第12回研究成果報告書(2006年)

[研究成果報告書 索引]

Abs.No.
研究テーマ
研究者
12-01 インゲンマメタンパク質に基づく新しい乳化剤の開発 内海 成
京都大学大学院農学研究科
12-02 多糖類食品添加物の腸管免疫系に対する有用性 戸井田 敏彦
千葉大学大学院薬学研究院
12-03 植物ポリフェノール類の加工代謝物の解析と食品添加物としての機能性評価 石丸 幹二
佐賀大学農学部
12-04 DNAマイクロアレイの活用によるアントシアニンの生理機能の解析と安全性の再評価 津田 孝範
同志社大学研究開発推進機構
12-05 PH応答性染料を包含したマイクロカプセルの液状食品腐敗・変質に対する変色特性 田中 眞人
新潟大學工学部
12-06 食品や食品添加物としても流通する生薬類の含有二酸化硫黄に関する調査研究 合田 幸広
国立医薬品食品衛生研究所
12-07 肝臓時計遺伝子発現系を利用した食品添加物の効能・副作用評価 柴田 重信
早稲田大学理工学部
12-08 クルクミンによるDNA合成酵素阻害メカニズムの解析と抗癌・抗炎症・抗酸化活性との相関性の考察 水品 善之
神戸学院大学栄養学部
12-09 食品容器包装を介した有害化学物質汚染の迅速分析法の開発と食品汚染の実態調査 片岡 洋行
就実大学薬学部
12-10 遺伝子発現に及ぼす食品添加物の影響のDNAマイクロアレイによる網羅的解析 大塚 譲
お茶の水女子大学
12-11 食品・医薬品に共用される添加物の安全性評価に関する研究 手島 邦和
昭和大学保健医療学部
12-12 食品加工された遺伝子組換え食品からの検知法の開発 小関 良宏
東京農工大学大学院共生科
12-13 高アントシアニン含量を指向したアカダイコンの育種に関する研究 辻 耕治
大阪大学大学院薬学研究科
12-14 液体クロマトグラフィーフーリエ変換質量分析装置(LC-FT-ICR MS)を用いた食品添加物の安全性評価法の開発 竹中 重雄
大阪府立大学大学院
12-15 大豆ペプチドの経口投与が高強度自転車運動後の筋グリコーゲン再合成率および運動パフォーマンスに及ぼす効果 勝村 俊仁
東京医科大学
12-16 ビートレッドが膵β細胞におよぼす効果の検討 佐藤 勝紀
岡山大学農学部
12-17 抗酸化活性を指標とした高機能保持植物の評価に関する研究 下村 講一郎
東洋大学生命科学部
12-18 天然食品添加物原料植物のDNAプロファイリングによる鑑別・同定法の開発 水上 元
名古屋市立大学大学院
12-19 鶏卵中の高度リン酸化蛋白質による甘味蛋白質ソーマチンの熱失活凝集の抑制と蛋白質凝集抑制剤の探索 松冨 直利
山口大学農学部
12-20 有機塩素系化合物の排泄を促進する機能性食品添加物の探索 中西 剛
大阪大学大学院薬学研究科
12-21 生活習慣病発症予防を標的とした、抗糖化・抗酸化・抗動脈硬化作用を有する機能性素材の開発 西沢 良記
大阪市立大学大学院
12-22 ラット前立腺癌に対するResveratrolの化学予防効果の検討 高橋 智
名古屋市立大学大学院
12-23 麺類(うどん及びそば)に使用したプロピレングリコールの加工・調理時の挙動 西島 基弘
実践女子大学生活科学部
12-24 既存添加物・不溶性鉱物性物質の安全性評価のための基礎的研究 中澤 裕之
星薬科大学薬品分析化学教室
12-25 既存添加物の安全性評価のための基礎的調査研究 義平 邦利
東亜大学


12-01

インゲンマメタンパク質に基づく新しい乳化剤の開発

京都大学大学院農学研究科 内海 成


我々は、多くの種子の7Sグロブリンおよび11Sグロブリンを精製し、それらの乳化性を比較することによって、インゲンマメ7Sグロブリンが優れた乳化性を示すことを見い出していた。インゲンマメ7Sグロブリンの各構成サブユニットには、2ヵ所に糖鎖が付加されている。ダイズ7Sグロブリンのサブユニットには、1ヵ所あるいは2ヵ所に付加されている。2ヵ所に糖鎖が付加されているダイズ7Sグロブリン分子種でも、インゲンマメ7Sグロブリンのような優れた乳化性を示さない。インゲンマメとダイズの7Sグロブリンは、一次構造および高次構造とも類似している。しかし、糖鎖付加部位のうち1ヵ所は相同であるが、もう1ヵ所は全く異なる場所であり、インゲンマメ7Sグロブリンでは2本の糖鎖が隣接している。このような違いがインゲンマメ7Sの優れた乳化性に関わるのかどうかを解析した。大腸菌発現系を構築することによって、糖鎖をもたないインゲンマメ7Sグロブリン(R7S)を、種子から調製したインゲンマメ7SグロブリンにEndoHを働かせて2本の糖鎖のうち1本が切除されたE7Sを調製し、乳化性を天然のものと比較した。その結果、糖鎖がインゲンマメ7Sグロブリンの優れた乳化性に不可欠であるが、2本の糖鎖が隣接する必要はないこと、すなわち糖鎖に加えて、タンパク質部の構造的特徴も重要であることが明らかとなった。インゲンマメタンパク質に基づく新しい乳化剤を開発するためには、これらの要因を損なわないことが重要である。



12-02

多糖類食品添加物の腸管免疫系に対する有用性

千葉大学大学院薬学研究院 戸井田敏彦、酒井信夫


これまでの研究において私たちは、リンパ球表面上に局在するCD62L分子(L-セレクチン)とコンドロイチン硫酸の二分子間結合が、コンドロイチン硫酸の免疫化学的活性を発現するための重要なファクターであることを明らかにしてきた[SAKAI, S. et al., Immunology Letters, 84, 211-216 (2002), AKIYAMA, H., et al. Biochemical Journal, 382, 269-278 (2004)]。そこで今回は、L-セレクチンとの高い親和性及び多様な生理活性が近年数多く報告されているフコイダン(硫酸化フコースポリマー)を用いて、全身性及び粘膜免疫応答に対する影響を詳細に解析した結果、以下のことが明らかになった。
1)フコイダンは沖縄産Cladosiphon okamuranus Tokida由来及びシグマ社製Fucus vesiculosus由来の2種を用いた。それらの化学構造をHPLC、NMR等各種分析機器を用いて解析し、Cladosiphon okamuranus Tokida由来フコイダンを-[(→3Fuc-4(±OSO3)a 1-)5→3(GlcAb1→2)Fuca1]n-、Fucus vesiculosus由来フコイダンを-[→3(Fuca1→4)Fuca1→3Fuca1→3Fuc-4(OSO3)a1→3Fuca1→3(Fuca1→2)Fuc-4(OSO3)a1→]n-と同定した。
2)表面プラズモン共鳴装置(BIACORE)を用いてL-セレクチンとフコイダンの物理的親和性を測定したところ、コンドロイチン硫酸-L-セレクチンの結合定数(KA、1/M)が8.2 x 104であったのに対し、Cladosiphon okamuranus Tokida由来フコイダン-L-セレクチンは1.4 x 108Fucus vesiculosus由来フコイダン-L-セレクチンは5.5 x 108と極めて高い値を示した。
3)抗原感作マウス脾細胞をin vitroにおいて抗原存在下フコイダンと共培養し、培養上清中に産生されるサイトカインを測定したところ、フコイダン添加群はPBS添加群と比較してTh1型のサイトカインであるIFN-g、IL-2のみならず、Th2型のサイトカインであるIL-5、IL-10産生も有意に増加した。また、培養後の脾細胞の表面抗原をフローサイトメトリーを用いて解析したところ、フコイダン添加群はPBS添加群と比較してCD3e(T細胞)、CD45/B220(B細胞)、CD4(ヘルパーT細胞)及びCD8a(サプレッサーT細胞)の陽性率が有意に増加した。
4)抗原感作マウス腸管上皮間リンパ球をin vitroにおいて抗原存在下フコイダンと共培養し、培養上清中に産生されるサイトカインを測定したところ、フコイダン添加群は何れのサイトカインも産生されず、抗原特異的な応答が認められなかった。そこで、抗CD3eによる抗原非特異的刺激を試みたところ、フコイダン添加群はPBS添加群と比較してTh1型のサイトカイン産生(IFN-g、IL-2)を有意に増加させた。また培養後の腸管上皮間リンパ球の表面抗原をフローサイトメトリーを用いて解析したところ、フコイダン添加群はPBS添加群と比較してサブポピュレーションに有意な変化が認められなかった。



12-03

植物ポリフェノール類の加工代謝物の解析と食品添加物としての機能性評価

佐賀大学農学部 石丸 幹二、黄 素梅


Geraniinを高含量で含むトウダイグサ科植物であるナンキンハゼとコミカンソウの葉をオートクレーブ処理した。Geraniinの含量は減少し、4種のポリフェノール類(gallic acid, corilagin, ellagic acid and breviforin carboxylic acid)の含量が増加した。これら4種のポリフェノール類は、geraniinの分解により生成したものであった。これら4種のポリフェノール類のDPPHラジカル捕捉活性は、geraniinのものとほぼ同程度と思われた。加熱処理における安定性を考慮すると、これら2種の植物のオートクレーブ処理葉は、新しい食品添加素材として有用なものであると思われた。ナンキンハゼとコミカンソウのオートクレーブ処理葉を、4種のBacillus 菌により感染処理した。この処理により、4種のポリフェノール類は容易に分解すると共に、ラジカル捕捉活性も減少した。ナンキンハゼのオートクレーブ処理葉をPenicillium sp., Fusallinia solani および Rosellinia necafrix により感染処理した。この処理により、ポリフェノール類は徐々に分解したが、ラジカル捕捉活性は大きくは減少しなかった。この結果は、処理葉における未知のラジカル捕捉活性物質の存在を示唆するものである。



12-04

DNAマイクロアレイの活用によるアントシアニンの生理機能の解析と安全性の再評価

中部大学応用生物学部 津田孝範


肥満・糖尿病予防を標的としてDNAマイクロアレイを活用しアントシアニンの生理機能の解析を行った。その結果、アントシアニンのヒト成熟脂肪細胞への投与により、変動遺伝子を同定することができた。これらの変動遺伝子の中で、アディポネクチンの発現上昇のほかにアントシアニンのアディポサイトカイン遺伝子発現に対する新たな作用としてPAI-1やIL-6の発現低下作用を見出した。同様に脂質代謝あるいはエネルギー代謝に関連すると考えられる遺伝子群について検討したところ、UCP2をはじめとする関連遺伝子の上昇を認め、これらについてもリアルタイムPCRによる発現定量により有意な上昇が確認できた。これらの結果を踏まえて2型糖尿病モデルマウスにアントシアニンを摂取させたときの血糖上昇抑制作用を検討したところ、アントシアニン投与群で有意な血糖値の低下が認められ、糖尿病予防効果が明らかとなった。以上の結果からDNAマイクロアレイを活用してアントシアニンの新たな生理機能を見出すことができた。



12-05

pH応答性染料と包含したマイクロカプセルの液状食品腐敗・変質に対する変色特性

新潟大学工学部化学システム工学科 田中眞人


食品の腐敗・変質を感知するために、液中硬化法によりpH刺激応答性複合カプセルの調製を試みた。
実験では、シェル材種や架橋剤種等を変化させて調製されたカプセルについて、pH応答性やカプセル形状、乾燥物性評価、染料漏洩率などについて評価した。
調製されたマイクロカプセルは、pHの変化に応じて変色することが分った。



12-06

食品や食品添加物としても流通する生薬類の含有二酸化硫黄に関する調査研究

国立医薬品食品衛生研究所 合田 幸広


二酸化硫黄、亜硫酸塩類は、指定添加物として漂白剤、酸化防止剤等に用いられ、食品添加物公定言に使用基準が定められており、食品衛生法では、ごま、豆類及び野菜類についてはその使用が禁じられている。中国では一部の生薬において漂白、乾燥、防虫防黴等の目的で、硫黄薫蒸が行われており、近年、本処理を行った生薬より多量の二酸化硫黄が検出されている。本研究では、食品や食品添加物としても流通する生薬類の不純物に関する調査研究の一環として、24種の生薬について国内流通品5社118品目を収集し、改良ランキン法を用いた残留二酸化硫黄の測定を行った。この結果、サンヤク、テンマ、バイモの3品目については1,000 mg/kg を超える大量の二酸化硫黄が検出された。 さらにカッコン、ショウキョウ、テンモンドウ、キキョウ、ビャクゴウ、ソウハクヒ、レンギョウの7品目においても検出量が500 mg/kg を超える製品が認められた。特にサンヤク(ヤマノイモ)、カッコン、ビャクゴウ(ユリ根)、ショウキョウ(ショウガ)等は食品や食品添加物としても広く使用されており、これらの生薬については、食品衛生学的な観点から、注意が必要であると考えられる。



12-07

肝臓時計遺伝子発現系を利用した食品添加物の効能・副作用評価

早稲田大学理工学部 柴田 重信


時計遺伝子の発見により体内時計の分子機構の詳細が明らかとなりつつある。体内時計を制御する時計遺伝子は脳の視交差上核に発現するのみならず、末梢臓器にも発現しており、特に肝臓では顕著な発現を示すことが知られている。食品添加物は種類も多く、使用用途も多岐にわたっていることから、食品添加物が体内時計機構に作用する可能性が考えられるが、そのような視点に立った研究は皆無である。そこで今回、肝毒性が指摘されている添加物である防腐剤のオルトフェニルフェノール(orthophenylphenol,OPP)、チアベンダゾール(thiabendazole,TBZ)あるいは抗酸化剤の安息香酸ナトリウム(sodium benzoate,SB)、ブチルヒドロキシアニソール(butylated hydroxyanisole,BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene,BHT)の肝機能に対する影響を時計遺伝子発現という指標で評価した。
ところで、ソルビン酸カリウム(potassium sorbate,SK)は非常に広く用いられる保存剤であるので1日あたりの摂取量が多くなりがちな化合物である。そこでソルビン酸カリウムの肝臓時計遺伝子に対する作用も調べた。甘味料の甘草の成分であるグリチルリチン酸(Glycyrrhizinic acid,GA)は、逆に肝臓保護作用が指摘されている添加物である。以上記述した化合物が肝臓の体内時計遺伝子発現にいかなる作用を示すかにつき、マウスのインビボとインビトロの系で調べた。
OPP、TBZは高用量ではPer1とPer2遺伝子発現を増大させ、一方低用量では減弱させた。またSBの低用量も同様に遺伝子発現を低下させた。BHT、BHAやSKはいずれも時計遺伝子発現に対しては強い作用をしめさなかった。GAについてはインビトロの肝臓切片の時計遺伝子発現に対する作用をBmall-luciferaseのレポータ一系を用いて評価した。その結果、GAはリズムの振幅を増大させかつ発振周期を24時間周期に近づけることがわかった。このことはGAが肝臓保護作用を示し、その結果として時計機構を正常状態に近づけたものと思われる。
以上、食品添加物はその種類によっては、肝臓の時計機構に影響を与えるものと考えられるが、遺伝子発現を増大させたり低下させたりする作用は、生体の持つリズムに逆位相で作用すると不利に働くが、同位相で働くと有利な結果になることを考える必要がある。また、GAをうまく使えば、老化やストレスで体内時計機構が低下している状態を改善できる可能性が示唆される。



12-08

クルクミンによるDNA合成酵素阻害メカニズムの解析と
抗癌・抗炎症・抗酸化活性との相関性の考察

神戸学院大学栄養学部 水品 善之


We previously reported that a phenolic compounds, petasiphenol and curcumin (diferuloylmethane), were a selective inhibitor of DNA polymerase l (pol l) in vitro. The purpose of this study was to investigate the molecular structure and bio-activity (i.e., pol inhibitory activity, anti-inflammatory activity and anti-oxidant activity) relationship of curcumin and 13 chemically synthesized derivatives of curcumin. The inhibitory effect on pol l (full-length, i.e. intact pol l including the BRCA1 C-terminus (BRCT) domain) by some derivatives was stronger than that by curcumin, and mono- acetylcurcumin (compound 13) was the strongest pol l inhibitor of all the compounds tested, achieving 50 % inhibition at a concentration of 3.9 mM. These curcumin derivatives had anti-inflammatory activity as same tendency as pol l inhibitory activity, but compound 13 had not anti-oxidant activity. The compound did not influence the activities of replicative pols such as a, d and e. It had no effect on pol b activity either, although the three-dimensional structure or pol b is thought to be highly similar to that of pol l. Compound 13 did not inhibit the activity of the C-terminal catalytic domain of pol l including the pol b-like core, in which the BRCT motif was detected from its N-terminal region. MALDI-TOF MS analysis demonstrated that compound 13 bound selectively to the N-terminal domain of pol l, but did not bind to the C-terminal region. Based on these results, the pol l-inhibitory mechanism of compound 13 is discussed.



12-09

食品容器包装を介した有害化学物質汚染の迅速分析法の開発と食品汚染の実態調査

就実大学薬学部 片岡洋行


食生活の多様化や加工食品の増加に伴い、安価で使い捨てができるプラスチックや紙が様々な食品の容器、包装に利用されているが、これらの容器包装を介した食品への化学物質汚染がクローズアップされており、食品の安全性を確保して健康障害を未然に防ぐことが緊急の課題となっている。本研究では、様々な食品の容器、包装に利用されているプラスチックや紙を媒介として、それらの容器包装材質からの化学物質の溶出、容器包装を透過して食品を汚染する可能性を明らかにするために、まず食品容器包装関連化学物質の簡便迅速な分析法を開発した。また、開発したインチューブSPME/LC-MS法やファイバーSPME/GC-MS法を用いて市販食品における食品汚染の実態を調査した。



12-10

遺伝子発現に及ぼす食品添加物の影響のDNAマイクロアレイによる網羅的解析

お茶の水女子大学生活環境研究センター 大塚 譲


食品添加物の安全性や、効能を評価する新たな手法の確立のため、最も安全な食品や相当危険な化学物質を指標として、食品添加物の安全性や機能を評価する方法として、DNAマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を行った。HepG2細胞に母乳や、βナフトフラボン、過酸化水素を添加して培養後、RNAを抽出し、ABI社のDNAマイクロアレイで分析した。母乳で発現が2倍以上増加した遺伝子の数は1372、2分の1以下になった遺伝子の数は1819であった。βナフトフラボン添加でCYP1A1や各種のGSTの転写が2倍以上になった。過酸化水素でも各種の遺伝子の発現が変化した。これらの結果からDNAマイクロアレイによる遺伝子発現の網羅的解析が食品の安全性や機能性評価の方法として有効であるとした。



12-11

食品・医薬品に共用される添加物の安全性評価に関する研究

昭和大学保健医療学部 手島 邦和


消費者の製品に対する安全性確保の意識の向上により、製造,販売業者は製品中に含まれる成分の品名等の表示を求められている。食品においては食品添加物の表示が法制上義務付けられており、医薬品については、法制上は有効成分のみ表示が義務付けられているが、添加物についても平成16年より自主的に全面表示することになった。
消費者等はこれらの表示を基に使用の判断をすることになるが、品名の表示のみでは十分な情報提供とはいえないので、消費者等から表示された成分についての安全性の科学的根拠を求められることがある。
安全性に関する科学情報の多くは個別の研究報告として公表され、必ずしも体系的に情報が管理されている状況にないので、成分ごとにこれらの情報を整理する必要があるが、食品添加物及び医薬品添加物には共通する物が多いので、併行して検討することにより効率的な検討が可能である。
そこで食品添加物と医薬品添加物に共用される成分をリストアップすると約300品目であったので、このうちには、JECFA(Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives)で評価されモノグラフに掲載されているものがあるので、その要約及び邦訳を優先して行うこととし、それにない場合は他のデータベースにより検索することとした。
この研究は昨年に引き続き行ったものであり、検索方法は昨年同様に行った。
その結果、本年度は38品目及び香料5類の調査を終了した。



12-12

食品加工された遺伝子組換え食品からの検知法の開発

東京農工大学工学部 小関良宏


遺伝子組換え食品に関する検知法(公定法)は、主に原料の農作物を対象とした方法であり、加工食品にどの程度まで適用できるかどうかは明らかではない。そこで、本研究において、遺伝子組換え植物の食品加工において、核 DNA がどのような挙動を示すのかを明らかにし、公定法がどこまで適用できるのかを明らかにすることを目的とした。昨年までの研究により、加熱加工食品においては公定法を適用できること、しかし加熱とともに加圧が施される加工では核 DNA の著しい断片化が生じることを明らかにした。本年において、遺伝子組換えトウモロコシを入手し、これをコーンスナック菓子の製造に用いられるエクストルーダーによってモデル加工した時の核 DNA の分解について定量 TaqMan PCR 法を用いて調べた。その結果、遺伝子組換えトウモロコシの混入率の定量のために用いられる内在性遺伝子と導入遺伝子とにおいて、その分解・断片化の程度が加熱・加圧加工によって異なること、このために正確な混入率の算出が困難であることが明らかになった。この加熱・加圧加工による核 DNA の断片化についてより詳細に検討するため、遺伝子組換えダイズを入手し、これを様々な混入率となるように混ぜたサンプルを作成し、オートクレーブによる加熱・加圧加工した時の核 DNA の分解・断片化を調べた。その結果、測定されるコピー数の減少は加工時間に対して指数関数の関係となり、コピー数の対数と加工時間が直線関係になることが明らかになった。この直線の傾き(減衰率)は、圧力が高いほど、また標的遺伝子の長さが長いほど大きく、分解・断片化が著しいことが明らかになった。さらに、TaqMan PCR の標的となる遺伝子の塩基配列の違いによって、この減衰率が異なることが明らかになり、減衰率がほぼ等しくなるような内在性遺伝子および導入遺伝子に対する標的領域の TaqMan PCR プライマー対を用いて測定することによって、加工処理時間に関係なく、定量性よく混入率を測定することができることが明らかになった。



12-13

高アントシアニン含量を指向したアカダイコンの育種に関する研究

大阪大学大学院薬学研究科 辻 耕治


アントシアニン高含量を指向したアカダイコンの育種研究の一環として、HPLC定量の結果に基づくアントシアニン高含有個体の選抜、交配により得られた第2世代の栽培を行い、アントシアニン含量の定量を行った。その結果、選抜交配第2世代においてもアントシアニン高含量の形質は維持されていることを明らかにするとともに、特にアントシアニン高含量を示す集団の作出に成功した。また、アカダイコンの春期栽培を検討し、春期栽培と秋期栽培で得られるアカダイコンは、異なるアントシアニン組成を示すことを明らかにするとともに、薹が著しく伸長する集団中に、秋期栽培の平均値以上のアントシアニン含量を示す数個体を見出すことができた。



12-14

液体クロマトグラーフィーフーリエ変換質量分析装置(LC FT-ICR MS)を用いた
食品添加物の安全性評価方法の開発

大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 竹中重雄


代謝物の網羅的解析、メタボローム解析が注目されている。その手法は、化学物質などによってもたらされる代謝的変動の検出にも可能である。超高感度、超高分解能測定が可能であるフーリエ変換質量分析装置(FT-ICR MS)が最適の測定器であると考え、リン脂質症を誘発するアミオダロン誘発リン脂質ラットをモデルとして、そのメタボロミクス解析手法の開発を進めてきた。液体クロマトグラフィーをFT-ICRに接続することで、更なる高感度解析を試みた。その結果、通常のLCMS分析の50分の一の試料導入量で、より高感度でかつ高精度の質量分析スペクトルを得ることが出来た。また、そのスペクトル解析から、リン脂質症バイオマーカーを検出することが可能であった。以上の結果より、今回の助成研究によって開発した測定法は、極微量の試料から食品添加物を含む様々な化学物質によってもたらされる代謝変動を捉え、その安全性を評価する基盤技術として適用できると結論した。



12-15

大豆ペプチドの経口投与が高強度自転車運動後の筋グリコーゲン再合成率
および運動パフォーマンスに及ぼす効果

東京医科大学 健康増進スポーツ医学講座
勝村俊仁,木目良太郎,村瀬訓生,長田卓也,白石 聖,下村浩祐,安生幹子,佐藤綾佳


背景
 大豆ペプチドはBCAAを豊富に含んでおり,またアミノ酸に比べて大豆ペプチドの方が腸管吸収速度に優れていることから,大豆ペプチドの方が生体に対する即効性が期待できる。しかし,これまでの研究では投与量も過剰であり,自然界から摂取するには不可能な量を設定している研究も少なくない。そこで本研究では,長時間運動により誘発された筋グリコーゲン量の減少および中枢性疲労の増大に及ぼす,低用量大豆ペプチド摂取の効果について検討することを目的とした。

実験方法
 被験者は,日頃から自転車による持久的トレーニングを積んでいるアスリート11名(男性10名,女性1名)を対象とした(身長;169.97.0cm,体重;64.36.3kg,年齢:232yr)。12時間の絶食後,70-50%VO2max強度の自転車運動を2時間行い,その後試験飲料を摂取した。飲料摂取120分後に10kmのタイムトライアルテストを行った。運動開始前,および飲料摂取終了20, 40, 60, 90, 120分後の各点で採血を行った。また中枢性疲労の主観的評価には,ビジュアルアナログスケール(VAS)を用いた。なお飲料の種類は,大豆ペプチド1g+炭水化物4g(SP+CHO群),およびプラセボとして炭水化物4gのみ(Placebo群)の2群とした。本実験はダブルブラインド,クロスオーバーで行い,また各飲料投与実験の間は1週間以上の間隔を設けた。

実験結果
 運動後の各飲料摂取に伴い,血漿BCAA濃度は両群ともに回復したが,Placebo群に比べてSP+CHO群の方が飲料摂取20分後において有意に増加した(p<0.001)。中枢性疲労の指標である遊離Trp/BCAA比は,運動後の各飲料摂取に伴い,遊離Trp/BCAA比は両群ともに回復したが,Placebo群(0.0489±0.001)に比べてSP+CHO群(0.0423±0.001)の方が飲料摂取20分後において顕著に低下した(P=0.06)。VASもまた両群ともに,運動終了直後に比べ,運動終了20分後では有意に減少したが,Placebo群に比べてSP+CHO群の方でより顕著に疲労感が軽減する傾向がみられた(p=0.08)。血漿グルコースや血漿インスリン濃度,10kmのタイムトライアルテストでは,両試行間に有意差は認められなかった。

結論
 高強度運動後における低用量大豆ペプチド投与により,筋グリコーゲンの回復および運動パフォーマンスには効果が見られなかったが,運動誘発性中枢性疲労の早期回復に対しては有効であったことが示唆された。



12-16

ビートレッドが膵β細胞におよぼす効果の検討

岡山大学大学院・自然科学研究科 佐藤 勝紀、山下 摂
岡山大学農学部 三上崇徳
 

ビートレッドは、アカザ科ビート(Beta vulgaris LINNE)から抽出、調整され、食用や着色料として利用されているベタシアニン系の天然色素である。近年、我々は岡山大学農学部で開発、近交維持している4週齢のALS系マウスを用い、ビートレッド水溶液の飲水摂取がアロキサン誘発糖尿病(ALDM)発症を摂取量に依存して抑制することを示した。そこで、本研究ではビートレッドが膵β細胞におよぼす効果の検討の一環として、ビートレッド摂取期間がALDM発症に及ぼす影響について生化学的および組織学的に比較検討した。また、ビートレッドの30日間継続摂取におけるALDM発症を抑制するビートレッド濃度のED50値の推定をおこなった。その結果、ビートレッド継続摂取によるALDM発症の抑制効果は、摂取期間に依存的であり、ビートレッドの継続的摂取によって生体内におけるビートレッドの蓄積もしくはビートレッドによる細胞の間接的な抗酸化機能の増加によって引き起こされる可能性が示唆された。また、4週齢ALS系マウスを用いたビートレッドの30日間継続的飲水摂取において、ALDM発症を抑制するビートレッド濃度のED50値は、雌が19.5±3.05ppm、雄は76.4±18.1ppmと推定された。



12-17

抗酸化活性を指標とした高機能保持植物の評価に関する研究

東洋大学生命科学部 下村 講一郎、東野 薫


群馬県農業技術センターにおいて細胞選抜により作出された新品種のブルーベリー果実、その他14品種およびナツハゼ12系統についてsuperoxide anion-scavenging activity (SOS 活性、WST-1法)、アントシアニン生産を調査した。各栽培地で栽培されたブルーベリー果実の SOS 活性およびアントシアニン含量が各品種により大きく異なり、品種間差異が認められた。その一方で、栽培地によっては、すべての品種で果実のアントシアニン含量が高く、栽培場所がアントシアニン含量に影響を及ぼす可能性も考えられた。また、収穫時期の違い、挿し木の台木品種の違いによりSOS 活性やアントシアニン含量が変化することも、今回の調査で判った。SOS 活性とアントシアニンとの関連については、14品種のブルーベリーおよびナツハゼ果実の SOS 活性とアントシアニン含量を比較したところ、ブルーベリー果実の SOS 活性とアントシアニン含量との間に正の相関がないことが判明した。
 ナツハゼについては、B 48, B 50 の SOS 活性およびアントシアニン含量が非常に高く、新品種作出に関わる交配用株に適していると考えられた。
 新品種アーリーブルーバイテク苗のブルーベリー果実については、親株アーリーブルー挿し木苗のものより SOS 活性が高く、調査したすべての品種のうち最も高い活性を有した。一方、前年度栽培した新品種おおつぶ星バイテク苗果実の SOS 活性は、親株挿し木のものよりも高かったが、今年度栽培した果実は親株の活性よりもかなり低く、バイテク苗については、SOS 活性に安定性が認められなかった。



12-18

天然食品添加物原料、機能性食品原料として用いられる
植物のDNAプロファイリングによる鑑別・同定法の開発

名古屋市立大学大学院薬学研究科 水上 元


天然食品添加物「ヤマモモ抽出物」の原材料である楊梅皮(ヤマモモの樹皮)を、中国市場に流通している類縁生薬である毛楊梅皮および青楊梅皮と遺伝子塩基配列に基づいて鑑別する方法の開発を目的として研究を実施した。昨年度の研究において確立した方法を用いて、市場で入手した楊梅皮および台湾産植物の基原鑑別を試み、本法の有用性を確認した。
機能性食品原料として用いられるオオバコ属植物のrDNA-ITS配列に基づく鑑別法を検討し、市場で入手した材料に適用した。日本で車前草として入手可能な試料はすべてオオバコを基原とするものであったが、中国産ではオオバコ基原のものは少なく、セイヨウオオバコを基原とするものが多いことが明らかになった。



12-19

鶏卵中の高度リン酸化蛋白質による甘味蛋白質ソーマチンの
熱失活凝集の抑制と蛋白質凝集抑制剤の探索

山口大学農学部 松冨 直利


甘味蛋白質ソーマチンの熱安定性に及ぼすホスビチン添加の影響について検討した。ソーマチンはPH7以上のリン酸緩衝液中、80℃15分の加熱処理で容易に凝集不溶化して、甘味活性を失う。高度リン酸化蛋白質であるホスビチンがソーマチンの熱凝集を抑制し、その甘味特性を保護することが分った。しかし、ホスビチンのその能力は、50 mM 食塩の存在下で喪失した。加熱ソーマチン―ホスビチン混波の電気泳動分析やゲルろ過分析の結果、ホスビチンがソーマチンとイオン結合を通して、熱凝集を抑制すると考えられた。また、CDや固有蛍光スペクトルニヨル加熱ソーマチンの分子構造分析から、ホスビチンはソーマチンの熱安定性を高め、変性凝集を防ぎ、その結果甘味活性を保護する機能をもつことが分った。



12-20

有機塩素系化合物の排泄を促進する化学物質の探索

大阪大学大学院薬学研究科 毒性学分野 中西 剛


ダイオキシン類によるヒトへの健康障害の防止や事故等による大量暴露した際の根本的な治療法の確立を目指して、本研究ではTCDDの消化管吸収阻害および排泄を促進する化学物質の検索を試みた。まずダイオキシン暴露モデルマウスについて詳細な検討を行うために、ddY雄性マウスに3H-TCDDを腹腔内投与し、経時的に糞、尿、および各臓器を回収することで、TCDDの体内動態について検討を行った。その結果、3H-TCDDは、day1から主に脂肪と肝臓に蓄積し始め、day4~day8でその蓄積がほぼ一定となった。また血中3H-TCDD濃度は、day4をピークに減少し始め、day8以降で血中濃度がほぼ一定となった。TCDDの尿中排泄率は検討期間を通して変動はなかったが、糞中排泄率はday1をピークに減少し、day4以降は、ほぼ一定であった。次にTCDD暴露マウスにおける各化学物質の、TCDD排泄促進効果と臓器分布に与える影響について検討を行った。その結果、ヘルスカーボン投与群において、糞中へのTCDD排泄が顕著に促進することが確認された。またday5における各組織内の3H-TCDD濃度についても検討を行ったところ、ヘルスカーボン投与群では肝臓中の、エボジアミン投与群では肝臓、腎臓、脂肪組織中の3H-TCDD量が有意に減少した。これらの化合物は、ダイオキシン類暴露における排泄促進剤や排泄促進補助食品の候補として期待される。



12-21

生活習慣病発症予防を標的とした、
抗糖化・抗酸化・抗動脈硬化作用評価システムの開発
-酵素処理イソクエルシトリンの抗動脈硬化作用-

大阪市立大学大学院医学研究科 西沢 良記


[目的] 抗酸化物質として見出された酵素処理イソクエルシトリン(以下,EMIQとする)の抗動脈硬化作用をケルセチンの効果と比較検討した。
[方法] 生後6週齢で雄性のapo E欠損マウスを、8匹ずつ対照群(G1群)、ケルセチン投与群(G2群)、EMIQ投与群(G3群)の3群に分け14週間飼育した。マウス動脈硬化誘発飼料を媒体とし、ケルセチン投与群およびEMIQ投与群は飼料中濃度がそれぞれ等モル(重量換算にて0.0115%、0.026%)となるよう調製し給与した。対象群については,マウス動脈硬化誘発飼料のみを給与した。第20週齢で胸部~腹部大動脈を切開・展開しOil red-O染色し粥状硬化巣面積率を解析した。また大動脈弁横断切片で大動脈弁内膜肥厚度を測定し、細胞構成、過酸化脂質の沈着、細胞外マトリックス構成などの動脈硬化巣の性状を、免疫染色法などにより解析した。
[結果] 試験期間を通じ、各群とも体重は順調に増加し、各群間での差異は認められなかった。血中総コレステロール、 中性脂肪およびHDLコレステロールはそれぞれ3群間で有意な差を認めなかった。大動脈弁内膜肥厚度は対照群(37.7±3.6%)に比べEMIQ投与群(30.2±2.0%:p=0.010)にのみ有意な低下が認められた。胸部~腹部大動脈の粥状硬化巣面積率においても同様に、対照群(8.5±3.7%)に比べEMIQ投与群(4.4±1.5%:p=0.014)だけに有意な低下を認めた。対照群に比べEMIQ投与群でマクロファージの浸潤および過酸化脂質の沈着が抑制され、膠原線維や分化型平滑筋細胞の含有率が高かった。
[結論] 酵素処理イソクエルシトリンはこれまで報告されているケルセチンと比べ、優れた抗動脈硬化作用を有することが示された。



12-22

ラット前立腺癌に対するResveratrolの化学予防効果の検討

名古屋市立大学大学院医学研究科実験病態病理学 高橋 智


Resveratrolはin vitro研究において前立腺癌に対する増殖抑制効果を示すことが多数報告されている。本研究では、Resveratrolの前立腺発がんに対する化学予防効果を前立腺発がんモデル動物であるTRAPラットを用いて検討した。3週齢のTRAPラットにResveratrol(50, 100, 200ug/ml)を飲料水に混じて7週間投与した後、全動物を屠殺剖検した。前立腺癌は腹葉、側葉に観察されたが、その発生頻度は群間で有意な差は認められなかった。しかし腺房面積に対する腺上皮の比率、すなわち前立腺腫瘍性病変の増殖率を定量した結果、腹葉および側葉においてResveratrol投与による増殖抑制効果が観察された。ウエスタンおよびRT-PCR解析によって転写後段階でのアンドロゲンレセプタータンパク発現の減少が認められた。以上の結果からResveratrolはラットを用いたin vivo実験においても前立腺癌の増殖・進展を抑制することが明らかとなり、前立腺癌に対する化学予防剤として有望であることが示唆された。



12-23

麺類に含まれるプロピレングリコールの調理加工時における挙動

実践女子大学 生活科学部 西島基弘


厚生労働省の一日摂取量調査で、天然には存在しない食品添加物のうちで最も摂取量の多かったプロピレングリコールについて、製造時に使用したものが、調理加工時にどのように変化するかを検討した。麺には暖かい麺と冷たい麺があるが、それらを摂食するときにはどの程度が残存するかを検討した。その結果、温かいうどんでは約6%が、冷たいうどんでは4~5%が残存し、生めんに添加したプロピレングリコールは茹でる工程でその大半が茹で汁に移行することが分った。また、冷たいうどんは、茹でた後にぬめりを取る水洗工程があるが、その工程でも除去されることが分った。



12-24

既存添加物・不溶性鉱物性物質の安全性評価のための基礎的研究

星薬科大学 中澤裕之*、斉藤貢一、伊藤里恵、
岩崎雄介、小濱 純
愛知県衛生研究所 大島晴美
神奈川県衛生研究所 藤巻照久、赤星 猛
金城学院大学薬学部 岡 尚男
埼玉県衛生研究所 堀江正一、竹上晴美
財団法人食品薬品安全センター秦野研究所 高橋淳子
社団法人日本食品衛生協会食品衛生研究所 松木容彦
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 伊藤澄夫、山田真記子
武庫川女子大学薬学部 扇間昌規
財団法人日本食品分析センター 大阪支所 伊藤誉志男
* 主任研究者


溶岩が冷却されると真珠岩、松脂岩、黒曜岩などのガラス質の岩石となる。これらの岩石を基原として製造される既存添加物が、不溶性鉱物性物質であり、食品の製造に際して製造用剤(ろ過助剤、沈降助剤)として用いられている。特に、液状食品(ビール、ワイン、酢など)並びに医薬品の製造過程でろ過助剤として多く使用されている。これら不溶性鉱物性物質の安全性評価に関する基礎研究として、平成15年度は不溶性鉱物性物質の材質試験法の検討及び溶出試験法の検討を行った。溶出試験による金属分析の結果、有害物質であるヒ素や鉛が溶出することが確認された。特に珪藻土からは高濃度のヒ素の溶出が認められた。平成16年度は、8種類の不溶性鉱物性物質について材質試験を行なった結果、28元素の含有量の測定が可能となった。また、珪藻土等をろ過助剤と使用している市販液体食品中のヒ素及び有害性金属の含量を調査した結果、いずれも微量であり,食品衛生上問題となるレベルではなかった。更に、ろ過助剤使用前後の清涼飲料水の化学形態別のヒ素濃度の測定を行い、ろ過後にヒ素(Ⅴ)の濃度が増加することを明らかにした。
平成17年度は、第8版食品添加物公定書の改正に伴い規格が設定される活性白土、酸性白土及びベントナイトの規格試験を行った。また、花こう斑岩及びグリーンタフについても、同様の試験法で分析を行った。次に、第7版食品添加物公定書に準じて8種類の不溶性鉱物性物質の溶出試験を、ICP-MSによる一斉分析(33元素)で行った。試験結果から、多くの元素が溶出されることが判明したが、AsおよびPbは、すべての試料でタルクの基準値以下であった。また、As、Pb以外の元素の溶出濃度も低いレベルであり、人の健康に影響を与える恐れはほとんど無いと考えられた。次に、ビールを用いたモデル実験を行った。その結果、これらの不溶性鉱物性物質を使用する場合には、使用される不溶性鉱物性物質の材質や元素組成および溶出形態などを把握することにより、食品衛生上問題となる金属類は検出されないことが明らかとなった。また、ヒ素化合物はその化学形態により毒性が大きく異なるとされている。そこでヒ素を多く含む珪藻土をろ過助剤として使用しているワイン、ビール中の有機ヒ素化合物(モノメチルアルソン酸、ジメチルアルシン酸、トリメチルアルシンオキシド、アルセノベタイン)の分析法を構築し、構築した分析法を用いてワイン、ビール中のヒ素化合物の化学形態別分析を行った。その結果、4種類の有機ヒ素化合物は検出されなかった。また、ワイン工場の生産工程をスケールダウンした模擬実験より珪藻土からのヒ素の溶出が示唆されたため、有機酸を用いた珪藻土の洗浄条件の検討を行い、酒石酸を用いることにより、ヒ素溶出の低減化を可能とした。



12-25

既存添加物の安全性評価のための基礎的調査研究

 

東亜大学 義平邦利*
自然学総合研究所 水野瑞夫
東亜大学大学院 和仁晧明
小林病院 小林公子
お茶の水女子大学 佐竹元吉
国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用栽培試験場 関田節子
九州大学薬学部 正山征洋
大阪大学大学院薬学研究院 米田該典
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 加藤喜昭、森本隆司
* 主任研究者


 天然添加物は、平成7年から、厚生労働大臣により許可されたもの以外は使用することが出来なくなった。平成7年までに、使用されていた天然添加物は、既存添加物名簿に収載され、引き続き添加物として、使用が認められている。厚生労働省は、これら添加物のうち、既存添加物450品については、次のように整理、分類している(平成17年3月現在)。
(1)JECFA等により国際的評価がなされており、基本的な安全性が確認されているもの、及び入手した試験成績により基本的な安全性を評価することができるもの:247品目。
(2)基原、製法、本質から、安全性の検討を早急に行う必要はないものと考えられるもの:132品目。
(3)安全性に関する資料の収集が不足、安全性の確認を迅速かつ効率的に行う必要があるもの:71品目。
 本特別研究は、(2)の「安全性の検討を早急に行う必要はない既存添加物」について、安全性評価のための基礎的調査研究を行うことにした。既存添加物の安全性を評価するには、原材料の動植物が確かであること、歴史的な食経験があること、原材料の動植物は有害性でないこと、有害成分を含有しないこと等が必要であるので、これらの課題について調査研究を行い、基原動植物の規格案の作成と、それらに由来する既存添加物の規格案を作成することにした。


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