第13回研究成果報告書(2007年)

[研究成果報告書 索引]

Abs.No.
研究テーマ
研究者
13-01 植物ポリフェノール類の加工代謝物の解析と食品添加物としての機能性評価 石丸 幹二
佐賀大学農学部
13-02 多糖類食品添加物の腸管免疫系に対する有用性 戸井田 敏彦
千葉大学大学院薬学研究院
13-03 植物性タンパク質の水産練り製品用品質改良剤としての有用性の評価 谷口 正之
新潟大学工学部
13-04 食品や食品添加物としても流通する生薬類の含有二酸化硫黄に関する調査研究 合田 幸広
国立医薬品食品衛生研究所
13-05 食品添加物の安全性評価に関する国際比較的調査研究 小西 陽一
国際毒性病理学会連合
13-06 高アントシアニン含量を指向したアカダイコンの育種に関する研究 辻 耕治
大阪大学大学院薬学研究科
13-07 ケイ酸塩類の液状食品等への溶出挙動に関する基礎的研究 藤巻 照久
神奈川県衛生研究所理化学部
13-08 メタボローム解析による糖尿病代謝変動の解明と改善効果を有する機能性食品成分の探索 藤本 由香
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科
13-09 植物配糖化酵素を利用した機能性食品素材の配糖体化 寺坂 和祥
名古屋市立大学大学院薬学研究科
13-10 食品容器包装関連化学物質の食品への移行性とリスク評価に関する研究 片岡 洋行
就実大学薬学部
13-11 抗酸化ビタミン含有野菜の評価に関する研究 山本 浩文
東洋大学生命科学部
13-12 食品添加物・人工甘味料の安全性・健康影響に関するサルモデルを利用した遺伝子・分子レベルでの評価試験:閉経サルモデルでのゲノミクス解析 中村 伸
京都大学霊長類研究所
13-13 有機塩素系化合物の排泄を促進する機能性食品添加物の探索 中西 剛
大阪大学大学院薬学研究科
13-14 遺伝子発現制御メカニズムの解明による抗酸化剤スクリーニング法の開発と薬物代謝及び抗酸化酵素遺伝子との相互作用 寺田 知行
大谷女子大学薬学部
13-15 食品添加物の安全性評価方法の開発
-特に発がん毒性、精子毒性についての網羅的遺伝子発現解析による検討-
吉川 敏一
京都府立医科大学生体機能制御学
13-16 既存添加物の安全性評価のための基礎的調査研究 義平 邦利
東亜大学
13-17 光学活性を有する食品添加物の安全性評価のための基礎的研究 堀江 正一
埼玉県衛生研究所


13-01

植物ポリフェノール類の加工代謝物の解析と食品添加物としての機能性評価

佐賀大学農学部 石丸 幹二


 セイタカアワダチソウから、新規フラボノイド配糖体を含め10種のポリフェノール類を単離し、その化学構造を明らかにした。それらポリフェノール類の効率的調整を目的に、セイタカアワダチソウの茎葉、不定根および毛状根の各種培養系を確立した。Chlorogenic acid と 3,5-dicaffeoylquinic acid を毛状根培養系から単離した。3, 5-dicaffeoylquinic acidは、各種培養組織における主成分であった。これらポリフェノール成分は、大豆タンパク質複合体として加工することにより、植物抽出液から選択的に分離することができた。セイタカアワダチソウは、機能性ポリフェノール類の新しい効率的抽出素材として期待される。



13-02

多糖類食品添加物の腸管免疫系に対する有用性

千葉大学大学院薬学研究院 戸井田 敏彦
現国立医薬品食品研究所 酒井 信夫


 脾臓は、 T細胞やB細胞の他に樹状細胞やマクロファージも多数存在しており、 血液中から取り込まれる抗原に対して全身性の免疫応答をすることができる。 そこで今回、 分子量の違いによるコンドロイチン硫酸ナトリウム(以下CS)の全身性免疫機構へ及ぼす影響を明らかにするために、 抗原感作マウス脾細胞を、分子量の違いで分画したコンドロイチン硫酸(以下FrCS)とオボアルブミンと共培養し、 FrCSの影響を培地中に産生されるサイトカイン量から評価した。その結果、クジラ軟骨由来及びウシ気管軟骨由来FrCSを抗原感作マウス脾細胞と共培養したところ、 クジラ軟骨由来FrCS添加群ではコントロール群と比較してTh1型サイトカインであるIFN-γの産生がFrCSの分子量依存的に促進された。 ウシ気管軟骨由来FrCS添加群では、 IFN-γ産生にコントロール群と比較して有意差は認められなかったが、 平均分子量21 kDaのFrCSで産生量が最大となり、 分子量依存的にIFN-γ産生を促進させる可能性が示唆された。 一方、 Th2型サイトカインであるIL-5とIL-10産生においては、 クジラ軟骨由来FrCSでは平均分子量21 kDa及び15 kDaのFrCS添加群においてIL-5産生の有意な抑制が認められた。 ウシ気管軟骨由来FrCSでは3種全てのFrCSにおいてIL-5及びIL-10産生に有意な抑制が認められたが、 高分子量のほうがより抑制が強い傾向が示された。 以上の結果から、 CSの分子量依存的にTh1/Th2バランスがTh1へ誘導されることが示された。 すなわち、 これまでCSの硫酸基結合位置及び結合数の違いが全身性免疫活性に影響を及ぼすと考えられていたが、 CSの分子量も活性に影響を及ぼすことが明らかとなった。



13-03

植物性タンパク質の水産練り製品用品質改良剤としての有用性の評価

新潟大学工学部 谷口 正之


 カマボコの製造において、加熱時に原料であるすり身中の種々の内在性プロテアーゼが作用し、カマボコの弾力や結着性を低下させる軟化現象、すなわち『もどり』という深刻な問題が生じている。このもどりを抑制するために、現在は、プロテアーゼインヒビターを含む卵白などの主に動物性タンパク質が使用されている。そこで、本研究では、米に含まれるプロテアーゼインヒビターであるオリザシスタチン(OC)をカマボコのもどり防止に利用することを目的として、第一に組換えタンパク質としてOCを調製し、その性質を検討した。また、OCを含む米タンパク質を添加した「モデルカマボコ」を調製し、米タンパク質の添加効果について評価した。
 OC遺伝子を発現用ベクターに組み込んで作製したプラスミドを用いて、大腸菌を形質転換し、OCをGSTとの融合タンパク質として発現させた。その後、酵素を用いてGSTを切り離し、OCをSDS-PAGEで単一成分になるまで精製した。精製したOCを用いて、ウサギを免疫して抗体を調製した。この抗体を用いてイネ中のOCの分布について検討した。フードプロセッサーを用いて解凍したエソのすり身を混練し、すり身の温度が0~1℃になった時に各種濃度の食塩および米タンパク質などの添加物を加えた。その後、すり身の温度が10℃になるまですり身をさらに混練し、ミンチ状にした。ミンチになったすり身を折径48 mmの塩化ビニリデンフィルムに充填し、両端を糸で結んだ。その後、90℃で40分間保温した後、直ちに冷水に浸して冷却した。冷却後、4℃で保存した。調製したカマボコの物性として押し込み最大荷重(押し込み荷重)と弾性ひずみを測定した。また、約5 mmの厚さに輪切りにしたモデルカマボコの切断面に色彩色差計のセンサ部を置き、L(明度)およびaとb(色相と彩度)をそれぞれ測定し、ハンター白度を算出した。
 抗OCウサギ抗体を用いて、OCの分布を検討した結果、精白米部分にOCを検出できた。そこで、精白米から調製した成分を米タンパク質として用いることにした。カマボコの一般的な原料として使用されているエソ(lizardfish)のすり身を用いて抽出液を調製し、内在性プロテアーゼ活性に及ぼす米タンパク質の添加効果について検討した。その結果、米タンパク質は、エソのすり身抽出液中の内在性プロテアーゼ(Papain系プロテアーゼ)を部分的に阻害することがわかった。この内在性プロテアーゼの活性は食塩濃度の増加につれて徐々に低下したが、いずれの食塩濃度においても米タンパク質を添加することによって、活性はさらに低下した。また、すり身に米タンパク質を添加して調製したモデルカマボコは、米タンパク質を添加していない対照のカマボコと比較して、その押し込み強度とハンター白度が向上することがわかった。



13-04

食品や食品添加物としても流通する生薬類の含有二酸化硫黄に関する調査研究

国立医薬品食品衛生研究所 合田 幸広


 昨年度に引き続き、食品や食品添加物としても流通する生薬類の残留二酸化硫黄の現状把握、安全性確保を目的として、硫黄燻蒸の疑いがある7種の生薬について国内流通品5社33品目を収集し、含有二酸化硫黄の測定を行った。この結果、ボタンピについては 300 mg/kg を超える二酸化硫黄が検出された。また、生薬中の残留二酸化硫黄に関するより簡便な測定法の確立を目的として、分光測色計による生薬の明度 (L*) 及び彩度 (C*) と残留二酸化硫黄量の関係について検討を行った。この結果、カッコン、テンマ、ビャクゴウ、ボタンピでは残留二酸化硫黄と明度 (L*) 及び彩度 (C*) との間に一定の相関関係が認められた。



13-05

食品添加物の安全性評価に関する国際比較的調査研究

国際毒性病理学会連合 小西 陽一


 食品添加物の安全性評価に関する最近の国際的情報を収集したので報告する。それらの安全性評価は基本的にげっ歯類を用いた毒性試験と2年間の発癌性試験結果を考慮に入れて算出されるNo-observed adverse effect level (NOAEL)から求められる一日摂取許容量(ADI)をもってリスク管理が行われている。しかしながら、発癌性試験は長期間の上莫大な費用を要することにより、その代替法として、遺伝改変動物やマイクロアレイを用いた遺伝子発現パターンを解析する方法などの開発が進められているが、いずれも発癌性試験の代替法とはなり得ず、被検物質の危険性を検出しうる手段としてのみ認知されている。一方、欧米ならびに国際機関に於いては、香料の如きヒトに対する低用量爆露の食品添加物等については、近年手法が確立されてきたThreshold of toxicological concern (TTC)を用いる手法により評価されている。
 TTCは化学物質の安全性について規制当局によりその有用性が認められ実行に移されている。わが国に於いては、香料を含む食品添加物の多くはその安全性評価が行われていない現状である故、TTCが適用できるものについては、この手法を取り入れて評価されることが望まれる。NOAELの安全性評価における作業上の重要性は世界的に認知されている。しかしながらAcceptable daily intake (ADI)決定に際する不確定係数、adverseとNon-adverse effects の鑑別など改造すべき点も提唱されている。
 以上の調査結果より、香料等について重要なことは、その正確な化学構造からグループ分けして評価を効率的に行うTTCが安全性評価に活用すべきと考える。TTCを用いた評価にて陰性のものはその他の試験を必要としないであろうし、明らかに陰性物質と断定できないものは、更なる遺伝毒性と反復投与試験が必要で、発癌性試験に供する物質については、慎重な選択が必要であろう。



13-06

高アントシアニン含量を指向したアカダイコンの育種に関する研究

大阪大学大学院薬学研究科 辻 耕治


 アントシアニン高含量を指向したアカダイコンの育種研究の一環として、HPLC定量の結果に基づくアントシアニン高含有個体の選抜、交配により得られた第3世代の栽培を行い、アントシアニン含量の定量を行った。その結果、選抜交配第3世代においてもアントシアニン高含量の形質は維持されていることを明らかにするとともに、特にアントシアニン高含量を示す集団の作出に成功した。また、アカダイコンを秋期から春期まで栽培し、アントシアニンの含量および組成について、通常の収穫期にあたる冬期に収穫した個体と比較した。その結果、春期収穫個体は、冬期収穫個体よりも単位体積あたりアントシアニン含量が高く、さらに、異なるアントシアニン組成を示すことを明らかにした。



13-07

ケイ酸塩類の液状食品等への溶出挙動に関する基礎的研究

神奈川県衛生研究所理化学部 藤巻 照久


 近年、我が国の食糧事情はカロリーベースで輸入食品の占める割合が6割を超える状況にある。このような状況に伴い、国際的には安全性に一定の評価をされているにもかかわらず、我が国では使用が認められていない添加物を含有する輸入食品が後を絶たない。厚生労働省は未指定添加物が含まれる食品に対する衛生上の対応を検討する中で添加物の規制に関し、国際的に安全性が確認され、かつ広く使用されている食品添加物については、国際的に整合性を図る方向で見直しを行っている。その見直しの一つとしてケイ酸塩類(アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウムアルミニウム及びケイ酸マグネシウム)の4品目に対して食品安全基本法に基づき、食品安全委員会に食品健康影響評価を依頼した。欧米におけるケイ酸塩類の使用状況は、主として食塩及びその代替塩の固結防止剤として用いられている。従って、ケイ酸塩類を固結防止剤として用いている食塩等が各種食材とともに調理過程で繁用され、食酢など様々な液状食品への混入が想定される。JECFA では、ケイ酸塩類4品目が水に溶解しないことを前提として、ADIを特定しないという評価をしている。
 そこで、ケイ酸塩類とすでに添加物として許可されている不溶性鉱物性物質(活性白土、酸性白土、グリーンタフ、花こう斑岩、タルク、パーライト及び珪藻土)の材質試験として蛍光X線分析を行った。また、食品擬似溶媒を用いて不溶性鉱物性物質、ケイ酸塩類からのケイ素をはじめとする各種元素の溶出挙動について検討した。



13-08

メタボローム解析による糖尿病代謝変動の解明と改善効果を有する機能性食品成分の探索

大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 藤本 由香


 糖尿病でみられる高血糖、高インスリン血症,高脂血症の悪循環をもたらす代謝変動に関する基盤的な知見の集積をめざし、糖代謝と脂質代謝の相互作用の観点から、質量分析装置を用いたメタボローム解析を実施し,糖尿病病態の代謝を解明することを本研究の目的である。第一に糖尿病モデル動物の作成方法を検討し、3週間の高脂肪食給餌、またはストレプトゾトシンの投与を併用することにより、有用な糖尿病モデル動物が得られることを明らかにした。次に、食後に血糖値が上昇しにくい食事として、糖尿病などの食事管理として注目されている、糖化指数の低い食品の有用性を検討するために、正常動物に糖化指数の異なる食餌を4週間または8週間給餌した。糖化指数の低い食餌を8週間続けると、糖負荷に対する血漿グルコース、インスリンの応答性が損なわれる可能性があること、またそれらの変化が生じない4週目において、血漿中の脂質の構成に変化が現れる可能性が示唆された。



13-09

植物配糖化酵素を利用した機能性食品素材の配糖体化

名古屋市立大学大学院薬学研究科 寺坂 和祥


 様々な機能性食品素材(クルクミン、カプサイシン、バニリン、トコフェロール、フラボノイド色素など)が植物等から見出されているが、それらの水溶性や安定性が低いことから、有効活用が制限されているものも多い。これら有用低分子化合物に糖を付加し配糖体とすることによって、水溶性や安定性、消化管吸収の向上、生理活性の変化などが期待でき、利用性の拡大を図ることも可能になると期待される。そこで、本研究では多様な二次代謝系をもつ植物から適切な配糖化酵素遺伝子を探し出し、その酵素を用いることにより機能性化合物配糖体の生産を可能にすることを目的とした。
 ニチニチソウ由来curcumin配糖化酵素を用いた分子生物学的、酵素化学的解析から植物配糖化酵素の活性発現には、高度保存領域であるPSPG-box中の特に保存されていないアミノ酸残基が重要であり、点変異の導入によって、より効率の良い配糖化酵素を創出できる可能性を示した。また、ニチニチソウ培養細胞より配糖体の糖鎖部分にさらに糖を付加して糖鎖を伸長する配糖化酵素遺伝子のクローニングに成功した。本酵素を用いることにより、様々な機能性低分子化合物の有効利用が可能になると考えられる。さらに、シロイヌナズナ由来のsucrose synthaseを利用することで、配糖体生産に不可欠なUDP-glucose生産系と植物配糖化酵素による配糖体生産系を組み合わせ、非常に効率的な配糖体生産法を確立した。



13-10

食品容器包装関連化学物質の食品への移行性とリスク評価に関する研究

就実大学薬学部 片岡 洋行、三谷 公里栄
岡山大学薬学部 埴岡 伸光、成松 鎮雄


 紙製の容器包装を介したアビエチン酸及びデヒドロアビエチン酸の食品汚染の予測モデルと、細胞毒性による安全性評価について検討した。紙製容器包装中のアビエチン酸類の含量は数μg/g~数百μg/gであり、その1%未満が食品擬似溶媒へ移行することがわかった。溶媒としては、脂溶性食品の擬似溶媒であるヘプタンに最も溶出しやすく、水よりもアルコールに溶出しやすいことがわかった。また、温度が上がるほど、長期間保存するほど溶出量が増えることがわかった。一方、細胞を用いた安全性試験の結果、アビエチン酸類はCaco-2細胞に細胞毒性を示し、消化管組織に対して何らかの影響を与える可能性が示唆された。



13-11

抗酸化ビタミン含有野菜の評価に関する研究

東洋大学生命科学部 山本 浩文


 消費者が安心できる美味しい機能性野菜を供給するために、野菜の抗酸化活性、抗酸化活性を有するビタミンであるa-tocopherol, b-carotene, ascorbic acidおよび抗酸化活性を有するカロテノイドならびに味の科学的評価方法を確立し、また、ヒトの健康に害を与える野菜中の成分であるシュウ酸および硝酸イオンの定量方法を確立した。有機肥料もしくは化成肥料を用いて栽培した時のコマツナの生育ならびにこれらのパラメーターの変動について検討した結果、生育や抗酸化活性成分の含量等にはほとんど変化はなかったが、有機肥料を用いて栽培した場合、旨味が強く、また苦味が低くなることが明らかとなった。一方、コマツナを低温で保存、もしくは加熱処理した場合、b-caroteneなどの脂溶性抗酸化活性成分含量が増加することが明らかとなった。この現象は、処理操作によって生合成系が活性化されることによって引き起こされると推察した。



13-12

食品添加物・人工甘味料の安全性・健康影響に関するサルモデルを利用した
遺伝子・分子レベルでの評価試験:閉経サルモデルでのゲノミクス解析

京都大学霊長類研究所 中村 伸


 機能性甘味料素材のオリゴフルクトースの生体影響に関する予備試験として、閉経サルモデルを用いたゲノミクス解析を実施し、骨代謝、肝臓・皮下脂肪における糖・脂質代謝・ステロイドホルモン生成に関わる機能遺伝子の発現性への影響を明らかにした。さらに、11種類の腸内細菌の増減を指標に腸内細菌叢への影響についても明らかにした。



13-13

有機塩素系化合物の排泄を促進する機能性食品添加物の探索

大阪大学大学院薬学研究科 中西 剛


 ダイオキシン類などの有機塩素系化合物によるヒトへの健康障害の防止や事故等による大量暴露した際の根本的な治療法の確立を目指して、本研究では生体内に蓄積した2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)の排泄を促進する天然着色料の検索を試みた。まずTCDD暴露モデルマウスについて詳細な検討を行うために、ICR雄性マウスに3H-TCDDを腹腔内投与した後、経時的に血液、糞、尿を回収して、TCDDの体内動態について検討を行った。その結果、血中3H-TCDD濃度は、day4をピークに減少し始め、day8以降で血中濃度がほぼ一定となった。3H-TCDDの尿中排泄率は検討期間を通して変動はなかったが、糞中排泄率はday1をピークに減少し、day4以降は、ほぼ一定であった。次に3H-TCDD暴露マウスにおけるアナトー色素とラック色素の、3H-TCDD排泄促進効果と臓器分布に与える影響について検討を行った。その結果、アナトー色素投与群において、糞中への3H-TCDD排泄が顕著に上昇することが確認された。また両色素投与群において、尿中への3H-TCDD 排泄も有意に上昇していることも確認された。さらに実験終了時(day16)における各臓器の3H-TCDDの濃度について検討を行ったところ、先の結果を反映して、両投与群の肝臓中の3H-TCDD 濃度が有意に減少していることが確認された。以上の結果から、これらの天然着色料は生体内に蓄積したTCDDの排泄を促進する作用を有することが示唆された。



13-14

遺伝子発現制御メカニズムの解明による抗酸化剤スクリーニング法の開発と
薬物代謝及び抗酸化酵素遺伝子との相互作用

大阪大谷大学薬学部 寺田 知行


 クルクミンは、ウコンを起源とする diferuloyl methane で、抗酸化活性と抗腫瘍活性を併せ持つ植物成分である。抗酸化酵素遺伝子の多くは、酸化的ストレスあるいは抗酸化剤により誘導を受け、細胞の防御機構として重要な役割を担っている。本研究は、抗酸化剤により強く誘導されることの知られているグルタチオン転移酵素(GSTP1)遺伝子の発現に及ぼすクルクミンの影響を調べることにより、転写のメカニズムを解明することから抗酸化剤の評価系構築のための基礎的な成果をえることを目的として行った。20μM のクルクミンの添加により、GSTP1遺伝子の発現量は顕著に増加した。詳細な検討を行うためにGSTP1遺伝子の5'-上流域のプロモーター領域(334 bp)にルシフェラーゼを結合させたレポーターコンストラクトを構築してどの領域が転写に関与するのかを検討した。その結果、AP-1結合領域が見出され、ドミナントネガティブに発現させたNrf2 を用いた実験からも Nrf2 を介した転写活性化が重要であることも明らかになった。この転写活性化に複数のARE 配列が関与する可能性をゲルシフトアッセイで確認することができた。すなわち、これらの配列がクルクミンへの応答の第一段階として極めて重要であることがわかるとともに、抗酸化剤の機能の一つである転写活性化に関わる重要な領域であることが分かった。



13-15

食品添加物の安全性評価方法の開発
-特に発がん毒性、精子毒性についての網羅的遺伝子発現解析による検討-

京都府立医科大学生体機能制御学 古倉 聡、吉川 敏一
 

Although much has been elucidated about the mechanism of cellular carcinogenesis, evaluation of the carcinogenicity of substances is still difficult. Since a number of new synthetic materials for drugs and food have been developed, it is necessary to sufficiently evaluate their carcinogenicities. In carcinogenicity tests performed at present, the test substance is administered to rodents for 2 years as their life span, and its carcinogenicity in each organ is evaluated by macroscopic and pathological examinations. Such carcinogenicity tests require considerable time and resources. In this study, we attempted to develop a new carcinogenicity test by comprehensive gene expression analysis, which is independent of target organ-specific activity of carcinogens. All food and chemicals are primarily transported to liver via portal vein, which are independent of the routes of intake. Therefore, we selected liver as the best organ with which to assess carcinogenicity in comprehensive gene expression analysis. The present report indicate that global gene analysis by using DNA microarray in liver at 3 hours after administration of chemicals could make it possible to establish a rapid bioassay to identify carcinogens for various organs.



13-16

既存添加物の安全性評価のための基礎的調査研究

東亜大学 義平 邦利*
自然学総合研究所 水野 瑞夫
西日本食文化研究会 和仁 晧明
小林病院 小林 公子
お茶の水女子大学 佐竹 元吉
徳島文理大学香川薬学部 関田 節子
九州大学薬学部 正山 征洋
大阪大学総合学術博物館 米田 該典
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 加藤 喜昭、森本 隆司
* 主任研究者

 
 天然添加物は,平成7年から,厚生労働大臣により許可されたもの以外は使用することが出来なくなった.平成7年までに,使用されていた天然添加物は,既存添加物名簿に収載され,引き続き添加物として,使用が認められている.厚生労働省は,これら添加物のうち,既存添加物450品目については,次のように整理,分類している(平成17年3月現在).
(1) FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives (JECFA)等により国際的評価がなされており,基本的な安全性が確認されているもの,および入手した試験成績により基本的な安全性を評価することができるもの : 247品目.
(2)基原,製法,本質から,安全性の検討を早急に行う必要はないものと考えられるもの :132品目.
(3)安全性に関する資料の収集が不足,安全性の確認を迅速かつ効率的に行う必要があるもの : 71品目.
 研究は,(3)の「安全性の検討を早急に行う必要のある既存添加物」と(1)の「基本的な安全性が確認されているもの,および入手した試験成績により基本的な安全性を評価することができるもの」について,安全性評価のための基礎的調査研究を行うこととする.既存添加物の安全性を評価するには,原材料の動植物が確かであること,歴史的な食経験があること,原材料の動植物は有害性でないこと,有害成分を含有しないこと等が必要であるので,これらの課題について調査研究を行い,基原動植物の規格案の作成と,それらに由来する既存添加物の規格案を作成することとする.
なお,(3)の「安全性の検討を早急に行う必要のある既存添加物」と(1)の「基本的な安全性が確認されているもの,および入手した試験成績により基本的な安全性を評価することができるもの」については,ここでは,「急がない既存添加物以外の添加物」とする.



13-17

光学活性を有する食品添加物の安全性評価のための基礎的研究

埼玉県衛生研究所 堀江 正一*、竹上 晴美、安藤 千鶴子
星薬科大学 中澤 裕之、斉藤 貢一、伊藤 里恵、
岩崎 雄介、小濱 純、坂本 裕則
畿央大学 陰山 亜矢、古江 福美、鈴木 慶一、
栢野 新市、北田 善三
神奈川県衛生研究所 岸 弘子
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 伊藤 澄夫
* 主任研究者

 食品添加物の中にはアミノ酸、糖、有機酸などの様に光学活性を有する化合物が含まれている。光学活性を持つ化学物質においては、光学異性体により生体に対する影響が大きく異なるものがある。しかし、現在のところ食品添加物の成分規格の中には光学異性体の割合(光学純度)を正確に評価する試験項目がない。そこで今回、光学純度をより正確に評価できる試験法の開発を試みた。
1. アスパルテームの光学異性体分析
 分析対象として光学活性を有する食品添加物の中から合成甘味料アスパルテーム(ASP)について検討した。分離カラムには、シリカゲルに大環状グリコペプチド化学結合したCHROBIOTIC TAG (Teicoplanin Aglycone)を用い、検出にはMS及びUV検出器を用いた。本法を用いることによりL-α-L-ASP、L-α-D-ASPを良好に分析することが可能であり、D-体が0.1%含まれていた場合の確認が可能であった。
2. アミノ酸の光学異性体分析
 紫外部吸収検出器(1)及びオルトフタルアルデヒド(OPA)によるポストカラム誘導体化後、蛍光検出器(2)により測定するアミノ酸の分析法を検討した。(1)カラムには、オクタデシルシリカにN,S-ジオクチル-D-ペニシラミンをコーティングし、銅(Ⅱ)イオンを含む逆相系移動相を用いて銅イオンを配位させ、アミノ酸を分離する配位子交換型を用いた。本法では、アミノ酸と銅イオンとが形成する錯体が300nm辺りから短波長にかけて吸収を示すために、紫外部吸収検出器による定量が可能であった。一方、(2)ポストカラム蛍光検出法は、キラルカラムにCHIROBIOTIC Tを用いることによりD体、L体を良好に分離可能であった。本法を用いて市販清涼飲料水を分析した結果、検出されたアミノ酸はいずれもL体であった。
3. プロリンのキラル分析
 光学活性を有するプロリンは、L体のみが既存添加物として指定されているのに対し、D体は神経毒性を有することが報告されている。そのため、食品衛生上、安全性を確保するためにD体の存在の有無を確認する必要がある。本研究ではOPAと9-フルオレニルメチルクロロホルメート(FMOC-Cl)を使用した選択的な前処理を行ない、LC/MSによるプロリンの高感度かつ選択的なキラル分離・定量法を構築した。本分析法を飲料中のプロリンの測定に適用した結果、数検体から数%のD体が検出された。


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