。これらの情報は今後のわが国における食品添加物の安全性評価に対する貴重なものであろう。



15-09

植物性タンパク質の水産練り製品用品質改良剤としての有用性の評価

新潟大学自然科学系 谷口 正之


 カマボコの製造において、加熱時に原料であるすり身中の種々の内在性プロテアーゼが作用し、カマボコの弾力や結着性を低下させる軟化現象、すなわち『もどり』という深刻な問題が生じている。このもどりを抑制するために、現在は、プロテアーゼインヒビターを含む卵白などの主に動物性タンパク質が使用されている。そこで、本研究では、既に米に含まれるプロテアーゼインヒビターであるオリザシスタチン(OC)をカマボコのもどり防止に利用することを目的として、第一に組換えタンパク質としてOCを調製し、その性質を明らかにした。また、OCを含む米タンパク質を添加したエソ(lizardfish)とスケソウダラ(pollack)のすり身を用いた「モデルカマボコ」を調製し、米タンパク質の添加効果について評価した。
 本年度は、これまでの成果を踏まえて、エソとスケソウダラのすり身中のプロテアーゼに対する米タンパク質抽出液の阻害効果について検討した。スケソウダラとエソのすり身抽出液の全プロテアーゼ活性は、添加したNaCl濃度によって溶出してくるプロテアーゼの活性が変動した。また、米タンパク質溶液を添加することによって、スケソウダラとエソのすり身抽出液の全プロテアーゼ活性は、NaCl濃度に関係なく約10~20%阻害された。さらに、エソのすり身抽出液の全プロテアーゼ活性は、スケソウダラの場合よりも約3倍も高かった。この結果から、エソの内在性プロテアーゼはスケソウダラの場合よりも種類が多く、または高い活性を有していることがわかった。
 特異的なプロテアーゼインヒビターを用いて、すり身抽出液中に含まれるプロテアーゼの種類について検討した。スケソウダラとエソのすり身抽出液中には、システインプロテアーゼだけではなく、金属プロテアーゼおよびセリンプロテアーゼが存在し、それらの活性の強さはNaCl濃度によって変化することがわかった。また、エソのすり身抽出液に対するプロテアーゼインヒビターの効果はスケソウダラの場合よりも大きかった。この結果から、エソのすり身抽出液中のシステインプロテアーゼ、金属プロテアーゼおよびセリンプロテアーゼは、スケソウダラの場合よりもそれぞれ高い活性を有していることがわかった。
 米タンパク質を添加したすり身からモデルカマボコを調製して、その性質を比較検討した。その結果、米タンパク質の添加によって、モデルカマボコ(3%NaCl含有)の破断力が増加したことから、スケソウダラとエソのすり身から調製したカマボコの強度を向上できることがわかった。また、同じようにハンター白度も増加したことから、同モデルカマボコの白さも向上できることがわかった。さらに、米タンパク質の添加によるスケソウダラとエソのモデルカマボコの破断力向上には、米タンパク質が有するプロテアーゼ阻害作用だけではなく、保水力向上の能力が寄与していることが明らかになった。



15-10

光学活性を有する食品香料の品質評価法の構築および体内動態に関する研究

星薬科大学薬品分析化学教室 斉藤 貢一


 食品香料の品質保証の観点から、厚生労働省が指定する食品香料の中でも、特に光学活性の指定があるボルネオール、メントール、酢酸メンチル、ペリルアルデヒドおよび1,8-シネオールの計5品目に関して、食品香料標準品の品質評価法の構築を試みた。標準品の品質評価では、GC-FIDによる純度試験法とGC/MSによる光学純度試験法を構築した。供給メーカー4社の計25検体の標準品について測定を行い、純度および光学純度を算出した結果、純度試験において25検体中6検体は表示純度以下であり、光学純度試験の結果では25検体中13検体が表示純度以下であった。この結果から、食品香料標準品の品質評価を行うためには、現在規定されている食品香料の純度試験のみならず、光学純度試験も併せて行う必要性があることが示唆された。



15-11

OXのラット肝二段階発がんモデル用いた発がんプロモーション作用に対する抗酸化剤メラトニン
或いは酵素処理イソクエルシトリンの修飾効果に関する実験

東京農工大学共生科学技術研究院 三森 国敏


 ベンズイミダゾール系の内寄生虫用剤であるオクスフェンダゾール(OX)はラットに肝腫瘍を誘発することが知られており、その肝発がんメカニズムに酸化ストレスが関与することが報告されている。今回、酸化ストレスとの関与を更に詳細に検討するため、OXを用いたラット二段階肝発がんモデルを用い、抗酸化作用を有する酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)或いはメラトニン(MLT)を併用投与した時の発がん修飾作用を検討した。雄性F344 ラットにDENを単回腹腔内投与し、その2週後からOX 500 ppmの混餌投与及び2,000 ppmのEMIQ或いは100 ppmのメラトニンの飲水投与を10週間行った。OX投与開始1週後には2/3肝部分切除を行った。実験終了後,肝臓に対し、HE染色による病理組織検査、肝前がん病変マーカーと考えられているGST-P陽性細胞巣の免疫組織学的解析およびReal-time RT-PCRによる薬物代謝関連遺伝子の発現解析を行った。EMIQ或いはMLT併用群では、OX単独群(対照群との間に差はなし)と比較し、有意な体重の増加抑制が認められた。肝臓重量では、DEN-OX群(対照群に対し有意に増加)と比較し、EMIQ併用群で相対重量が有意に増加したが、体重増加抑制に起因する変化と推察された。肝前がん病変マーカーであるGST-Pの免疫染色では、DEN-OX群と比較し、EMIQ併用群でGST-P陽性巣数の有意な抑制が、MLT併用群でGST-P陽性巣数及び面積の有意な減少が認められた。リアルタイムRT-PCR解析では、DEN-OX群と比較し、EMIQ併用群でCyp2b1/2及びMe1の有意な減少が、MLT併用群でCyp1a1、Cyp2b2、Afar及びMe1の有意な減少が認められた。DEN-OX群の肝臓から単離したミクロソーム分画を用いたin vitro ROS産生実験では,両抗酸化剤の添加によりROS産生量の低下が認められた。以上より、OXの肝発がんプロモーション作用には、OXの肝発がん過程において生じると考えられる活性酸素種産生の増加が関与していることが明らかとなり、さらに、EMIQは、その活性酸素種産生を抑制することによりOX誘発肝腫瘍プロモーション作用を抑制することが示唆された。



15-12

腸管上皮細胞の免疫応答性を指標にした天然食品成分の安全性・有用性の評価

東京大学大学院農学生命科学研究科 戸塚 護


 腸管上皮細胞(IEC)は腸管粘膜におけるバリア構築を担うが、腸管免疫系の調節にも重要な働きをしている。本研究では、IECの免疫調節機能に及ぼす影響を指標として食品成分の安全性・有用性を評価することを目的として、その新たな評価法の構築と、IECのサイトカイン産生に対して食品成分が及ぼす影響の解析を行った。本年度は、昨年度の研究でIECの炎症性サイトカイン産生を抑制する効果が認められたメラトニンについて、さらにその作用を解析するため、菌体成分で誘導されるIECの遺伝子発現変化に対してメラトニン添加が与える影響を、DNAマイクロアレイ法により解析した。その結果、メラトニンによって遺伝子発現の抑制を受けるサイトカインは、炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-6, IL-1α、IL-11、LIF (Leukaemia Inhibitory Factor)、造血性サイトカインであるG-CSF、GM-CSF、炎症性ケモカインであるCXCL2/MIP-2、CCL20/MIP-3αであることが明らかとなった。さらにメラトニンのIECに対する抗炎症効果の生体内での意義を検証するため、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導腸炎モデルマウスを用いて、経口投与したメラトニンの効果を調べた。その結果、メラトニンの投与により腸管内の出血の程度を示す便潜血、血清中のIL-6量の有意な低下が認められた。これらの結果より、メラトニンはIECのサイトカイン産生を制御し、腸管における炎症抑制に働くことが示された。



15-13

食品の化学的殺菌・保存に関する文献調査とそれに基づく抗菌データベースの構築

関西大学化学生命工学部 土戸 哲明
聖母女学院短期大学児童教育学科 中村 一郎


 2003年から2005年にかけて主要な学術雑誌に発表された食品の化学的殺菌・保存についての論文の掲載データをもとに、本来食品保存機能をもつ薬剤を含めた薬剤殺菌に関するデータベースであるChemoKill Database R0305bを作成した。これは、各論文の書誌データ、殺菌データ、微生物処理条件データ、食品処理条件データについての85項目に及ぶデータを抽出・収集し、検索機能を装備したものである。また、薬剤は加熱殺菌において併用されることが多いことから、従来から継続構築中の加熱殺菌データベース、ThermoKill Database Rの一層の拡充を図り、その中で薬剤を併用したものを抽出して別構成の加熱・薬剤併用殺菌データベースとし、これをThermoChemoKill Databse Rと呼ぶこととした。これは2003年から2005年までを今回の研究助成対象期間のデータベースと位置づけた。ただし、ここでのデータ統計には、すでに作成していた2001年から2002年の分(R0102)も合わせることとし、その包括版であるR0105を使用した。これらの薬剤殺菌データベースと加熱薬剤殺菌データベースは、食品製造はもちろん、医療、環境の衛生面においても有用なツールとして期待されよう。



15-14

殺菌後の食品添加物に残存する微生物の食品中における動態の解明

大阪府立大学大学院理学系研究科 古田 雅一
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 岸田 正夫


 食品加工において効果的な微生物制御達成するために、一定の殺菌処理を受けた微生物がどのようなストレス応答を示し、どのような栄養条件で回復、増殖の促進や抑制が起こるのかを検討することが本研究の目的である。そこでまず手始めにS. cerevisiaeE. coliB. subtilis芽胞、B. megaterium芽胞の放射線感受性の差を再確認すると共にフローサイトメトリー、MTT assay、パルスフィールドゲル電気泳動法を用いて真核細胞、原核細胞という細胞の体制の違いにかかわらず、増殖の開始直前に核酸合成が起こり、放射線処理により増殖の開始時期の遅延とそれに伴う核酸の合成時期の遅延が生じることを明らかにした。さらにS. cerevisiaeを対象として、60Coガンマ線照射後及び加熱処理後の細胞について、トリパンブルー染色法を用いて、60Coガンマ線照射の場合はDNA二本鎖切断が主要な細胞損傷であるのに対し、加熱の場合は細胞のミトコンドリアの電子伝達系の損傷がまず起こり、その後細胞膜透過機能の損傷、DNAの二本鎖切断が順次起こることを明らかにした。
 次に殺菌が必要とされる天然の食品添加物の群のなかから殺菌ニーズの高い代表的な香辛料として黒コショウを選び、10 kGyの600Coガンマ線照射で十分加工食品に使用可能なレベル(1000個/g未満)まで殺菌できることを確認すると同時に生菌数が少ないソーセージ中で放射線照射後の生残菌が加熱後の生残菌とほぼ同レベルの増殖挙動を示す可能性を明らかにした。



15-15

甘味タンパク質ソーマチンの甘味発現機構の解明

京都大学大学院農学研究科 
京都大学大学院地球環境学堂
桝田 哲哉、北畠 直文


 タンパク質の多くは味を呈さないが、例外的に甘味を呈するタンパク質が知られている。熱帯植物由来のソーマチンは古くから甘味を呈することが知られ、食品素材、風味増強剤として食品業界で利用されている。しかしながら甘味タンパク質間に共通して存在するアミノ酸配列や立体構造などの特徴は見出されていない。本研究では、ソーマチンのどのアミノ酸残基が甘味発現に重要な役割を担っているのかについて詳細に検討するため、メタノール資化性酵母Pichia pastorisを用いたソーマチン発現系の構築、部位特異的変異体の作製、甘味に影響を与えた変異体についてX線結晶構造解析を行った。



15-16

柿渋の抗ノロウイルス作用の解析

広島大学大学院生物圏科学研究科 島本 整


 近年,冬期を中心にノロウイルスによる食中毒および感染性胃腸炎が多発し,社会問題となっている。しかし,ノロウイルスによる胃腸炎については適切な治療薬・治療法がなく,水分補給などの対症療法が図られているのみである。また,感染予防などに用いられている抗ノロウイルス消毒剤で公式に認められているものは,人体に有害な次亜塩素酸ナトリウムのみであり,エタノールや逆性石けんなどは効果がないことが知られている。このような現状から,調理器具や手指などに用いても安全・安心な抗ノロウイルス消毒剤の開発が望まれてきた。そこで,我々は食品添加物として利用可能な植物由来成分の抗ノロウイルス効果について検証し,安全・安心な抗ノロウイルス消毒剤の開発を試みた。その結果,古くから民間薬や食品添加物として用いられてきた柿渋が強い抗ノロウイルス効果を示すことを発見し,柿渋を含むエタノール製剤やハンドソープなどの開発を行った。また,ノロウイルス以外の種々の病原ウイルスに対する柿渋の効果についても解析を行った。
 多くの植物由来成分についてスクリーニングを行ったところ,柿渋が最も強い抗ノロウイルス作用を示した。その効果は非常に強く,リアルタイムPCRによるウイルスゲノム測定で99% 以上の消毒効果を示した。また,消毒時間は最短30秒で十分な効果が認められた。一般的に,今回のようなウイルスゲノム測定による消毒効果の検証では,培養細胞を用いた感染価の測定と比べて消毒効果を過少評価することになるため,培養方法が確立されていないウイルスに対する失活効果を調べる方法としては有効である。
 ノロウイルス以外の7種の非エンベロープウイルスすべてに対しても柿渋は抗ウイルス効果を示し,柿渋添加によってウイルス感染価が10-2~10-6にまで低下した。また,インフルエンザウイルスを含むエンベロープウイルスに対しても調べたすべてのウイルスに対して柿渋は有効であった。柿渋以外のタンニン類で抗ウイルス効果が認められたものもあったが,すべてのウイルスに対して効果を示したものは柿渋のみであった。以上の結果から,柿渋がノロウイルスのみならず多くのウイルスに対して抗ウイルス作用を有しており,食品添加物としても用いられている安全な柿渋がオールマイティーな抗ウイルス性消毒剤や抗ウイルス剤として利用できる可能性が明らかになった。



15-17

コチニール色素中の夾雑主要アレルゲンタンパク質の解析に関する研究

国立医薬品食品衛生研究所代謝生化学部 穐山 浩


 コチニール色素は,雌のエンジムシを原料とする赤色色素で,食品や化粧品等に使用されている。一方,この色素は色素含有食品の摂取による食物アレルギーとして重篤な症状を引き起こすことが報告されている。そのアレルゲンは,色素本体のカルミン酸ではなく,原料由来の共雑タンパク質によることが示唆されているが,その同定には至っていない。そこで,この色素含有の食品に対して即時型アレルギー症状を呈した3人の患者の血清中IgEと反応する夾雑アレルゲンタンパク質の同定を試みた。エンジムシ虫体から,約40 kDaのタンパク質を抽出・精製後,N末端および内部配列を解析した。さらに,得られた情報を基に,cDNAクローニングを行った。以上の結果から,当該夾雑タンパク質がコチニール色素中の主要アレルゲンであることが示唆された。また,このタンパク質のアミノ酸配列は,NCBIのBLAST-Pでの相同性検索の結果,ハチのアレルゲンであるホスホリパーゼA1関連タンパク質と相同性が高いことが示された。



15-18

ホスビチンによる甘味蛋白質ソーマチンの加熱不溶化防止機構及びソーマチンの微量定量法の確立

山口大学農学部 松冨 直利


 甘味蛋白質ソーマチンの熱安定性に及ぼす各種緩衝液やアニオンの影響について検討した。ソーマチンは5 mMリン酸緩衝液(pH 7)中、80℃15分の加熱処理で容易に凝集不溶化して、甘味を失う。特に、ソーマチンはリン酸塩、クエン酸塩の存在下での加熱で、強く不溶化することが分った。しかし、高度リン酸化蛋白質であるホスビチンはソーマチンの熱凝集を完全に抑制し、その甘味性を保護した。ソーマチンの加熱に及ぼすホスビチンの影響を、CDスペクトルやトリプトファン蛍光スペクトルから精査した。加熱ソーマチンの分子構造解析から、ホスビチンは熱変性ソーマチンの凝集を防ぎ、冷却中にソーマチンの再生を促進することが示唆された。その結果として甘味活性を保護する機能を持つものと考えられた。



15-19

天然添加物の薬物代謝酵素の作用に及ぼす影響に関する基礎研究

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 伊東 秀之


 食品-医薬品開相互作用には様々な要因があるが、なかでも医薬品の代謝に関与する薬物代謝酵素シトクロムP450(CYP)の阻害や誘導が主因とされるものが多い。そのためCYP阻害や誘導を引き起こす成分を含む食品は、特定の医薬品と併用した場合、副作用を誘引するリスクを生じる可能性がある。先の研究で、既存添加物30種についてCYP2C9およびCYP3A4の阻害活性を系統的に評価した結果、ほとんどの添加物は阻害活性を示さなかったが、コウリャン色素など数種が、CYP2C9とCYP3A4の両酵素に対して強い阻害活性を示した。
 本研究では、CYP阻害活性を指標にコウリャン色素の分離を行い、活性成分の特定を行った。各種溶媒による抽出、カラムクロマトグラフィーによる分画、精製を行い、さらに逆相系HPLCおよびGPC分析の結果、フラボノイドのApigeninおよび数平均分子量約4,000の高分子化合物画分に顕著なCYP阻害活性を有することが明らかとなった。今後さらに詳細な構造解析等を行い、阻害活性成分を特定すると共に、活性成分の生体内動態の検討や、in vivo系実験によるコウリャン色素の医薬品の血中動態に及ぼす影響などについて、さらに検討を進める予定である。



15-20

精神的ストレスにおける苦味飲料の効果について

神戸松蔭女子学院大学人間科学部 坂井 信之


 最初に大学生にストレスの緩和法についての質問紙調査をおこなった。その結果、チョコレートやコーヒーの摂取がストレス緩和効果を持つと認識していることがわかった。次に、実験室で、実験的にストレスを作り出すことのできる課題を探索し、数独と呼ばれるパズルを応用する方法を開発した。飲料摂取やアロマへの暴露など、いくつかの化学感覚刺激を適用した結果、実験的に作り出されたストレスを解消させる最も効果的な方法はコーヒーの香りを嗅ぐことであることがわかった。また、ハーブ入り飲料の摂取は、説明無しには効果はあまりなかったが、飲料のストレス緩和効果を教示した場合には、ハーブ入り飲料のストレス緩和効果が増強されることがわかった。



15-21

各種フラボノイド配糖体の消化管吸収メカニズムと体内動態および血糖値上昇抑制作用に関する研究

名古屋市立大学大学院薬学研究科 牧野 利明


 ケルセチンは、タマネギやソバなどに含まれているフラボノイドであり、その抗酸化活性、抗アレルギー活性などから機能性食品素材として利用されている。しかし、ケルセチンは水溶性が低く消化管からの吸収率は低いため、食品としての機能性発現には限界がある。本研究では、種々の糖鎖構造を付加することによって水溶性を高めたケルセチン配糖体をラットに経口投与した時のケルセチンの動態を比較検討した。ケルセチン、イソケルシトリン(ケルセチン3-グルコシド、IQC)、IQCのグルコース(G)にa1→4結合でGを1分子または数分子(n=1~7)さらに付加したケルセチン3-O-マルトシド(Q3M)と酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)、IQCのGにb1→6結合でGを1分子付加したケルセチンゲンチオビオシド(Q3G)、IQCのGにa1→6結合でラムノースを付加したルチン、ルチンのGにa1→4結合でGを1分子または数分子付加したaモノグルコシルルチン(aRM)とaポリグルコシルルチン(aRP)の8種類の化合物を水に溶解または懸濁し、麻酔下ラットに50mmol/kg経口投与後、経時的に採血し、bグルクロニダーゼ処理血漿中のケルセチンの濃度を測定した。生物学的利用率(F値)はケルセチン静脈内投与時のAUC0→12hとの比率により算出した。また、正常ラット小腸上部の上皮をホモジナイズして得た粗酵素液を用い、それら配糖体の加水分解反応を検討した。その結果、ケルセチンおよび各種配糖体のF値は、ケルセチン (2.1%)、IQC (12%)、Q3D (31%)、EMIQ (36%)、Q3G (3.1%)、ルチン (0.8%)、aRM (4.2%)、aRP (1.9%)であった。IQC、Q3D、EMIQは小腸上皮から調製した粗酵素により速やかにケルセチンへ加水分解されたが、Q3G、ルチンは加水分解されず、aRM、aRPはルチンまでしか加水分解されなかった。ケルセチンの消化管吸収はa1→4結合によるG糖鎖の伸張により顕著に改善され、EMIQの消化管吸収が著しく高いことが明らかになった。その機序として、小腸上皮に存在する加水分解酵素lactase phrolizin hydrolase(LPH)およびmucosal maltase-glucoamylase(MGAM)による糖鎖構造特異的な加水分解が関与しているものと推定された。



15-22

柑橘系果実外皮に含まれる有効成分の取得とその生理作用

武庫川女子大学生活環境学部 瀧井 幸男


 植物性食品材料54品種について、組織外皮摩砕液のキチナーゼ活性を検討し、タンパク量あたり最大酵素生産を示す柑橘系果実1品種より粗酵素を取得した。これを2段階の精製操作、DEAE-Sephacelイオン交換およびSephacryl S-200ゲルロ過クロマトグラフィーに供することにより、粗酵素液から8.1% の回収率で2.8倍に精製され、比活性906 mU/mg protein を示す標品を得た。最終精製標品はSDSゲル電気泳動法で均一であり、その分子量は30,000と求められた。



15-23

ケルセチン配糖体の体内動態と酸化ストレス制御機構の解明

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 室田 佳恵子、河合 慶親、寺尾 純二


 ケルセチンは種々の植物性食品に存在する主要なフラボノール型フラボノイドである。疫学調査や多くの動物実験により、ケルセチンは種々の疾病に対し予防的に働くことが期待され、それらの作用の少なくとも一部には抗酸化活性が寄与すると考えられる。生体内においてフラボノイドは代謝産物として存在しており、抗酸化性を含めたフラボノイドの機能性を明らかにするためには、生体への吸収蓄積率や、代謝物構造、標的臓器などの生体利用性を明らかにすることが必須である。フラボノイドの生体利用性には配糖体の糖鎖構造が影響することが知られているが、ヒトにおける評価はまだ十分とはいえない。そこで本研究では、天然に存在するケルセチングルコース配糖体と、α結合したグルコースオリゴマーを酵素的に修飾した酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)のヒトにおける吸収性を比較した。その結果、天然のグルコース配糖体摂取に比較し、EMIQ摂取では有意に血漿ケルセチン濃度が上昇した。EMIQの吸収性はケルセチンを豊富に含む食品であるタマネギのソテーを摂取した場合に比較しても高かった。EMIQ摂取後の血漿濃度は摂取後1.5 hで最大に達し、その後速やかに減少したことから、その吸収部位は小腸上部であることが示唆された。また、EMIQ摂取後の血漿においてリポタンパク質画分における酸化抵抗性への寄与をex vivo実験で検討したが、有意な促進はみられなかった。



15-24

天然化合物に対する特異的抗体を用いた「甘草」主要成分グリチルリチンの生体及び細胞内での分子挙動解明

長崎国際大学薬学部 宇都 拓洋、森永 紀、正山 征洋


 「甘草」は強い甘みを呈することから、醤油・味噌及び菓子などの甘味料として食品加工分野で広く利用される一方、医薬品としても全漢方処方の約70 %に配合される重要な生薬でもある。甘草中の甘味及び薬効は、その主成分であるグリチルリチン (GC) によるものである。GCは動物・細胞レベルでの研究及び臨床研究で肝庇護作用、抗炎症作用、抗アレルギー及び抗ウイルス作用などの効能を持つことが確認されているにも関わらず、その詳細な作用機構は明らかにされていない。そこで本研究は、GC及びGCの腸内代謝物であるグリチルレチン酸 (GA) に特異的なモノクローナル抗体を利用して、GC及びGAの細胞内取り込みや局在を明らかにすることを目的とした。
 マウスマクロファージ様細胞RAW264において、GCはLPS誘導性COX-2及びiNOS遺伝子発現を抑えることで炎症性マーカーであるPGE2及びNO産生を抑制した。GC特異的抗体を用いたELISAによりGCは細胞内に時間依存的に取り込まれ6時間でプラトーに達した。また蛍光免疫染色によりGCは細胞質内に局在していることが分かった。さらにGC特異的抗体固定カラムにてGCを除去した甘草エキス (GCノックアウトエキス) を用いた解析により、GCは甘草中のGC以外の成分と相乗的に作用しNO産生抑制効果を発揮することが示唆された。また、ヒト大腸癌細胞Caco-2においてGAは強いアポトーシス誘導能を示すが、GCは全く効果を示さなかった。ELISAによる細胞内取り込み解析により、Caco-2においてGAはGCに比べ顕著に細胞内取り込み能が高いことから、GCの強いアポトーシス誘導能は細胞内への取り込み能の高さに起因することが示唆された。



15-25

食品素材由来酸アミド結合性ポリフェノールの血圧降下作用と構造相関・作用解析

山形大学農学部 五十嵐喜治


 カカオ豆などに含まれる酸アミド結合性ポリフェノールの体内機能を検討するため、Caffeoyltyrosineおよびp-Coumaroyltyrosineのin vitro におけるアンジオテンシンI 変換酵素(ACE) 阻害活性、さらにはその単回経口投与、および長期にわたる食事としての給与が自然発症高血圧ラット(SHR) の血圧とそのマーカーに及ぼす影響について検討を行った。その結果、Caffeoyltyrosineおよびp-CoumaroyltyrosineはいずれもACE 阻害活性を示したが、前者が後者よりも強い阻害活性を示した。Tyrosine での阻害活性は低く、桂皮酸類部分が強いACE阻害活性と強く関わっていることが示唆された。単回経口投与試験でもCaffeoyltyrosineがp-Coumaroyltyrosineよりも強い血圧降下作用を示す傾向にあった。
 食事としての22日間にわたるSHR への給与ではCaffeoyltyrosineとp-Coumaroyltyrosineはいずれも血圧降下作用を示したが、両者の活性には有意な差がみられなかった。また、腎臓のACE 活性はこれら化合物給与群と対照群との間に差がなかったが、血清中のNO関連化合物は、Caffeoyltyrosineとp-Coumaroyltyrosine給与群が対照群に比べて高い傾向を示し、これら化合物はACE 阻害と、NO 産生を介した経路で血圧降下作用を示す可能性が示唆された。



15-26

植物ポリフェノールの酸化安定性を改善する食品素材の探索
-食品蛋白質および環状多糖類との相互作用による安定化-

静岡県立大学食品栄養科学部 中山 勉、石井 剛志、熊澤 茂則


 茶に含まれるカテキン類であるエピガロカテキンガレート (EGCg) とエピガロカテキン (EGC) を用い、植物ポリフェノールの酸化安定性を高める食品蛋白質および環状多糖類の探索を行った。スクリーニングにより、乳蛋白質であるカゼインと環状多糖類であるβシクロデキストリン (βCD) がEGCgの酸化安定性を高めることが明らかとなった。しかし、ガロイル基を有していないEGCの酸化安定性は高まらなかった。カテキン類とカゼインとの相互作用を電気泳動法により評価した結果、ガロイル基を有するEGCgが有していないEGCに比べ高い親和性を示した。また、カテキン類と各種糖類との相互作用を核磁気共鳴法により評価した。その結果、ガロイル基を有しているEGCgとβCDとの相互作用は有していないEGCとβCDとの相互作用に比べ強かった。また、他の糖類はβCD に比べEGCgとの相互作用が弱かった。これらの結果より、食品蛋白質や糖類との親和性の強弱が植物ポリフェノールの酸化安定性に影響することが予想された。



15-27

安らぎ効果を持つ精油およびその成分の探索

山口大学大学院医学系研究科 青島 均


 イオンチャネル型のγ-アミノ酪酸受容体(GABAA 受容体)は主要な抑制性の神経伝達物質受容体で、精神安定剤、睡眠薬、麻酔薬、エタノールなどにより応答が昂進され、薬理作用が生じる。以前の研究で複数の香り成分が同様の効果を持つことを見出してきた。今回は木材やハーブ精油およびバングラッデシュ産薬用植物、果物のアルコール抽出物について、アフリカツメガエル卵母細胞に発現させたGABAA 受容体の電気応答への効果を測定した。また、マウスに睡眠薬ペントバルビタールと試料とを併用投与したときの、マウスの睡眠時間への影響を測定した。その結果、複数の試料はGABAA 受容体応答を昂進すると共に、マウスの睡眠時間を延長させた。これらの試料はGABAA 受容体に作用して気分を落ち着かせ安らぎをもたらす食品、食品添加物やサプリメントの開発に利用できる可能性がある。



15-28

味認識装置を用いた精油類の化学的品質評価に関する研究

医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター 川原 信夫


 様々な用途で用いられている精油について、新たな品質評価法の確立を目的として、味認識装置を用いて17種の精油が示す味分布の調査を試みた。この結果、各味要素並びに味強度による分布のパターンから、主として7種類に分類されることが明らかとなった。更に、チョウジ油とその主成分であるeugenolとは、ほぼ同様な味分布のパターンを示した。そこでチョウジ油について、味認識装置を用いた精油中のeugenolの定量を試みた。この結果、HPLCと味認識装置では、ほぼ同等の定量結果が得られた。これらの知見は、味認識装置を用いた精油類の品質評価の可能性を示すものと考えられた。



15-29

ラベンダー葉茎の揮発性成分の分析

東亜大学大学院総合学術研究科 落合 為一


 ラベンダー(Lavandula angustifolia Mill)の試料を 5箇所(4品種)から採取時間を変えて採取した。葉茎部分をジクロルメタン抽出し、揮発成分の分析を行い、品種、採取場所、時間による差異について検討した。GC/MS分析により、80種の成分の存在が確認され、そのうち58種が同定あるいは推定された。成分としていずれの検体にも共通するものとして、群を抜いて多いものがcoumarin (4)7-methoxycoumarin (6)であり、linalyl acetate (1)linalool (2)が多い花穂部と異なる。成分のパターンは、品種について若干の差異を示し、このような分析が品種の判断に使用できる可能性を示唆した。またラベンダーには時間によって香りが異なるとの言い伝えがあるが、今回の検討では、花穂の場合と同じくいずれの品種採取場所のものも、採取時間のみが異なる検体は相関が極めて高く、差異は見出せなかった。



15-30

山口県オリジナル柑橘品種の精油成分の同定

山口大学農学部 赤壁 善彦


せとみ(ゆめほっぺ)」は、吉浦ポンカン(Citrus.reticulata Blanco)♂と清見(Citrus unshiu Mrcov. ×Citrus sinensis Osbeck)♀の交雑種で、山口県で改良された、オリジナル柑橘品種である。これまで、「せとみ」の香気成分に関する報告例はなく、本研究では、「せとみ」の果皮精油の香気成分をGC-MSにより同定し、また親品種である「吉浦ポンカン」と「清見」との成分組成の比較を行うことによる系統分類の他に、ニオイ識別装置による、ニオイ評価を試みた。まず、親子間の香気成分を比較するため、「せとみ」、親品種の「吉浦ポンカン(♂)」および「清見(♀)」の果皮から精油を連続蒸留抽出法により調製したところ、「せとみ」は、親品種の各特徴を兼ね備え、「吉浦ポンカン」のようにモノテルペン類の成分数が多く、アルデヒド量も比較的高く、「清見」のようにセスキテルペンの成分数が多かった。さらに、「せとみ」には、p-cymene, dehydro-p-cymene, δ-elemene, (E)-β-farnesene, germacrene D, carvone, (E,E)- α-farnesene, germacrene Bやα-とβ-sinensalのような、親品種には認められない、あるいは比較してその量の高いも成分も含まれていることが明らかとなった。次に、ニオイ識別による主成分分析を行ったところ、第一主成分(64.2%)において、「せとみ」は親品種の「清見」とニオイの質が似ている傾向が認められ、第二主成分(27.8%)において「せとみ」は親品種の「吉浦ポンカン」に似ている傾向が見られた。しかしながら、総合的に判断すると、「せとみ」の果皮精油は、その親品種と比較して、異なるニオイ特徴を有していることが示された。



15-31

光学活性を有する食品添加物の安全性評価のための基礎的研究
 
埼玉県衛生研究所 堀江 正一*、石井 里枝、小林晴美
星薬科大学 斉藤 貢一、伊藤 里恵、岩崎 雄介、中澤 裕之
畿央大学 北田善三,高木愛美,三好由起
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 須子 慎一郎、伊藤 澄夫
神奈川県衛生研究所 岸弘子
* 主任研究者


 食品添加物の中には,アミノ酸,糖,有機酸などの様に光学活性を有する化合物が含まれている.光学活性を有する化学物質においては,光学異性体により生体に対する影響が大きく異なるものがある.しかし,現在のところ食品添加物の成分規格の中には光学異性体の割合(光学純度)を正確に評価する試験項目がない。そこで,今回,光学純度をより正確に評価できる試験法の開発をこころみた。
1. LC/MSによる食品中のアミノ酸の光学異性体分析
 キラルカラムを用いた高感度且つ選択性に優れた高速液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)による清涼飲料水,醤油,もろみ酢等の発酵食品中に含まれるアミノ酸の光学異性体の分析法を検討した.分離カラムには,光学異性体認識能力に優れているCHIROBIOTIC Tを用いた。本法を用いることにより清涼飲料水,醤油,もろみ酢中に含まれる20種のアミノ酸を高感度且つ選択的に測定することが可能であった。
2.  「LC-UVを用いたハチミツ中プロリンのキラル分析」
 食品添加物として使用されているプロリンについては、L体のみが既存添加物として指定されている。本研究では、食品衛生上、安全性を確保するためにD体の存在の有無を確認するために、汎用性のあるLC-UVを用いたハチミツ中プロリンのキラル分析法について検討した。その結果、オルトフタルアルデヒド(OPA)と9-フルオレニルメチルクロロホルメート(FMOC-Cl)を使用した選択的な前処理を行なうことで、食品試料のクリーンアップが効果的に行なわれ、ハチミツやローヤルゼリーのような従来、前処理が困難であった試料においてもLC-UVで十分にL-プロリンとD-プロリンのキラル分析が達成された。添加回収試験を行なった結果、平均回収率は81.3 %~98.6 %以内と良好であり、また、相対標準偏差は2.7 %以内と高精度な測定が達成された。市販されているローヤルゼリーおよびハチミツについて、遊離プロリンの含有量を測定した。D-プロリンについては何れの検体からも検出されなかったが、全ての検体からL-プロリンを検出することが可能であった。
3. アミノ酸アナライザーによるアスパルテーム中の不純物の分析
 アスパルテーム中の光学異性体等の不純物分析について検討を行った。公定書ではD-APMが0.04%以下と規定されている。アミノ酸アナライザーによる分析では、L-APM中の0.04%のD-APMを検出することは可能であるが、定量は困難であった。
4. 高速液体クロマトグラフィーによる食品添加物有機酸の光学異性体分析
 食品添加物の規格基準に光学異性体の量的評価を導入することを前提に,キラル配位子交換クロマトグラフィーによる有機酸光学異性体の分離分析法を検討した.その結果,次のことが明らかになった。
1) リンゴ酸および酒石酸の測定には,カラムとしてOA-5000モノリス型,移動相として1mM酢酸銅-0.05M酢酸アンモニウム (pH4.5)/IPA(85:15)溶液,検出波長としてUV254nmを用いた時,各光学異性体は良好に分離した。
2) 乳酸の測定には,カラムとしてOA-5000粒子型,移動相として2mM硫酸銅/15%IPA溶液,検出波長としてUV254nmを用いた時,d体,l体が良好に分離した。
3) 開発した方法を用いて市販食品添加物有機酸を測定したところ,88%乳酸2検体およびl-酒石酸はいずれもl体のみを含んでおり,90%乳酸および乳酸カルシウムはl体とd体の比がほぼ7:3であった。また,d,l -リンゴ酸はl体とd体の比がほぼ1:1であった。
5. 高速液体クロマトグラフィーによる食品添加物アスパルテームの光学異性体およびその分解物の同時分析
 食品添加物の甘味料であるL-APMについて、公定書の純度試験の項ではD-APMとして0.04%以下およびDKPとして1.5%以下と規定されている。また、食品衛生法施行規則では、Phe化合物である旨の表示が義務付けられている。これらのことから、D,L-APM,DKPおよびD, L- Pheの汎用性のある同時測定法を検討した。
 その結果、カラムとしてキラル配位子交換型のSUMICHIRAL OA-5000(モノリス型)を、移動相として2mM硫酸銅溶液/アセトニトリル/IPA(85:10:5)を、検出器としてUV吸収検出器を用いたHPLCにより、いずれの成分も重なることなく分離することができた。各成分の定量限界はL-APMが10μg/mL、D-APMが1μg/mL、DKPが10μg/mL、D,L-Pheが0.1μg/mLで、検量線はいずれも良好な直線性を示し、1回の測定には25分を要した。また、L-APM2500μg/mLにD-APM1μg/mL(L-APMに対して0.04%)を加えた混合溶液を測定したところ、各成分は良好に分離、検出された。
6. D,L-アミノ酸の定量分析に関する研究
 食品中のD,L-アミノ酸の定量を目的として,N-(5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル)-L-アラニンアミド (FDAA) を用いて,ジアステレオマーへと誘導体化した後,LC / MS / MSを用いて分析する方法を用いた。
 この方法を用いることで,バルサミコ酢,黒酢,ヌックマム,ナンプラー中のD,L-アミノ酸の分離,定量が可能であった。



15-32

既存添加物の安全性評価のための基礎的調査研究
 
東亜大学大学院 義平 邦利
自然学総合研究所 水野 瑞夫
西日本食文化研究会 和仁 晧明
小林病院 小林 公子
お茶の水女子大学 佐竹 元吉
徳島文理大学香川薬学部 関田 節子
長崎国際大学薬学部 正山 征洋
大阪大学大学院医学系研究科 米田 該典
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 加藤 喜昭、森本 隆司


 天然添加物は,平成7年から,厚生労働大臣により許可されたもの以外は使用することが出来なくなった.平成7年までに,使用されていた天然添加物は,既存添加物名簿に収載され,引き続き添加物として,使用が認められている.厚生労働省は,これら添加物のうち,既存添加物450品目については,次のように整理,分類している(平成17年3月現在).
(1) FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives (JECFA)等により国際的評価がなされており,基本的な安全性が確認されているもの,および入手する試験成績により基本的な安全性を評価することができるもの : 247品目.
(2)基原,製法,本質から,安全性の検討を早急に行う必要はないものと考えられるもの :132品目.
(3)安全性に関する資料の収集が不足,安全性の確認を迅速かつ効率的に行う必要があるもの : 71品目.
 研究は,(3)の「安全性の検討を早急に行う必要のある既存添加物」と(1)の「基本的な安全性が確認されているもの,および入手する試験成績により基本的な安全性を評価することができるもの」について,安全性評価のための基礎的調査研究を行うこととする.既存添加物の安全性を評価するには,原材料の動植物が確かであること,歴史的な食経験があること,原材料の動植物は有害性でないこと,有害成分を含有しないこと等が必要であるので,これらの課題について調査研究を行い,基原動植物の規格案の作成と,それらに由来する既存添加物の規格案を作成することとする.
なお,(3)の「安全性の検討を早急に行う必要のある既存添加物」と(1)の「基本的な安全性が確認されているもの,および入手する試験成績により基本的な安全性を評価することができるもの」については,ここでは,「急ぐ既存添加物」とする.

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